031 闇夜に潜む影
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つまらなかったら・・・仕方ないですね(笑)
俺達パーティーはダンジョンから冒険者ギルドに戻り、ドロップ品と情報の売却を行った。
総額30万Gも稼げ、アカネは12万G・俺とサーヤ分で18万Gに分けた。
アカネはオスカーに分配金がないことを不思議がっていたけど、オスカーが別の依頼を受けていた事を話すと納得した。
段々と城門が閉まる時間が近くなってくる。俺達はアカネを見送りに城門近くまで行き、オスカーとは最後まで見送るため別れた。
行く道で歩きながら明日の打ち合わせをしたけれど、オスカーは引き続きパーティーを共にするようだ。
多分、アカネのことを見守るのが目的だと思うし、俺達のパーティーと一緒に上手く行くなら、それに越したことはないと思う。
宿までの帰り道疎らにある街灯の下を歩いていると、閉まっている商店の前の小さなスペースで座っている人を見かけた。
全身濃紺のローブに、机の上に敷物をしいて水晶を載せている。反対側にもある椅子を見つけると、占い師なのかもしれない。
「ねえ、フェザー。あれって?」
「多分、占い師だよな?」
街灯の明かりが届く絶妙な位置で、こちらを手招きする占い師。
少し離れた距離から見る限り――名前の表示はハテナになっているけどプレイヤーだった。
その事を、小さな声でサーヤに伝える。柳に幽霊、街灯の下の占い師。
多分、『君子危うきに近寄らず』で良いと思う。
「イーヒッヒッヒ……」
「あっ、間に合ってるんで」
「フェザー、先生が待っているから早く帰ろう」
「あー、ちょっと待ってください。お願いします、お願いしますから!」
俺は瞬時に断り、サーヤは車椅子を押す力を強めた。
その瞬間、いきなり演技を崩してきた女性占い師は、慌てて俺達を呼び止めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……エグエグ」
「随分、古典的な泣き方だな」
「もー、どうして話を聞いちゃうかなぁ?」
「サーヤって、占い好きじゃなかったか?」
机の前に一つだけある椅子をどかして、俺の車椅子が固定される。
その隣にはサーヤが椅子に座っていた。
「お金はいらないですから」と俺の左手を掴んだ占い師――コジカはフードを下ろし、勝手に自己紹介を始めた。
サーヤは訝し気に見つつ、俺が自己紹介をするとサーヤも続いた。
コジカは社員でもなければ、ゲーマー枠でもないらしい。
そうなると俺達と同じような『その他』扱いだけど、GMがスカウトした人材ではないようだ。
その分サポートも薄く、戦闘職・魔法職でもない為出遅れたらしい。
扱いは生産職なのだろうか? ギリギリを攻めると動けなくなる、典型例なのかもしれない。
「それで、何で俺達を呼び止めたんですか?」
「あの、貴方。今、凄い困ってますよね?」
「サーヤ、どう思う?」
「うーん。困ってると言えば困ってるけど、コジカさんの方が困ってるように見えるよね」
「あの……、確かに占いには『技術』が関わってきます。誰にでも当て嵌まったり、誘導したり……」
「俺達がプレイヤーだから声をかけた訳じゃ?」
「違います! 私には、ちょっとだけ『未来の一部』が見えるんです!」
「えー、それって凄くない?」
これが本当なら、結構凄いと思う。
でも例えば、二択の問題があったとして両方を提示したのなら、片方の未来の可能性自体は分かるだろう。
そして『当たるも八卦 当たらずも八卦』なら、ハズレても問題はないと思う。
大体、目の前に水晶があるのに、一切使わない時点で少し怪しんだ方が良い。
「あの、フェザーさん。貴方には、もうすぐ女難の相が……」
「ん? サーヤ、何睨んでんだ?」
「じぃぃぃぃぃ」
「俺がモテるように見えるか? あっ、それとも、他に何か見えているんですか?」
「十代・ピチピチ・我儘・幼女?」
「これでアカネちゃんは消えたね」
「俺達、幼女とは関わりそうもないよな」
「んー……、本当かな? 本当にインチキじゃないの? バンビーノさんなら、こんな占い方しないよ」
「えっ?」
サーヤの言葉に、コジカがショックを受けた顔をしている。
いきなりフードを外したその姿は、薄紅色の髪の毛でマニッシュなショートカット。メガネをしているのは、世界観的にセーフらしい。
基本的にこの世界でのプレイヤーは、健康体で遊べられる筈なのだとか……。
俺は例外だけど、リハビリを兼ねた治療がVRと現実で両立出来ているので、あながち悪い事ばかりではないと納得している。
「サーヤさん! サーヤ・さーや・さあや・さやか・沙也加ちゃん?」
「もしかして、コジカ・こじか・こーじーか・バンビーナ・伴ちゃん?」
