008 合否判定
高速で暴走する車椅子は、教官を含め全員が認識していた。
教官を中心に、これだけ存在感を示していたんだから当然だった。
「モール。後、ひと踏ん張りだ」
「分かった、ウール」
車椅子に俺の意思を伝えた最後の周回は、大きな楕円を描きながら教官を真正面から捉えるものだった。
ウールの指示により、モールが正面のルートを確保してくれる。
そしてモールの盾が教官の短杖めがけて強打した瞬間、トップスピードに乗った車椅子でチャージを仕掛ける。
ウールが至近距離から投擲をすると、教官は回避をしながらあっさりと短杖を手放した。
「最後の一人は、合格出来るか?」
「「えっ……?」」
教官はまるで、『真正面から掛かって来い』と言っているように感じていた。
だけどその予備動作は、片足で大きく地面を踏み込むものだった。
あの時、教官を避けて脱輪しかけたのは、土の魔法だったに違いない。
そして杖なんかなくても、教官が魔法を使えるのは想定の範囲内だった。
「はぁ……、大人気ない」
「フェザーくんには、厳しいくらいが丁度良いんですよ」
暴走する車椅子に気持ちを乗せる為、口元を巻かれているにも拘わらず前のめりに木槍を構える。
このままではさっきと一緒だ。そして、これは最後の攻撃になる。
誰かが割って入って、『試合終了』と言ったら俺の冒険が終わってしまう。
これは最後の攻撃であり、俺にとってはある意味『ブザービート』だった。
声にならない言葉を叫びながら、右手をしっかり握り左手は軽く添えるだけにする。
この場でフリーなのは俺だけだ。それも、一瞬でしかない。
地面に変化が起きる前に、俺は木槍の持ち手を変えた。
目指すは教官が地面に引いた、魔法によるライン。そこを目掛けて木槍を差し込む。
《スキル【棒高跳び】を解放しました》
「何っ……!」
「フッゴォォ」
トップスピードの車椅子が、まるでつんのめるようにエネルギーを木槍に注ぎ込む。
普通なら曲がるはずもない木槍が、まるでその意思を全うするかのように撓み、車椅子ごと宙で回転する。
棒高跳びなんて初めてなので、木槍を離すのも忘れてしまった。
……そもそも棒高跳びをする競技ではないので、その回転の勢いのままに教官に向かって振り下ろしていた。
《スキル【空中機動】を解放しました》
その威力は、俺の思うようなものではなかった。
まるで正しい軌道を通り、『藁を日本刀で潰すことなく切断する』という、そんなイメージさえ感じることが出来た。
それなのに、教官は抗った。両手をクロスして受け止める姿は、どこの英雄かと思ってしまう程だった。
拮抗した力場は、着地と共に離してしまった木槍がカランと落ちた事で終わった。
そして教官は、無傷のまま片膝をついた。
「勝者不在により、ドロー!」
「まあ仕方ないか……」
「えっ? どうなった?」
「これって、どうなるんだ?」
「今のは、入ったのか?」
「……フッ、貴様らは合格だ。だが、その権利を得たに過ぎない。明日グレイスより依頼を受け、その達成をもって合格とする。返事は?」
「「「イエッサー!」」」
最後まで厳しい指導だったけど、終わった後に肩をトントンと叩いて小さな言葉を掛けてくれた。
それは聞こえるか聞こえないか小さな音量だったけど、「頑張れよ!」と言われたような気がした。
教官が去っていくのを見送ると、沙也加――サーヤがやってくる。
俺が「どうだった」と聞くと、決まって「まあまあ」と答える。
慣れ親しんだその言葉は、あの日以来の最大級の賛辞のような気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ウールとモールに謝罪したら、何故かバシバシと肩を叩かれてしまった。
どうしても車椅子だと、みんなを見上げるポジションになる。
その位置関係は自然と不安になってしまうものだけど、どうやら最後の攻撃が凄かったと俺を褒めてくれているようだ。
背後のサーヤは、どんな顔をしているのだろう? 先生は笑顔だし、美人秘書風のグレイスは落ち着くのを待ってくれているようだ。
「皆さん。教官は明日と言っていましたが、近日中に冒険者ギルドにいらしてください」
「フェザーくん、騙し討ちっぽくなってごめんね」
「いいえ。教官は本気で相手してくれましたし、ウールとモールも……」
「はぁ……。ここが一番楽だなんて、絶対嘘だと思った」
「なぁ、モール。普通、武器の扱い方を教えてくれるだけなんだよ」
「えっ? 本当に?」
「あぁ、本当はそうなんだけど……。グレイスさん。教官には、私が苦情を言ってたって伝えて貰えますか?」
先生はどこまで関わっていたのか、本当の所は分からない。
それでもどこか共犯めいた笑顔に、絶対このことは知っていたなと確信している俺がいた。
もう日も暮れかかっている。この後、救護院で色々話があるらしく、ウール達とは分かれることにした。
サーヤが車椅子を押してくれて、その優しさに俺は素直に甘えてみる。
