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097 女帝と豊穣

 洋風ファンタジーには相応しくない大鳥居。

 そこを馬車で越えると、ゆっくり速度が落ちていく。


「ん-! ついたー!」

「サーヤ、さっさと場所を空けてくれ」


 馬車を降りて周りを見渡すと、仲見世なかみせがずらっと並んでいた。

 その店の先にあるのは、見上げる程の広い階段と大社おおやしろ

 最近クスクスを走り回らせない役割はウノが担っていて、孫とお爺ちゃんの雰囲気が更に増してきた。

 アカネも早速ゼロを呼び出して、迷子にならないよう注意をしている。


「やっぱり、温泉って年齢じゃないよな?」

「もー××、フェザー。何回も話したじゃない」

「プッ……」


 何故かクスクスが吹きだした?

 他のメンバーに変化はないので、多分気のせいだろう。


「そうですよフェザー先輩。それに、これは治療なんです」

「牧場主さんも言っていました。かなり効くらしいですよ」

「そうじゃ。たまには風呂を堪能するのも悪くない」


 VRMMOでも牧場体験が出来ている。

 それなら温泉に入って、効能を確かめるのも悪くないのかもしれない。

 どこで何が起きて何がどうなるかは、まるで分からない。

 だからこそ俺達は思うがままに行動している。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 クスクスを肩車したウノが、上からの指示でキョロキョロしている。

 小さなゼロが先行し、その都度何があったか報告にアカネの元へ戻る。

 そんなアカネの横にいるのはコジカで、楽しそうな女子トークに花が咲いていた。

 俺は隣にいるサーヤに『交ざらなくて良いのか?』と訊きそうになって止める。


「もみじまんじゅう?」

「あぁ、そうじゃ。紅葉の名所の銘菓らしいの」

「それって、おいしいの?」

「それはどうかのぉ?」


 二人の会話にほっこりする。

 クスクスは特に好き嫌いしている姿が見えないし、食事に関してはVRMMOならではの利点がある。

 いくら食べても問題はないし、食事制限があっても楽しむことが出来る。

 問題は和菓子と洋菓子を比べた時、クスクスはどちらを選択するかだ。


 順番に仲見世を覗きながら、買い食いをしながら進む。

 ここは温泉街に隣接する観光名所で、近いのでお祈りしてから温泉に入ろうと寄り道した場所だ。


「クスクスくん、さすがにそれはお行儀良くないよ」

「ウノさん、大丈夫ですか?」

「良いのじゃ良いのじゃ。ただな、クスクス。ゲームと現実はちゃんと区別せんといかん」

「うーん! ウノさん、これ美味しいよ」


 脚だけでバランスを取っているクスクスは、片手に持ったもみじ饅頭・・・・・を食べながら、逆側の手のもみじ饅頭・・・・・をウノの口元に持っていく。

 それを一口で受け取ったウノにクスクスは驚きながらも、「ねー?」と肩車の上の方で体を揺らしていた。


「きゃん、はっは(ぼくも、ぼくも)」

「はいはい、ゼロにもあげるから落ち着いて」


「アカネちゃんも、すっかりお母さんね」

「ちょっとサーヤさん。まだ特別な相手パートナーがいないのに……」

「こ、恋占いは得意ですよ!」


 この通りは一口で食べられるお土産物屋が多く、その他は布製の小物や木工細工など色々あった。

 何故か『誠』と書かれているハチマキ・半被ハッピ・木刀セットや、おかめ・ひょっとこ等の仮面。

 かろうじて版権に引っかかりそうもない、日曜朝にやっているヒーローのお面などもあった。


「これなんて懐かしいね、××……フェザー」

「あぁ、そうだな」


「ッフ、……ゲフッ」

「大丈夫アカネちゃん?」

「ごめんなさい、気管に入ったみたいです」

「なんか、忠実すぎるくらいリアルだな……」


 リアルがどれほどこの世界に影響を与えるかは分からないけど、風邪の時等にゲームをする人はきっと多い筈だ。

 今のは気管に入っただけの咳みたいだけど、もしこの世界に入った状態で意識不明になったらどうなるのだろう?


