098 不確かな力
参拝する場所の前で、俺たちは二列に並ぶ。
「ぼく、しってるよ。これ、ひっぱるんだよね!」
「これこれ待つのじゃ。こういうものには作法があっての」
ここでも色々教えてくれたのはウノだった。
遠方にいる知人に不幸があって、神頼みしか出来ない状況のようだ。
そこから色々学び、近所の神社に通っているうちに覚えたらしい。
二礼二拍手や神様の通り道など、神社には神社ならではの作法があるようだ。
「ウノさん、とどかないよぉ」
「もー、しょうがないわね。クスクスくん」
「でも、そんな姿もカワイイです」
「じゃあ、俺たちからで良いか?」
俺・ウノ・クスクスと横に並び、息を合わせて小銭を投げる。
紙幣がないこの世界では関係ないけど、『会いにきました』という合図なので小銭が良いらしい。
お金を入れたら、ドワーフのウノが小人族のクスクスを持ち上げる。
高さ的にはそれほどではないのに、赤い紐に届いたクスクスはガランガランと激しく鈴を鳴らした。
「せーの……」
三人の二礼二拍手がキレイに決まる。
俺は心の中を空っぽにしながら、改めて自分を見つめなおす。
その祈りは多分、一瞬の事だと思う。
「ぷはぁ」
祈りを捧げている筈なのに、何故かクスクスは息を止めていたみたいだ。
静かすぎる空間はクスクスにとって、謎な儀式だったのかもしれない。
一番長く祈っていたウノを見守りながら、後列にいる女性陣と場所を交代する。
「お願い事は決まった?」
「はい、サーヤさん。私は……」
「あっ、口に出したら叶わなくなるかもよ」
「わ、私も決まっています」
間を抜けた三人を微笑ましく見ていると、今度はサーヤが代表で鈴を鳴らす。
その音に癒されながら、俺達の祈りがどこに飛んでいくのか空を見上げるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まるで護衛しているように、一定の距離でアカネの周りを警戒しているゼロ。
神聖な空気に少しのまれているクスクスも、いつもと違って緊張感に溢れていた。
「じゃあ、続きは明日かな?」
「変な所で終わっちゃったけど、また明日会えるしね」
「リアルが一番です」
いつもは冒険が一区切りするまで続ける事が多い。
ただ神社は圧倒的な安全地帯であり、今は社務所前で集まっている。
明日はおみくじを引いてから、神社裏を通過して温泉街へと向かう予定だ。
御朱印帳を購入し、社務所へお願いして俺たちはログアウトした。
帰り際、クスクスがウノに向かって何かお願いしていた。
「絶対観てね」と言っていたので、多分動画関係なのだろう。
とりあえず俺たちは、明日も観光と慰安旅行になると思う。
室内にいながら旅行出来るとか、良いのか悪いのか少し微妙だと思うのは俺だけなのだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「みんな揃ってるな」
「はーい」
「××、フェザー、今日も頑張ろう!」
張り切るエルフって珍しいけど、そろそろエルフに幻想を描くのは止めた方が良いと思う。
正統派エルフが出るのは〇〇先生の作品だけだと心の中で……。
何故かサーヤから目を逸らしているように思えるんだけど、誰がとは言えないところが難しい。
アカネはおもむろにゼロを抱え、遅れたテンポでゼロの手を伸ばしオーって言っているけど……。
「クスクスよ、ハグレんようにの」
「はーい、ウノさん!」
クスクスもウノも、出会った当初から比べると大分関係が変わってきている。
最初は突っかかってきたり、変に対抗心を燃やしていたクスクスは、すっかり見た目相応だ。
逆にぶっきらぼうだったり、距離を置こうとしていたウノは、一枚壁が取れたようにも見える。
「占いは私の分野です!」
「さっすがコジカちゃん。それじゃあ、みんな順番に引いて行こうか?」
あまり固まっていると迷惑なので、女性たちがおみくじを引いている間、社務所の売店みたいなところにいた。
御朱印帳を受け取ると、お守り各種のコーナーを見る。
『家内安全』・『学業成就』・『安産祈願』・『交通安全』・『恋愛成就』、俺が必要なものは……。
「ほぉ、破魔矢に破魔弓。何故、破魔栗まであるのかの?」
「これは心に巣食う悪魔に対しての心構えですね。実際、魔を討ち払うのは難しいですが、貝のように閉じ籠り助けを求められれば助かる命もある筈と……」
「ウノさん、このカイたべるの?」
「これもお守りらしいのでの。是非、一つくだされ」
ウノにも弱さがあり、それに打ち勝つ努力をしているんだなと感じ、いくつになってもそういう気持ちは持ち続けたいと思った。
このシンミリしている空気のちょっと先で、サーヤたちは楽しそうにおみくじの開封を楽しんでいる。
「ウノさん、クスクス。俺たちも、おみくじやろうか?」
「うーん!」
「あそこまで盛り上がれはできんぞ」
「それは俺も一緒です」
俺の恋愛運には『身近な相手を大切に』と書かれていて、サーヤに取り上げられた途端熟読をされていた。
何故に俺の肩をポンポンと叩き、ウンウンと頷いているのだろうか?
