001 VRMMOで新生活
新しいジャンルで新作を書いてみました。
皆さまに楽しんでいただけると嬉しく思います。
ご意見・ご感想も気楽に送ってくださいね!
ツイッターもやっていますので、そちらでもどうぞ。
@odaryouichi90mi
ここは、ホワイトボードと会議テーブルしかないミーティングルーム。
そこに二人の男女が、テーブルを挟んで向き合っていた。
「佐久間主任、何でこのタイミングで?」
「江崎くん。このタイミングも何も、ベータテストとして人を集めているじゃないか」
「そうです。我が社から100名、外部のテスター達が100名の計200名で十分です」
「募集もしていないのに嗅ぎつけた100名だよな。ゲームに慣れた猛者達も必要だが、一般人の方が客層は広いぞ」
「はぁ……、分かりました。それで、どうやって何人集めるんですか?」
「それはだな……」
佐久間と呼ばれた男は、江崎に向かって計画を伝える。
それは公の職業紹介場の近くで勧誘するという、怪しさ満載の計画だった。
条件としては一年テスターを経験した後で、正式版として発売するゲームのサポート部隊として雇用する。
外部のテスターは無償で、事前の動作確認を目的としているのに対して、今回の募集要員は準社員として『欠陥』を調査するという目的がある。社内のテスター達も同じ目的を持っているが、どうしても『正しい』という先入観が働いてしまうと正常な判断が出来ない為、今回は無作為に人選し完成度を高めて欲しいという考えだ。
「VR事業は、国の肝煎だからな」
「情報収集・発信から医療・勉学を中心に発展し、当然のようにゲームの世界へ進出ですものね」
「口には出せない実験も……。まあ言えないものは言ってはいけないな」
「都市伝説で出ていましたよ。死刑囚や無期懲役の人達を実験台に……って。眉唾な情報源ですけど」
「さて、江崎くん。私は少しの間消えるので、後は頼むよ!」
「ちょっと、佐久間主任。いえ、総合ゲームマスター。逃げるなんてズルいですよ」
「きちんと『有給届け』は出ているのだよ。その間も仕事だなんて、会社の鏡だろう? はーっはっはっは」
佐久間はホワイトボードを回転させ、裏側を表示させてから部屋を出て行く。
そこにびっしり書かれていた引継ぎの文字。それを見て江崎は、佐久間の計画的犯行を確信した。
GFC(Grand Finale Corporation)という会社は、医療分野を発端として各企業を吸収合併して出来た、ゲーム業界では異色の経歴を持つ会社だ。その合併先は小さい所では農家からネジ工場、大きい所ではゲーム会社と多岐に渡る。
佐久間はゲーム会社にいた変人であり、会社のCEOが直々に口説いた優秀なプログラマーだった。
そんな会社が都市伝説に出るくらいだから、宣伝にお金を掛けているか優秀なプログラマーで関心を引くしかない。
出来れば『死刑囚や終身刑の受刑者を使った実験』も否定して欲しかったなと、江崎はホワイトボードを見て深くため息を吐いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺の名前は羽鳥俊介。
中学から始めたバスケは高校から頭角を現し、3ポイントシューターとして名前が知れ渡るようになった。
幅広い視野と絶妙なポジション取りは天性のもので、撃ち終った後のフォームは『まるで翼が生えてるみたいだ』とまで言われていた。そんな栄光の日々は、呆気なく終わりの時を迎えることになった。
「石動先生、俺の脚は治るんですか?」
「今はなんとも言えないね。君の落ち方は危険なものだった。脳にはまだ、解明されていないメカニズムが……」
「一生このまま、車椅子の世話になるしかないのか……」
「これからリハビリをするにあたって、紹介したい場所があるのだが……」
石動先生の言葉に多くの不安と、ほんのちょっとの希望を募らせる。
ここで言うリハビリとは、一般生活が送れるかどうかへの行動だ。
失った翼はきっと戻ってこない。それは俊介本人が一番分かっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「俊ちゃん、本当にここで良いの?」
「沙也加……。一人で動かせるんだから、わざわざついて来なくて良いんだぞ」
「そうやって、すぐ拗ねる。そういう所は子供なんだよね」
「あのなぁ、同い年だろ? 良いから、休日遊べる彼氏でも早く作れよ!」
「もう……、そういう俊ちゃんだって」
いかにもな病院跡地で、二人はこの先に進んで良いものか考えていた。
門には蔓草が巻き付いた状態で枯れていて、曇り空なせいか『何かあったんだな』と思わせる外観をしていた。
一言で言えば『出る……』だろう。何がと言った瞬間、フラグになるような気がする場所だった。
そこを白衣姿の自転車の男が、ベルを鳴らしながら通り過ぎていく。
建物の方に向かっているので、無人ではないということだけは分かった。
「とにかく行くぞ」
「うん。押していくから、何かあったら合図をお願い」
「何かって何がだよ」
「何かってことは何かよ」
これから行くのは病院か、リハビリ施設のはずだ。
決してお化け屋敷でもなければ、肝試しの会場ではない。
意を決した俺達はトロトロと車椅子と一緒に、建物の中を目指して行った。
「あぁ、お待ちしてましたよ。羽鳥さん」
「今日は、お世話になります。これ紹介状です」
「それでは、施設の案内をしますね」
「「お願いします」」
建物の中は、思ったより稼動しているみたいだった。
受付には二人の女性が座っており、そのうち一人が直々に案内をしてくれるらしい。
こんなに古めかしいのにバリアフリーが進んでいるせいか、車椅子での移動も問題なかった。
通された部屋は、VIP用患者の個室のような場所だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目の前には二人の男性がいる。
一人はリハビリの先生と説明を受けたけど、もう一人は補助をしてくれる人だろうか?
