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029 オスカー

 昨日も『水鳥の憩い亭』に泊まり、先生が夕方に合流してマッサージをしてくれた。

 この宿屋、俺達が階段を上がっていくと何故か拍手が巻き起こる。

 その瞬間階下・・に顔を向けると、みんなが目を逸らすので、きっと俺達とは関係ないところで盛り上がっているのだろう。

 アカネはゼロと一緒に泊まる必要があり、街の中に泊まるのは諦めたようだ。


 この街に来て三日目は、サーヤと一緒に『ウィンティ神殿:ウェールデン分院』に来ていた。

 アポイント通りの時間で、紹介状を渡した門番が待ってくれたので話しはすんなり通った。

 門番は中国武術で使うような長尺の棍を持ち、玄関から建物までそこそこの距離を歩いて案内してくれる。

 サーヤは当然のように車椅子を押していた。スロットルは空の状態にしてあるけれど、正直スキルで動くので押す必要はなかった。


「くれぐれも、粗相のないように」

「はい、分かりました」


 建物に入ってから感じたのは消毒液の匂い。そして通されたのは応接室だった。

 既に一席分の空間があり、サーヤはそこに車椅子を固定してくれた。

 少しすると真っ白いエプロンをした、二人のメイド風女性がワゴンを押して入ってくる。


「紅茶で宜しいでしょうか?」

「「はい、お願いします」」


 こちらとしては依頼をする側なのに、まるで上質な客として出迎えられているような感じだった。

 紅茶の芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。隣を見るとサーヤがこっそり、お菓子を入れた袋を出していた。


「おい、サーヤ」

「ん? ほいひいよ」

「分かったから仕舞っとけって」

「フェザー……。んぐっ、フェザーは食べないの?」


 袋を掲げているところで、目当ての人物がやってきた。

 その光景に微笑む女性。俺達は、そのまま自己紹介に入った。


「それで、マリアは元気かしら?」

「はい、とても良くして頂きました」

「私の先生でもあるんです」

「手紙の内容は了承しました。それで貴方達には、いくつかの選択があるの」


 一つはウィンティさまに奇跡を願い、神聖魔法による解呪を行う。

 大勢の職員を集めて『儀式』をする必要があり、その分多くの献金が必要になる。

 一つは同じ解呪でも、この女性――グロッサリアさまが個人的に行う。

 多くの魔力を集める代わりに、触媒しょくばいというか媒介ばいかいになるアイテムを取ってくる必要がある。

 最後は、この神殿のお願いを聞く事。依頼を受けた時点で解呪をしてもらえるようで、依頼は確実に達成しなければならない。


「依頼内容を聞いてからじゃダメですか?」

「残念ながら……。私達も信用のおける人を探しております」

「サーヤ、無理を言うなって」

「でも……。フェザーも、一刻も早く呪いを解きたいでしょ?」


「そういう『事情を考慮しない問答もんどう』は時間の無駄だぞ」

「じゃあ、どうするの?」

「これは、『正式な依頼』って事ですよね?」

「はい、そうですね。そして、報酬が解呪という事になります」


 端的に言えば、報酬を得られるのは俺一人になる。

 それはパーティーの報酬としていびつで、それにサーヤを巻き込む訳にはいかなかった。

 なので俺が選択したのは『呪いを解くためのアイテム集め』で、分配される戦利品から得る、又は買い取るつもりだった。

 結果として間に合うようだったら、改めて報酬の交渉をしてから依頼を受けたいと思う。


「俺達は、まだ駆け出しの冒険者です」

「えぇ、マリアからもそう書いてありました。では、なるべく強い鳥系のモンスターの羽根を一枚と、私への報酬を用意してください」

「分かりました!」

「フェザー。一人で突っ走っちゃダメだからね」

「まあまあ、良い同行者パートナーをお持ちですね」


 サーヤは照れているけれど、このゲームの一部のNPCは『この世界がシステムによって運営されている』ことを知っている。

 そしてプレイヤーとして俺達の強さも理解しているだろうし、初心者ということも理解しているだろう。

 なら何故、こんな依頼の仕方をしてきたのか? この街には、上位冒険者もいれば助言者メンターだっている。

 助言者メンターの行動はNPC寄りなので、積極的に問題解決には関わらないのかもしれない。


 この後俺達は『ラヴェール村』の事を話し、今の『俺の呪い』について教えてもらった。

 呪いには、いくつかの掛け方があるらしい。『儀式』・『媒介』・『接触』等で、俺に当てはまるのは接触タイプだったようだ。

 まだ確定ではないけれど、グッドマンにバシバシ叩かれた記憶がある。

 思い入れのあるハンカチとか、この世界ではないはずだし、髪の毛等を抜かれたような覚えはない。

 薄く心臓に絡むリボンのような状態で、大きな鳥系モンスターの羽根の魔力を使って、持ち主に送り返すのが解呪の方法のようだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 朝の打ち合わせが終わると、俺達は屋敷を出ていく。

