034 みんなの勝利
コジカによる一度限りの大砲『光線』が、ロック鳥の翼を貫いたのを合図に、俺は最後の勝負に出た。
登場して少ししか経っていないのに、コジカは前方に倒れ掛かっている。
本来なら助け合うべきだし、そういう意味ではリーダーの俺が、なんとかするべきかもしれない。
だけどコジカが決意し、事前の打ち合わせ通りに血路を開いてくれた。ここで時間を浪費するべきではないと思う。
目を見開いたサーヤは集中を切らさず、狙い通りロック鳥の片目に矢を突き刺していた。
暴れまくっているロック鳥の目に当てたのだから、エルフが凄いのかサーヤが凄いのか分からないけど殊勲賞ものだと思う。
これで更にドタバタしているのが激しくなってきたけど、アカネは冷静に少しさがってゼロを呼んでいた。
申し訳ないけど、俺には止めを刺すのは無理だと思う。車椅子に座っている以上、高さの問題があった。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
俺は車椅子の力を解放しつつ、猛スピードの上に【強打】を試みた。
まるで『足踏みをしている危険地帯』に突っ込む感じだったけど、不思議と怖さは感じなかった。
とにかく足を殺す! そして、もう一匹……いや、もう一組に繋ぐのが俺の役割だった。
多分、焼いたら美味しいだろう腿肉に、槍をゴフリッと突き刺す!
渾身の一撃を叩きこんだ感触は手に残り、だがその威力故に槍自体が持たなかった。
手元で木片が弾け飛ぶ効果が発生し、穂先は腿に深く潜り込んでいた。
「ゼロ、お願い!」
「ワオォォォン(しっかり掴まってて!)」
一瞬だけグラッと崩れかけたロック鳥に向かって、ゼロの首にしがみついたアカネが、まるで狼に騎乗するように一体となっていた。
上下に揺れる一組のパートナー達は、一瞬止まったように見えたロック鳥の背中を駆け上っていく。
そして、これ以上上れないという地点で二人は分かれ、アカネはロック鳥の首をしっかり両腕で極め落下していく。
スピードが乗った所で自重を重力に委ねたことにより、関節技は必殺技へ昇華した。
アカネのお尻からの着地と共に、ロック鳥が一瞬だけ震える。
これはきっと、最低でも首の骨が折れているはずだ……。
というか、最低で首の骨が折れていれば、大抵の生き物は死んでしまうと思う。
その数秒後に、ロック鳥の背骨に向かってゼロが降ってくる。
落下しながら最後にガブリッと噛み付く姿は、どんな時でも得物に対する狩魂を魅せたように感じた。
「やった、……かな?」
「サーヤ、フラグは勘弁してくれ」
追撃もしないで呆けていた俺とサーヤは、景色に溶けていくロック鳥を確認することが出来た。
地面に座り込むアカネにゼロが寄り添う。その姿を見て、もう一人のMVPを思い出した。
「コジカ!」
「コジカちゃん!」
俺とサーヤはコジカが倒れている所へ行くと、コジカは目を薄っすら開けてニヘラと笑っていた。
倒れていながら、顔の向きはしっかりロック鳥の方向を注視している。
「わ、私……。上手くやれました?」
「うんうん、頑張ったよ。誰が何と言おうと、私は認めるよ!」
「サーヤ、俺だって認めてるさ。手を貸す事は出来ないけど、立てるか?」
「だ、だいじょ……」
『あー、そろそろ話しかけて良いかな?』
『オスカーさん!』
『手短に話すね。このままじゃ無理そうだから、逃げ……』
パーティーチャットの途中で、右下に出しておいたHPゲージを見た。
誰も彼も、疲れが分かるHPの減り具合だったけど、オスカーのゲージは真っ赤だった。
そしてパーティーメンバーなら表示を続けられた筈なのに、突然オスカーのHPバーが消失してしまった。
もしかして、勝てないと判断して……。不意に、嫌な予感が過ってしまう。
今いるメンバーを集めて、サーヤが『癒しの霧』で回復を始める。
コジカは顔を真っ青にしていて、アカネは呼吸を整えている最中だった。
そして全員に聞こえていただろうオスカーの発言に、特殊個体がこちらに戻ってくる可能性について手短に話した。
「オスカーさんは……」
「プレイヤーだから、多分大丈夫だと思う……」
「じゃあ、何でパーティーから抜けたんだろう?」
「いくつか想像は出来る……。けど、他に考える事があるだろ?」
「問題は、特殊個体のゴーレムですね」
「あぁ……。多分、俺達全員でも討伐は無理だろう」
「フェザーの槍も壊れちゃったしね」
「残った武器は、解体用のナイフくらいか……」
オスカーがパーティーから抜けた理由。
一つはゴーレムが持つ敵対心が、オスカーが死んだ後俺達に向かうのを防ぐ為だ。
この敵対心については、正直よく分かっていない。
戦闘中はアカネが頑張って敵の注意を引きつけてくれているので、俺達は安全に狩ることが出来ている。
もう一つ考えられるのは、助言者はプレイヤー寄りではなくNPCよりの可能性だ。
何を言いたいのかと言うと、死んだらゲームオーバーの可能性も残っているだろう。
プレイヤーなら死んでも、ペナルティーを受けるだけで生き返れる。
もし、このままオスカーに会えなくなってしまったなら……。
