025 新しい街
朝に出発して到着まで三日コース。
何故か当日のお昼過ぎに、水の街『ウェールデン』の城門まで到着した。
人が増えだしてからサーヤは車椅子を降り、風景を楽しみながら後ろを押してくれるようになった。
さすがに歩くペースだと馬車に追い越されるけど、この車椅子の潜在能力は、まだまだありそうな予感がした。
「とうちゃーく!」
「サーヤ、長旅お疲れさま」
「うんうん。フェザーもお疲れさま」
「おい、何で頭をなでるんだよ」
さすがに座ったままで、背後からの攻撃をかわすことは出来なかった。
俺もウーちゃんの毛並みの良さは知っている。
だけど、いざ自分がそのモフを身にまとったら、『俺の毛並み最高』とはならなかった。
ごく当たり前にある体毛に、興奮する訳がない。
急に頭をなでるサーヤに「止せよ」というと、サーヤは不満を露わにしながらも止めてくれた。
城門は何事もなくスルーする。
冒険者カードには犯罪歴も記されるようで、もし仮に偽造・偽証出来るなら衛兵が止めるのは危険らしい。
粗暴な面もある冒険者だけど、「騒ぎを起こすなよ」程度で通り抜けられるのは楽だった。
通りを真っ直ぐ行くと噴水を見つけた。そこには石碑があり、先生のアドバイス通りに手を乗せ祈りを捧げた。
「これで再登場地点の登録が出来たね」
「俺達なら『ラヴェール村』まで半日の距離だし、夕方には先生が来るだろ?」
「ちなみにフェザーは、スキルポイントの取得はなかった……よね?」
「ここでも逃してるのか……。まあ、後でまとめて入るらしいから大丈夫さ」
街の作りが噴水を中心としているのは、伯爵領の特色なんだろうか?
そもそも、この水をどこから引っ張ってきているか分からないし、噴水の構造も良く分からなかった。
この噴水が、一種の打ち水みたいな効果になっているのか? それとも滝などにある癒し効果があるのか?
ずっといても快適な場所で、石畳が敷かれている周りでは屋台が点在しており、穏やかな午後を演出していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この世界で、神さまと呼ばれる存在は五柱いる。
光の『ランディール』さまは【秩序】を司り、為政者が主に守護している。
炎の『フランネル』さまは【武力】を司り、騎士が主に守護している。
水の『ウィンティ』さまは【快癒】を司り、聖職者が主に守護している。
風の『エルブン』さまは【交流】を司り、商人が主に守護している。
大地の『アーティア』さまは【豊穣】を司り、農民が主に守護している。
五柱を奉る限り、その時その時のタイミングで、どの神に祈りを捧げても問題ない。
そして都市・街・村ごとに、どの神を大きく奉っても問題はないようだ。
この国の首都は、もちろん『ランディール』さまを奉っているけれど、伯爵領は全体的に『ウィンティ』さまを奉っているようだ。
「この後、どうするの?」
「今日くらいは休んでも良いよな。紹介状は後にするとして、『街を見るか・冒険者ギルドに行くか・宿をとるか』かな?」
「宿をとって、何をする気なの?」
「はぁぁぁ…………。このため息の間、意味わかるよな?」
両腕で自分自身を抱きしめているサーヤに、『ハイハイ』みたいな感じでリアクションをとる。
宿屋に行ってすることなんて、体を休めるしかないだろう?
お酒を飲んで乾杯も出来なければ、情報収集に酒場に行くことは出来ない――というか、やらない予定だ。
そういえばこの世界の宿屋は、酒場を兼ねているんだろうか? そういう面では楽しみかもしれない。
水の街『ウェールデン』に来た理由は、主に俺の呪いを解く為だ。
救護院にいたシスターマリアの紹介で、呪いを解くきっかけは作って貰えている。
問題はここで解決出来るか、その先の紹介状を貰えるか? 全ては運であり、確実に解呪出来る保証はなかった。
行き場のないボケをじっくり見た後、サーヤは真面目な顔に戻っていた。
「うん、とりあえず宿を取ろうか? 街を見学する時間もあると思うし」
「そうだな。じゃあ、あの屋台で聞いてみるか?」
「肉串! こういうの、BBQみたいで良いよね」
「祭りっぽさもあるよな。今年は無理だろうけど……」
言葉に出してしまってから、言うべきじゃなかったと少しだけ後悔した。
一瞬サーヤを探そうとした俺は、いつの間にかサーヤが後ろに回り込んでいた事に気が付いた。
「別に、今年だけがお祭りじゃないよ」
「そうだな……。お隣さんだし、上手くいけば同じ会社に入れるからな」
「ただ、今年の分は『貸し』だからね」
「貸し?」
「うん。良くなったら、私を背負って行くの」
「二回分って意味か……。良くなったらって条件なら、『おんぶ』でも『お姫様抱っこ』でも約束しても良いぞ!」
「あー、言ったね! 今の覚えておくからね」
「ただ、極端に体重変えるなよ!」
最後の言葉が悪かったようだ。
急に後ろから車椅子を押すスピードが早くなり、屋台の前に到着したらポカリと頭を殴られてしまった。
なんだかんだ言って毎年の祭りや花火は、沙也加が一緒だったのを思い出す。
その時その時によってメンバーの入れ替わりはあったけど、気が付くと沙也加は必ずグループの中に入っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二人分の肉串を買い、露天の店員さんにお勧めの宿屋を聞いた。
