022 旅立ち
あれから俺とサーヤは、再びダンジョンに潜ることにした。
何日かウサギを狩りまくって、必要枚数の『うさぎの毛皮』をゲットするのが目的だ。
俺の全身はウサギ色に染まる予定で、勘違いして欲しくないのはバニーと言ってはいけない事だった。
サーヤの上半身はローブで賄うので、革装備はブーツを中心とした脚の保護を目的としている。
副次的な戦利品の『うさぎの肉』は、先生達へのお土産に。
『うさぎの毛糸』はサーヤが欲しいと言うので、全部持って行ってもらう事にした。
初日の狩りの後に先行して毛皮を納品し、二人分の製作依頼を掛ける。
今回は修業中の職人が作成する為、オーダーメイドだけど格安で仕上げて貰うことになった。
不足分の毛皮は二日目に納品し、サーヤはいつの間にか『うさぎの毛糸』を編み込んだ『飾り紐』のような物を作り上げていた。
一時期流行ったミサンガのような編み方で、それのロングバージョンを作成出来たらしい。
編み込んだ髪の毛を『飾り紐』でまとめ、かなり気に入っているようだ。
「フェザー、どうかな?」
「うん。まあまあ、良いんじゃないかな?」
「ふ~ん、そうなんだぁ」
ニヤニヤしながらウサギを狩るサーヤは少し不気味だったけど、機嫌が良い時は放っておくに限る。
俺が注意を引き付けて、サーヤが両手杖でウサギを殴る。
槍で俺が仕留める時は、サーヤが水魔法でサポートをすることもあった。
あまり雑魚を狩り過ぎると特殊個体が湧くらしいけど、今回は幸運にも出会う事はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あっという間に納期がやって来て、それまでに各所への挨拶は終わらせていた。
金策として村内を駆け回り、一攫千金を目指して一回だけダンジョンに猪を見に行った。
突進してくる猪から逃げきれず、車椅子のタイヤ部分に思いっきりぶつけられスピンした。
何故か追撃してこない猪を不思議に思ったけど、何処かに行ってしまったので、こちらも撤退することにした。
このゲームは生命力というかHPのゲージを表示することができ、パーティーメンバーのゲージをまとめて表示することも出来る。
初めてのダメージだったので、ポーションを使うにもドキドキする。
結論を言うとダメージは、初級者ポーション一本で回復出来る程度だった。
サーヤはその後も『癒しの霧』を何度もかけていた。
「やっぱり、防具が出来てからの方が良かったんじゃない?」
「先生は『ぶつかったら、それまで』って言ってたけどな」
「猪は、どうして見逃してくれたんだろ?」
「俺達が、美味そうには見えなかったんじゃないか?」
ぶつけられた箇所を見たけれど、車椅子には傷一つついていなかった。
俺が大怪我を負ってないのは、車椅子が宙に浮いていてスピンしたせいだろう。
それでもダメージを負ったということは、それだけ猪の攻撃力が高いことを証明していると思う。
体が資本なので、この日は早々と救護院に帰還した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
旅立ちの日がやってきた。
シスターマリアからは紹介状を、レイカからは大量のラビットパイを貰っている。
トマトベースで香辛料をいっぱい使ったソースに、『うさぎの肉』をホロホロになるまで煮込んでパイに包んだ自慢の一品だ。
サーヤも手伝ったらしく、いくつかのお菓子も収納に入れていた。
「そろそろ行くか?」
「二人……、だけだね」
「先生達は忙しいからな。サーヤも納得してただろ?」
「そうだね……。よーし、気分を切り替えて行こう!」
多分この村にいようと思えば、ベータ期間中ずっといられるだろう。
でもそれは、GMの望むところではないはずだ。
世界を楽しく旅しながら新しい発見をして、ついでに仕事をするくらいのスタンスが丁度良いらしい。
チュートリアルの村で日向ぼっこ……。それはそれで悪くはないけれど、枯れるにはまだ若すぎると思う。
装備の確保と登録、アイテムの準備は最低限してある。
細々と貯めたお金も共用分として2万Gあり、細かいお金は屋台などで使えるように革袋に入れて持っている。
これから目指すのは三日くらい先の位置にある、水の街『ウェールデン』だ。
その距離が歩きか馬なのかは分からないけど、旅をする人が少ない以上、速めのペースだと予想される。
思えば病院を訪ねたのも、沙也加と二人だった。
紹介状があったとはいえ、サーヤもよく一緒にいてくれてると思う。
「じゃーん」
「はいはい。どうぞ、お嬢さま」
「すぐそうやって、揶揄うんだから……。そうちゃーく!」
サーヤは車椅子に一つだけあるスロットルに、【騎乗】のスキルカードを挿入する。
パタンという音と共に踏み台が発生し、サーヤはハンドルを握って背側に乗り込んだ。
俺は共用品の背負い袋を太ももの上に載せ、その他の装備や荷物はカード内にあるので手ぶら状態にしておく。
「レッツゴー!」というサーヤの合言葉で、車椅子がふわりと浮いた。
朝食を食べた後の出発なので、村人は畑仕事に従事している時間帯だ。
一般的な車椅子の速度で、選挙カーのように手を振りながら村の出口に向かう。
サーヤにスピード感覚を掴んでほしく、俺は極力サポートに回っていた。
それほど時間が経たないうちに、村の出口に到着する。
伯爵領でもこの村は辺境地に位置するので、人の出入りはそれほど激しくない。
サーヤは素直に下りて一度立ち止まり、車椅子を押しながら衛兵に挨拶をする。
こうして俺達は、やすらぎの里『ラヴェール村』を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
人の歩く速度って、どのくらいだろう?
