102 サーヤの最後の気持ち【動き出す運命の輪】
GMから全プレイヤーに通達があった『テストプレイの終了』は、俊ちゃんにとって大きな事件だった。
このゲームと楠先生のおかげで、俊ちゃんの脚はかなり良くなっている。
このまま続けば更に良くなる可能性もあったけど、あくまでゲームを通した治験として契約したので仕方がないと思う。
あの時の事件は脚への接触もあったけど、後ろから引っ張られた事で頭部を強打していた。
体のメカニズムというのは不思議なもので、、最終的には心の問題が大きいのではないかと結論が出ている。
それを俊ちゃんに知らせないままキッカケ作りが出来たなら、日常生活は問題なく過ごせるだろうという判断だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「サーヤさん、聞いていますか?」
「うんうん、分かったよ。でも、もうテストプレイも終わっちゃうし」
「今後も、このゲームに関わるんですよね?」
私は今、大きな神社の裏道で、アカネちゃんからお説教を受けている。
それは何度失敗しても直さず、動画や掲示板から俊ちゃん――フェザーの素性がバレてしまいそうな現状についてだ。
温泉街に至る裏道なので、時々通る観光客は何事かと見ながら通り過ぎている。
確かに全面的に私が悪いよ。
でもね、『楽し過ぎる今が止まってしまえば良いのに』という想いと、あの事件を早く忘れたいという気持ちがあったんだ。
みんなで騒げる時間は後少し、それも運営側が終了の合図を出したならすぐに終わってしまう。
だから早くウノさんを救い出して、まずは温泉を堪能しないといけない。
最悪ウノさんが目覚めたなら、それで戻ってこれる可能性もある。
意識さえしっかりしていれば、ヤレる手段はいくらでもあるのだ。
第一、長時間ログアウトも出来ない拘束をするのは、ゲームとして問題があると思う。
「ウノさんの所まで連れてってくれ」
「えっ?」
「アカネちゃん? 何を見て……」
私は恐る恐る振り返る。
もうこれ以上、俊ちゃんに不幸は似合わない。
あの事件だって、何もしなければ示談の署名をして終わりだ。
ゲームが終わるのは残念だけど、私たちは社会人として新しい活躍が待っている。
それなのに……。
「×××ちゃん! ×××ちゃん!」
「……サーヤさん。助けに行きましょう」
そこには一台の車椅子が佇んでいる。
まるで主人の帰りを待つように、凛とした姿がそこにあった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうしよう、サーヤさん」
「フェザーお兄ちゃんまで、いなくなっちゃった……」
「二人は、その時の様子を見てたんだよね?」
「はい。私たちが調べても、全然反応しなかったのに……」
ウノさんに続いて、俊ちゃんまで行方不明になってしまった。
一瞬我を忘れてしまったけど、こんな時程私がしっかりしないといけない。
「アカネちゃん、ゼロに周りを警戒させて」
「はい、サーヤさん」
「コジカちゃんとクスクスくんは、フェザーがどの辺りを触ってたか教えて?」
「うん、ぼくみてたよ」
落ち着け、きっと俊ちゃんは大丈夫。
落ち着け、落ち着け、落ち着け、ピーピーピー……。
何でこのタイミングでアラームが鳴るのかな?
リアルの体に何か起きた時の信号とは違い、この音は登録した緊急連絡先からのものだ。
「どうしました?」
「うん、緊急連絡先からの警報かな?」
「それは急いだほうが……」
「あっ、メールが届いてるみたい」
届いたメールを具現化して読んでみると、連絡してきたのはパパだった。
内容を一言で表すと、『示談の前に新しい情報が入ったので、最後に話し合う機会を設けたい』とのこと。
俊ちゃんへの連絡は私が担当なので、早い内に日程を詰めたいらしい。
相手選手にも連絡がつかないようで困っているようだった。
じゃあ、誰が連絡してきたんだろう?
あちらはやる気がない担任と形だけ謝罪した選手、後は舌打ちが煩い付き添いだけだった筈だ。
第一俊ちゃんに怪我させておいて、新たな事実なんて必要なのかな?
関係者が全員集まって謝ったって、私の心は晴れやしない――私の気持ちは関係ないけど。
「今はフェザーを……」
「キャンキャン!」
「アカネちゃん、ゼロが吠えてる」
「こら、ゼロ。観光してる人に吠えちゃ……」
「ところで、何でずっとこっち見てたんですか?」
「お、おれ?」
「そう言えば怪しいかも? ゼロ、逃がしちゃダメだよ」
「ウゥゥゥゥゥ」
確かに、こんな所で騒いでいる私たちは目立つかもしれない。
それでもNPCなら決まったアルゴリズムに支配されていて、普通ならば訝しく思っていても通り過ぎる筈だ。
男性は中肉中性で、どこにでも居そうな容姿。
背中にリュックを背負っているけど、ここは登山する場所かと訊かれたら否だ。
あまりにも普通過ぎる顔に、印象が薄いと言ったら失礼になるかな?
