013 初めての狩り
村の中でお手伝い的な仕事をこなし、開拓チームも順調に進んでいると聞いている。
グッドマンから村長を紹介された俺達は、自然と村の中に溶け込んでいった。
「お待たせ、フェザーくん・サーヤさん」
「ねえねえ、フェザー。私もマリアさんから、魔法のお墨付きを貰ったよ」
「本当か? サーヤ。この間の魔法なんて、ひどかったぞ」
「もう……、誰だって失敗はあるでしょ?」
腰に手を当て、頬を膨らませながら胸を張る銀髪エルフ。
どうも人間臭いというか、サーヤのロールプレイングが大げさになっているような気がする。
今日から本格的な狩りをするので『森の少し奥』と『ダンジョン』の提案があり、安全性を踏まえた上でダンジョンを目指すことにした。
全員の予定が揃った一日であり、先生は背丈程の棒と方形盾を・サーヤは両手杖を準備していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
キャンピングカーくらいの出入り口の両側に、槍を持った衛兵が二人立っていた。
事前に説明を受けた話だと、子供・浮浪者・犯罪者が入り込まないように警備をしているらしい。
それとは別に、明らかにダンジョンに向かない人を止める目的があるようだ。
ここを管理をしているのは領主であり、得られる利益は冒険者ギルドを通して還元されるので、入場料みたいなものは必要ない。
俺達はギルドカードを見せ、先生が任意の手帳に名前と日時を書きこんだ。
「ギルドカードは確かに確認した。……が、なあ」
「そうだな、俺達にも職務がある」
「俺……ですよね?」
「あぁ、そうだ。ここからは自己責任になるが、せめて自力でその階段を下りてみてくれ」
下に向かって伸びている暗闇に近付くと、剥き出しになっている土の先に滑り止めの木がついている、山道にありそうな緩やかな階段があった。車椅子に座っている俺は、一人静かに階段に向かって漕ぎ出す。
「あっ、おい……。お前達、止めないのか?」
「あぁ、大丈夫ですよ」
「私達も行って良いですか?」
「あ……、あぁ」
段差の先に差し掛かると、まるで坂があるように車椅子が前面下方に傾く。
後ろにいる先生から「大丈夫かい?」と声がかかり、斜めになっている状態で止まってから「大丈夫です」と返事を返した。
これで加速していったら大惨事になるけれど、そんな心配は微塵も感じなかった。
階段が終わり合流した後、少しだけあるトンネルみたいな所を通り過ぎる。トンネルを抜けるとそこは……。
「何で花畑が?」
「凄いな……。ダンジョンっぽくない」
「ここからは、命の危険も覚悟してもらうよ」
「「はい、先生」」
「そうは言っても、ゲームだからね。痛覚については最大でも、『箪笥の角に、足の小指をぶつけたくらい』……らしい」
「何、そのピンポイントの痛さ」
「逆に、それを再現出来るのは凄いですね」
「確かに……。もし死んでも、復活は村の噴水からだよ」
先生からはこのエリアで出る敵の傾向や、死んだ時のペナルティなどを事前に聞いている。
戦利品については『貯蔵・均等分配・無作為』が選べて、俺達は無作為を選択した。
今回は戦闘の楽しさを知るのが目的で、特に何をどのくらい狩るという目的はない。
自然と始まると言われているメインシナリオも、ベータテストでは最後まで関わらない可能性もあるようだ。
花畑を見ていると、グラフィックの美しさというよりかは観光地を想像する。
この脚では、現実世界で行ける場所が限られてしまうだろう。
仮想世界ではモンスターが出るダンジョンも、この車椅子があれば移動は問題なくなると思う。
水筒とお弁当を用意した俺達は、まるでピクニックのような感じだった。
「まずは、一般的なウサギだね」
「えっ?」
「サーヤ、来てるぞ!」
先生は左腕に装着している木製の盾を構えて、前方に突きだした。
そこにグレーのウサギ――小型犬くらいのストレートな髪の毛が地面につきそうな、まるでマルチーズのようなウサギが高速で走ってきた。走る勢いからなのか、地面に着きそうな髪の毛が徐々に逆立ち始める。
ジャンプする瞬間その髪の毛が一纏めになり、まるでドリルのように前方で硬くなったように見えた。
「うっ……。結構、凄い衝撃。フェザーくん」
「はい!」
先生の木製方形盾に刺さったままのウサギは、怒りも殺意も発さない生粋の狩人に見えた。
その狩人が一直線に『ぶら~ん』とぶら下がっている。俺は気合の声と共に、槍を突き刺した。
「うん、上出来。『ツイストヘアー』は、このエリアでは狩りやすい相手だよ」
「えー……。なんか可哀想」
「そうか?」
「これでも?」
先生はサーヤに向かって、ウサギの唇を軽く捲り上げる。
げっ歯類という割には鋭すぎる犬歯。
その上で前歯も彫刻刀のような鋭さで、唇を捲らないと分からないのは凄い収納力だ。
「これ、どうしたら良いですか?」
「ダンジョンのモンスターは、倒して武器を抜いたらドロップ判定に移るよ」
「解体は必要ないんですよね?」
「うん。ダンジョンの中は特別で、『設定』から直接『収納』に入れるかも選べるんだよ」
先生がこちらに頷いたので、俺は槍を引き抜く。
既に事切れていた『ツイストヘアー』は一瞬姿が荒くブレ、空気に溶けるように姿を消していった。
