030 隠れた才能
伯爵領の冒険者ギルドは冒険者に対して、かなり手厚いサポートをしている。
情報の提供だけではなく、戦い方・冒険者としての心得など広く指導しているようだ。
演習場も個人やパーティーに開放しており、訓練・模擬戦なども広く推奨している。
ギルド職員は的になる木材・藁束を用意し、上位冒険者であるオスカーに話しかけていた。
「では終わりましたら、ギルドまでお越しください」
「ありがとうございます」
今回の俺は見学モード。隣にはアカネがいて、ゼロはお座りしながら尻尾をブンブンと振っている。
俺は車椅子に座っているので、尻尾の状態はよく分からない。
『自分のお尻を、積極的に見る奴』なんていないと思うので、気にするのはそこではないと思う。
サーヤはギルドで借りた弓矢を構え、珍しく静かに集中して弦を引き絞っていた。
大きな丸太が的で、その高さはざっと成人男性一人分と言ったところだろう。
上から1/6に一本の線が、上から1/2に一本の線が引かれている。多分、六頭身を表しているのだろう。
サーヤの一射目は普通の人間だったら、肩を掠めていたと思う箇所を通り過ぎていた。
二射目は胸に矢が吸い込まれ、三射目は首の辺りに突き刺さっていた。
「凄いぞ、サーヤ。まるでエルフみたいだ!」
「そうかなぁ、えへへ……。それって、どういう意味?」
「サーヤさん、かっこいいです」
「ウォン!(うん)」
「その調子で撃ちまくってくれ。じゃあ、こっちも行くぞ」
オスカーは90度方向が違う目標物三箇所に向かって、駆け出して剣の演舞を始めていた。
走りながらの攻撃なのに、上体も下半身も流れることなく目標に鋭い一撃を繰り出している。
その流れを止めずに二撃目・三撃目と、別々の目標に向けて連続で剣を振るっていた。
「オリャァ……」
「カッコイイ!」
「うぉん?(そうかな?)」
「段々、色々な技を混ぜてきたね」
振り下ろしきったと思ったのに既に二撃目が準備されていたり、大きな斬撃の跡が残っていたりした。
多分これは【必殺技】をいくつか混ぜているようで、その一つが事前に聞いていた『スラッシュ』というものだと分かった。
剣の攻撃がそのまま飛んでいくイメージで、射程距離はざっと5m以上10m未満といったところか。
一瞬溜めみたいな動作が入り、攻撃の後は剣道で言う『残心』の時間が長かった。
射程距離だけで言えば、弓の方に軍配が上がると思う。
ただ弓の命中精度は基本的にそれほど高くなく、こんな風にバシバシ当てるなんて……。
「サーヤ、本当に凄いな……」
「ふふ~ん! もうレベル弐だよ!」
「あぁ……これが喋らなければ美人なのにとか、お酒さえ飲まなければ……ってやつか」
「何気にフェザー先輩の、『サーヤさんに対する評価がひどい』件」
「サーヤは、スペックが高い割に手を抜くんだよ」
「それって、ノロケですか?」
「くぅーん?(なのですか?)」
「ゼロは主人の前だと、弱々しさを演じるんだな」
オスカーがゆっくり戻って来て、戦力になるか聞いてくる。
さすが上級冒険者だけあって、動きにキレがある。そして今回の作戦では、中距離攻撃でもあった方が良いのだ。
サーヤが調子に乗って弓を撃ち続けているので、その間に俺達は作戦会議に移ることにした。
放置されているのが分かるとサーヤはアピールしてくるが、その時はオスカーが指導に行っていた。
演習場での訓練が終わると、サーヤの弓矢と矢筒を購入しダンジョンへ向かう。
弓は初級者用の弓で癖がなく、エルフでも取り回しが出来る軽さと大きさだった。
弓矢には、それぞれダメージレーティングがあるようだ。それが加算になるか、乗算になるかは分からない。
ただ距離によって、ダメージが減る事だけは確認出来た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「私達も、外でキャンプした方が良いかな?」
「サーヤさん達が来てくれると嬉しいです!」
「うぉん!(うん)」
「弓矢だって必要経費だぞ。そんなこと言ってたら、武器の新調もできないさ」
「ある意味、冒険者の生命線だからね」
お昼時間を少し過ぎた頃、俺達は重役出勤な感じで『フライハイダンジョン』に来ていた。
意外かもしれないけれど、冒険者は朝早くから日が暮れるまで普通に働いている。
固定給という概念が薄いファンタジーの世界では、いつトラブルが起こるかもしれないので、動けるうちに目一杯働くのだ。
城門が閉まる時間が決まっている以上、それに合わせるという意味もあった。
ダンジョンに入る任意の手続きは、何故かリーダーになっている俺の仕事らしい。
そしていつものようにダンジョンを下りる階段で周りを騒がせ、狩場となる広場へ向かった。
「みんな、準備はいい?」
「「「OK!」」」
「うぉん(うん!)」
昨日と同じように、周りの冒険者の邪魔にならない場所を陣取り、鳥たちが集まる場所を探した。
三人+ゼロで安定して狩れたモンスターが、今日は一人増えて戦うことになる。
今日のサーヤは杖から弓矢に武器を変え、動く敵に当たるかチャレンジしていた。
