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FLY HIGH アゲイン! ~VRMMO車椅子ランデヴー~  作者: 織田 涼一
1章 翼の折れた主人公(本編はここから)
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010 初めての採取

 目当ての薬草は傷薬の元になる素材で、『ブルーム草』と言うらしい。

 見た目はホウレン草を小さくした形で、今持っている初級者用ポーションにも使われるものだった。

 民間療法として貼り付けるだけでも効果は出るけど、『調合士』『錬金術師』『薬師』などの職業が効果を高める事が出来るらしい。

 村を出て30分くらい進むと、目的の森に到着した。


「この森って、病院に似ているかも?」

「そういえば、あの病院っておかしいですよね?」

「あぁ……、あれは佐久間の趣味なんだよ」


 このゲームを作ったGFC(Grand Finale Corporation)という会社は、大小様々な企業を吸収した会社のようだ。

 そこには多額の資本を投入したCEOがいて、各分野のエキスパートを集めることから始まった。

 そんなCEOも、当時の楠先生の立場をどうにかすることは出来なかった。

 一言で言えば、実力がありすぎて疎まれたのだ。

 組織の中で雁字搦めになり、謂れのないミスを押し付けられて離職した。


「廃病院をわざわざ買い取って、こっそりと医療行為をする。BJみたいだってね」

「確かに、バリアフリーにはなっていましたが……」

「実は、結構大掛かりな手術も出来るよ。スタッフもたくさんいてね」

「受付くらいしかいなかったような?」

「そう見えるでしょ? でも、どこにいるかはヒミツだよ」


 これから行く森の中は足場も悪く、人の住む生息圏から少し離れることになる。

 やることは薬草採りなので危険はないはずだけど、冒険者の初仕事なので槍を出して少し警戒を強めていく。


「じゃあ、もうちょっと奥に行ってみようか?」

「俊ちゃん……」

「サーヤ!」

「はーい。フェザー、それ? 浮いてない?」


 座っている俺の目線からだと、タイヤが地面に接しているかはよく分からない。

 ただタイヤが回転している割には抵抗が少ないので、『悪路走行』の恩恵かと思っていた。


「宙に浮いて、植物も踏まなく虫も殺さないって……。まるで麒麟だね」

「キリン? この場所に出てくるんですか?」

「サーヤ、そっちじゃない麒麟だよ」


 森に向かって斜め上を眺めても、ニョキっと首が出てくる訳ではない。

 そして世界観的に麒麟が出てくるのは、西洋・東洋ごちゃ混ぜの世界観のファンタジー作品だけだ。

 今の所、のどかな西洋風の世界観から森までやってきたはずだ。

『後でうちにあるビールを見せる』とサーヤに約束する。


「歩ければ問題ない場所だから、移動が問題なくてラッキーで良いですか?」

「そうだね、スキルのことを考えたら問題ないくらいだよ」

「ねえ、スキルって何のこと?」

「それも後で説明するよ」


 俺達は辺りを警戒しながら、薬草がありそうな場所まで進んでいく。

 少しだけひらけた所があり、木漏れ日がより降り注いでいる場所を見つけた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「これは群生地だね」

