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014 犯人は誰だ

「先生。俺、呪われているみたいです」

「えっ?」

「もしかして、爆ぜろって奴?」

「何でだよ! ……っていうか、俺はリア充じゃないぞ」


 俺の言葉にサーヤは、ズーンという音が聞こえてきそうな程に凹みだした。

 最近ブログで、俺とサーヤを揶揄やゆする書き込みが現れてきたからだ。

 俺の知る限り、ブログで俺達に関わってくるのは社員が多い。

 それを見るのが一つの楽しみになっているので、特に車椅子のことは公表していなかった。


「まあ、その辺は置いといて。もっと、詳しく教えてくれないかな?」

「はい……。サーヤ、気にしてないから顔を上げろよ」

「ごめん、しゅ……俊ちゃん」

「うん、分かったから。先生、状態には【呪い(停滞)】と書かれていました」


 名前の事は置いといて、まずは呪いについて考えてみる。

 ゲームを始めたばかりなので、恨まれるような事はしていないはずだ。

 考えられるのは、『この村で起きているかもしれない何らかの異変』に巻き込まれている事。

 何かは分からないけど、これはもしかするとシナリオが始まっているのかもしれない。


「う~ん……。良い話と悪い話が分かったんだけど、どっちから聞きたい?」

「こういう時は……」

「良い話から聞きたいです!」

「何でサーヤが答えるんだよ」


「じゃあ、良い話というか答え合わせからね」

「「はい!」」

「あ、その前にダルいとか苦しいとかはないよね?」

「問題ありません」


 助言者メンターである先生からの答え合わせは、この呪いがチェインポイントを新たに取得出来ないだけという事だった。

 いつから呪いにかかっているかは分からないけど、スキルもちゃんと上がっているし体に異変は感じられなかった。

 この事から導かれる答えは、『直ちに問題はない』という単純なものだった。

 ただ悪い話というのは、毒や麻痺などの状態異常は死に戻れば治るけど、これは継続する呪いらしい。


「誰かに恨まれるって、この村ではないよね?」

「はい、そのつもりです」

「問題は、このゲームがリアルに作られ過ぎていることか……」

「ゲームの中に、悪い人がいるんですか?」

「それは勿論いるよ。ただねぇ……、働けば働いただけ豊かになるこの村で……」


 先生の話では、働かないで生きていける程この村は豊かではないらしい。

 ただ開拓も必要な村では仕事に事欠かないし、初級者がスタートする場所なので治安は良いようだ。

 NPCの犯行はゼロとは言えないけど、出会ったプレイヤー数なんて知れている。


「フェザーくん、今週はどんな事して誰に会った?」

「荷運びに配達係、大掛かりなのは開拓でしょうか?」

「プレイヤーには出会えたかな?」

「俺とサーヤ、先生にレイカさん。それと……あぁ、グッドマンさんかな?」

「「グッドマン?」」


 何故かサーヤまで首を傾げていた。

 開拓場所で自己紹介までされたはずだし、すぐに忘れるほど記憶容量は少なくないはずだ。


「開拓場所で会った人です。サーヤも会っただろ?」

「え? 本気で知らないんですけど」

「マジで言っているのか?」

「フェザー、頭とか打った?」


 俺とサーヤの話が食い違っている間、先生は上空を見上げていた。

 別に知らんぷりをしている訳じゃなく、先生には助言者メンターとしての特権があるらしい。

 多分何かを調べているのか、誰かと交信しているのだろう。


「グッドマン、グッドマン……っと。うん、そんな名前のプレイヤーはいないようだね」

「ほらね、フェザー」

「そんな筈はないです。村長も知っていたし、冒険者ギルドからの紹介だって」

「そうなると、偽名の可能性か……」


 サーヤの記憶から消えているということは、村長やギルド職員の記憶も消えている可能性がある。

 そもそも、わざと印象に残りにくい顔にしているのか、特徴を話してくれと言われても困ってしまう。

 会えば分かる。その程度の印象にしか残らない男だった。

 折角ダンジョンに入ったんだし、すぐに状況が悪化しないので、とりあえず狩りを続行することにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 10匹近くの『ツイストヘアー』を倒した事で得られた戦利品は、『うさぎの肉』×4・『うさぎの毛皮』×4・『うさぎの毛糸』×10だった。