 紹介状の件は思いの外順調だったようで、更に大きな街に行かなくてはいけないとなると……、ここで解決出来そうで良かった。

 対応してくれた40代位のグロッサリアさまも、シスターマリアと同じく凄い人なのは確定だろう。


「良かったね、俊ちゃん」

「あぁ、ありがとうな。それと……」

「ハイハイ。今は良いの!」

「まぁ、そうだな」


 昨日アカネは、「何か困った事があったら、私も手伝いますから」と言ってくれた。

 この街の近くにある『フライハイダンジョン』は、ゴーレムの肩に鳥が止まるような長閑のどかなダンジョンと言われている。

 狩る対象は主にゴーレムで、この街は養鶏も盛んなので、結果としてダンジョンで鳥系モンスターを狩る人は減っていった。


「……っと、この小冊子に書いてあるな」

「でもさ、弓で狩れば良いんじゃないの?」

「そうなんだよな。弓で狩れない理由って……」

「それはひとえに、命中率のせいだろうね」

「「オスカーさん!」」


 用事を済ませた俺達は、アカネが「合流したい」と言ってきたので冒険者ギルドで調べものをしていた。

 俺達の中で一番射程があるサーヤの魔法も、鳥系モンスターを攻撃するには心許こころもとなかった。


「ダンジョンのレベルは大体同じようなもので、弱点は色々あるけど同じような強さになる傾向にあるね」

「それは分かるんですが……」

「それって矢でダメージを与えるには、剣や槍の強さを超えないといけない……とか?」

「おおぉ、察しが良いね」


「それと鳥系モンスターは、群れる傾向にあってね」

「うわぁ……」

「ガッカリすることもないよ。体が大きい個体になると、その分単独行動になるからね」

「問題は、セットで出てくるゴーレムか……」


 グロッサリアさまが求めるのは、強い鳥系モンスターで空を飛ぶ個体だ。

 走りに特化した鳥系や、ペンギンなんかは対象外らしい。

 まあ、このダンジョンにペンギンが出てきたら、それはそれで驚くけどね。


「それで二人に相談があるんだけど……」

「何でしょうか?」

「内容次第かな?」

「今回のダンジョン探索に同行させて貰えないかな?」


 オスカーの身元は先生が保証してくれている。

 助言者メンターにはそれぞれ役割があって、俺達みたいなポジションだと友好関係を築くのが良いらしい。

 そしてオスカーは素直に『紐付き案件』で、それの調査だと言っていた。

 俺達に不利になるようなことは誓ってしないらしい。


「それで冒険者ギルドに、あの案件の情報を売る気になったかい?」

「あぁ、そっちですか」

「隠すなら、それはそれで問題ないよ。俺は当該ダンジョンで、『ドロップしたことを確認した』って事だけ報告すれば終わりだから」

「その報告のタイミングは?」

「二人がこの街を出てから何日って決めても良いね。まあ、情報を売ってくれると確認作業だけだから楽かな?」


 オスカーは助言者メンターだけど、どちらかというと上級冒険者というポジションで行動しているようだ。

 そして俺達が売れる情報は、確認するほどの価値があるらしい。

 アカネが来たら相談してみるのも手だと思う。そういえばオスカーによる、アカネを見守る仕事は良いのだろうか?

 質問したら、臨時パーティーメンバーとしてならセーフのようだ。そうこうしているうちにアカネがやってきた。


「フェザー先輩・サーヤさん、おはようございます」

「やっほー、アカネちゃん」

「サーヤ、俺は良いと思うけど……」

「そうだね、私も良いと思う」

「少し込み入った話になるけど良いかな?」


 冒険者ギルド内にはミーティング出来るスペースがあり、そこには人がまばららだった。

 最初にオスカーを臨時メンバーとして迎える事を話し、アカネとオスカーはお互いに自己紹介をしていた。

 アカネがポーっとして「イケメン……」と呟いたのは面白かったけど、それはこっちの隅の方に置いておく。

 そして、そもそもこの街に来た理由から始め、朝の打ち合わせ内容まで大まかに話すことが出来た。


 アカネは「車椅子に呪いまで……」とショックを受けてたけど、車椅子は本気で関係ないからな。

 今回の目的は『スカイハイダンジョン』の狩りで、第一目標としてサンドゴーレムの検証を行い、第二目標として大型の鳥系モンスターを探す。安全を考慮すればまだ早いかもしれないけど、そこで力になってくれるのがオスカーだ。

 自称剣士らしいけど、中近距離のアタッカーが出来るらしい。剣での中距離攻撃って……。


「それって、俺でも出来ますか?」

「確か、得物は槍だったよね。投げた方が早いかもね?」

「じゃあ、オスカーさんはどうやってやるの?」

「論より証拠か。演習場を借りて実践しようか」

「あっ……。じゃあ私は、弓をセットしてくる」


 サーヤは操作盤に行き、手早く操作をしていた。

 面白そうな雰囲気だったのかアカネもついて行き、二人でワイワイキャピキャピしていた。


「何かフェザーくんの視線が、枯れたオッサンのようにも……」

「オスカーさん、やっぱり解散しましょうか?」

「冗談だって。フェザーくんの頑張りも期待しているよ!」

「さすがに空は飛べませんよ」

「今はね……」


 先生とは違ったタイプのアドバイスを不思議に思いながら、俺達はダンジョン攻略の準備のため演習場へ向かった。

 アカネは大回りして、ゼロを回収してから合流をした。

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