101 心の審判
サーヤたちとは離れてしまったけれど、俺は無事にウノを見つける事が出来た。
学校の教室くらいの空間で、中央には剣が埋められた祭壇がある。
「まずは悪魔と手を切ってくれ(お前の本音が聴きたい)」
「なるべく頑張ってみるさ(俺の心の弱さがまた……)」
自分の発した言葉がダブって聴こえるように、ウノの言葉も重なって聴こえてくる。
同時に喋っている筈なのに、それぞれの言葉は一言一句はっきりと理解することが出来た。
多分、追い駆けてくる言葉が本音であり、発している言葉も間違いではない。
足元では赤いタイマーがカウントダウンしている。
彫像と化した悪魔が出した光だけど、遮るものがあってもなくても残り時間は減っていく。
ウノは彫像を背にしている所から、まだ護っているようにも見えた。
車椅子から見たドワーフは話しやすい位置に顔があったが、今なら体格差がきちんと分かる。
「ウォォォォォォン(それなら全力で止めるまでだ!)」
「……クッ(……全力で挑みたい)」
俺は体を支える為の斧槍を両手で持ち、腰を軽く落とし肩に担ぐように構える。
腰を落とすと言っても、試合で前後左右に動き出すポジショニングと言った方が近いかもしれない。
狼獣人として筋力は落ちてしまったが、その分素早さに特化した動きは本来のスタイルに似ていた。
対するウノはドワーフなだけあって頑丈な体だ。
前の町で習得した技術と、新たに仕入れた得物は短剣がメインだった。
もし俺がドワーフの利点を活かすなら、あの時のように肩や脚で体を削るような戦い方をするだろう。
だけど俺は一度、ウノの戦い方を見ている。
素早さと技術を活かした戦い方も、念頭に置いておかなければならない。
「行くぞウノさん(行くぞウノ)」
「あぁ、フェザー(分かった、羽鳥)」
喋っている時だけ心の声が聴こえるようだ。
俺はまずウノを縛っている悪魔を解き放つべく、前に立ち塞がる相手を制圧しようと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お互いに距離を取ったこの間合い。
悪魔の像に攻撃を仕掛けなければ、ウノは至って普通に近いと思う。
ただ『後ろを抜かれない』と発する威圧感だけは凄かった。
「まずは先手必勝!(正面から振り下ろして叩きつける)」
「負けぬ!(横をすり抜けて距離を詰める!)」
全力でダッシュして斧槍を振り下ろす。
ウノも宣言通り横に避けてから距離を詰めてくるが、機動力で言えばこちらの方が上だった。
咄嗟の動きでドタドタ感が出るのは、ドワーフの種族特性なのだろうか?
問題は気合の言葉でも、心の叫びが出てしまうことだった。
斧槍は竿状武器に分類され、扱いで言えば中距離武器だった。
剣を近接武器とするならば、短剣は超近接武器にあたる。
こちらは一撃粉砕を目的とし、場合によっては貫き通すことも出来た。
ウノは懐に飛び込み、正確に急所を攻撃する必要がある。
「どうしても声が出てしまうな(これじゃあ埒が明かない)」
「そうだな(もし普通の冒険なら、横に並びたてたのに……)」
何気ない会話をしながらも、俺たちは戦闘を止める事はしない。
そう思えるのは圧倒的な自信があるからだ。
慢心とも言えるソレは、種族特性とグーチョキパーの法則によるものが大きい。
機動力で劣るドワーフが瞬時に距離を詰め、正確に急所だけを狙う。
こちらは中距離の間合いから振り回し、相手を寄せ付けない動きをすれば良い。
ウノは何かにこだわっているのか、距離を詰めた後の動きが精彩を欠いていた。
「まだまだぁ(まずは脚から潰す)」
「すぐ負ける訳にはいかんのじゃ(なら、突きをいなして詰める)」
手数で言えばウノの方が多い。
それでも一振りで全てを無しに出来る斧槍は凄かった。
問題は漏れ出る言葉で、『この言葉をフェイントに使う』と宣言する事さえもバレてしまう。
こうなったら戦闘は脊椎反射的に行い、世間話を継続するしかない。
「あの時(あの時……)」
「あの時?(あの時?)」
俺はウノに問いかけて躊躇った。
それはまだここにいるウノと相手選手を同じに考えたくない自分がいるからだ。
