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021 バグ

筆が進んだので、早めにアップ出来ました!

今週はお盆前なので、次は土日までにアップを考えたいと思います。

もちろん、書け次第アップしますよ。

Σ(・ω・ノ)ノ!

 俺の後ろでサーヤが、車椅子のハンドルを握ったのは何となく分かった。

 後ろにかかる重さは感じたけれど、前輪が浮き上がる程ではない。


「ちょ……ちょっと。サーヤ、何をしてるんだ?」

「しっかり掴まっててね。じゃあ、行くよ。レッツゴー!」

「おい、待っ……」


 車椅子に座った状態で後ろを振り向こうとすると、少しだけ高い位置にサーヤがいた。

 普段の目線とは違うポジションにいる為、少しだけどかなりの違和感があった。

 そして下を確認しようとした所で、俺の意思とは関係なく車椅子が動き出した。


 ゴトリ……、久しぶりの振動に少し驚く。

 それも束の間、急にスピードを上げた車椅子は一瞬にして暴走状態になった。

 もし人が車椅子を押していたら、こんなスピードは出せないと思う。

 スケボーのような不自然な加速の緩急はないし、とにかく車椅子の支配権を取り返さないといけない。


「イヤッホー!」

「サーヤ、口を閉じないと舌を噛むぞ」

「大丈夫だって、うぐっ……」

「ちょっと待ってろ!」


 自分で生み出した装備・アイテムは、基本的に自分にしか扱うことが出来ない。

 ところがスロットルに入ってしまったサーヤのスキルカードは、地味に強制力を発揮していた。

 俺個人の【アクロ走行】が支配権を取り返しにかかり、振動していた車椅子に一瞬だけ浮遊感が発生しだした。

 まだ後ろにサーヤの気配は残っている。多分、落ちてはいないはずだ。


「徐々にスピードを落とすぞ」

「えー……」

「とにかく、何が起こったか俺にも見せてくれ」

「はーい」


 大きく楕円を描きながら徐々にスピードを落とすと、親父ギルバートさんの前にゆっくりと止まった。

 車椅子の後ろから重さが消えたと思うと、サーヤが俺の正面に回り込んでくる。

 ブレーキをして後ろを見ようとするけど、微妙に見えにくい位置に何かがあるのが分かった。

 震える足を何とか動かしつつ、ゆっくりとステップを上げる。

 足元に崩れ落ちるつもりだったけど、何故かサーヤが両腕を広げてハグの姿勢で待っていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 一瞬だけ悩んだが、とりあえず両腕で体を支えながら立とうとした。

 妙に強化された腕力とは対照的に、弱々しい脚が正直憎らしい。

 それでも歩行訓練は続けているし、リハビリも続けている。

 サーヤの広げた腕は、わば介助かいじょだ。今更恥ずかしがる事は何一つないはずだった。


 立ち上がった瞬間僅かによろけ、サーヤが慌てて俺の事を抱きとめた。

 まだ足に力が入っておらず、歩行補助の平行棒がなければ上手く歩けない。

 それも腕による所が大きいので、サーヤに少しだけ寄りかかるというよりかは、し掛かる感じになっていた。

 脳をフル回転させ、立っていた時の記憶を呼び戻す。そう……、俺は大丈夫な筈だ。


 ピッ……。

 ピピピッ……。


 突然、脳内に鳴り出した高音に、俺はキョロキョロ周囲を見回し始める。

 サーヤも同じような反応をしていて、思わず体勢を崩してしまった。


「おーもーいー」

「ゴホン。……何をしておる」


 親父ギルバートさんの一言で、音はピタリと止まった。

 近くにいた職員は、すぐに俺のサポートに入ってくれた。


 その場で俺は180度回転し、職員が支えてくれている間にサーヤが車椅子を180度回転させていた。

 車椅子の裏側には30cmくらいの踏み台みたいなものがあり、サーヤはハンドルを掴みながらそこに乗っていた事が分かった。

 サーヤがスキルカードを抜くと、踏み台がパタンと背側に折り畳まれて見えなくなり、挿すとまた現れていた。


 サーヤは車椅子を回転させると、職員に手伝ってもらい座らせてくれた。

 確か俺がスロットルにスキルカードを挿した時は、こういう変化は起きなかったはずだ。

 車椅子はあくまで一人用で、椅子に座るのはその一人に該当すると見た方が良いかな?