「ほら、誰も座っていない車椅子が気になっただけで……」
「はい、ダウトです!」
「あなたプレイヤーでしょ?」
「サーヤさん、絶対関係者です」
基本的にNPCは、車椅子を車椅子と認識は出来ないようになっている。
ただ単に『負傷した人用の補助装置』とは認識出来るけど、それ以上認識しているNPCは高度なAIを搭載していた。
ましてや補助装置だけある状態から、人が乗っていないなんて認識しようがなかった。
私たちに危害を加える可能性があるとしたら……。
「善良な市民に、君たちは何をもって……」
「プレイヤー……、善良な市民……」
「ウウウゥゥゥゥ、アァン!」
「おい、飼い主。しっかり躾とけよ」
「善良・プレイヤー・危害……」
「俺はもう行くぞ、いいな?」
「良い人……、グッドマン?」
「サーヤさん?」
「アカネちゃん、確保して!」
半ばみんなで取り囲んでいるので、男性は両掌をみんなに見せながら『俺は無実だ』というアクションをしている。
でも私には分かる、この男はグッドマンだ。
以前、コジカちゃんが調べた時は全然遠くにいた筈なのに、また俊ちゃんに危害を加えに来たんだろう。
今なら分かる。『吊られた男』の加護を持つ、謎のプレイヤーの事を。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一般人ならヒト一人確保するのは簡単だ。
アカネちゃんが動けないように抑え込んだ後で、まずは怪しいリュックの中身を検める。
何故かグルグルにまとめられたロープが、グングンとズンズンとドンドンと……。
「おい、止せ。それに触るな」
「やっぱり怪しいです」
「それで、××……フェザーを何処にやったの?」
「知らねぇよ。それと俺は、この件について無関係だ」
確かに証拠を掴んだ訳でも、現行犯で捕まえた訳でもない。
前回の呪いだって、確たる証拠はなかった。
「でも貴方、フェザー先輩――狼獣人のプレイヤーに、停滞の呪いかけましたよね?」
「そうです! そっちの前科も!」
「あっ……、それは……」
「ねえ、無関係だって言うなら証明して。ううん、今の状況を打破してくれたら見逃してあげる」
「サーヤさん!」
「分かったよ。いちプレイヤーとして手伝ってやる」
グッドマンを全面的に信用する事も出来ないので、アカネちゃんからの助言で彼の両手首を後ろで縛る。
そして逃げられないように、両足首の位置でもう一回縛った。
これは相手に了承して貰ったので、抵抗なく縛り上げる事ができた。
何故か出し切れなかったロープがたくさんあったので、そちらを切って使わせてもらった。
「それで、俺は何をやれば良いんだ?」
「フェザー先輩――車椅子の狼獣人ともう一人が、石像に触ったら消えてしまったんです」
「多分、罠系のテレポーターかと……」
「……ふむ、条件つきか」
「それって、私たちじゃ条件を満たせないって事?」
「その時、体に触れてたなら何とかなったかもな」
「それで、その条件とは?」
「そんなの俺に分かるかよ。それにしても……、ん? あの車椅子微妙に振動してないか?」
グッドマンの言葉に、私は車椅子を瞬時に見る。
ちなみに周囲の警戒はアカネちゃんとゼロが担当してくれている。
「俺なんかほっといて、車椅子を調べた方が……」
「アカネちゃん、ロープの端っこをグッドマンの腰にグルグル巻きにして」
「はい、サーヤさん」
「こっちの端は車椅子のフレームにつけるね」
「出来ました! サーヤさん」
「ゼロは戻して」
「はい!」
「みんなはグッドマンに張り付いて!」
「おいおい、まさか……」
「あ、貴方は逃がしません」
「ねえ、アカネちゃん。これって、どんなゲーム?」
多分これがきっと、最後のチャンスだ。
俊ちゃんなら一人で大丈夫だと思い込んでいたあの頃。
それはきっと正解で、大きな間違いかもしれない。
だから私が助けに行くんだ。
俊ちゃんの周りには、こんなにも心配している人がいることを教える為に。
きっと一人で無茶しているだろうから、私が叱りに行ってあげる。




