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036 解呪

 明日の面会を控え、俺達四人とゼロは自然と集まっていた。

 今日出来る事は正直ない。あっ、壊れた槍をどうにかしなければダメか……。

 冒険者ギルドに紹介して貰い、武器屋に『ロック鳥の嘴』を使って槍を作れないか相談する。

 一軒目の鍛冶屋では良い顔をされなかったけど、ここでは明後日までに仕上げて貰えることを約束した。


「フェザー。用事は、これでお終い?」

「そうだな、コジカのシステム的な用事は終わったし……。そういえば魔法はどうなった?」

「はい、解放されてはいたのですが……」

「あれは大技すぎて使えないよね」


「どうしたら良いでしょうか?」

「スキルポイントには限りがあるからなぁ」

「ねえ……、だったら魔法について勉強してみない?」

「あぁ、コジカは本格的に習った方が良いかもな」

「ううん、フェザーもアカネちゃんも一緒にね」


 サーヤの提案に驚きつつも、じゃあ誰が教えるのかという問題にぶち当たった。

 古代語魔法は専門の先生が必要で、掲示板ではそこに行きつくまでが高い壁らしい。

 そういう意味で推薦を受けているコジカは、お金さえ用意出来れば正しい知識を学べる権利を持っている。

 アカネはそれほど興味なさそうにゼロに相談しているし、どちらかと言えば俺も前衛仕様のスキル構成だった。


「勉強が出来るならしてみたいですが……」

「二人はどうかな?」

「俺は……、どっちでも良いかな?」

「私にも魔法は使えるんですか?」

「もちろん!」


 登録のしやすさもあるので、みんなで冒険者ギルドに向かっている。

 やけに詳しそうに語るサーヤによれば、助言者メンターの下位互換にあたる同行者パートナーでも説明は出来るらしい。

 簡単に言えばヘルプ機能が降りてくる感じで、主にシステム的な話と自身が覚えた情報について詳しくなるようだ。

 冒険者ギルドの前にゼロを繋ぎ、俺達は打ち合わせ用のテーブルを陣取る。


 まず基本的に、このゲームは極振りが難しく出来ている。

 難しいと言うからには出来なくはないとサーヤは言っているが、その方法はサーヤも分からないようだ。

 だからこの世界の住人――NPCは魔法が使える人が少なく、全てのPCプレイヤーは魔法を使える可能性が99%以上あった。

 それは俺やアカネにも言えることで、不得意なら不得意なりに肉体強化魔法などが使える可能性があった。


「じゃあ、講義を始めます!」

「サーヤさん、メガネを返してください」

「コジカちゃんのこれ、伊達メガネでしょ?」

「それはそうですが、私のトレードマークなんです!」


 妙なやる気を出しているサーヤは、この世界の基本的な設定から話し始めた。

 一般的に広く知られているのが回復を司る神聖魔法で、畏怖いふの対象と見られているのが古代語魔法だ。

 エルフが得意とするのが精霊魔法で、どれも魔力を変換して事象じしょう具現化ぐげんかさせている。

 サーヤは水の精霊に呼び掛け、掌を広げて俺達に見せてきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 この日も先生に会えないまま翌日を迎えた。

 昨日と同じ人がリハビリに来てくれたし、講習についてはサーヤが頑張っていた。

 オスカーの姿は確認出来ていない。

 結構早い時間なのに、昨日のメンバーは全員揃っていた。


「いよいよだね、フェザー」

「フェザーさん、頑張ってください」

「おめでとうございます、フェザー先輩」

「ウォン(同じく)」


 まだ解呪されていない状況なのに、みんなから励ましの言葉をもらっていた。

『ウィンティ神殿:ウェールデン分院』の前では門番がこちらを見ている。

 このパーティーは女性の比率が高い。その分、周りからの注目度も高くなっていると思う。

 門番の視線が少しだけ痛いので、みんなの熱気を少しだけ落ち着かせて建物内に入っていった。


「随分早かったのですね」

「はい! 頑張りましたから」

「あら、それは頼もしい言葉ね。こんな素敵なお嬢さん方も増えて」

「じー……」


 何でこの銀髪エルフは、擬音を声にして言うのだろうか?