「なんか、あの時と逆だね!」
「あの時って何時だよ……」
幼馴染として共に過ごした時間が長い分、良くも悪くも筒抜けな関係だった。
先生が話を広げようとするけど、そうなるとお互い爆弾を抱えた身だ。
結局この世界の事と、サーヤが救護院で何をしていたのか聞くことにした。
そして先生から習った設定を聞き、救護院でシスターマリアに挨拶をして、右側の病棟を借りることが出来た。
「さてと。頑張ったご褒美に、マッサージをして終わろうか?」
「おい、サーヤ。何でお前まで……」
「ふふふ、おばさまにくれぐれも宜しくって言われてるの」
「だからって、あぁぁぁぁぁぁ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
現実世界に戻った俺は、電動ベッドを起こし隣の沙也加を見る。
まさか、あの沙也加があんな大胆な……。
すかさずノックがあり、返事をすると楠先生と佐久間がやってきた。
隣の沙也加は、寝ぼけ気味にぼーっとこちらを見てる。
「どうだった? SDOは」
「……とにかく凄かったです!」
「それは良かった。楠が随分無茶ぶりしたようだけど?」
「やっぱり、そうでしたか」
「あー、いやー、そのー」
どうやら佐久間にも、ゲームの様子が知られているようだった。
あちらの世界でマッサージを受けたけど、こちらの世界でもやるようだ。
なるべく現実とVRでの齟齬がないように、同期をかけるとか言っていたけど、詳しくは良く分からなかった。
さっきサーヤは脚の屈伸をしてくれる先生のサポートで、俺の上側から両肩を押さえていた。
何でこんな所まで再現するんだという、サーヤの作り込まれた胸部と、見つめ合う視線にギブアップし現実世界に戻ったはずだ。
今の沙也加は大丈夫だ。見つめ合うのも、目を瞑れば良いという根本的な解決法にすぐに至ったからだ。
「あー、そのままで良いから聞いてくれないかな?」
佐久間は『専用アカウントを取って、ブログを書いてくれないか?』と言ってきた。
もちろんキャラクターネームで、公開範囲は社内限定にするようだ。
そこには掲示板も置くようで、そちらは外部テスターも書き込めるようにするらしい。
俺と沙也加にはお給料も発生するので、守秘義務についても相談が必要だった。
未成年を雇うので、一度家族にも相談したいらしい。
この件については、あっさりするくらい順調に話が進んだ。
学校には就職に向けた研修ということで、ある程度融通をつけてもらえることになった。
こうして俺のリハビリ生活が始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
VR生活二日目は、救護院から始まった。
うちの母親が車で送ってくれて、後で沙也加が合流してくるらしい。
俺達の条件は同じようでいて微妙に違う。
何より、一足早く社会人になってしまうので、沙也加にはきちんとした学生生活を送って欲しかった。
渋々承諾する沙也加とは反対に、うちの母親はかなりの乗り気だった。
説明したその日に情報を集めまくり、楠先生の噂にまでたどり着いたらしい。
全面的な信頼の上で、アルバイトとはいえ就職を見据えた仕事に、佐久間ともかなり話をしたようだ。
「へぇぇ、良いお母さんじゃない」
「それにしても、レイカさん。受付にいたと思ったら、もうこっちですか?」
「あっちの仕事は少ないからね。こちらはマリアさまの手伝い以外は趣味に……。ほーら、そこ遊ばない!」
周りには小さな子供達が駆け回っている。
どうやら俺の車椅子が珍しいようで、器用にレイカの後を走る姿を見て、テンションがあがっているようだ。
病院の受付嬢をしているレイカは、この世界では『調香師』をしているらしい。
ハーブの栽培・調合に調香、またそれらを使った料理やお菓子作りをしているようだ。
先生がいない間は、レイカが助言者としてサポートをしてくれるらしい。
冒険者ギルドへはサーヤも一緒に行くようで、勝手に行ってはダメと念を押されてしまった。
俺の周りには、心配性の人が多い。
ここからも書けるブログに最初の挨拶を書き、俺はサーヤを待ちながらゆったりとした時間を過ごす。
この世界が俺にとって、新しい人生の一ページになれるように、精一杯生きて行こうと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【フェザーのVRMMO体験記】
みなさん初めまして。
VRMMO初心者のフェザーです。
訳あって色々とありましたが……。
そうだ、覚えた(解放した?)スキルを残しておきます。
解放スキル
【騎乗】【突進】【悪路走行】【空中機動】【曲乗り】
【剣技】【棒技】【槍技】【斧技】【受身】
【根性】
【観察】
【腕力強化】
【棒高跳び】
習得スキル
【受身】【騎乗】【根性】
チェインポイント:9P
宜しくお願いします。