俺は誰かを犠牲にして、生きていくということになる。
「ここで考えても仕方がないよね。アカネちゃんコジカちゃん、フェザーも街に戻ろう」
「そう……だな。大変だろうけど、帰りの体力は大丈夫か?」
「はい、何とか……」
「ゼロ、帰り道の案内をお願い」
「うぉん(はーい)」
俺は戦利品にあった素材を確認している。
目当ての『ロック鳥の羽根』は確保出来ているし、その他の素材も大量にゲットしていた。
詳細は冒険者ギルドで考えたいと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
細心の注意を払って冒険者ギルドについた女性三人は、打ち合わせテーブルで盛大に突っ伏していた。
ゼロはギルドの外に繋がれており、『まだまだ遊べるけど?』みたいな感じで尻尾をブンブン振っていたのを思い出す。
車椅子に座っている俺も、思わず無意味にギルドの天井を眺めていた。
まだ午後のオヤツには早い時間で、気力・体力だけでなく精神力の消耗が大きかったのが窺われる。
比較的元気だったアカネはガバッと起きて周囲を見回し、多分オスカーのことを探しているのだろう。
フレンド登録リストにも載っていないし、連絡する手段が途絶えてしまっていた。
「ねえ、フェザー。戦利品はどうだった?」
「確認してなかったのか? サーヤ。まあ、いっか」
俺は任意のアイテムをリストとして表示する。
『珪砂』×1・『魔石』×2・『ロック鳥の羽根』×10・『ロック鳥の嘴』×1・『ロック鳥の肉』×10
一回の突入で倒したモンスターが二体。失ったのはオスカー、ひどいリーダーだと自責の念に駆られる。
夜になれば先生に聞く事も出来るけど、今はやれることをしないといけない。
俺はギルドの買取カウンターに商品を持ち込んだ。
基本的に冒険者ギルドでは、ダンジョンからのドロップ品は買い取ってくれる。
何故か珪砂だけは対象外だけど、戦利品の算定が出来なければ分配も出来ない。
オスカーの分は最初から本人が辞退していたので、今回は均等分配でみんなから了承は得ている。
「合計9万Gとなります」
「え? そんなに?」
「はい、『ロック鳥の肉』は美食家達に人気なんです。それと、こちらの魔石は輝きが違います」
「倒すのに苦労したからね!」
売却できなかったのは珪砂で、羽根は二束三文だった為保留し、嘴は槍の穂先になると言われたので確保しておいた。
サーヤが金額をみんなに発表し、『ロック鳥の嘴』と『ロック鳥の羽根』の購入を申し出る。
話し合いの結果、俺の取り分が『ロック鳥の嘴』と『ロック鳥の羽根』で、羽根の残りはサーヤの矢羽根に回そうということになった。
現金としては女性三人が3万Gずつを分配し、この足で『ウィンティ神殿:ウェールデン分院』に向かうことにした。
今回は俺の我儘から始まった事なので、「迷惑を掛けられない」と話すと、アカネもコジカも一緒についてくると言い出した。
パーティーメンバーになった事だし、いつどんな災いが自身に降りかかるか分からないかららしい。
『ウィンティ神殿:ウェールデン分院』に到着するといつもの門番がいて、事情を話して『ロック鳥の羽根』を一枚渡すとグロッサリアさまに話を通してくれた。少し儀式的な作業があるようなので、明後日のいつもの時間なら対応してくれるようだ。
「フェザー先輩、サーヤさん。絶対呼んでくださいね」
「わ、私も同席します!」
「フェザー、モテモテだね」
「心配してくれるのは嬉しいけど、モテてるのとは違うよな?」
俺の否定の言葉に、何故か喜ぶサーヤ。
バスケ一筋で頑張ってくると、本気で打ち込む者と部活を楽しむ者に分かれる。
ミニバスから打ち込んできた俺やサーヤにとって、遊びながらやるほどバスケは甘い世界ではなかった。
その結果が車椅子なので、世の中は何が起こるか本当に分からない。
ただ一つ言えるのは、今日の戦いは一人を犠牲にしながらも『みんなで勝ち取った勝利』だった。
純粋にサーヤは喜んでくれているし、ここはリアルと切り離されているゲームの世界だ。
それでもチームリーダーとして、苦い経験となった。
あの時のチームメイトは心配してくれたし、今でも仲間だと思っている。
「どうしたんですか? フェザー先輩」
「うぉん(大丈夫?)」
「フェザーさん……?」
「俊ちゃん?」
「だーかーら、俺の名前はフェザーだって!」
大きな声を出した事により、サーヤが数歩距離を取る。
そしてキャーキャー言いながら抱き合う銀髪エルフと薄紅色の髪の占い師。
マイペースなアカネはゼロのことを撫でていた。
この日のリハビリ兼マッサージには先生が忙しい為、別に依頼した人が来ることになった。
先生に話をしたかったけれど、患者は俺だけではないと思う。
今はオスカーの無事を祈りながら、自分の体を良くすることが周りへの恩返しにもなると思い、今日もリハビリに気持ちをいれることにした。
体調不良が続いているのと家の用事の為
次回アップは日曜までにしたいと思います。
少し日程がズレていますが、引き続きご愛顧いただけると嬉しいです。