 少なくともアカネは二人で仲間にしようと決めたし、コジカについてはサーヤの担当だ。

 正確に言えば二人はオスカーの担当でもあり、俺に関りがあるように言われるのは違和感があった。

 侍女風の女性達が全員分の紅茶を用意してくれて、俺達は優雅に歓談している感じである。


 グロッサリアの前には『ロック鳥の羽根』が木箱に入っており、もう一枚必要らしいので俺も机の上に出した。

 そして事前にオスカーに聞いていた金額、個人献金として5万Gを革袋に入れて隣に置いた。

 一般的に、聖職者に魔法をかけて貰う場合は無料が相場だけど、それは建前中の建前である。

 この報酬が献金扱いになり、それが運営費として活用されるんだから上手く出来ていると思う。


「ご支援、感謝しております」

「いえいえ、こちらこそお願いします」


 まるで裏取引のように、グロッサリアは革袋の中身を見ないで下げた後、早速これから行う流れを説明してくれた。

 具体的に言うと『俺の心臓を包んでいる魔力の糸』を巻き取り、それを術者に向かって送り返す。

 グロッサリアは少しでも確率を高める為に、サーヤとコジカに協力して貰えないかと相談した。

 二人は解呪に問題がないならと了承してくれた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺達は場所を移動し、ベッドがある一室に通された。

 車椅子生活も少し慣れたせいか、車椅子からベッドへは一人で移動出来る。

 移動出来なかった少し前は家族が助けてくれたけど、たまにサーヤが両腕を広げて『おいで』みたいな感じで待つようになっていた。

 それが何とも言えない気持ちで……。悪いとは思うけど、何に対して悪いと思っているのか分析しきれていなかった。

 とりあえず仰向けで寝ていると、四方向から全員に囲まれていた。


「まあまあ、困ったわ。こんなにカワイイ女の子に囲まれたら、緊張してしまうでしょうね?」

「いえ、別に……」

「あー、即答するのって失礼じゃない?」

「サ、サーヤさん……」


「あの……、みんなで見ないとダメですか?」

「二人に助手を頼んでしまったので……。アカネさんだけ仲間外れにしますか?」

「フェザーひどーい」

「せ、先輩。私は先輩がどんな姿でも……」


 どんな姿も何も、普段着はパーカーにカーキ色の短パンだ。

 胸元からお腹まで肌は見せているけど、衣服がはだけるという事はない。

 獣人なら上半身裸でも良くある恰好だし、ただ単に見られている事だけが恥ずかしいだけだ。

 そんな俺のお腹に、肘から指先くらいの長さの『ロック鳥の羽根』が一枚乗せられた。


「グロッサリアさま、これは?」

「事前に預かった物に、特別な処理を施しました。黒く染まって見えますが同じものですよ」

「フェザーさんは、目を閉じててください」

「……分かった、コジカ。皆さん、お願いします」


 俺が寝ている頭側にグロッサリアが、左右はコジカとサーヤが立っている。

 足側はアカネだけど、今日のアカネは応援専門で待機している。

 何となく目を瞑ってみる……。誰かが頭を触っている感触が……、複数になってモフモフして……ダァ!


「何してるんですか?」

「いいえ何も」

「何でアカネがその位置に?」

「何となく参加?」

「ホーム!」

「はい……」


 仰向けの状態だと、頭側にいるグロッサリアの動きが見えてこない。

 仕方がないので薄目を開けながら、解呪の様子をボンヤリとみる事にした。


「さあ、お遊びはここまでにしましょう」

「「「はーい」」」

「おい、マテ……」

「フェザーは寝てなさい」


「ではまずコジカさん、灯りを胸の上に」

「はい!」

「サーヤさんは見えているわね?」

「はい、精霊さんが遊んでいる姿が……」


 グロッサリアの説明によれば、黒く染まった『ロック鳥の羽根』が俺の胸元にあり、その上にコジカの光があるようだ。

 薄目でないと光に目をやられてしまう。サーヤは光の上にもう一枚の『ロック鳥の羽根』を置き誰かに話しかけていた。

 二人の準備が終わったからなのか、グロッサリアの祈りの言葉が徐々に聞こえてくる。

 薄目を開けたままだと見えてくる情報は少ないけど、光を中心に二枚の羽根が回転しているように見えた。

 特に体への変調はなかったけれど、段々と体を蝕んでいた重さというか、わだかまりみたいな物がスーっと抜けていく。


「皆さん、見えますか? この縄状の魔力が呪いの正体です」

「まるで綱引きに使う綱みたい……」

「コジカちゃんも見えるんだね」

「はい、サーヤさん。これからも、色々と教えてください」


「それで、これをどうするんですか?」

「呪いには『つながり』が大事なの。この細く限りなく見えにくい、魔力の残滓の後を辿って……」

「え? 勢いよく吹き飛ばしてくれるの? グロッサリアさま、どうしましょうか?」

「お願いしましょう。その子は、フェザーさんの助けになってくれそうですし」


 グロッサリアの指示によりアカネが窓を開けると、サーヤが力強く言葉を紡ぐ。

 すると室内から外に向かって、一陣の風が吹き抜けていった。

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