026 二人のプレイヤー
最後のセリフは井戸田さん風で読んでください。
『あまーい』でも『ハンバーグ』でもどちらでも!
冒険者ギルドで起きている騒ぎは、誰も止めようとしていなかった。
職員の動きは、こちらから見えていない。そして俺達に話しかけてくる剣士は……。
「フェザー、あの人って……」
「あぁ、プレイヤーだな」
「おっ、警戒しているのか? まあ、正しい判断だな」
サーヤは小さな声で、『撮影するね』と言い出した。
前の村で出会ったプレイヤーがグッドマンなので、警戒するのは仕方がないと思う。
でも大多数が良識的なプレイヤーだと思うので、少しだけサーヤのことを心配性だなと思っていた。
これだけの人数が当事者達を囲っていて、何故かこの男性は大丈夫だと言っている。
「まあ、来てみてくれ」
「あっ、はい」
サーヤが車椅子を押すと、30人前後の人垣の中で比較的薄い部分へ滑り込めた。
青髪・青目なのに『どこか真面目な雰囲気』の女の子が、三人の夜盗のような男達に囲まれている。
周囲にいる冒険者も半分はマトモに見えるけど、二割くらいは輩と呼ぶような風体が目に留まっていた。
受付嬢はオロオロするばかり、その周囲の職員は『またか』みたいな感じだった。
「冒険者の先輩な俺達が、教えてやるって言ってんだよ!」
「け……、結構です」
「はぁ? 聞こえねぇな。兄貴の言葉には、YESしか言っちゃいけねぇんだぜ」
「すぐに、気持ち良くさせてやるよ」
下卑た口説き文句に、ため息しか出てこない。
それで、これの何処が大丈夫だと言うんだろう?
もしかして、あの女の子が武術の達人だと……。
ピッ……。
ピピピッ……。
ピピピピピピピィィィィィィィィィィィ。
「うわっ、凄い音」
「ッワァァァァ」
「テメェ、何しやがる」
急な警戒音の後、気が付くと因縁をつけていた男が、地面に投げ飛ばされたように倒れていた。
確か女の子に手を伸ばして、触れるか触れないかの所で警戒音が鳴った気がする。
床に伏している男の腕は、曲がってはいけない方向に……。
茫然としていた親分風の男が、倒れながら自分の腕を見た。
「うぎゃぁぁぁ、イテェ……。おい、どうにかしろ!」
どなりつけられた子分風の男達は、二人で肩を貸そうとしていた。
腕が曲がっているのに、肩を貸そうとするとどうなるか? 案の定、反対側の手で殴られていた。
これが騒ぎが収まった合図なのか人垣が分散し、残った二人の男が親分らしき男を外に運び出していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
茫然としている青髪の女の子は、オロオロしていた女性が別室へ連れて行った。
そして残った俺達は、プレイヤーである剣士の男性に質問を投げかけた。
「ちょっと、意味わかんないんですけど……」
「そうだな……。質問……の前に、俺の名前はフェザーです」
「私はエルフのサーヤ。フェザーの同行者よ」
「あぁ、君達が有名な……。この街の助言者の一人、オスカーだ」
自己紹介したことで、お互いの名前は確認出来た。
それでも疑わしい目をしていたサーヤに、オスカーはクスノキ先生の名前を出してきた。
後で合流する予定なので、少しだけサーヤの敵愾心が低くなる。
いや多分、出てくるプレイヤー全てが敵じゃないからな。
基本的にこのゲームはベータテスト期間中だけど、社内でテストをするだけに止めるつもりだったようだ。
バグを0にすることは難しいのがオンラインゲームの特徴だけど、それでも完成品を届けるのが会社の役割だ。
そこに『どこからか情報を得た、外部のゲーマー』が参加しているのが今の状態で、大きく分けて社内・ゲーマー・その他がテストを通してPLAYしながらゲームの完成度を高めていた。
「あれは、ハラスメント防止機能なのさ」
「え? あのピピピ音が?」
「あれはプレイヤーにしか聞こえなく、NPCは弾き飛ばされた事も認識出来ない。死に戻りで、正規ルートから帰らなくても大丈夫な措置も同じようなもんだな」
「ハラスメント防止にしては、随分な言葉が投げられていましたが……」
「その辺はオンラインゲームだからね。表現の自由と世界観には、GMも苦労していると思うよ」
オスカーの説明ではNGワードの登録など、プレイヤー側で出来る規制もあり、NPCの行動なんかも見ているらしい。
さすがに全年齢で遊べるほどの年齢層はないようで、どの年齢を規制の対象にするかも検討中のようだ。
「それでオスカーさんは、どんな役割を持っているんですか?」
「サーヤ!」
「うん。フェザーくんは、良い同行者を得ているね」
「それほどでもぉ……」
「サーヤが照れるなよ」
本当に、話が進む気がしない。
オスカーによると、『その他』のジャンルにいる俺達の他に、何人かのプレイヤーがポツポツと現れてきたようだ。