『水鳥の憩い亭』という所が手頃で良いらしく、サービスも抜群のようだ。
サーヤが車椅子を押しながら宿屋に行くと、一階が酒場兼食堂・二階が宿泊場所のファンタジーでよくあるような場所を確認した。
宿泊は問題ないらしい。ただ「介助が出来ないけど大丈夫かい?」と言われたので、車椅子で階段を上れることを見せた。
「へぇぇ。お兄ちゃん、頑張ってるねぇ」
「ありがとうございます」
「じゃあ大部屋で雑魚寝は止めて、二人部屋にしなよ。ツインでもダブルでも大丈夫だからさ」
「あの……、それはちょっと」
少なくともダブルはダメだ。……意味が分からない。
二人で一泊5000G。この街で仕事をしなければ、四日しか泊まれない。
ただ大部屋の雑魚寝でも一人2000Gで、おばちゃんがサービスしてくれたのは分かっている。
サーヤは俺の後ろにいるので表情は見えなかった。
「仕方ない……よね?」
「……だな。そうなるとツインだよな」
「ももも、もちろんだよ……」
「まあまあ、可愛いカップルだこと」
「「カップルじゃないから!」」
先にギルドカードでお金を支払い、鍵を貰ってから冒険者ギルドへ向かった。
ラヴェール村にもあった冒険者ギルドだけど、小さな村なのにかなりの大きさだったのを覚えている。
そして村から街に移動した事を考慮すると、でっかい屋敷と思えるような大きさも納得ができた。
出入り口近くに繋がれた犬……オオカミなのかな? 多分、番犬ではないと思う。
「フェザー、この仔ってシベリアンハスキーかな?」
「確かにウーちゃんには似てるけど、どうかな?」
「ワッフ(よう、兄弟!)」
「ワッフ?(や……やあ、兄弟?)」
《スキル【感情感知/犬系】を解放しました》
《スキル【感情感知/犬系】を習得しました》
「おぉ、新しいスキル覚えた」
「いいなぁ……。で、何て言ってるの?」
「ただの挨拶みたいなもんさ。ウォッフ(またな、兄弟)」
「ウォッフ(またな、兄弟)」
こういうペットは、飼い主がいないのに気やすく撫でてはいけない。
もし撫でようとして噛まれたら……。
そんなの自己責任だと思うけど、世間はそうは見てくれないはずだ。
オオカミに軽く手を振りギルドの中に入ると、『この街で仕事をする為』の挨拶をする。
気安い雰囲気のギルドで、受付嬢から街の情報をいくつか教えてもらった。
有名なのは『噴水さんて』・『ウィンティ神殿:ウェールデン分院』・『ダンジョン』で、依頼は『掲示板』にあり操作盤も普通にあった。
ここに来るまでに、俺とサーヤはスキルを得ている。それを登録するのもありだと思う。
「サーヤも見るか?」
「私のは見ちゃダメだよ」
「ハイハイっと。仰せのままに」
「そうやって、すぐにバカにするんだから」
村から街まで高速走行している間に、俺は【警戒】を習得していた。
サーヤは【騎乗】を習得し、【平衡感覚】まで覚えていたようだ。
揺れないはずだし騎乗もスキルカードを使っていたので、どれだけ後ろではしゃいでいたかが分かってしまう。
確か後ろから『何かが追いかけて来てる』と言っていて、何かがいそうな気配はあったけど詳しくは教えて貰えなかった。
俺とサーヤが操作盤をいじっていると、受付付近から騒ぎが聞こえてきた。
「おい、お嬢ちゃん。おめぇ、風呂入ってるのか?」
「あぁ、臭ぇ臭ぇ。獣臭がプンプンするぜ」
「そ、そんなことない! ちゃんと毎日水浴びしてるし」
「俺達が冒険者としての心得を教えてやるよ!」
ギルドの中は疎らだったはずなのに、いつの間にか誰かを囲むように輪が出来ていた。
俺の操作が終わり、サーヤの登録の番になっている。
見ちゃダメと言いながらも、よそに気をとられると途端に不機嫌になっていた。
もしかするとこれは、初級者冒険者が出会う『洗礼』か? 助けなきゃいけないフラグのような気がしていた。
「フェザーも獣臭するの?」
「嗅ごうとするなよ。……って言うか、ただ因縁つけてるだけだろ?」
「あーん? 俺達に喧嘩売るバカがいるのか?」
「そこでコソコソしているお前達。文句があるなら出てきな」
まだ向こうからは明確に、俺達の存在を気付けていないと思う。
取り巻きが少しだけ見えたけど、人垣の分お互いに良く見えてはいなかった。
メインで絡んでいる奴は、こちらのことを気にしてないようで話を戻そうとしている。
騒ぎを止めないギルドもどうかと思うけど、基本『自衛』と『不干渉』がギルドの立場らしい。
「サーヤ、助けにいくぞ」
「うん、分かった」
「あぁ、君たち。彼女は大丈夫だから見ていると良いよ」
人垣の外周にいた軽装の剣士っぽい青年が振り向き、小さな声で俺達にそうアドバイスをするのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フェザー(冒険者):セットスキル
【槍技:弐】
【受身:壱】
【腕力強化:壱】
【根性:壱】
【アクロ走行:壱】
【緑の鑑定:壱】
【警戒:壱】
ボーナススキル:【冒険者の心得】
必殺技(BSM):【強打】
車椅子:サーヤの【騎乗】カード
チェインポイント:2P
~
サーヤ(精霊術師):セットスキル
【観察:弐】
【杖術:壱】
【応急処置:壱】
【精霊魔法の才能:壱】
【精霊魔法/水:弐】
【騎乗:壱】
【平衡感覚:弐】
ボーナススキル:【慈愛の心】
必殺技(MSM)【溜め】
魔法
『水作成』
『癒しの霧』
『水噴射』
スキルポイント残7




