024 アカネ【閑話】下
向かい合った私達は見つめ合う。
今まで見てきた中で一般的なシベリアンハスキーよりも、この仔は一回りも二回りも大きい。
初回にあったような警戒はない。ただ少しだけ、悲しそうな目をしているように感じた。
多分スキルのお陰で、少しだけお互いの感情が伝わったんだと思う。
「やっぱり私には、君を倒す事は出来ないよ。おいで!」
「わっふ!」
デスペナルティとして、多少のダルさはあった。
でも、親愛を示している仔の愛を受け止められないなんて、ペットサロンの娘として自分を誇れない。
スローモーションで駆け寄ってくる……ように見えた『サイレントファング』は、微笑みながら私の首に噛み付いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はっ……。見慣れた噴水だ」
本日三回目の噴水なので当たり前だった。
ノープランで同じオオカミに二回会い、熱烈歓迎を受けて別れることになった。
随分狩りが上手いオオカミだけど、あの仔は二回とも戦利品は得られていない。
もし仮に経験値を得ているとしたら、強大な敵になっているだろう。
「これは、どうしたら良いのかな?」
武器を持って、戦うのは簡単だと思う。
勝てるかどうかは別にして、あのつぶらな瞳をした『サイレントファング』を傷つけるのは可哀想な気がした。
仲良くなりたいなら、餌付けという手もある。
ただここは『ある種の異世界』だし、もし仮にこの一帯でオオカミが異常発生したら……。
デスペナルティーは、累積効果があるみたい。
ここで餌を買って会いに行く時間はあるかもしれないけど、冒険者ギルドで戦い方を学ぶ時間はないかな?
普通の冒険者なら、どんどん戦って強くなっていくと思う。でもまだ私は、プレイスタイルを確立していない。
オオカミ研究家――『ありよりのあり』かもしれないし、『なしよりのあり』かもしれない。
手を振る屋台のお兄さんに肉屋の場所を聞くと、このお兄さんが肉屋の息子だということが分かった。
名前を出す許可を貰って、肉屋に買い物に行く。
干し肉を1000G分購入してから本題を話し、『鹿の皮』と『鹿のモツ』を貰った。
『鹿の皮』はお湯で軽く汚れを落としただけで、用途を伝えると左腕をグルグルと荒縄で縛ってくれた。
「お嬢ちゃん、本当に戦いに行くのかい?」
「うーん。仲良くはなりたいけど……、迷惑ですか?」
「どちらかと言うと掃除屋なんで、一定数はいても良いとは思ってるんだけどね。あぁ、うちの肉は隣のパンによく合うよ!」
「はーい、ありがとうございます」
隣のパン屋でも、カンパーニュっぽいパンを購入する。
ブロック状のチーズも売っていたので、それも併せて購入して1000Gを使った。
「やっぱり冒険者かい? 出掛ける前は準備が大事だよ! うちのパンには、隣の肉が……」
「はい、お隣からの紹介です」
「そうかい、そうかい。なら、これはオマケだよ」
パン屋の女将さんは、革の水袋をオマケにつけてくれた。
ゼリー状の食事二回分くらいの大きさで、中に水を入れてくれた。
パカッと開く蓋は、どこかプラスチック容器を思わせる作りで、匂いとかは気にならなかった。
この辺りは冒険者が買い出しに来る商業区画で、色々な店を紹介しあう商店街のような雰囲気だった。
所持金1万Gが、どのくらいの価値になるかは分からない。
それでも既に、2000Gちょい使ってしまっている。
一日・二日くらい寝なくても大丈夫だと思う。それに、ログアウトしちゃえば日付は変わるだろう。
今は何より、あの仔との関係を終わらせてからじゃないと先に進めない。
そう言えば一つだけ、スキルを付与した物を貰えることを忘れていた。
石像から得た情報から、【解体:壱】が付与されたナイフを生成する。これでも、ないよりかはマシだ。
そしてヘタに持ち歩いて、もみ合って殺人事件でも起きたら大変なので収納に仕舞う。
そして私は、三度目の対峙の時を迎えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ノソリと現れる『サイレントファング』、じっくり確認すると同じ仔だと確証がもてる。
私は出会えた事を喜んでいるのに、この仔からは『またお前か?』みたいなガッカリ感がヒシヒシと伝わってきた。
命を賭して狩っても、戦利品が得られないならやっていられないと思う。
今回は、肉屋でオマケでもらった『鹿のモツ』がある。
そして左手に巻いた『鹿の皮』で、一撃では死なない自信があった。
