032 遭遇
「それで、サーヤはどうしたいんだ?」
「うん、コジカちゃんは一緒に冒険したいって。でね、私は迎え入れたいと思う」
「効率を重視する訳じゃないけど、一応聞いても良いか?」
「うん、コジカちゃんはね……」
コジカの初回の冒険は、NPCの臨時パーティーに入れてもらって、敵を前に怯えているだけしか出来なかったようだ。
【剣技】の技能を得て短剣を持っていても、いざ戦いを前にして決心がつかなかったらしい。
呆れられたコジカは、その場で離脱するように言われたようだ。『素人は連れていけない』という言葉を残されて……。
不幸中の幸いか帰る道で【隠れる】の技能を得たので、もしパーティーに入ったなら守りながら戦う必要はないらしい。
「今の自分を変えたいんだって……」
「アバターがあれば、変身願望を叶えることは出来るな」
「今は迷惑を掛けちゃうかもしれない。でも命を賭けても、道を切り開いてみせるって……」
「サーヤは、ダンジョンのことを話したんだな」
昨日の狩りは、ある意味下見と金策だった。今回の狩りは、俺の呪いを解くのが目的になる。
オスカーもアカネもそれを理解して付き合ってくれているし、今の俺はパーティーの好意に甘えている状況だ。
俺の中ではコジカに対して『悪い』と思うと同時に、どこかで『役割を果たせないんじゃないか?』という感情があった。
MMORPGのRPGとは、『役割』を演じるゲームだ。同じようなキャラクターを集めても仕方がない。
チームとは『同じレベルのメンバー』が揃ってこそ、力を発揮出来るんじゃないかと思っている。
小学校低学年の時は、バランスが悪くても良いと思っていた……。
じゃあ今の俺に、それを言う資格があるのか?
「俊ちゃん……」
「まずは、ボールを回してみないと分からないよな?」
「うん……うん、そうだよ!」
「ボールが回ってこない寂しさは知ってるさ。でも、まずはみんなの意見を聞いてみようか」
「援護射撃はしてくれるの?」
「どうだろうな? 熱意ってのも大事だろ?」
「そういう所、結構イジワルだよねー」
サーヤは何食わぬ顔をしながら俺の後ろに回り、急に頭をワッシャワッシャと掻き始めた。
思わず斜め後方に首を向けると、長い耳を引っ張ってベーっと舌を出す銀髪エルフがいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドに集合した俺達は、濃紺のローブに短剣を腰に挿しているコジカと自己紹介をした。
白髪の狼獣人な俺に、銀髪の非正統派エルフ。パンクな青髪のアカネに、薄紅色の髪の毛でメガネ姿のコジカ。
比較的地味めなオスカーが、「なかなか個性的なメンバーが揃ったね」と苦笑していた。
「コジカちゃんは私の同級生で、まだ慣れてはいないんだけど……」
「あの……。迷惑を掛けてしまうかもしれませんが、一緒に冒険をしたいです!」
「私は人数が増えたら……楽しいかなって?」
「うん、問題ないとは思うよ」
「あっ、オスカーさん。その節はお世話になりました」
「いやいや、中途半端なアドバイスしか出来なくてゴメンね」
「そうなると、後は……」
「そうだな。パーティーメンバーなら、助け合えば何とかなる……か」
俺の言葉に、サーヤとコジカは抱き合って喜んでいた。
アカネは昨日の収入で生活が落ち着いたようで、分配については一旦リセットさせて欲しいと言い出した。
オスカーは今回のパーティーで目的の物が取れたら、パーティーからの離脱を考えているらしい。
手伝いなので報酬はいらないらしく、アカネが追及すると『タダ働きはしない主義だよ』と言われてしまった。
もしかするとオスカーは、アカネだけではなくコジカのことも、きちんと見ていたのかもしれない。
昨日のうちに下見も終わり、俺達の準備は整っている。
コジカも決意をしてここに来ているのは装備からも分かったので、俺達は五人+ゼロでダンジョンへ向かった。
車椅子の性能を見て、誰かが驚くのは毎度の事なので割愛しておく。
「フェザーくん。念のため、すり合わせをしておこうか?」
「はい、オスカーさん」
さすが助言者だけあって、コジカの緊張を見て取ったのだろうか?