「フェザー、いっぱい薬草があるよ」

「サーヤ、ちょっと待ってくれ。俺も確認したい」

「じゃあ、補助するよ。『パラレルロード』!」


 車椅子にブレーキを掛け、小刻みに震える足でステップをどける。

 俺の目線辺りに生まれた左右の木のバーは、歩行訓練で支えになるやつだった。


「これが、先生の能力ですか?」

「そうだね、ワンドは僕のギフトだよ。戦闘は期待しないでね」

「フェザーは、私が守るから大丈夫よ」

「サーヤって、戦闘能力あったの?」

「それはねぇ……。ヒ・ミ・ツ!」


 胸を張る銀髪のエルフは、何となくイメージと違って見える。

 そういう俺も弱弱しい獣人なので、人の事は言えないけれど……。

 立ち上がる瞬間に車椅子を消して、脚に負担を掛けないように……腕力だけで自重を持ち上げた。


「ちょっとちょっと、それじゃあ訓練にならないって。違う意味で凄いけど」

「俊ちゃん、体操選手にでもなるつもり?」

「あぁ、【腕力強化】か……。スキル一つで、ここまで出来るもんなんだな」


 目線の高さのバーは、掴んで立ち上がるにも苦労する位置にある。

 それがほぼ座っている状態から体を浮かせるまで持ち上げた腕力は、どのくらいの補正がついているのか正直怖くなる。


「ゆっくりで良いから、地面に足をつけて」

「はい、行きます!」

「シュ……フェザー頑張って」

「あぁ、大丈夫だ」


 不自然な力で握る手がこわばっているけど、先生の指示で下ではなく前を見る。

 一歩……を踏み出すのが怖い。腕がまだ震えているけど、筋肉が落ちてるだけで腕までは……。

 いや体の衰えは、現実世界の俺にしか当て嵌まらない。

 足の裏に体重を乗せるように一歩、……かなりの時間をかけてまた一歩と踏み出す。


「良い感じだよ。さあ、前を見て!」

「フェザー。あんよが上手、あんよが……」

「うぉい、沙也加!」

「あー、フェザーも間違った!」


 意図的に挑発してくる沙也加――サーヤは、俺のもう一つの性格を熟知しているからだろう。

 腕にかかる微妙なこわばりが、自然と緩められていた。


「どう? 薬草は見えた?」

「ここからだと、それらしい草は見えるけど……」

「一直線上になるようにしてるはずだけど、サーヤさんも手伝ってね」

「はーい。それにしても3株で600ゴールドって、安すぎませんか?」


 俺の中古の槍は沙也加が持っていて、今は警戒が薄れているのをヒシヒシと感じてしまう。

 だけど一直線上にあって歩行訓練をしているということは、俺も最低一つは採取しないといけないということだ。

 両手を支えに、地面を踏みしめているかどうか分からない足を動かす。

 歩き方に指示はない。るような動きでも、歩幅が小さい一歩でも、二人はじっと待っていてくれた。


 左手一本でバーを掴み、どうにかして中腰の姿勢を目指す。

 全体重を左手一本にかけているような感覚だけど、不思議と左手には余裕があった。

 足の力を放棄してしまえば、不自然な姿勢でグルリと回ってしまうだろう。

 ただ車椅子に乗ったままでは、採取は出来なかった筈だ。


「フェザー、手長猿っぽい」

「シー……。今大事なところだよ」

「サーヤ、ちゃんと聞こえてるからな」


 今回の『ブルーム草』は、根っこごとゴソッと取れば大丈夫なので、特別な道具は必要ないようだ。

 こんなに全身で気を遣う採取は、VRMMOの小説やゲーム史上俺だけかもしれない。

 片手で抜いた『ブルーム草』は、ギルドから借りたズタ袋に入れる。

 空いた手を地面につき、握っていた手を放す。サーヤの警戒は薄いので、俺は注意深く周りを見渡した。


 《スキル【観察】のレベルが上がりました》

 《スキル【警戒】を解放しました》

 《スキル【薬草採取】を解放しました》


 森のざわめきと静けさが、妙な臨場感を盛り上げていく。

 先生もサーヤもそれぞれ採取を行い、全員でそれぞれ一回分の『ブルーム草』を得ることが出来た。

 密かにモンスターと戦ってみたいと思ったけど、今回は冒険者ギルドの依頼を達成出来ただけで満足したいと思う。

 後はギルドに報告すれば、晴れて最低限の冒険者になれる筈だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 帰り道も警戒しながらギルドを目指し、特に問題なくたどり着いた。

 相変わらずサーヤは俺の車椅子を押しているし、あまり役に立ってなかった筈なのに、先生は俺の事を気遣ってくれていた。

 冒険者ギルドでは、教官と一緒にいたグレイスが対応してくれた。


「はい、確かに。フェザーさん、サーヤさん。改めて、おめでとうございます」

「二人とも、カードを出して」

「「はい!」」


 特に意識しなければ、出したカードは冒険者カードになる。

 装備・スキル・アイテムに分かれるカードは、誰かに渡しても悪用されることはない。

 返却を求めれば自然と戻ってくるし、ギルドで確認出来るのは討伐数・ランク・入金だけだ。

 あ……。冒険者ギルドは、一部の銀行の役割もしているらしい。

 預けるくらいしか出来ないけど、現金を持ったまま死ぬと一定の割合でロストするようだ。


 戻ってきたカードを確認すると、9級の表示があり嬉しくなる。

 それとは別に、残金の心許なさが……。

 俺達は武器しか買ってないし、宿泊場所は特例で使わせて貰っている。

 先生に聞いたら格安な宿の素泊まりで2000G、そこそこの宿に泊まるなら5000Gはするらしい。


「クスノキさま、お疲れさまでした。以上でチュートリアルは終了になります」

「しばらくはサポートするけどね。グレイスさん。二人はまだ新人ですので、お願いします」

「「宜しくお願いします!」」

「はい、お任せください」


 今は登録する程の装備もないし、しばらくはこの世界をゆっくり見て回りたいと思う。

 サーヤは『調香師』のレイカに色々教えて貰うようで、俺はリハビリも兼ねて救護院からあまり離れることは出来ない。

 少しずつスキルを揃えて、そのうち『脚力強化』でも探しに行きたいと思う。

 この後予定しているリハビリは少し気が重いけど、サーヤの呪縛はまだまだ続きそうだと思った。

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