だけどここは、相手の本音を訊ける最後のチャンスかもしれない。
そこで出てくるだろうショッキングな本音は、今なら素直に聴けると思う……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
戦いながらあの試合を思い出す。
それをウノに問いかけながら、二人で試合の最初から最後までの振り返りを話しだした。
ウチのチームは万能型だ。
ある一つの戦略に特化することもなく、相手チームの特色に合わせて戦術を切り替えて行く。
基本的にバスケットボールは交互に点を取るスポーツで、ミスイコール相手の点数に繋がる。
「最初は普通だったな(プレッシャーは最初からだったけどな)」
「俺たちはバスケットマンだからな(それでも、お坊ちゃん学校には負けねぇよ)」
戦い辛さは相手の上手さだ。
序盤はウチのチームがスピードを活かし攻めていたが、相手校だってそこそこのチームを倒してきている。
特に体格を活かした守りに特化していて、威圧感とボディーバランスからミスを誘うのが上手かった。
ウチのチームに慢心がなかったかと言えば否だ。それは俺にとってもそうだった。
「最初は、あのファールからだったな(あれこそ事故だ)」
「あぁ。俺たちにとってはミスでもなかった(あれは誤審だった)」
特に試合をするなら審判は神様だ。
今でこそビデオ判定など多くのスポーツで取り入れられているが、一般の試合にそんな技術は持ち入れられない。
それでも審判の位置・視点等によって起こってしまうのは仕方がない事だった。
ウチのチームにとってはラッキー、相手チームにとってはアンラッキーで済めば良かった。
段々と相手チームのイラつきが見え始め、俺をマークしていたウノの存在感が増してくる。
徐々に増える反則。それも相手チームはきちんと周りを見ていたし、示し合わせたような頷きもしていた。
スピードの優位による点数の差から、徐々に試合運びが拮抗してくる。
それでもこちらが優位だったのは、審判の心象と反則後のフリースローだった。
「あの時の目は怖かった(殺されるかと思った)」
「あんなのハッタリに決まってる(あくまで試合に勝つのが目的だからな)」
相手校は思ったよりスポーツマンだった。
俺たちは相手校を格下のヤンキーくらいに思っていた。
だから作戦を変えて、俺は中継役から3Pシューターへと転身した。
体格的に恵まれていない俺が輝けるのは、このシュートを身につけたからだ。
接触プレーを嫌った俺たちは、積極的にボールを俺に集め始めた。
徐々に俺を包囲する形になり、それを嘲笑うように周りの仲間がフリーになる。
俺たちが選手としてプレーできる時間は短い。
ましてや同じ仲間とプレーする期間は特別だった。
「正直、通過点だと思ってた(負けはないなと慢心してた)」
「俺の使命は、お前を止める事だった(絶対に負けたくない選手だった)」
あの時も格下だと思わず、正々堂々と戦えば良かった。
戦い方は間違っていなくても、心の持ち様の問題は大きかった。
この間も時間は進み、俺とウノとの戦いは継続している。
一番最初に受けた腹部の傷は深くはないけど、徐々に体力を奪われる一因にはなっている。
ウノも頑健だけど、斧槍の一撃は受けるにしてもキツイものだ。
種族差だけでなく武器の性能としても勝っているので、負ける訳がない状況はあの時と似ていた。
「そろそろ決着をつけないといけないな(あの時の事を知りたい)」
「時間が限られているのじゃな(俺はあの時……)」
赤いタイマーは、かなりの時間を消費しているみたいだ。
これだけ経過していても、周りから助けに来る様子は見えない。
祭壇に片膝をついている黒い石像が気になるけど、俺は一つ出来る事がないか検討する。
あの時、応えてくれた実績があるからだ。
「行くぞ、ウノさん(行くぞ、ウノ)」
「受けて立つ、フェザー(受けて立つ、羽鳥×××××)」
俺は最後の祈りを込めて、ウノと悪魔に対峙する。
ウノの最後の言葉を聞くまでは帰れない!
だからウノを倒して、ついでに悪魔も倒してみせる。
それがウノの呪縛を解き放つ事に繋がるのだから。