主にGMが直接スカウトした人材で、『ゲームに特化していない』というのが大きな利点らしい。
俺の場合はリハビリとほんのちょっとの知名度と聞いているけど、実際にプレイするのは一般人が多いのだ。
オスカーがこの地域の助言者というのは本当だけど、配置されたのは青髪の女の子がいることが大きな理由のようだ。
俺達のサポートをしてくれるクスノキ先生とは違う方向で、オスカーは女の子を見守っているらしい。
『その他』のジャンルの俺達は、とにかくゲームに不慣れと見られている。
掲示板を見ていると社員でもゲーマーでも、不慣れを通り越して阿鼻叫喚になっている例もあるけど、それは胸に秘めておきたいと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そろそろ来るな」と言ったオスカーは、さっさと人ごみの中に消えて行った。
何が来るか分からない俺とサーヤは、「そろそろ宿に帰ろうか」と相談をしていると青髪の女の子がやってきた。
「あっ、じゅうじ……ん?」
「ねえ、大丈夫だった?」
「こっちはエルフだぁ……」
「おい、サーヤ。驚いているようだから、少し待ってあげろよ」
良く分からないけど、感動している青目・青髪の女の子。
たっぷり分単位で茫然としているけれど一瞬のうちに回路が繋がったのか、サーヤの手をとってブンブンと上下に振っていた。
確かにファンタジーな世界で、エルフや獣人に出会えたなら驚くし嬉しいだろう。
だけどその青目・青髪にオレンジの口紅。どこのパンクロッカーかと、こちらの驚きの方が大きいと思う。
お互いに自己紹介をしたけど、まさか住んでいる場所と高校名を言おうとしたのには驚いた。
慌ててサーヤが止め、俺が『個人情報!』と連呼すると気付いたのか、周囲をキョロキョロと見回していた。
青髪の女の子――アカネは「待たせているコがいる」と言うと、外で少し話したいと言い出した。
「ねっ、どうかな?」
「俺達は宿屋に戻るだけだけど……。サーヤはどうだ?」
「うん、特に予定はないかな?」
「じゃあ、決まりで!」
何故か、俺の頭をなでるアカネ。
それに対抗して、サーヤが割り込んで頭をなでだした。
「何でだよ!」
「あぁ、ごめんごめん。うちペットサロンで、ついついなでちゃうんだぁ」
「それなら……。それで、今もなでてるサーヤは?」
「偶然! うちも……」
「ち・が・う・よ・な!」
虫を払うように、頭からサーヤの腕を素早くどける。
何の対抗意識なのか、俺には狙われている『モフモフな頭』を守る義務があると猛烈に思うようになった。
念のため、腕の匂いを嗅いでみる。特におかしな匂いの感じはしなかった。
ギルドを出るとアカネは、さっきのオオカミのリードを解いていた。
「ゼロ、良い仔にしていた?」
「ウォン(勿論だよ、ご主人!)」
「しゅ……、フェザーん家のウーちゃんに似てるよね」
「サーヤ、本当に気をつけろよ」
「ウォッフ(また会ったな、兄弟)」
「ウォッフ(さっきぶりだな、兄弟)」
「あれれ? 余所の人には懐かないのに……」
「アカネさんって、テイマーなの?」
「まだ職種を得てないからなぁ。でも、冒険者のつもり」
歩きながら話してみると、ゲームを開始した日は俺達と然程変わらないくらいだった。
ただ手探りなまま進めているせいか、順調ではないらしい。
段々と城門から外に向かっていて、そこでアカネはねぐらとも言えるテントを準備しだした。
伏せたままのオオカミ――ゼロは、辺りを警戒している。
「二人はその……、そういう関係だよね?」
「そういうって、どういう? サーヤは分かるか?」
「あぁ、まだ……かな? それより、アカネちゃん。これから何か決めてることある?」
「うーん、私もアルバイトなんだ。とりあえず冒険がしたいけど、日々の生活に追われててね」
アカネの質問の意図が分からないまま、話は先に進んでいた。
こういう場合は、話を遮らないに限る。
後でサーヤに聞けば良いし、俺達の目的とアカネの目的は一致していた。
学年差はあっても同じ高校生だし、プレイ時間も似通っている。
後は相性次第だけどゼロとウーちゃんは似ているし、社交性においてサーヤは群を抜いていた。
「ねえ、フェザー。いいよね?」
「逆に俺が足を引っ張りそうだけど……」
「ごめん、本当はマナー違反だと思うけど……。それって……」
「あぁ、怪我をしている。このゲームは治療の一環で、治ら……」
「そんなことないよ。絶対治る! だから、フェザーは今出来ることをするの!」
「いいなぁ……。二人の関係」
「ただのお隣さんだよ」
「え? もしかして幼馴染……とか?」
「う、うん……」
「エモ~い!!」
勝手に盛り上がるアカネを見つつ、このテンションについていけるか少しだけ不安になった。
助けを求めようとゼロに視線を送ると、興味なさそうにアクビをしていた。




