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018 サーヤの気持ち②

四連休で筆が進んだためアップしてみました。

ご意見・ご感想をお待ちしております。


『サーヤの気持ち』いらねぇ・・・とかねw

次回は水曜日にアップ出来たら良いな。

ダメなら週末のアップとなります。

 もし私の中に『憧れているヒーロー』がいるとしたら、三人の名前が出てくると思う。

 一人は元バスケットマンのパパで、ミニバスをしていた時代は家に帰ってから練習に付き合ってくれた。

 こっそり練習をしているつもりだったけど、いつも俊ちゃんがユニフォームを着て、私の後ろに並んでいたのを思い出す。

 分け隔てなく教えてくれる姿勢は素晴らしいけど、私の練習なのに俊ちゃんばかり構うのは納得がいかなかった。


「こんな話で良いの?」

「……」

「水の精霊さん、絶対に秘密だからね」

「……」

「宜しい! では、続きを話すね」


 ミニバスから離れ、俊ちゃんが段々と男友達と遊びだした頃、私は少しだけSNSに嵌っていた時期があった。

 そこにはバンビーノさんという人がいて、『愛の伝道師』として多くの人の恋愛相談に乗っていた。

 冷やかしから駆け落ち直前まで、どれが本当でどれが偽物か分からなかったけれど、バンビーノさんは真摯に応えていた。

 その界隈では名の知れた有名人で、私もこっそり……ここから先は秘密ね。


 一度だけ、名前の由来を聞いた事があった。

 それは伝説のバンドでギターの人の歌をもじったらしく、父親がファンだったので好きになったらしい。

 女性を形容する単語の羅列に感銘を受け、自分にピッタリと思ったようだ。

 そう……、バンビーノさんは女性で厳密には『ヒロイン』枠だけど、恋に悩める多くの乙女を救ってきた偉大な女性ひとだった。


「これは秘密だけど、実は同級生だったんだ」

「……」

「残りの一人? それはね……」

「……」

「また今度話すね。水の精霊さん、これで良いのかな?」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 水の精霊さんとの話により、水の精霊魔法である『水作成クリエイトウォーター』を覚える事が出来た。

 この魔法は水の精霊魔法の基礎みたいなもので、覚える為には心が通じる何かを共有しなければならなかった。


 本当の想いはただ一つ。

 ただ、それを言うには気恥ずかしかったので、三人の候補をあげることにしたのだ。

 無茶ばかりする熱しやすいヒーローは、3Pシューターを経て今は羽根を休めている。

 それを癒せるのは自分だと思いたい。だから色々と隠しながら、回復方面の技を磨くことにしていた。


「ウォォォォォォン」


 ただの訓練のはずが、俊ちゃんはボロボロになりながら吠えていた。

 怒り・悲しみ、強い感情が慟哭となって私の胸に突き刺さる。

 駆け寄ろうとする私を、俊ちゃんは許してくれない。

 それがスポーツマンシップなのか、バスケットマンとしての矜持なのかは分からないけど、選手でない私には入れない場所だった。


 今の俊ちゃんは、ただでさえハンデを背負っている。

 それなら、少しくらいの手助けはアリだと思っていた。でも、それが俊ちゃんを苦しめている。

 なら私はヒーローを信じることにする。最後には逆転してくれるのがヒーローだからだ。

 出来れば最初から必殺技を出してほしいけど、ピンチになった時こそ強くなるのがヒーローだからね。


「え……、うそ」

「とうとう、目覚めたようだね」


 無人の車椅子が、勝手に動き出した。

 先生の紹介で、シスターマリアが教えてくれた魔法の基礎。俊ちゃんに習っている時間があったとは思えない。

 魔法に優位性があって、魔法に多くを割り振ったエルフでさえ時間がかかったのに……。

 完全な形の魔法にはなっていないけど、車椅子の周辺からは『風』の魔力を感じ取ることが出来た。

 最後の一撃はギリギリ届かなかったけど、逆転劇は適ったと思っている。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「頑張った子には、ご褒美だよね」