そしてラストアタックはゼロが担当出来るように動き、三体目のサンドゴーレムで目当てのドロップ品をゲット出来た。
「それにしても、ここって混んでますよね?」
「そうだね……。初級・中級の冒険者は、ここで稼げてしまうのが問題かな?」
「やっぱりNPCだと、この先は……」
「オスカーさんも、昨日はこのエリアにいましたよね」
「えっ、そうだったんですか? フェザー先輩、何で教えてくれなかったんですか?」
ゼロはまるで遊んでもらっているように、狩りを継続している。
サンドゴーレムを狩ると、安全になったのを確認したのか鳥たちが下りてくる。
そこにゼロが『遊んで!』と飛び掛かり、サンドゴーレムが再出現する。
立ち話からなし崩しに戦闘が始まり、遠くで違うパーティーが苦戦しているサンドゴーレムを易々(やすやす)と倒していく。
倒し終わった後、アカネはオスカーにフレンド登録を申し出ていた。
オスカーは全員でしようと提案し、俺達はお互い交換することになった。
どうやらアカネは、助言者の存在を知らないようだ。
それでも同じゲームを通して、遊べる仲間を増やすのは、とても有意義なことだと思う。
「それにしても、アカネちゃんの戦い方って凄いよね」
「そうですか? サーヤさん」
「結局、ジョブはどうなったんだっけ?」
「あっ、言ってませんでした?」
アカネは、昨日調整したジョブのことを話してくれた。
色々教えた事を踏まえて、現れたジョブは『冒険者』と『ビーストパートナー』だったらしい。
『調教師』ではなく『同行者』で、迷わず『ビーストパートナー』を選択したようだ。
まだお試し期間という形なので、「気にしないで見てください」と言われたけれど、俺はサーヤと相談して見ない方針でいた。
アカネはジョブの内訳まで教えてくれた。
オスカーも気になっているようで、特に戦い方が独特なので、変わったスキルを持っていると思っているに違いない。
そして驚いたのはスキル合成で、かなりおかしな名前のスキルを得ていた事だ。
【近藤家流・調伏術:壱】は【格闘術:壱】と【保定術/愛玩動物:壱】を合成した物のようだ。
「アカネちゃん家の苗字が出るなんて、プライバシーの問題ない?」
「そういえば、そうですね……」
「新しいスキルは今も増え続けているとはいえ、学習の仕方がおかしいな」
「オスカーさんって、このゲーム詳しいんですね」
「あっ、あぁ……」
アカネに戦った感触を聞いてみたところ、特に変化はないようだ。
ただゼロにジャレた時に、以前よりすんなり組み伏せている感じがしたらしい。
立ち話をしている間も、ゼロはひたすら鳥たちと『遊んで』攻撃をしていて、そろそろ10体近くになるので俺達は移動を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
長閑なダンジョンだけど、微妙に違和感が残る場所がある。
一番変なのは、どこに繋がっているか分からなく用途も不明な電線だ。
樹々の上の方にあり、中継地点のような物もあるので完全な一直線ではない。
そして、どこからその質量が湧いて出るのか分からないゴーレム。
目印は地上にいる鳥の群れなので、避けて進むのは簡単だった。
「ゼロ、今度は遊ばないのよ」
「うぉん!(うん)」
アカネの言う事を忠実に守りながら、俺とゼロは並んで進んでいる。
サーヤとアカネはその後ろを歩き、オスカーが最後尾を守ってくれていた。
俺達は赤っぽい岩山が見える方に進み、途中に鳥がいたら避けて進んでいた。
スズメやツバメ・コンゴウインコなど小さな鳥のゾ-ンから、少しずつ猛禽類のゾーンに突入してくる。
鷲や鷹など実際に戦うと大変そうだけど、グロッサリアさまが求めている鳥系モンスターの羽根は、多分これではないだろう。どんどん山の方に向かう……。
赤っぽい岩山は、それほどメジャーじゃない古代文明風な景色で……。
「あー、もっと勉強しとくんだった」
「突然どうしたの? フェザー」
「これって、なんちゃら文明に似てたよな?」
「それって、ほぼノーヒントなんですけど……」
俺とサーヤの会話に、アカネが笑っている。
そういうアカネに「もしかして知ってる?」と聞くと、「も・も、もちろんです!」と怪しい返事を返してきた。
「常識だよねー、ゼロ」
「うぉん!(うん)」
「良いコンビが二組か……。本当に良いパーティーだよね」
オスカーが別方向に話題を切り替えてくれた。
ここまで来ると、でっかいハゲワシが単独でいるのを確認出来た。
「さあリーダー、決断の時だよ」
「オスカーさん……。よっし、方向性は間違ってないから明日また出直そう」
「良いのかい?」
「夜の戦闘は危険だと思います。死ぬ事に慣れたくないので」
爽やかな表情で頷くオスカーさんは、まるで『よく出来ました』と言っているようだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アカネ:セットスキル
【近藤家流・調伏術:壱】
【追加体力:壱】
【我慢:弐】
【頑健:壱】
【観察:弐】
【共感/犬系:壱】
【指示:壱】
ボーナススキル:ライドオン
必殺技:-
ペット:狼 名称:ゼロ
チェインポイント:5P




