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027 お試しパーティー

 アカネとゼロ・サーヤと俺は、城門の外でかなりの時間話し込んでいた。

 手際よく寝床を整えたアカネは、サーヤに負けず劣らず対人能力が高いらしい。

 手早く焚火を準備し鍋に水を張ったかと思うと、塩蔵肉を細かくカットし野菜を放り込んだ……ところで何人か集まってきた。


「どうだい、アカネちゃん。ここの生活に慣れたかい?」

「ヤトコさん、こんばんは。もう毎日毎日、大変ですよぉ」

「それにしては、ずいぶん手際が良くなったんじゃないか?」

「そうなんです! ワンさん。今日こそは『美味しい』頂きますよ!」


「サーヤ、そろそろ帰るか?」

「じゃあ、アカネちゃん。フレンド登録いいかな?」

「あぁ、俺も」

「うんうん、こちらからお願いします」


 俺とサーヤは宿を予約しているし、さすがにここで三人が泊まるのは厳しい。

 オオカミ――ゼロは見張りも兼ねているようなので、『宜しくな』という言葉に『任せておけ』と返事があった。

 俺は隣を歩くサーヤと並んで、閉門ギリギリに車椅子で移動する。

 ワールドタイム通りに閉まるので、慌てたサーヤは車椅子にカードを挿し、猛スピードで城門付近まで到着することになった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『水鳥の憩い亭』に戻った俺達は、一階で待っていた先生を見つけた。


「二人共、お疲れさま」

「「先生!」」

「まずは食事でも取りながら話そうか?」

「はい、お願いします」


 この宿は一階が食堂兼酒場のようで、二階が宿屋になっている。

 女将さんの話によると一階にも大部屋があるらしく、酔い潰れたら強制的に放り込まれて宿泊扱いになるそうだ。

 俺達は着席と同時に、半身になったチキンソテーっぽい物とパンとス-プが配膳された。


「それにしても、先生の移動は反則級ですね」

「そういうフェザーくん達だって、三日の距離だよ! スキルランクを考えると妥当だけどね」

「本当に凄かったんですよ! バビューンって」

「それは一度見てみたいね」


 先生の言葉にサーヤは、ちゃんと動画を撮っていたと返事をした。

 いつの間に撮っていたのだろう? あの無駄な揺れは、撮影モードだったのかもしれない。

 動画の撮影は最長一時間撮ることが出来て、専用の書庫ライブラリーに保管されるらしい。

 またブログで使っているサーバーに保存も出来るようで、アドレスを公開しているならアクセスも可能だ。

 先生はサーヤと悪だくみするように話しているけど、今日って色々あったような気がしている。


「先生、オスカーさんって知っていますか?」

「あー。それ、これから言おうと思ったのに……」

「本当に二人は仲が良いね。うん、もちろん知ってるよ」


「ほらな、サーヤ。気にしすぎなんだよ」

「あぁ、でもね。それを判断基準にするのはどうかな?」

「はい、きました! オスカーさんだって、私のこと褒めてたじゃん」


 サーヤは突然立ち上がって胸を張る。そして周囲の視線を一身に受けていた。

 強調してるんだから勿論見る――何で胸の前で腕をクロスして、震える演技をしだすんだか……。

 それをしているのが銀髪エルフなので、そろそろ世界観的にGMコールをしても良いと思う。

 乾いた笑いをしている先生を見て、俺は話を切り替えることにした。


 冒険者ギルドで新しいスキルを登録したこと。

 青髪の女の子――アカネが因縁をつけられ、三人組の冒険者をハラスメントアタックで撃退したこと。

 その時に会ったのがオスカーで、色々と話したこと。

 最後にアカネとフレンド登録をして、これからしばらくパーティ-を組むことを伝えた。


「うんうん、冒険を楽しんでいるようだね」

「アカネさんと組むことで、バグの回収率が悪くなるってことはないですか?」

「それは考えてなかったなぁ……。ねぇ先生、ダメですか?」

「ソロプレイには限界があるし、このゲームのパーティは6名までだよ。アカネさんだったよね……。へぇ、ペットがいるんだ」


「ゼロっていうオオカミと一緒で、とっても可愛いんです!」

「まぁ俺達も、ゼロに魅かれたって言えなくもないな」

「あー、アカネちゃんに言ってやろっと」

「だってなぁ……。あれイベントでもなければ、話しかけにくい容姿かっこうだぜ」

「確かに……」


 食後のお茶も終わり、店の中は食事からお酒に切り替わってきている。

 俺達は宿を取っているので、大きな階段を車椅子で上り三人で部屋に入って行った。

 ガヤガヤしていた雰囲気が、一瞬だけ静寂状態になっていたのは何故だろう?