「……」


 私は暇を見つけると、水の精霊さんに語り掛けている。

 古代語魔法と呼ばれるものが魔力を通して一定の現象を再現するのに対し、精霊魔法は扱いがひどく難しい。

 ある人は『お願い』と言い、ある人は『従わせる』というスタンスと聞いている。

 基礎になる魔法を覚えたとはいえ、私はまだまだ駆け出しの魔法使い。

 俊ちゃんの為に、早く癒しの魔法を覚えないといけない。


 低いマットの上で、虚空を見つめるフェザー。

 先生は脚を持ち股関節から上に向け、主に膝の曲げ伸ばしの運動をしていた。

 このリハビリで私に出来る事はない。そこで悪戯いたずら心で頭側から、両肩を軽く押さえることにした。

 ただ無心で、リハビリで良くなって欲しいと願う。

 だけど、フェザー――俊ちゃんには刺激が強かったようだ。そう……、現実世界に逃げて行った。


「サーヤさん……。フェザーくんは健全な男子高校生なんだからね」

「あっ……、気付いてました?」

「少なくともゲームでは出来なくはないけど、このゲームはそういうのじゃないから」

「はーい、ごめんなさい」


 先生に注意されてしまったので、これからは気を付けようと思う。

 ママは『男の子は狼よ』って言ってたし、俊ちゃんも獣人けだものだもの。

 でもどう見ても、シベリアンハスキーのウーちゃんを参考にしたとしか思えない。

 あのモフモフな手触りは、いつか再チャレンジしたいと思った。


 最近魔法の訓練を続けている中で、俊ちゃんと離れている事が多くなかった。

 それでも行き帰りは一緒だし、一日一回はリハビリで同じ時間を共有している。

 本当なら車椅子を押して一緒にお手伝クエストいをするつもりだったけど、俊ちゃんは現実世界と違って精力的に活動していた。

 そして時間が合った初めての採取では、俊ちゃんのスキルに大きく変化が訪れていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 本当なら甘やかしたい。

「そのままでも、ずっと一緒だよ」とか言ってあげたいけど、口に出すのを止めている。

 落ち込んだままでは俊ちゃんの為にならないし、「世界はもっと、光に満ち溢れているんだよ」と教えてあげたかった。

 一度『表舞台』に立った事があるだけに、再び立ち上がるには大きな力が必要だと思う。


 お菓子作りを学びながら作業をしていると、突然レイカから笑われてしまった。

 俊ちゃんを心配しているのがバレバレなようで、お菓子が焦げてもレイカは指摘してくれない。

 それはそれ・これはこれで、今目の前の事が出来ないのに、俊ちゃんの事を心配する資格はないようだ。


「クッキーは美味しかったって?」

「……」

「ありがとう。今度はもっと美味しいのを作るね」

「……」


 この世界の精霊さんは、気も遣えるようだ。

 水色のエフェクトを撒き散らし回転している姿はとても愛らしく、お辞儀レヴェランスをする姿はどこか品があった。


 お昼時間に間に合うように開拓場所を目指すと、俊ちゃんの頑張る姿を見ることが出来た。

 木陰に隠れて見守るなんて、『どこの幼気いたいけな少女だ』って自分にツッコミを入れつつ、微笑ましく眺めていた。

 やがて休憩時間になって合流する。何人か自己紹介をしたけど、今思い返すと所々記憶に曖昧な所が出てきた。

 ゲームの世界なのに、どこか現実染みている。一言で言えば、夢の国なんだろうか?


「グッドマン・グッドマン、もう忘れないよ」

「……!」

「ありがとう。見つけたら、ただじゃおかないんだから」


 初めてのダンジョン攻略では、俊ちゃんが呪われていることを聞いた。

 グッドマンの特徴らしき容貌を聞いても思い出せない。

 そして俊ちゃんに度重なる不幸が降りかかっていることに、強い憤りを感じていた。

 パパから厄年について聞いたことはある。だけど、俊ちゃんはそんな年齢ではないはずだ。


 本当なら、明るい未来だけを夢見て良い年頃だと思う。

 俊ちゃんにはバスケ推薦が来ていたし、私はその学校を目指す予定だった。

 サボっている振りをして油断させる作戦だったけど、それも事故と共に白紙に戻ってしまった。

 それなのにゲームの世界でも、俊ちゃんを騙そうとするなんて……。


「本っ当に許せない!」

「……?」

「思い出し怒りって、面白いこと言うんだね」


 水の精霊さんが慰めてくれていた。

 本当に苦しいのは私じゃない。だから私は精一杯感情を露わにして、俊ちゃんの前では強気で行こうと心に決めていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 サーヤは、もう一人の私。

「一緒にゲームをするなら、俺の事は考えるな」と俊ちゃんは言っていたけど、そんな事は出来るはずがない。

 ジョブを『精霊術師』に決めたのも、ボーナススキルを【慈愛の心】にしたのも、全ては俊ちゃんに良くなって欲しいからだ。

 きっとこういう姿を見せたら、俊ちゃんは嫌がると思う。どこか孤高の人を気取り、それでも仲間思いだから……。


 そんな俊ちゃんだからこそ、『兄弟・親友・家族・ヒーロー』と思うようになってきた。

 もう一つのポジションは、今は秘めておこうと思う。

 何より今は一番近くにいられるポジションにあり、時が来れば『運命』は動き出すってバンビーノさんが言っていた。

 辛いだけの日々は、長くは続かない。だけど『塔』・『吊られた男』には気を付けてと暗示は出ていたようだ。


「今日の話はここまでかな?」

「……」

「最後まで聞いてくれてありがとう。ブログは非公開だけど、こっそりGMにはやっている事は伝えてあるから」

「……」

「そうだね、明日からも頑張らなくっちゃ」


 今の俊ちゃんは、前向きに歩き出している。

 それなら私は車椅子の後ろに立つのではなく、隣に並びたいと思う。


 武器を持って、背負った荷物を分け合えるように。

 明日からもまた、それをやり続けるだけなんだから。

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