「あっ……」
「どうした? サーヤ」
「チェインポイントが貰えたよ!」
「初回戦闘特典だね」
「えっ……、俺には入ってないんだけど」
「あー。俊ちゃん、一人で戦いに行ってたんだ!」
「だーかーら、行ってないって。それと……」
「はいはい、フェザーね。素直に『シュン』ってつければ良かったのに」
「何か言ったか?」
「聞こえませ~ん」
まだ、ダンジョン探索は始まったばかりだ。
もしかしたら、次の戦闘でゲット出来るかもしれない。
少し考えている先生に声を掛け、俺達は少し先へ進むことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二匹目の『ツイストヘアー』は、俺とサーヤで狩ることにした。
このダンジョンは通称『スピードダンジョン』であり、初級冒険者の最初の試練となる。
突進系のモンスターが多いようで、肉をドロップする性質上、村への貢献度がかなり高いらしい。
共通する倒し方は主に三通り。
『止めて攻撃する』・『速度で上回り攻撃する』・『カウンター』だ。
俺は盾を持っていないので、最初の行動は選択出来ない。
「サーヤ、あそこにいるぞ」
「うん、大丈夫。フェザー」
「二人とも気を付けてね」
一匹目はグレーの個体だったけど、今度は薄く鮮やかなピンク色だった。
地面まで着きそうな毛を気にする事なく、こちらに気付いた時にはミーアキャットのような警戒をしていた。
もしかすると、縄張り意識があるのかもしれない。基本的にダンジョンの中では、冒険者の方が異物だ。
車椅子に座りながら、しっかりと槍を構える。サーヤも隣の若干後ろで、両手杖を構えている。
「キシャァァァァァァ」
「それ、絶対ウサギの声じゃない!」
「今、ツッコムなよ!」
先程と同じように、垂れ下がる長い毛がまるでユニコーンのように角化し、俺の首目掛けて跳んでくる。
このモンスターが狙うのは主に脚か首。本気で狩りをする、肉食獣の狩り方だ。
スピードがあっても、跳んでくる場所が二択なら対応は簡単だ。
小型犬位の大きさとは言え、所詮はウサギ。カウンターで槍をそっと置いておけば後は『うさぎ美味しい』だった。
「お見事!」
「えい!」
「おい、サーヤ。死体蹴りするなよ!」
「私、蹴ってないよ。ポコンって、叩いただけだし」
ポコンって擬音の割には、ウサギの目が再度見開いたような気がする。
変なところでリアルな描写に凝るこのゲームは、案外茶目っ気満載なのかもしれない。
何はともあれ二匹目の『ツイストヘアー』は倒し、戦利品は収納の中に入っていった。
「フェザーくん、どうだった?」
「あー……。チェインポイントは、入ってないですね」
「これはもしかすると……」
「……バグですか?」
俺達の一番の仕事は、バグを見つけて報告することにある。
『気を張らずに楽しんで』とも言われているけど、一般的な高校生では宣伝になる訳ではない。
だから俺とサーヤは、仕事に見合うだけの働きをする必要があると思う。
出来れば、俺とサーヤの違いを判別出来れば良いんだけど……。
「フェザーくん。そういう時は落ち着いて、スキル周りのSSを撮っといて」
「はい、分かりました。設定を確認します!」
「フェザーばっかりバグを見つけるのって、何かズルいな」
「サーヤ、これは仕事だぞ。パーティーなら共同作業だったよな」
俺の言葉に、何故か頬を赤らめるサーヤ。
正統派エルフとしてはクールビューティーな対応を求めたい所だけど、滅茶苦茶人間くさい動きだった。
「それで、何かおかしな所でも見つけた?」
「そうですね……。ん? 状態って普段は空欄でしたっけ?」
「いや……、何も無ければ『通常』って表示されるはずだよ。よく確認してみて」
「はい!」
このゲーム、自分の事でも表示されている情報以上の事は、なかなか知ることが出来ない。
早い内に『鑑定』を解放する必要があり、そのヒントは『観察』スキルにあるらしい。
《スキル【観察】のレベルが上がりました》
《スキル【看破】を解放しました》
徐々に浮き上がってくる文字。
かなり集中してじっくり見てみると、そこには【呪い(停滞)】の文字が表示されていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フェザー:セットスキル
【槍技:壱】
【受身:壱】
【腕力強化:壱】
【根性:壱】
【観察:参】
【薬草知識/伯爵領(ラヴェール村):壱】
【アクロ走行:壱】
車椅子:【騎乗】 チェインポイント:3P
解放スキル
【騎乗】【突進】【悪路走行】【空中機動】【曲乗り】【アクロ走行】
【剣技】【棒技】【槍技】【斧技】【受身】
【根性】
【観察】【警戒】【看破】
【腕力強化】
【棒高跳び】
【薬草知識/伯爵領(ラヴェール村)】【樹木知識/伯爵領(ラヴェール村)】
【薬草採取】【樹木の目】
※お話終了時点の情報です。
次回アップは、週末(多分土曜日)を予定しております。
ストックが増えれば、週の半ばで調整しますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
ご意見・ご感想(一言でもOK)お待ちしております。




