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FLY HIGH アゲイン! ~VRMMO車椅子ランデヴー~  作者: 織田 涼一
1章 翼の折れた主人公(本編はここから)
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008 合否判定

 高速で暴走する車椅子は、教官を含め全員が認識していた。

 教官を中心に、これだけ存在感を示していたんだから当然だった。


「モール。後、ひと踏ん張りだ」

「分かった、ウール」


 車椅子に俺の意思を伝えた最後の周回は、大きな楕円を描きながら教官を真正面から捉えるものだった。

 ウールの指示により、モールが正面のルートを確保してくれる。

 そしてモールの盾が教官の短杖めがけて強打バッシュした瞬間、トップスピードに乗った車椅子でチャージを仕掛ける。

 ウールが至近距離から投擲をすると、教官は回避をしながらあっさりと短杖を手放した。


「最後の一人は、合格出来るか?」

「「えっ……?」」


 教官はまるで、『真正面から掛かって来い』と言っているように感じていた。

 だけどその予備動作は、片足で大きく地面を踏み込むものだった。

 あの時、教官を避けて脱輪しかけたのは、土の魔法だったに違いない。

 そして杖なんかなくても、教官が魔法を使えるのは想定の範囲内だった。


「はぁ……、大人気ない」

「フェザーくんには、厳しいくらいが丁度良いんですよ」


 暴走する車椅子に気持ちを乗せる為、口元を巻かれているにも拘わらず前のめりに木槍を構える。

 このままではさっきと一緒だ。そして、これは最後の攻撃になる。

 誰かが割って入って、『試合終了』と言ったら俺の冒険が終わってしまう。

 これは最後の攻撃であり、俺にとってはある意味『ブザービート』だった。


 声にならない言葉を叫びながら、右手をしっかり握り左手は軽く添えるだけにする。

 この場でフリーなのは俺だけだ。それも、一瞬でしかない。

 地面に変化が起きる前に、俺は木槍の持ち手を変えた。

 目指すは教官が地面に引いた、魔法によるライン。そこを目掛けて木槍を差し込む。


 《スキル【棒高跳び】を解放しました》


「何っ……!」

「フッゴォォ」


 トップスピードの車椅子が、まるでつんのめる・・・・・ようにエネルギーを木槍に注ぎ込む。

 普通なら曲がるはずもない木槍が、まるでその意思を全うするかのようにたわみ、車椅子ごと宙で回転する。

 棒高跳びなんて初めてなので、木槍を離すのも忘れてしまった。

 ……そもそも棒高跳びをする競技ではないので、その回転の勢いのままに教官に向かって振り下ろしていた。


 《スキル【空中機動】を解放しました》


 その威力は、俺の思うようなものではなかった。

 まるで正しい軌道を通り、『藁を日本刀で潰すことなく切断する』という、そんなイメージさえ感じることが出来た。

 それなのに、教官はあらがった。両手をクロスして受け止める姿は、どこの英雄かと思ってしまう程だった。

 拮抗した力場は、着地と共に離してしまった木槍がカランと落ちた事で終わった。

 そして教官は、無傷のまま片膝をついた。


「勝者不在により、ドロー!」

「まあ仕方ないか……」


「えっ? どうなった?」

「これって、どうなるんだ?」

「今のは、入ったのか?」


「……フッ、貴様らは合格だ。だが、その権利を得たに過ぎない。明日グレイスより依頼を受け、その達成をもって合格とする。返事は?」

「「「イエッサー!」」」


 最後まで厳しい指導だったけど、終わった後に肩をトントンと叩いて小さな言葉を掛けてくれた。

 それは聞こえるか聞こえないか小さな音量だったけど、「頑張れよ!」と言われたような気がした。

 教官が去っていくのを見送ると、沙也加――サーヤがやってくる。

 俺が「どうだった」と聞くと、決まって「まあまあ」と答える。

 慣れ親しんだその言葉は、あの日以来の最大級の賛辞のような気がした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ウールとモールに謝罪したら、何故かバシバシと肩を叩かれてしまった。

