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020 買い物と馬

 ゲーム初級者がスタートする田舎の村だけあって、低難易度・低リターンなのが地味に痛い。

 武器屋に並んでいる品物は中古品コーナーの方が人気があり、それでも購入する姿は滅多に見なかった。

 農具も併せて販売しているので、冒険者が集まる場所なのに、たまに場違いな人達が集まることもあった。


「武器は、もう買ったよね?」

「サーヤの杖は大丈夫そうだけど……」

「フェザーの槍は問題なの?」

「多分そんなに持たないと思うけど、まだ大丈夫かな? 武器の知識がつけば良いんだけど」


 店員は早々に奥へ行ってしまったので、ゆっくり見る時間は結構あった。

 問題はただ眺めているだけではスキルにならないし、買わないのにあまりベタベタ触るべきではない。

 新品の槍は見られる位置にはなく、中古品はどれも似たり寄ったりだった。

 諦めて防具の店に向かったけど、こちらも中古品が多い。


「そういえばエルフって、何か制限あるの?」

「制限って何? 美味しいものなら、何でも食べるよ!」

「防具屋で食べ物の事を聴くと思うか?」

「あっ、そういう事ね。このスレンダーな体には、重い鎧は似合わないかな?」


 サーヤはクネクネと体をよじっているけど、フーン程度の感想しか出なかった。

 現実世界に戻れば普通に沙也加だし、スレンダーになったのはただのエルフ補正だ。

 重い鎧が着られないということは、ただ単に体力の問題だろう。『精霊が金属を嫌う』とかの設定は現状分からない。

 この防具屋にあるのはほとんどが中古品で、個別の部位パーツが多く基本的に防具はオーダーメイドになるようだ。


 革製品で目に付くのは、フルフェイスマスク・額当て・ベスト・鎧・ビスチェ・手甲・リストバンド・膝当て・ブーツなどなど、鑑定が効かないので防具の効能は正直良く分からない。

 ただ使っている革の面積によって価格が比例するみたいで、後は加工工程に職人の費用が乗ってくるんだと思う。

 サーヤはローブのコーナーを見ているけど、防具としての性能はよく分からないようだ。


「俊ちゃん。これとこれ、どっちが良いかな?」

「こういうゲームだと、後衛もそこそこの防具を選んだ方が良いぞ」

「そういうのだと、可愛くない方に偏らない?」

「それなら作るしかないな。……っていうか」

「「フェ・ザ・ー!」」


 なんか気分は買い物に付き合わされているみたいな感じで少し疲れてきた。

 最近大きく稼げたのは18000G、二人で割って9000Gだ。

 今は日常生活にお金を使っていないけど、この村を離れたら毎日の生活費が必要になってくる。

 宿に泊まらなくても良いけど、宿に泊まる利点は勿論あった。


 一言で言えば、アバターのリセット。

 HP・MPと言って良いのかな? それの回復は勿論、大怪我が早く治るらしい。

 腕がげても宿屋で生えてくるとか、普通に考えたらホラーでしかない。

 ただ毎回死に戻りするのは問題だし、死んだら元気になるとか意味が分からない。

 ちなみに死んだらデスペナルティーとして、所持金の減額・武器防具の損傷・その他行動への制限ペナルティーがあるらしい。


「サーヤは、それを買うのか?」

「うん。フェザーが最初に、こっちを見た気がしたから」

「はいはい、サーヤは何でも似合うよ」

「やったー。あ、店員さん。これお願いします」


 こっちは何個か試着をしてみる。

 中古品なのでパーツを組み合わせるか、素材を捕ってきて加工費で何とかするか考える。

 今は見た目パーカーっぽい服を着ているので、革のベストを羽織れば問題ない。

 システム的にはお腹が見えていても、そこは防具がある場所と判定される。

 手甲をしてもリストバンドをしても問題は性能であって、実際に覆っているかは関係なかった。


 今考えているのは、額当て・ベスト・リストバンド・膝当て・ブーツだ。

 一式購入すると5000Gで、皮を持ち込んだ場合には2000Gで仕上げて貰えるようだ。

 サーヤのローブは3000Gで即決したので、後は素材を取ってきた場合と時間の兼ね合いになる。

 俺は何も買わずに出て、サーヤを待つ。長居してもスキルを解放することは出来なかったようだ。


「おったー!」

「他に買わなかったのか?」

「うん、中古ってなんだかね」

「そっか……。じゃあ、作るか」


 最近ゲット出来たのは、ウサギの毛皮だ。

 あれならサーヤと一緒に狩れるし、難易度もそれほど高くない。

 金属鎧も考えたけど、今の俺に攻撃を受け止める選択肢はなかった。

 続けて隣にある雑貨屋で、旅に必要そうな背負い袋・毛布・鍋・食器類等を購入した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 少しだけ離れた所に、商業ギルド関係の『馬場ばばファーム』という場所を見つけた。

