035 開発チームの舞台裏①
一日の大半を外回りで過ごす佐久間は、膨大な資料を整理しようとすれば一日中机に噛り付くことになる。
それを関連する出先で処理出来るよう、各所からメインサーバーに入れるように細工をしていた。
文書やメールのやり取りは古い。もちろん今も使っている所は多いが、処理速度を考えると今のやり方が一番だった。
ここは現在ベータテスト中のゲーム『SDO』内にある、とある塔の中の会議室で20名くらいが集まっていた。
全員ローブ姿をしているが、GM専用アバターを着ている為、佐久間を認識するのは簡単だった
オンラインゲームで度々起こるバージョンアップは、新システムの導入やバグ・不具合の回収、その他イベントなどが行われている。
『SDO』でそれを管理するのが佐久間GMで、それぞれ開発チームがGMを支える形になっていた。
「うん、やっぱりフェザーくんのチームが一番面白いね」
「GM、面白いとか関係ないですから。ちゃんと仕事してください」
「はいはいっと。じゃあ、各所から送られてきたバグの検証を……」
「では、私から報告させて頂きます」
バグの報告情報は玉石混交で、今すぐ修正が必要なものもあればプレイヤーの要望・確率の問題もあった。
じゃんけんで勝つ確率・人生の岐路で二択の確率・宝くじで一等を当てる確率。
一つ言えるのは挑戦しなければ当たる事はなく、99%当たる確率でさえも外す者が存在する。
「GM、一つお聞きしたいのですが……」
「何かな?」
「もしかして、隠しパラメーターとかありませんか? 主に運とか」
「え? 何でそんな事を聞くの?」
「明らかにフェザーくん周りの、合成率がおかしいんですよ」
「あー……あれね。間違ってもなければ、手心も加えてないよ」
「そうなると、Uスキルのアレですか?」
「うん、正解!」
各チームから問題と、それに対する回答が出てくる中、とあるチームが導き出した答えがコレだった。
練りに練った上で出てくるのが上位スキルであり、まさかこんなアッサリと習得する者が現れるとは思わなかったようだ。
スキルは『その行動を補助する』と共に、関連する能力が上がっていく仕様になっている。
低位のスキルは補正が少なく、高位のスキルほど効果が倍増されていく。
「では、バグではないのですね?」
「これは、ある種のテストかな? もちろん馴染み具合もあるし、調整は必要になっていくと思うよ」
「分かりました。では、こちらをご覧ください」
「へぇ……、動画かな?」
「はい。こちらは新規プレイヤー、『コジカ』さんによる動画です」
「フェザーくんチームの新人か……」
「おい、隠し撮りをしたのか?」
「いいえ、きちんとした依頼ですよ」
伯爵領にある『スカイハイダンジョン』での対ロック鳥戦。
それを撮影してたのがコジカであり、提出してきたのは助言者の一人だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
戦闘現場に到着すると、コジカ視点で録画が開始される。
『スピードダンジョン』がソロ・少人数パーティーの狩場だとしたら、『スカイハイダンジョン』はパーティー推奨の狩場だ。
それも、きちんとした盾職・近接アタッカー・遠隔アタッカー・ヒーラーなどの6人で、バランスの取れた構成が求められている。
「説明を求めても?」
「はい、では……。『ビーストパートナー』のアカネとペットの狼・『冒険者』で車椅子の槍使いフェザー・水属性の『精霊術師』でサーヤ・『冒険者見習い』で占い師のコジカがパーティーメンバーです。助言者は離脱しています」
「良いポジションを選んだね。それで、この四名と狼の勝率は?」
「はい。コジカは隠れているように指示されているので、実質三名と狼ですね。確率で言えば10~20%でしょうか?」
「オスカーは止めなかったのか?」
「それは助言者の役割ではないでしょう。散々、研修を受けている筈ですから」
「その辺は助言者制度の課題だろうね」
「ありがとうございます。では、再開します」
フェザーがロック鳥をうまく釣ってきた所から、オスカーの離脱の言葉をコジカも聞いた。
一瞬画面が揺れたのは、コジカが動揺したせいだろうか?