 これは後で質問すると面白い問題かもしれない。

 そんなことを考えながら、俺達はゆっくり階段上にある大社を目指すことにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 一言で言うと、『荘厳そうごん』のイメージがする大社。

 それは階段のスケールから違った。


 俺たち全員が横一列に並んでも通れる片側の更に端には、バリアフリー用の坂が用意されている。

 そこは坂なのに、何故か平地のような場所だった。


 アクロ走行を意識しないでも止まるし、手の一漕ぎで坂を上れる。

 坂の途中で反転して下を見ても、ブレーキをかけずに止まっていられるのは凄い。

 問題は角度がついた坂で止まっている違和感と、転がり落ちるんじゃないかという恐怖。

 少し試していたらサーヤに後ろを押され、すんなり上までついてしまった。


「うわぁぁぁ、おおきーい」

「神様がいそうですね」


「サーヤさん。ここに祭られているのは、この世界の神様なんですか?」

「えーっと、ちょっと待ってね」

「良いのじゃ。お祈りするという気持ちが大切じゃからな」

「さすがウノさん」


 時々特に知らなくても良い事でも、ついつい口に出てしまう事はあると思う。

 ウノさんはクスクスの手を握りながら、少し真剣そうな表情をしていた。


「看板を見たが、順路はこっちじゃ。まずは手を清めて、お祈りをしていこうかの」

「はーい」


 人が進む順路には、薄灰色の石畳が敷かれている。

 そして多分神様の通り道である大部分の場所には、真っ白い玉砂利が敷かれていた。

 こういうのを枯山水って言うのだろうか?


 所々波が表現されているかと思えば、ピンク色の花をつけた樹々と絶妙な一体感を醸し出している。

 多少季節感を先取している気もするけど、学校を卒業して四月になれば俺も社会人だ。

 浮かれていられるのは学生の内だけかもしれない。


「フェザーさん、サーヤさん早く早く」

「さきにいっちゃうよ」

「クスクスよ、こういう場所では騒いではならぬ」

「はーい」


「××……×ちゃん」

「言い直さないのかよ」

「たまには良いじゃない」

「はいはい。で、なんだ?」


 みんなと同じように進んでいた車椅子が止まる。

 俺の車椅子は浮いているので、押されている間は階段も境内けいだいも速度はサーヤ次第だ。


「何か、こういうのって良いね」

「ぷっ……、それだけかよ」

「そうだよ、悪い?」

「……いいや、悪くないよな」


 手水舎で手を清めているメンバーを見ながら、短期間のアルバイトだけど良い仲間に出会えた事を嬉しく思う。

 多分サーヤも、同じことを考えているのかもしれない。


「あー、何かイヤラシイ顔してるー」

「突然なんだよ!」

「だって、この後温泉だよ。物語なら温泉回なんだよ」

「だから、それがどうした?」

「狼さんが私を狙ってる……」


 突然身をクネクネしだすエルフ……。

 さっきのシンミリした空気を返して欲しい……。


「確かに俺は狼獣人だけどな」

「お風呂は混浴が良いの?」

「ウノさんもいるし、手すりとかある場所って聞いてるから大丈夫だ」

「私が水着でついていこうか?」


 この雰囲気……。

 揶揄からかわれているのか心配されているのか、微妙に感情をいれてくるだけあって分かりにくい。

 それより、向こうから俺達を呼ぶ声が聞こえてくる。


「俺のことはほっといて楽しんでこいよ」

「……ハァ、揶揄い甲斐がないなぁ」


 俺たちは一度宿を取ってから温泉に入る予定だ。

 ここでのお祈りが終わると、裏側から降りられる場所に湯畑があるらしい。

 無駄にはしゃぐサーヤは、精神年齢的にクスクスと同程度なのか?

 そんな事を思いながら、俺達はお祈りをする場所へ向かった。

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