 無作為ランダムに配られた戦利品でも、何をどうドロップするのか知っておいた方が良い。

 この素材を使って何かを作れる可能性があり、生産職をするなら練習用の素材は多いに越したことはない。


 何より今は防具をつけておらず、今の装備は初期に自分で選んだフード付きの濃緑パーカーとダボっとしたカーキ色のズボン姿だ。

 所謂いわゆる裸の状態がこれであり、胸元がはだけていても服装によって最低限の防具の役割を果たしている。

 ズボンに穴が無くても尻尾を出せるご都合仕様で、全身板金フルプレート装備でも尻尾は出るし特別な弱点になることはない。

 花畑を中心としたウサギエリアには、比較的大人しい巨大蜂ジャイアントビーもいたけど、刺激をしないように避けていた。


「先生、このウサギの肉は食べられるの?」

「それは食用だね。冒険者と言っても、ここは人数が少ないからね。肉は貴重品だよ」

「へぇぇ、どんな味がするんだろう?」

「えっ? 先生、俺達開拓場所で肉入りのサンドイッチを食べましたけど」


「へぇ、随分奮発したんだね。この村の予算は、かなり控えめだったはずだけど」

「そうだっけ? 食べたような食べてないような?」

「あー……、なんだか違和感が半端ない。どうして事件らしい事件じゃないんだ」

「まあ。とにかく戦闘に慣れて、その違和感も払拭ふっしょく出来るように頑張ろうよ」


『やる気がない男の呪い』・『高価な肉を振る舞う』・『記憶操作」、実質的な被害は多分ほぼゼロだ。

 今回受けた呪いは解除された後、きちんとチェインポイントが入ってくるので問題はないらしい。

 問題はシスターマリアの専門分野ではなく、少し大きな街にいかなければ解呪が出来ない事だ。

 それにはお金がいる、そして俺達は冒険者だ。ここらで少し稼いでおきたい。


 武器と解体ナイフを購入した後、俺とサーヤは所持金の残りを宿泊代として全額シスターマリアに寄付した。

 本来なら全然足りる金額ではなく、サーヤは魔法を習っていることもあって、一般のプレイヤーなら苦労するところだ。

 今回の狩りは戦利品を無作為ランダムで分配していたけど、俺とサーヤは密かに打ち合わせをしていた。

 先生の申し出により、荷物の大部分を持って貰える事になったので、『うさぎの肉』等は寄付に回したいと思う。


「そう? 悪いね……。レイカさんの『ウサギパイ』は絶品だから、頼んでみるね」

「わっ、楽しみ!」

「先生、食料品や大物が狙えるところはまだありますか?」

巨大蜂ジャイアントビーは蜂蜜を狙えるけど、群れで襲われるから……。挑戦するなら……」


 このエリアにもビッグタスクがいるらしい。

 ただこれを狩るには、俺達には足りない物が多すぎるようだ。

 突進するビッグタスクは、ある意味暴走軽自動車だ。

 引っ掛けられただけで大怪我だし、俺達はまともな防具を用意していない。


「まあ、防具があっても死んじゃうけどね」

「それで豚ですか?」

「確かに豚の方が、食べ慣れていると思いますが……」


 先生が提案してくれたのは、ローリングロックだった。

 ドロップするのは普通の豚肉で、部位はランダムになるらしい。

 高額な豚肉はこの村ではすぐに売れ、需要的にはいつでも不足している感じだ。


 黒のオス豚を中心として、桃色のメス豚が集団として付き添うのが一般的で、そこに子供の集団が追随する。

 動かない時は楕円形で、高速移動時と興奮時にはほぼ球体になる。

 そのさまは一言で言えばボウリングの玉で、球体の時は異様に硬くなるようだ。

 出来れば群れからはぐれた子供を狙えれば最高で、絶対に狙ってはいけないのがオス豚である。


「それでローリングロックですか……」

「どう考えてもローリングピッグよね?」

「本当は転がる石にしたかったらしいよ」


 色々と権利が関わるようで、ギリギリセーフというものもあれば一発アウトな案件もあるらしい。

 名前のことは置いといて、問題は子供でも硬すぎるので倒すのに時間がかかることだ。

 親が戻ってくる可能性もあるし、逃げ切られる可能性もある。先生はメ〇ルスライムくらいの難易度と言っていた。

 このダンジョンが初級者用と言われる所以ゆえんは、安全に狩れるのがウサギくらいでドロップが肉くらいという渋さだ。


「今は少しでも経験を積みたいです」

「お肉もね」

「まあ、リアルで豚肉を喜ぶ現代人は少ないからね。この世界の食文化は、発展途上らしいよ」

「じゃあ、お土産をいっぱいにしましょう」


 俺達は花畑エリアの端から、草原エリアに向かうことにした。

 草原エリアは山間部エリアに隣接しており、そちらには猪や熊も出るらしい。

『スピードダンジョン』と言っても、重量系のモンスターは難易度が変わる。

 一回ギリギリの戦いを経験してみたいけど、今は安全第一で挑みたいと思った。

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