033 コジカの決意
「フェザーくん、こっちだ」
「はい! オスカーさん」
『みんな、準備は良いかな?』
『『『はい!』』』
俺はオスカーを通り過ぎ、サーヤ達が集まる所までビッグバードを誘導する。
後ろからドシンドシンと聞こえてくるゴーレムの足音は、正直心臓に良くない。
決戦場所に到着すると、コジカは既に隠れているようだ。
これは事前にオスカーから指示があり、被弾を抑える目的があった。
サーヤが「おかえり」と言ったタイミングで、オスカーから連絡が届いた。
『鳥の名前はロック鳥だね。ゴーレムは残念ながら特殊個体だった』
『えっ?』
「フェザー先輩、私が時間を稼ぎます」
「OK! アカネ、頼んだ」
『ゴーレムは私がキープしておくから、その間にロックを倒して欲しい』
そのエリアで、雑魚を大量に狩ると沸くのが特殊個体だ。
ただ、それはあくまで確率の話でしかない。
『スピードダンジョン』でハーレムを形成していた黒豚も特殊個体だった。
どれほどの強さを秘めているかは分からないけど、一般の雑魚とはかなりレベルが違うだろう。
右下に表示した仲間のHPバーはまだMAXだ。
途中でゴーレムをカットインしたオスカーは、会話モードを切り替えなければならないほど距離が離れている。
不用意に話しかけて、集中を乱してはいけない。
ここは早めにロック鳥を倒して、オスカーと合流するのか得策だ。
体を大きくして威嚇するように、ロック鳥が両の翼を上部に掲げて大きな円を表現する。
アカネの気力は満ち溢れている。そして、すぐさまゼロに指示を与えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今の所、ロック鳥に飛ぶ気配は見えてこない。
トット・トットと前進したロック鳥は、気合の言葉を吐き出したアカネに向かって、嘴による鋭い一撃を繰り出した。
その攻撃に腕をクロスして恐れずに前に出たアカネは、「おーもーいー!」と言いながら一瞬受け止め右側にいなした。
『石に躓いた』くらいに体勢を崩したロック鳥は、すぐに上体をあげようとしたが、そこに向かったのはゼロだった。
「グルルルゥゥゥゥ(許さないぞ!)」
低い位置にあった首元に噛み付き、アカネの「離れて」の言葉ですぐに距離を取る。
噛まれたまま持ち上げようとしたロック鳥の強さも凄ければ、アカネとゼロコンビの判断の早さも素晴らしい。
ゼロが離れた事により、サーヤの矢がロック鳥のドテッ腹に命中する。
フォルムで言えばお腹がでっぷりな鶏寄りなので、矢のダメージは然程届いていないんじゃないかと思う。
「キュィィィエェェェ」
「ウォォォォン(ご主人さまは僕が守る!)」
ロック鳥の鳴き声に、ゼロが対抗して吠える。
アカネの気合の声も木霊しているようで、俺も槍を持つ手に自然と力がこもった。
ロック鳥は今度はYの字に翼を構えると、体が薄っすらと光ったように感じた。
「何か来るぞ、なるべく前方から離れてくれ」
「サーヤさんがいるから、私は大丈夫です」
『ビーストパートナー』という多分テイマー職なのに、気丈に盾職を兼任するアカネ。
「ゼロに何かあったら可哀想じゃないですか?」と、ペットを守るテイマーとして前衛を務めている異色の存在だ。
ロック鳥に対してアカネは正面でゼロは真後ろに、俺とサーヤは90度の位置にいた。
コジカの姿は確認出来ないけれど、すぐにどうこうなる場所にはいないと思った。
ロック鳥の技の準備から発動までの間に俺達が移動した為、仕方なくアカネにターゲットを絞ったようだ。
ブゥゥゥンという突風を至近距離で受けたアカネは、顔の前で腕をクロスして耐えていた。
切り傷なのか、血の雫が後方に流れる効果が見えた。
アカネは後ずさりが発生し、数メートルくらい後方に強制移動させられた。
「ゼロ、GO!」
「ウォン(まかせて)」
「サーヤ、攻撃に集中!」
まずゼロが後方から背中の翼に向かって、飛びつきによる爪の攻撃を行った。
フォルムと体高の問題により羽根までは届かなかったようで、ロック鳥は身震いによる振りほどきを試みた。
そこに俺がカーブを描きながら、随分と太い腿に向かって槍を撃ちつける。
中古の槍で、この街に来てからかなりのモンスターを狩ったので、当たった瞬間少しだけ嫌な音が聞こえてきた。
俺とゼロが距離をとった後サーヤの矢が、ゼロが最初に噛んだ場所を掠めていた。
「アカネちゃん、大丈夫?」
「このくらいは、まだかすり傷です!」
今はまだ、ロック鳥の敵対心はアカネに向かっている。
それは俺達の攻撃が、あまり届いていないことにも起因していると思う。
ここでサーヤが回復魔法を使ったとしたら、少しでも知能がある生物なら、誰から狙えば良いか分かるだろう。