 どう考えてもバグなので報告案件だ。サーヤにカードを返却するように言うと、渋々ながら返却していた。


「馬や馬車が必要になったら来ると良い」

「はい、ありがとうございました」

「また乗りに来ても良いですか?」

「体験コースもあるぞ。時々、数量調整する時もあるから、気軽に来ると良い」


 さすがチェーン展開しているだけあって、サービスの質はかなりのものだ。

 ただこの村が辺境地なせいか、商品を運び込む目的の馬車は多くても、帰りの荷が少ないようだ。

 その点冒険者なら自衛も出来るし、不義理を働くと全国指名手配になるので、馬の数量調整にはもってこいだ。

 ギルドの依頼で『馬車の護衛』もあるけど、歩きの冒険者は基本外で警戒することになる。

 その分移動スピード・・・・・・も遅くなり、早く水の街『ウェールデン』に行きたい俺達にとっては本末転倒だった。


 この後、俺とサーヤは開拓場所を目指した。

 そこに行くまでに色々と村の中を見回ったけど、特に異変らしい異変・危険らしい危険は見つからなかった。

 農作業をする村人が手を振ってくれ、俺は普通にサーヤはブンブンと手を振り返す。

 開拓場所では村長の他に小さな子供が作業しており、大人達の姿はほとんど見られなかった。


「村長、今日はお休みですか?」

「あぁフェザーか、それにサーヤも。少し困った事があってのぉ」

「やっぱり事件ね!」

「予定していた予算が、急に心許なくなってしまったんじゃ」


 途端にがっかりするサーヤ。

 確かに予算問題では、大きく口を挟むことは出来なかった。

 潤沢とまでは言えないけど、そこそこあった予算が気が付いたら少なくなっていたらしい。

 大掛かりな伐採は済んでいるところがあり、そこについては順次開拓へと繋がっている。


 誰かがお金を持ち逃げしたという話ではなく、何故か無駄遣いをしてしまったので調整しているようだ。

 サーヤは覚えていたのか、村長にグッドマンの事を質問していた。

 そして案の定、「知らない」の一言で片付けられていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 結論を出すとすれば、村に異変はなかった。

 何だか釈然としないまま救護院に到着すると、先生が出迎えてくれた。

 恒例のリハビリの時間で、先生への報告の時間も兼ねている。


「二人とも、何か情報は得られたかな?」

「それが……。グッドマンはいませんでした」

「予想はしてたけどな」

「広範囲の記憶操作か……。なかなかの難敵だね」


「先生が探し出して、ワンパンKOノックアウトとか出来ないんですか?」

「サーヤさんって、意外とゲーム好きなんだね」

「えへへ、そんな褒められても」

「そうだ! もしかすると、バグを見つけかもしれません」

「ハイハイ! 見つけたのは私です」


 サーヤは【騎乗】のスキルカードを借りて、車椅子に二人乗りした事を楽しそうに説明していた。

 先生は脚を持つ手をそのままに、片手をおでこに当てて『アタタタタ』みたいな感じでリアクションしていた。

 助言者メンターである先生によると、【騎乗】のスキルは一人乗りを想定しているらしい。

 仮にバイクにサイドカーがついていたとして、急にサイドカー側に運転の主導権が変わったら一大事だろう。

 馬に二人で乗る場合でも片方にスキルがあって、二人乗りの難易度がマイナス補正になるようだ。


「バグを回収するのが仕事なんだけど……。佐久間、抜けが多すぎるだろ」

「これだけのゲームを、一人で作っている訳ではないですよね?」

「それはそうだけど……、色々なチームが動いているようだよ。今も新しいスキルやモンスターも、どんどん登場してるしね」


「先生、フェザーのカードって10万Gもするんですね」

「そうだね。ただ、それは個人登録してるから、売ることは出来ないよ」

「じゃあ、緊急時にお金にすること出来ないんだ」

「そんなことを考えてたのか?」


 斜め上に顔を向けて、口笛を吹くサーヤ。

 銀髪エルフが絶対しない仕草、ベストいくつに入るだろうか?


「俺達もう一度ダンジョンに行って、装備を整えたら旅に出ます」

「そう……か。決めたんだね」

「私も付き添うから大丈夫です!」


「それは心強いね。ねっ、フェザーくん」

「ハァ……、勿論です」

「何そのため息は! ちゃんと、こっち向いて答えなさいよ」

「何だよ、サーヤ」


 俺の肩を押さえているサーヤが、真剣な顔して上から覗き込んでくる。

 サラリと垂れ下がる銀髪、強調されるエルフ耳と……おっ〇い。

 ここまで来ると、キャラクターを作り直せとは言えない。

 目を閉じて逃げる空気ではないけど、サーヤは絶対意図して真剣な雰囲気を醸し出していた。


「サーヤさん。確認なんだけど、フェザーくんについていくんだよね?」

「はい、俊ちゃんは私が守ります」

「サーヤ!」

「ゲームなんだから良いでしょ? それとも離れたいの?」


「うん、沈黙が答えだよね。サーヤさんも、そんなに追い詰めないであげて」

「追い詰めてはないけど、先生がそう言うなら……」

「これはあらかじめ佐久間と話してた事なんだけど、サーヤさんのポジションが微妙なんだよね」

「……はい」

「だから正式に、フェザーくんの同行者パートナーになってくれないかな?」

「何か、特別な事はあるんですか?」


 先生は首を横に振る。

 サーヤに課せられた役目。それは今までと変わらず、俺と一緒に冒険することだった。

 半分会社側の助言者メンターより役割が弱い、サポートメンバーというポジションだ。

 真剣な顔で了承するサーヤに、先生は【騎乗】のスキルカードを差し出すのだった。

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