 馬が待機する大きな牧場であり、繋がれていない馬車が数台置いてあった。

 ステーキでも食べそうな、でっぷりしたウエスタンな親父ギルバートさんが出迎えてくれ、大きな動作で話しかけてきた。


「いらっしゃい、『馬場ファーム』へようこそ」

「あの私達、水の街『ウェールデン』に行きたいんです」

「街へ行く馬車とかありますか?」

「勿論あるぞ。一人10000Gだが……、どうする?」


 周りでは4~5人の男性が、馬にブラッシングをしていた。

 馬車の整備には余念がないし、たまに女性職員が出てきて何かをメモしていく。

 ここは全国チェーン化している商業ギルドの協力会社のようなポジションで、商品の他に人も運んでいるようだ。

 ただ、この世界では旅自体一般的ではない。それでも命を懸けて運ぶのが『馬場ファーム』だった。


「旅には三日ほど掛かる。その間の安全は保障しかねるぞ」

「私たちが護衛したら良いんじゃない?」

「それなら、馬だけ借りるってのも手だよな?」

「う~ん、フェザーは乗れないでしょ?」


「ん? 馬だけ貸す事も出来るぞ。二人なら乗るだけは乗れるが、あんちゃん大丈夫かい?」

「俺は騎乗スキルがあるけど、乗り降りの問題か。サーヤは……」

「もちろん! 乗った事ないよ」

「それについては分かってた」


 ご近所さんだけあって何処に行くにでも、どちらかの家族がもう一方の家族を誘う事が多い。

 ただそうなると、牧場に行っても団体行動が多くなる。

 ゆっくり馬に乗った記憶はなかったし、あったとしても数回で覚えられる技術ではないはずだ。


「それなら、こういう物は知っているか?」

「それって……」

「えっ、何々? あっ、そのカード!」


 親父ギルバートさんが出したカードは、俺が普段使っている【騎乗】カードだった。

 一言「おいっ!」と声を掛けると、男性職員が一頭の馬を連れてくる。

 明らかに毛並みが違う馬には鞍がついており、そこにはカードスロットルがついていた。


「まず、嬢ちゃんの腕前を見せてくれないか?」

「任せて!」


 サーヤは馬を前に、茫然と見上げている。

 職員は静かに佇んでいて、乗り降りを手伝う素振りは見せなかった。

 諦めたサーヤは紐を片手に持ったり、あぶみに足をかけて勢いよく乗り込み、体の正面がお尻側を向いていた。


「サーヤって、意外とベタだよな」

「ちょっと俊ちゃん。見てないで助けて!」

「いや、無理だから……。頼む人間違ってるだろう」

「では、行きまーす」


 ノリの良い職員さんは、そのままの姿勢で馬をエスコートしだした。

 これから三日かけて俺達は旅をしないといけない。

 それなのに満足に馬に乗れないでは困ってしまうだろう。

 俺は車椅子なので、そもそもこの選択がダメなのは分かっていた。


「その辺で良いか。おいっ」

「はっ!」

「もー、早く助けなさいよね」


 親父ギルバートさんの指示で馬を止め、職員がサーヤをエスコートして下ろす。

 その後【騎乗】カードの登録方法を伝え、サーヤは驚くほどあっさりと馬に乗ることが出来た。

 このカード登録は一時的らしく、馬の返却と共にカードも返却するようだ。そしてカードの金額は……10万Gもした。

 返却すれば問題なく返金されるレンタル制度の保証金みたいなもので、その間に【騎乗】スキルは解放されると思う。

 しげしげとカードを見つめるサーヤは、職員に「ちょっとカードを借りて良いですか?」と質問した。


「車椅子のスロットルって、挿さなくても動いたよね?」

「あぁ、今は俺の【アクロ走行】で動いているからな」

「ちょっと、これ抜いてみて」

「あぁ、別に良いけど……。ほらっ」

「えい!」


 俺が車椅子のスロットルからカードを抜くと、すかさずサーヤが【騎乗】カードを挿入する。

 車椅子を自分で動かすなら、座ってタイヤの外側を回すしかない。

 そもそも車椅子なんて一人用で俺が座ってるんだから、サーヤがカードを入れたって……。

 急にカタンという音が聞こえてきた。


「やった、ビンゴ!」

「えっ、今の音って?」


 俺の位置から見えない場所で、車椅子に変化が起きたみたいだ。

 後ろに回り込んだサーヤは、車椅子の後部に何か体重をかけていた。

次回の更新は火曜日を予定しております。

ただ目標ですので、早く書きあがったら早くアップしたいと思います。

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