みんなの報告を色々と聞き、最後にウノに聞いたら『待ち人来たる』だったようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
通常の参拝だったらこのまま階段を下っていくんだけど、この神社は脇道を通っていくと軽い散策コースがある。
庭園というかハイキングというか、少し濃い樹々の中で木製の階段で舗装された道を歩いて行く。
もちろん俺は車椅子だけど、誰より快適に移動することが出来ている。
「そういえば寺社仏閣って、意外と動物が多いですよね?」
「動物なんていた?」
「えーっと、狛犬・狐さま・八咫烏なんかもいます」
「あー、そっち?」
今回俺は最後尾を進んでいるけど、そのすぐ前は俊足のクスクスとウノのコンビだったりする。
二人とも背丈が低いので、こういうアップダウンがあるところは不利な体形かもしれない。
それでも二人が一定の速度で進めば、パーティーメンバーのペースが生まれてくる。
「眠り猫に三猿なんてのもいますね」
「あの狛犬は、実は獅子と犬なのじゃ」
みんなの会話を楽しみながら進む。
相変わらずゼロは周囲を警戒し、それをアカネに報告している。
「ねえ、見て見て」
「あっ、湯畑ですね」
「温泉饅頭とかありそうじゃの?」
「それって、もみじまんじゅうよりおいしいの?」
クスクスはもみじまんじゅうにハマったのか、基準がそれになってしまっている。
まだ温泉街まで少し歩くけど、良い散策コースになっていると思う。
湧き水っぽい場所もあれば、小さなお地蔵さまが俺たちを見守っている場所もあった。
「ウゥゥゥゥ、アンアン!(何かいるよ)」
そこは何かを踏みつぶしている、明王のような像があった。
肩幅くらいある物語風の像で、踏みつぶされているのは鬼や悪魔っぽい何かだった。
それらは全部で三匹いて、一匹は踏みつぶされながら仲間に向けて助けを求めているようにも見える。
一匹は逃げおおせた喜びを表し、真ん中のはオロオロしていた。
「ゼロ、これはただの像だから」
「ウゥゥゥゥ、キャンキャン!(なんかいや)」
膝丈しかない像に向けて、ゼロは片手を上げてタシタシしている。
明王っぽい像は三面六臂風だけど、一匹を踏みつぶして満足しているようだ。
ゼロは作り物と現実の差が分からないのだろうか?
そもそもVRMMOなので、ここ自体が作り物であり現実なんだろうけど。
「アカネちゃん、大丈夫?」
「はい、サーヤさん。何でこんな興奮してるかは分かりませんが……」
「何かメッセージがあるんでしょうか?」
「ゼロ。そこは良いの、行くよ!」
アカネの言葉に、クスクスがゼロを確保しに行く。
何となく嫌な予感はしてるが、そこに近付いたのは保護者代わりのウノだった。
「悪魔か……」
クスクスがゼロを持ち上げウノに振り向くと、ウノは端の方にいる悪魔の像に触れていた。
その瞬間ウノの胸元で闇が渦巻き、プシュンという音と共にウノは消滅した。
「ウノさん?」
「××、フェザー。……大丈夫。こういう時は、パーティーチャットで呼べば良いんだよ」
『ウノさん、大丈夫ですか?』
死に戻るのは一瞬だ。だからこそ嫌な予感がする。
これはVRMMOで感じた、最大級の不発弾のような気がしていた。