「そこ、連想に無理がないか? ……って言うか、沙也加の友達か?」
「うん。クラスは違うけど、大親友だよ!」
「じゃあ、一緒にいる貴方は羽鳥くん?」
「今はフェザーな。みんな名前を、こっちの世界で統一してくれ」
「ごめんなさい、こういう世界に慣れてなくて」
「うんうん。私も未だに、俊ちゃんって呼んじゃうんだ」
女性同士の会話を中断させることに、良い事は一つもない。
こういう時は、二人が納得するまで話をさせるのが一番だと思う。
盛り上がっている二人を見ていると、コジカは話しながら机の上にカードを広げだした。
トランプにしては枚数が少ないと思う。水晶について聞いたら、ただの雰囲気作りだそうだ。
「サーヤさん、一枚引いて!」
「これ!」
「じゃあ、オープ……ンは控えて、こっち側でオープン」
「あー、ずるい。私にも見せて!」
今度は机を隔てて、あちら側でコジカとサーヤが騒いでいた。
これ、俺いらなくない? サーヤは良いカードを引いたらしく、とても喜んでいた。
こちらは女難の相だと言うのに……。
「サーヤ、先に帰って良いか?」
「あー……。一人になるのはダメだって」
「あっ、えっと、はと……フェザーさん。一つお願いが!」
「まずはサーヤに相談してみてください。それからでも……」
多分、こういう出会いが仲間を増やしていくんだと思うけど……。
ゲームを始めたばかりとはいえ、俺達には仕事があった。
物語のメインストーリーには関係ないだろうけど、強くならなければいけないし、その為にはお金も稼がなきゃいけない。
後々『賢者』になるのが確定する『遊び人』なら歓迎するけど、『未来が見える……かもしれない占い師』は正直難しい。
それでもサーヤが、仲間として認めるなら歓迎したいと思う。サーヤはこう見えて、出来る子なのだ。
「じゃあ、人を待たせてるから」
「コジカちゃん、明日学校でね」
「二人とも、フレンド登録だけでもしといたらどうだ?」
「「それだ!!」」
まだベータ期間中のゲームなので、外でゲームの話をするのは問題があるだろう。
しかもテストをしている事自体、一般に知らされていないのだ。
ある意味口が堅い人が集められ、その中で会社に対して協力的に遊んでいる。
大多数が社員で構成されいるのでその辺は安心だけど、漏れた情報から個人が特定したら法的手段も関係するので損しかない。
かなり大きな街なのに、純粋なプレイヤーだけで言えば四人しかいない。
定員は六名なので、サーヤが望むなら仲間として迎えるのに問題ないと思う。
二人の挨拶が終わると、俺は車椅子をゆっくり動かし始める。
そんな俺の背後にサーヤがスッと入り、現実世界のコジカの武勇伝を聞きながら、先生が待つ宿屋に戻るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日ログインすると、サーヤはコジカの話から始めた。
とある人の紹介でこのゲームを始めたコジカは、今までの活動通り『占い師』をすることに決めていたようだ。
『占い師』と言えば、見る人によっては胡散臭いイメージだろう。
でも『占い』は、統計学であり天文学でもある。心理学であり、確率論者でも宗教学者でもあった。
数ある未来の中から正確に『読む』技術は、このゲームに役立つものだったらしい。
そんな理由からスカウトを受け、『大アルカナ』と呼ばれるカードを不壊道具として得ることが出来たようだ。
「君は冒険者ギルドより、商業ギルドが良いね」
「へぇぇ、そうなんですか?」
そんな短い会話で紹介者と別れたコジカは、商業ギルドに登録し身分証を貰う。
読み書きは全プレイヤーが出来るので、簡単な計算の試験を出され、そこでちょっとしたスキルを学ぶことになった。
【観察】【直観】【話術】【薬草学】【会計】と、ギルドの手伝いをすることで少しずつ生活基盤を積んでいく。
コジカは『魔術学校』への紹介状を受け取ったが、体験入学でしか行っていないらしい。
入学金が高いようで、『光』の魔法を体験入学で学べたのは僥倖だった。
午前に商業ギルドで仕事をし、夜は目立たない場所で『辻占い』をするようになったのは最近のことだ。
リアルの学校で勉強し、ギルドで働き・夜に人のいない所で占いをする。
一度だけオスカーに会えたようで、その時に色々教わったようだ。
その後一回だけモンスターを倒しに行き、仲間から見放されて街に帰ることになったのは最近のことだった。
コジカ:セットスキル
【人物鑑定:壱】
【占い:弐】
【古代語魔法(魔術学校:仮入学/魔法:光):壱】
【手品:壱】
【薬草学:壱】
【隠れる:壱】
【剣技:壱】
ボーナススキル:【未来視(確率:稀):壱】
必殺技:-
チェインポイント:6P