 この後、先生によるマッサージが始まる。

 最近は早い段階で寝落ちしてしまう為、そうなったら現実世界に戻って、VRと現実の誤差を埋めるマッサージに切り替わる予定だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日二人してログインすると、早速アカネから『一狩り行こう!』とお誘いがあった。

 この世界の現時刻は早朝で、女将さんに宿の空きを聞いてから撤収作業をする。

 昨晩は案の定、マッサージを受けながら寝落ちしたので、ツインベットと言っても……。

 あの部屋には三人でいたし、女将さんそんなに微笑まなくても……。

 とにかく、今日も部屋は空いてそうなことだけは分かった。


「それって、本当に不思議だよね」

「階段を歩く速度で、上り下り出来るんだからな」


 アカネも準備があるらしいので、集合場所は冒険者ギルドにする。

 その間に俺達は『ウィンティ神殿:ウェールデン分院』へ、アポイントを取りに行った。

 蝋で封をされた紹介状は、キレイな文様が浮かび上がっていた。

 もしかするとシスターマリアは、かなり高位の魔法使いかもしれないし、身分が高い可能性もあるだろう。

 門番に渡すと、『明日以降のこの時間なら対応してくれる』と返事を貰ってきてくれた。


 どちらにしてもアカネのお誘いを優先するつもりだったので、今回はこの街の先輩でもあるアカネ先生にご教授頂こうと思っている。

 冒険者ギルドに入る直前で、遠くから呼ぶ声が聞こえてきた。


「フェザーさーん。サーヤさーん!」

「ウォォォン(朝だぁ)」

「うっわー、元気いっぱいだね」

「随分と年をとったのぉ、婆さんや」

「誰が婆さんよ! エルフだけど、まだ218歳よ」


 サーヤの返事に、どこかの悪魔設定を思い出した。

 多分、適当に言った言葉だと思うけど、あながち良い年齢設定だと思った。

 意気投合して抱き合う、青髪のアカネと銀髪エルフのサーヤ。


 VRMMOとはいえ、ここにきて初めて異世界に来たって気がしているのは何故なんだろう?

 リードを預かり、サーヤとアカネは中に入っていく。

 俺はゼロを見て『頑張れよ!』と声を掛けると、『お前もな』と返された。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 水の街『ウェールデン』は、近くに大きな河が流れる商業都市だ。

 城門の外でも安心してキャンプが出来るくらい安全な街で、伯爵領は全体的に平和が維持されているらしい。

 比較的近い場所にダンジョンもあり、ラヴェール村にあったのが通称『スピードダンジョン』に対し、ここは『フライハイダンジョン』と呼ばれている。アカネの説明によると、ゴーレムの肩に鳥が止まるようなダンジョンで、聞いた限りだと平和そのものだった。


「で、どうかな?」

「鳥かぁ……。弓があった方が良いと思うけど……」

「多くの冒険者は、地上のゴーレムを狙うみたい。ただ、少し硬いかな?」

「ウォッフ(土や石は美味しくない)」


 他の候補としては城門の外でゴブリンを探すか、一般的な採取活動になるようだ。

 アカネは採取関係のスキルはもっていないようで、その分ゼロが鼻を使って探していたらしい。

 採取だけで生活するには、かなりの希少植物を採取する必要があると思う。

 それでも3人……4人で割ると、いくらにもならないと思う。冒険者は稼げるうちに稼いでおいた方が良いのだ。


 背負い袋を胸の前に置き、三人+一匹で城門の外へ行く。

 アカネは自動で動く車椅子を最初に見て、「エモい!」と声に出していたけど、この子の口癖なんだろうか?

 俺とサーヤで先生達から教わった情報をアカネにも共有しつつ、ダンジョンまでの間、戦い方を話し合っていた。


「ねえねえテイマーって、後ろで指示するんじゃないの?」

「ゼロはアタッカーで良いんだよな?」

「ウッフ(任せろ)」

「私は可愛い仔を、危険にさらすなんて出来ないよ」


「それで盾職かぁ……」

「私、盾なんか持ってないけど?」

「戦闘の役割だよ。アカネさんが敵の攻撃を受け止め、俺とゼロが攻撃職アタッカー、サーヤが回復職ヒーラーかな?」

「う~ん。そのアカネさんって、他人行儀かなぁ?」


 あとちょっとでダンジョンに到着する。

 アカネは革鎧で武装していて、得物は腰に挿した短剣しかなかった。

 戦闘前の高揚からなのか、サーヤもアカネも楽しそうに話をしている。

 俺も乗っかってみたけど、アカネの『違う呼び方にして!』は思いの外ハードルが高かった。

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