《スキル【観察】のレベルが上がりました》
《スキル【感情感知/犬系】のレベルが上がりました》
「さあ、いらっしゃい! 今回は勝っても負けてもご褒美があるよ!」
「ガルルゥ!」
足元に置いた『鹿のモツ』を、一歩前に出て跨ぐ。
三回目の対峙でデスペナルティは、プールの後の疲れからマラソン大会後の疲れに変わってきている。
スローモーションで駆け寄ってくる……ように見えた『サイレントファング』は、微笑みながら私の首に向かってくる……のは知っている! だから動きが鈍くても、左腕を前方に差し出すだけで良かった。
ガブリッ! 警察犬が犯人を捕まえる訓練でよく見る奴だ。
細い腕にグルグル巻いただけあって、貫通はしていないけど痛い。
クッションがあれば大丈夫なんて嘘だ。ただ一撃で死なないだけじゃん。
《スキル【我慢】を解放しました》
そのまんまなスキルに、少し苛立ちを覚える。
噛まれた腕を押し込み、イヤイヤする『サイレントファング』に向かって首を極める。
『サイレントファング』は体の大きさを利用して、私からの拘束を逃れようとしていた。
だけど、そのまま地べたに押さえつけるように組み伏せた。ペットサロンの娘の偉大さを教え込んだ。
《スキル【保定術/愛玩動物】を解放しました》
《スキル【保定術/愛玩動物】を習得しました》
一瞬だけ哀しそうな声を上げる『サイレントファング』に、ここが狙い目と首元を甘噛みより少しだけ強めに犬歯を押し当てた。
そのまま動かなくなったので解放し、立ち上がって対峙する。
「どう? どっちが上か分かった?」
「クゥゥゥン」
「分かったなら宜しい。じゃあ、食べて良いよ!」
一瞬だけ躊躇した『サイレントファング』だったけど、『鹿のモツ』を貰えたことに驚いているようだった。
晴れやかな気持ちで勝利宣言をする。これは私だけではなく、家族揃っての勝利と言えるだろう。
「もう、こんな近くに来ないようにね!」
「わっふ」
分かっているのか・いないのか判断出来ない返事を聞き、それでも最後に得られた勝利に満足する。
そして街の中に入って気が付いた事が一つ。『何一つ稼いでなくて、どうしよう……』だった。
その事を冒険者ギルドの受付嬢に相談したら、「本当はいけないんですが、夜になれば城壁の外でキャンプをする人が増える』という情報を貰えた。急いで寝袋を買い、必要な物を揃えていったら1万Gなんてあっという間だった。
それから冒険者ギルドで戦い方を習い、何故か現れる『サイレントファング』と強敵になった。
時には共闘し、時にはお互いの実力を測る。気が付いたら周囲から『テイマー』と言われるようになっていた。
肉を用意し、革の首輪とリードを作る。自分にかけるお金が、どんどん遠のいているのは分かっていた。
掲示板の存在を知り、『テイマー』は今の所私だけが使えるジョブだと分かった。
「よーし、色々な動物と仲良くなるぞ!」
声にだしたら、自分の方向性が決まったような気がした。
実家の職業は良いとも悪いとも言えないけど、母は母で楽しんでやっていることだけは知っている。
それならこの世界にしかいなさそうな動物を捕まえて、母に自慢するのも面白いかもしれない。
「私にもやらせなさいよ」と言われたらどうしよう? その時になったら考えてみたいと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【僕と契約して】 ジョブ・スキル板 その2 【奨学金の融資を受けてよ】
520 名無しのテイマー?
でも、テイムってスキルはないよ。
521 名無しの情報屋
動物の心を知りながら、傷つけないか……。
というか、素手でモンスターの前に立つのは怖いぞ。
522 名無しの盗賊
それで格闘術を取ったのか。
523 名無しのテイマー?
仲良くなってからね。
負けてられないんだから!
524 名無しの社員
だけど、普通テイマーってペット任せだよな?
どんなプレイスキルなの?
525 名無しのテイマー?
私ががっしり捕まえて、ゼロが噛み付くの。
ポジション的には盾役なのかな?
526 名無しの社員
スタートしたばかりだと、パーティー組むの難しいからね。
テイマーの上級職に期待するよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アカネ:セットスキル
【格闘術:壱】
【我慢:壱】
【観察:弐】
【感情感知/犬系:弐】
【保定術/愛玩動物:壱】
ボーナススキル:-
必殺技:-
ペット:狼
チェインポイント:7P