その時間を埋めるようにアカネが動き出し、近接戦闘職としては弱めに設定されているアカネがロック鳥の鋭い一撃を受け流した。
すかさずゼロが、喉元目掛けて攻撃を開始する。コジカはこの時、大きく深呼吸を繰り返していた。
攻撃しても響かないダメージが繰り返され、所々でロック鳥の大技がパーティーを襲う。
持ち前の根性を駆使し、我慢するアカネ。それに対してアタッカー達は、有効打を見いだせないでいた。
VRMMOとはいえ所詮はゲームだ。勝てない敵に長々と戦う程、無駄なものはない。
ほぼ初期装備でこのエリアに来るメンバーが無謀で、それに対して身をもって体験するのもゲームの醍醐味の一つと言えよう。
「そもそも、何でこのメンバーでこのエリアに?」
「無謀を通り越して、無知だな……」
「GMは、何で車椅子の少年に肩入れしてるんだ?」
「はいはい。各チームの言いたい事は分かるけど、続きを見ませんか?」
戦闘は中盤から後半に移行する。
有効打を与えられない現状でも、何故かアカネが墜ちる気配がなかった。
この頃から、アカネのスキル構成に言及する者達が現れてくる。
そして【近藤家流・調伏術】の名称の問題や、【格闘術】と【保定術/愛玩動物】について話し合いが始まった。
元になる【格闘術】は、打・投・極が一体になった一般スキルだ。
ただのパンチやキックにこのスキルは必要なく、あればマシといった程度らしい。
これに戦闘姿勢や精神面・技術面が加わると、上位スキルが目覚める事になる。
そして【保定術】もペットを抑え込むスキルで、そんなに強いものになる予定はなかった。
「良い所だったのに……」
「まあまあ、GM。いつでも見られますから」
システムが全てのスキルを網羅している訳ではない。
各チームが中心となって、時にはプレイヤーから学び・時にはそれをプレイヤーに還元する。
帰宅部の学生と剣道部の学生で、どちらが剣の腕が上か? それは聞くまでもないことである。
プレイヤーから得た技術は、組み合わされて昇華する。それが【近藤家流・調伏術】として確立した。
「歪なパーティーだよな?」
「モンスター班、手を抜いたんじゃないか?」
「それを言うなら、スキル班の調整が……」
「はいはい、それを管理するのが私の仕事だよ。言い争うなら続きを観よう。そうでないなら個別に報告を」
GMの一言で、戦闘が再開される。
徐々にコジカの独り言が大きくなっていき、「私は出来る・私は出来る……」と繰り返していた。
そしてオスカーからの助言を口に出し、一枚のタロットカードを引いた。ワンオラクルという簡易な占い方だ。
出たカードは【星】。小さく右腕を上から下に引く動作で、ガッツポーズを表した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コジカの『光線』により戦況が一変する。
『光』の魔法しか使えないはずなのに、それがエネルギー砲に変換していた。
事前にオスカーが指導したからと言って、易々(やすやす)と出来る魔法ではなかった。
しかし、それは確かに発動した。そして目を見張るサーヤのピンポイントショット。
会議室の大勢が、驚きの言葉を漏らした。それはありえない奇跡の連発だった。
Uのスキルが一つあるだけで、それがパーティーメンバーに作用する。
フェザーを一言で言えば、『とても危険な存在』だった。
しかしこの戦闘に於いて、フェザーの攻撃回数は少なく与えたダメージも地味だった。
最後はアカネとゼロによるボーナススキル『ライドオン』で、大きく移動してから必殺技を放った。
「ランニング・ネックブリーカー・ドロップだと?」
「何だそれ?」
「いや、プロレスの技でそういうものが……」
「ぷっ……、本当に面白いパーティーになったね」
「GM! ゲームバランスを崩して良いのですか?」
「問題ないよ。その為に最初から始めたチームと、上級ジョブチームに分けたんだから」
「そう……ですね」
「問題は例の『グループ』か。NPCなら問題ないけど、危ない連中が潜んでいるからね」
GMの発言に、あるローブの人物が「法律的に問題ありません」と回答する。
政府肝入りのVRMMOシステムは、『どんな者にも門戸が開かれる』のが建前となっている。
『清濁併せ呑む』のが大人ならば、開発チームの多くの者が子供のような考え方だ。
佐久間は多くの者の意見を聞き、まとめる為に外部のアドバイザーも呼んでいた。
動画が終わり、この戦闘が何のために行われたか補足説明が始まる。
『グッドマン』と呼ばれる謎の人物。そして守られる筈の初期の村で、フェザーが呪いを受けたことを話した。
各チームから質疑応答が始まる。
このメンバーの戦い方はあくまでイレギュラー要素が強く、これから参入するであろう一般人を当て嵌めてはいけない。
四名のスキル構成・戦い方の癖・今後への反映・対応など、各チームは宿題として持ち帰ることになった。
会議は定期的に行われているが、GMを捕まえるのはかなり難易度が高いので、確実な成果を示さないといけない。
会議が終わり三々五々と帰宅を始めるメンバーを余所に、とあるローブの人物がフードを下ろした。
それは水の街『ウェールデン』の職員で、動画を紹介した助言者に向けて両手を握り礼を言う。
うんうんとGMは頷いており、まるでAIを見守る父のような目をしていた。
「宜しいのですか?」
「是非、お願いしたいです」
「あのパーティーは、まだまだ未熟ですよ」
「まあ、良いんじゃないかな?」
GMは助言者にそう回答する。
なかなか順風満帆とはいかないフェザーに、解呪の時は近付いていた。
それと同時に新しい試練が始まりつつあるが、この獅子は何度谷底に落とすつもりだろうか?
それでもあの車椅子とスキルさえあれば、悠々と上ってきてしまうかもしれない。
もう一人のローブの人物がやってきて、フェザーの体調について報告をする。
治療方針は変わらないし、現状目に見えた回復の兆しは見えていなかった。
それでも前向きにリハビリに取り組んでいるので、キッカケが何かを変える可能性があることを示唆するのであった。