行く道で『スカイハイダンジョン』の特徴を話し、現地で冒険者が戦っている姿を見てパーティーの空気を確かめていた。
上級冒険者と言ってしまえばそれまでだけど、リーダーとしてチーム作りは重要だと思う。
これはある意味コジカの研修というよりも、俺のリーダーとしての育成も含まれているのかもしれない。
アカネの隣を付き添うゼロは、ダンジョンに入るとコジカの隣に位置取った。
今日のサーヤは岩山までは両手杖を持ち、現地では弓を持つ予定だった。
まずはサンドゴーレムで模擬戦を行い、コジカの動きを確認してから、俺達は赤い岩山を目指すことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゼロが先導し鳥たちを避けていくと、昨日の赤い岩山ゾーンにたどり着いた。
「うわー、キレイ」
「昨日見た時は、もう暗くなりかけてたからね」
「エアーズロック……。ううん、アリゾナの大地……かな?」
「その感想は、GMも喜ぶと思うよ」
コジカの感想に、オスカーが感心していた。
赤系のマーブルな大理石を想像させるかと思えば、いくつかの縦長の岩が集まっている景色も見てとれる。
滑らかさと巨石が共存する風景で、空の青と大地の赤のコントラストが新しいエリアを想像させて感動せずにはいられなかった。
高低差がある岩山は、傾斜もあれば凸凹もある。一生懸命ついてきたコジカは、この先少しキツそうに思える。
ここに来るまで猛禽類が増えてきて、オオハゲワシを見た瞬間、美しいだけではなく死も共存していることを確信していた。
集団の小さな鳥と単体の巨鳥。このエリアでは、どのレベルのモンスターが出てくるのか想像もつかなかった。
「フェザー先輩、この先どうしましょう?」
「ゼロが見てきても、みんなには伝わらないよね?」
「視覚が共有出来たりすれば良いのですが……」
「もし良ければ、みんなはここで休んでいてくれないかな?」
「しゅ……フェザー!」
「サーヤさん、本当に言いそうになるのね」
「あはは、ごめんごめんコジカちゃん」
「サーヤ、心配するなよ。無理はしないからさ」
この感じだと、ボルダリングやロッククライミングが必要になりそうな雰囲気が満々だった。
ゼロに先行してもらっても良いけれど、パーティーメンバーが見えていないんじゃ、戦うか撤退するかの判断が出来ない。
そして俺には【アクロ走行】がある。空を飛べと言われたら困るけど、宙に浮いているので段差や凸凹はお手の物だ。
その場で戦わないで、ここに『釣ってくる』事を条件に俺の探索は許可された。
残ったメンバーと俺を中継するようにオスカーが少し進んで警戒し、女性達の警護はゼロが担当してくれた。
最初の岩山は、階段のように大きく一歩を踏み出せば登れるけれど、俺にはその一歩も車椅子を頼るしかない。
だけど、スキルを使えば段差なんてないのと同じだ。さすがに垂直にそそり立つ壁は、登ろうという気にはならなかった。
オスカーの姿が見えなくなって少しした頃、体長4m前後で少し乳白色に赤みがかった、大きな鳥を見つけることが出来た。
猛禽類独特の嘴と脚、胴体はどこか竜を思わせる鱗状の羽毛があり、優雅な午後のひと時に毛繕いをしていた。
「ここに来るまでの間には、何もいなかったよな……よっし」
まるで決意を言葉にすれば叶うかのように、独り言と分かっていながら口にした。
圧倒的強者なモンスターと戦うのは、正直恐いという気持ちが先行してしまう。
しかも、あのモンスターを釣るということは、もれなくゴーレムもついて来てしまうのだ。
ご一緒にゴーレムも如何ですか? ……過剰サービスが過ぎると思う。
それでもコジカの勇気を考えると、このまま待機する訳にはいかない。
俺は高鳴る胸を抑えつつ、車椅子を手動で後ろにゆっくりと回し始めた。
ここにも、何処に繋がっているか分からない電線があった。
でも、あの自重を電線が支えることが出来るのか? 逃げずに追ってきた場合、ゴーレムは出現するのか?
それはチャレンジしてみなければ分からない。そして俺の為に集まってくれているので、一回で仕留めるべきだと思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ターゲット発見、準備は良いかな?』
『いつでもOKだよ!』
不確定名称『ビッグバード』は、飛び回るような大きな動きをしていない。
車椅子の逆回転が終わったので、槍を構えて岩陰から姿を現してみる。
こちらを一瞥したビッグバードは、こちらの事など歯牙にもかけていなかった。
『行きます!』
『フェザー、気を付けてね』
サーヤの返事は何気ない普通の言葉なのに、不思議と落ち着きを取り戻せるような気持ちになる。
目の前のビッグバードから目を離さず、それでいて周囲の状況に注意深く意識を広げる。
トコトコ・トコトコといった歩くようなスピードだけど、一定の距離に入るとビッグバードは警戒心を露わにした。
そして『この距離ならいける!』といった場所で、車椅子に溜めたエネルギーを解放する。
『いっけぇぇぇ!』
ウィリーしそうになる車椅子の前方を抑えて、そのエネルギーさえも推進力に変換する。
すれ違う刹那、俺の槍がビッグバードのわき腹を掠めた。
ダメージは微々たるものだったけど、ビッグバードを挑発するには十分だったようだ。
ズゴゴゴゴゴ……、地面に変化が起き始める。
『帰還します!』
『OK! こちらは陣形を整えるよ』
急反転した俺は、来た道を慎重に戻っていく。
ゴーレムを振り切れれば楽だけど、そうそう甘い物でもないらしい。
助言者のオスカーが、サブリーダーの立場を買って出てくれて本当に助かった。
冒険者として先輩であるオスカーは、戦い方でもアドバイスをくれるに違いない。
すぐ後ろの鳥に啄まれないように、ゴーレムに押しつぶされないように俺は懸命に車椅子を走らせた。
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