佐久間GMがイヤラシイ性格でなければ大丈夫だ。でも、それを今考える事は出来ない。
仲間のHPバーは、まだ問題ない。
厳密に言えば、オスカーのHPバーが少しだけ心配な長さだ。
避けるのも受けるのも時間を稼ぐとしたら、援軍が来る前提が必要だと思う。
ある意味ロック鳥の早期討伐が必須条件で、回復出来るメンバーはサーヤしかいない。
「サーヤは、まだ攻撃を」
「しゅ……フェザー。あの鳥、羽ばたきだしたよ!」
「アカネは、もうちょっと頑張ってくれ。ゼロは少し距離を置いて待機」
「ウォン!(了解!)」
『何か、嫌な予感がします……』
「コジカ……ちゃん?」
「予定変更、みんな距離をとって攻撃に備えてくれ」
このタイミングでコジカが会話に割り込んだ事に、かなりの意味が含まれていると思った。
同時にコジカはきちんと戦闘を見ていて、しっかりと冷静に判断していると思う。
その場でバッサバッサと羽根を動かしているロック鳥は、普通なら飛び立ちそうにない巨体だと思う。
それなのに、まるでヘリコプターが離陸するように、周囲に風の効果を描きながら、ゆっくり上昇していった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まるでホバリングしているようなロック鳥に、俺達は距離を取りながら発生している突風に耐えていた。
俺はまだ車椅子なので、重心が低くて倒れるようなことはない。
ブレーキをかけていれば、その場で我慢することが出来ている。
ロック鳥の重量と翼の動きが吊りあっていないように思えるけど、赤い岩山と青空を隔てる乳白色の巨体が更に光り輝いていた。
「来るぞ!」
「アカネちゃん、我慢しちゃダメだよ」
「はい、サーヤさん!」
ゼロもかなり大きく距離を取っていて、サーヤも大声を出さないと届かないような距離感だ。
今回もロック鳥の目標はアカネに向かっており、突然のスコールのように光る羽根が広範囲に降ってきた。
各所で短い悲鳴が聞こえてくる。特にダメージゲージが大きく削れたのはアカネだった。
「初級者ポーションを飲みます」
「わ、私も飲んでおくね」
「あぁ、後で必要経費は出すからな」
「うぉん!(やったー)」
上空で滞空していたロック鳥は、一回の羽ばたき毎に高度を下げてくる。
まるで虫けらを一掃したような鋭い目つきは、『これから食事の時間だ』と言わんばかりだ。
そんなロック鳥に向かって、アカネが猛ダッシュからのタックルを試みる。
巨大な重量を支える二本の脚を目掛けてだったけど、体勢を崩すところまではいかなかった。
「サーヤ、例のアレを頼む」
「アレは時間が掛かるよ」
「俺も【強打】を試してみるから」
「ゼロ、二人で頑張るよ!」
「うぉん(はーい)」
味方のHPバーは、コジカ以外2割~5割減っている。
敵の累積ダメージは見えていないけど、まだまだ元気なのは見てとれた。
一番ダメージを受けているのがオスカーで、救援の呼び掛けなど一切口にしてこない。
このままのペースで削っていけば、ロック鳥は倒せるかもしれない。
けど、オスカーの身が持たないのも確実だった。
俺は車椅子の外輪を、大きく後ろに漕ぎ出す。
サーヤもいつもより集中力を増して、弓を弾き絞り矢を番えていた。
今日一番の活躍を見せているのがアカネだった。
だけど段々と巨鳥の圧倒的質量に、押しつぶされているように見える。
盾を使っていなしている訳でもなく、肉体能力と格闘センスで押しているにすぎない。
致命的な攻撃をされる前にゼロがサポートに入るけど、俺達の抜けた穴は……。
「わわわ、私の……。で、出番が来たようです」
「コジカちゃん……」
「サーヤ、集中!」
「わ、分かってるよ」
急に出てきたコジカはフードを下ろしていて、表情が強張っているのが分かる。
震えているその姿は痛々しく、胸の前に掲げている短剣は悲しくなるほど弱々しいものだった。
「い、今……時満ちたり。太陽があるとも星は煌めく。コジカの名に於いて、光輝かん事を願う!」
コジカの短剣を中心に、眩い光が集まってくる。
俺の準備は整った。サーヤの集中も済んだようで、今はそっと目を閉じている。
コジカの魔法は光の魔法だったはず。光源を確保するだけの魔法だと勝手に思っていた。
コジカの濃紺のローブが、風を纏い始める。そして何故か、魔力の奔流を感じる事が出来た。
「これが私の精一杯、『光線』です!」
集まった光が一筋の光線となって、ロック鳥の右の翼を焼き貫いた。
一瞬で全精力を使ったのか、まるでスローモーションのように地面に倒れていくコジカ。
俺はそれを横目で見つつ、非情にも攻撃の合図を絶叫した。