 どうしても車椅子だと、みんなを見上げるポジションになる。

 その位置関係は自然と不安になってしまうものだけど、どうやら最後の攻撃が凄かったと俺を褒めてくれているようだ。

 背後のサーヤは、どんな顔をしているのだろう? 先生は笑顔だし、美人秘書風のグレイスは落ち着くのを待ってくれているようだ。


「皆さん。教官は明日と言っていましたが、近日中に冒険者ギルドにいらしてください」

「フェザーくん、騙し討ちっぽくなってごめんね」

「いいえ。教官は本気で相手してくれましたし、ウールとモールも……」


「はぁ……。ここが一番楽だなんて、絶対嘘だと思った」

「なぁ、モール。普通、武器の扱い方を教えてくれるだけなんだよ」

「えっ? 本当に?」

「あぁ、本当はそうなんだけど……。グレイスさん。教官には、私が苦情を言ってたって伝えて貰えますか?」


 先生はどこまで関わっていたのか、本当の所は分からない。

 それでもどこか共犯めいた笑顔に、絶対このことは知っていたなと確信している俺がいた。

 もう日も暮れかかっている。この後、救護院で色々話があるらしく、ウール達とは分かれることにした。

 サーヤが車椅子を押してくれて、その優しさに俺は素直に甘えてみる。


「なんか、あの時と逆だね!」

「あの時って何時だよ……」


 幼馴染として共に過ごした時間が長い分、良くも悪くも筒抜けな関係だった。

 先生が話を広げようとするけど、そうなるとお互い爆弾を抱えた身だ。

 結局この世界の事と、サーヤが救護院で何をしていたのか聞くことにした。

 そして先生から習った設定コンフィグを聞き、救護院でシスターマリアに挨拶をして、右側の病棟を借りることが出来た。


「さてと。頑張ったご褒美に、マッサージをして終わろうか?」

「おい、サーヤ。何でお前まで……」

「ふふふ、おばさまにくれぐれも宜しくって言われてるの」

「だからって、あぁぁぁぁぁぁ」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 現実世界に戻った俺は、電動ベッドを起こし隣の沙也加を見る。

 まさか、あの沙也加があんな大胆な……。

 すかさずノックがあり、返事をすると楠先生と佐久間がやってきた。

 隣の沙也加は、寝ぼけ気味にぼーっとこちらを見てる。


「どうだった? SDOすどーは」

「……とにかく凄かったです!」

「それは良かった。楠が随分無茶ぶりしたようだけど?」

「やっぱり、そうでしたか」

「あー、いやー、そのー」


 どうやら佐久間にも、ゲームの様子が知られているようだった。

 あちらの世界でマッサージを受けたけど、こちらの世界でもやるようだ。

 なるべく現実とVRでの齟齬がないように、同期をかけるとか言っていたけど、詳しくは良く分からなかった。

 さっきサーヤは脚の屈伸をしてくれる先生のサポートで、俺の上側から両肩を押さえていた。


 何でこんな所まで再現するんだという、サーヤの作り込まれた胸部と、見つめ合う視線にギブアップし現実世界に戻ったはずだ。

 今の沙也加は大丈夫だ。見つめ合うのも、目を瞑れば良いという根本的な解決法にすぐに至ったからだ。


「あー、そのままで良いから聞いてくれないかな?」


 佐久間は『専用アカウントを取って、ブログを書いてくれないか?』と言ってきた。

 もちろんキャラクターネームで、公開範囲は社内限定にするようだ。

 そこには掲示板も置くようで、そちらは外部テスターも書き込めるようにするらしい。

 俺と沙也加にはお給料も発生するので、守秘義務についても相談が必要だった。


 未成年を雇うので、一度家族にも相談したいらしい。

 この件については、あっさりするくらい順調に話が進んだ。

 学校には就職に向けた研修ということで、ある程度融通をつけてもらえることになった。

 こうして俺のリハビリ生活が始まった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 VR生活二日目は、救護院から始まった。

 うちの母親が車で送ってくれて、後で沙也加が合流してくるらしい。

 俺達の条件は同じようでいて微妙に違う。

 何より、一足早く社会人になってしまうので、沙也加にはきちんとした学生生活を送って欲しかった。


 渋々承諾する沙也加とは反対に、うちの母親はかなりの乗り気だった。

 説明したその日に情報を集めまくり、楠先生の噂にまでたどり着いたらしい。

 全面的な信頼の上で、アルバイトとはいえ就職を見据えた仕事に、佐久間ともかなり話をしたようだ。


「へぇぇ、良いお母さんじゃない」

「それにしても、レイカさん。受付にいたと思ったら、もうこっちですか?」

「あっちの仕事は少ないからね。こちらはマリアさまの手伝い以外は趣味に……。ほーら、そこ遊ばない!」


 周りには小さな子供達が駆け回っている。

 どうやら俺の車椅子が珍しいようで、器用にレイカの後を走る姿を見て、テンションがあがっているようだ。

 病院の受付嬢をしているレイカは、この世界では『調香師』をしているらしい。

 ハーブの栽培・調合に調香、またそれらを使った料理やお菓子作りをしているようだ。


 先生がいない間は、レイカが助言者メンターとしてサポートをしてくれるらしい。

 冒険者ギルドへはサーヤも一緒に行くようで、勝手に行ってはダメと念を押されてしまった。

 俺の周りには、心配性の人が多い。


 ここからも書けるブログに最初の挨拶を書き、俺はサーヤを待ちながらゆったりとした時間を過ごす。

 この世界が俺にとって、新しい人生の一ページになれるように、精一杯生きて行こうと思う。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【フェザーのVRMMO体験記】


 みなさん初めまして。

 VRMMO初心者のフェザーです。

 訳あって色々とありましたが……。


 そうだ、覚えた(解放した?)スキルを残しておきます。


 解放スキル

【騎乗】【突進】【悪路走行】【空中機動】【曲乗り】

【剣技】【棒技】【槍技】【斧技】【受身】

【根性】

【観察】

【腕力強化】

【棒高跳び】


 習得スキル

【受身】【騎乗】【根性】


 チェインポイント:9P


 宜しくお願いします。

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