案内してくれた女性は挨拶をした後退室し、看護師さんはいないようだ。
「ヴァーチャルリアリティ?」
「あぁ。治験のような扱いで、VRを用いた『原因不明の病』の治療に参加してもらっているんだ」
「それって費用的には?」
「一般のリハビリをする時間も設けるが、高額医療制度を使えるから、これくらいだな」
「家族に相談しても良いですか?」
「あぁ……。それとは別に、システムのベータテスターの参加をして貰えれば……」
「おい、佐久間。これは、あくまで治療を主とした……」
「良いだろ、人気者のようだし。君さえ良ければ、報酬を払おう。もし希望するなら、そのまま勤めてもらっても良いから」
高校最後の大会も絶望的であり、今から大学を目指すにしても、やる気が起きなかったのは確かだった。
学校は未だ俺に期待してくれていて、強い勧めにより部活にも籍を置いている。
大学からのスカウトは軒並み撤退しているので、これを機会に就職するのもアリだと思った。
これから家族に恩返しをしようと思っていたので、多くの負担を掛けるのは本意ではなかったからだ。
「人の体は、まだまだ未知な部分が多い。スポーツ選手がイップスにかかる事もあれば、ゾーンに入ることもある」
「石動先生には、『神経が傷ついているかどうかは分からない』と言われました。ということは、復帰出来る可能性もあるんですね」
「可能性だけで言えば0ではないな。だから医学的アプローチと、VRの二本柱で行こうと思う」
「……分かりました。俺、賭けてみます。だから、さっきの話を受けようと思います」
「あぁ、一緒に頑張ろう」
俺は先生と佐久間が手を合わせている上に手を乗せ、何故かその上に沙也加も手を乗せた。
ゲームのベータテストは4月から稼動するようだが、先行して社員が入っているらしい。
俺はリハビリの時間もあるので、その分プレイする時間が短くなる。
高校を卒業するまで通いになるが、まずはアルバイトとしてリハビリとテスターでプレイすることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
VIPの個室で、何故かクイーンサイズのベッド……それが二つ。
「あー、言っておくが……。これを言うと?」
「佐久間、確実にセクハラになるな」
「じゃあ程ほどにするように」
「勧めるなよ……。そうなると、梶塚さんも?」
「沙也加、本当にお前も参加するのか?」
「だってファンタジーの世界でしょ? 今度、発売するって聞いたよ」
「あぁ、その前のテスターだがな。フルダイブ式で、ジャンルで言うとジョブとスキルを併用した中世のファンタジーって感じだな」
「あぁ、よくある奴?」
何気ない俺の言葉に、佐久間はかなりダメージを受けているようだった。
オリジナリティのあるファンタジーを作ろうとすると、引用するものは全てNGになる。
ゴブリン・スライム・トロール・ドラゴン、妖怪だって出尽くしていると言っても良いだろう。
かと言って、完全オリジナルだと想像がつきにくい。程よいバランスでやるのが見せ所なのだ。
「二人とも、ゲームは得意かな?」
「俺は人並みくらいかな? 沙也加は?」
「私も嗜む程度だよ」
「今回は旅のガイドがついているから、何かあったら聞いてみてくれ。初心者エリアで実力をつけてもらう予定だからな」
先生から、それぞれのベッドに横になるように指示をされる。
両方とも電動でリクライニングが出来るベッドであり、手伝いを借りてベッドに腰を掛けた。
これから自分の分身になる、アバターを作る工程に入るらしい。
バスケが出来なくなった不安から、少しだけ希望が湧いてきた瞬間だった。