フルマラソンが約42kmで三時間、一時間換算すると14kmとすると、歩く速度は1/3程度で5km弱くらいかもしれない。
一日八時間歩いて40km、三日で120km。野営の準備とか考えると、100kmあるかないかだろう。
馬や馬車でも、そんなに早く走れるかは微妙だと思う。
では、車で考えるとどうか?
一般道の標識で考えれば、時速30km~50kmが普通だ。
個人的感想で言えば、この制限速度通りに走っている車は少ないと思う。
道路が整備された現代だから言える事で、この凸凹道を考慮すると歩く速度に近いかもしれない。
何を言いたいかと言うと?
「イヤッホー!」
「ちょっと、サーヤ。対向車がいないからって!」
「だって、トコトコ走る利点ってなくない? それとも俊ちゃん、ギリギリまでゆっくり走って……キャー」
「なんか最近、妄想が激しくなってないか?」
「良いの! 楽しむって決めたんだから」
そう、村を出て衛兵に挨拶するまでは普通だった。
そこからサーヤは車椅子に乗り込んで、地面を蹴り大きく一漕ぎする。
別に漕がなくても進むんだけど、どうやら勢いがつくパフォーマンスのようなものらしい。
歩くスピードから競歩の速度に、そこからマラソン・50m走と、どんどん速度を上げると車椅子に変化が起こりだした。
以前体験したシートベルトのような補助ベルトが足首・手首・胴体に巻き付き、気分はローラーコースター状態だ。
途中サーヤにも適用されたようで、後ろからの解説によると胴回りにベルトが巻き付いたようだ。
だからと言って、両手を離して叫ぶのはどうだろう?
車椅子は揺れないのに、サーヤのはしゃぐ振動は、意外と分かってしまっていた。
「ねえ、フェザー!」
「そんな大きい声を出さなくても、聞こえるって」
「……おかしいと思わない?」
「え? 何が?」
サーヤの無茶な加速も、慣れると少しだけ楽しくなっていた。
安全性が確約されたなら、これはそういう乗り物だ。
ところがサーヤの疑問は、意外な視点からのアプローチだった。
「この速度で窓から顔を出したら、大変だよね?」
「そうだな。……車でやるなよ!」
「そうじゃなくて、息とか声。おかしいとは思わない?」
「そう言えば……。風の抵抗が少なさ過ぎる?」
低速でも車で走るような速度なら、もうちょっと風の抵抗があってもおかしくない筈だ。
Uのスキルを使用している恩恵は、こんな所にも出ているのかもしれない。
とにかく高速で走る俺達は、真面目に運転に集中しなければならなかった。
何故かサーヤが「後ろから追ってくるよ!」という言葉をかけてくるけど、俺にはそんな余裕は微塵もなかった。
時速にして何キロだろうか?
軽く一時間走り・二時間走り、木陰で休憩しながらラビットパイを頬張りルートを確認する。
何故か一個目の目印を確認しないまま通り過ぎた俺達は、偶然にも二個目の目印を前方に発見していた。
ここは二日目のチェックポイントの筈だ。俺も調子に乗って、サーヤと爆走していた事に少しだけ反省した。
そして若干速度を落としながら順調に車椅子を進めた俺達は、城壁と中へ進むであろう人々の列を見つけることになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フェザー(冒険者):セットスキル
【槍技:弐】
【受身:壱】
【腕力強化:壱】
【根性:壱】
【アクロ走行:壱】
【緑の鑑定:壱】
ボーナススキル:【冒険者の心得】
必殺技:【強打】
車椅子:サーヤの【騎乗】カード
チェインポイント:2P
~
サーヤ(精霊術師):セットスキル
【観察:壱】
【杖術:壱】
【応急処置:壱】
【精霊魔法の才能:壱】
【精霊魔法/水:弐】
ボーナススキル:【慈愛の心】
魔法
『水作成』
『癒しの霧』
『水噴射』
スキルポイント残4




