アリアスは求める、魂の戦いを
彼の始まりは簡単だった。
問われたのだ。
「「更なる力、欲しくはないか?」」
それは、嘘だと疑うことを許さない絶対の声。
催眠や洗脳のようなものだったのかも知れない。結果として真実だったので男にとって何の関係もないのだが。
男は嘆いていた。今から死ぬことにたいしてではない。
男は強かった。間違いなくこの世界で彼の上に立つものはいないだろう、と言われていた。
それが不満だったのだ。男は戦いを欲していた。英雄と呼ばれ、自国を何度も勝利に導いたのは一重に魂をぶつけ合う戦いが欲しかったからだ。
だが、どれだけ戦っても、どれだけ不利な戦場を覆しても、男にとってそれは大したことではなかった。
そして、男、いや、少年が15にもなることには、平和という名の暇が訪れたのだ。
少年は戦いを欲したが、その平和を壊すほど悪人にもなれなかった。否、ただ単にこの世界が再び争いになろうと自分を満足させるように戦いがあるとは思わなかったからかもしれない。
そうして平和な日々を送っていたとき、悪魔はやってきたのだ。
それは、化け物だった。
それは、恐怖だった。
誰一人立ち向かうことすら許されなかった。
無論、その少年でさえも、少年には辛うじてその悪魔を見ることができただけだ。
それが現れたとき、それまで明るかった辺りは、黒に覆われた。
そして、次の瞬間、あたりの生きるもの全てに凄まじい圧力が加えられた。
少年以外の全ての生き物は次の瞬間、塵も残さず消えたのだ。
少年はまだそこに居こそしたが、下半身の感覚が失われた。不思議と浮遊感を感じるなか拡張した意識の中で自らの下半身を見ると、何も、残っていなかった。
「カ、カハッ」
少年は地面に倒れると、自分がもうすぐに死ぬことを悟った。
そして、思い描いたのは、恐怖でも、絶望でもなく、激しい怒りだった。
あれほどの強いものが存在するのに、なぜ自分の今までの世界には、自分以下の存在ばかりしかいなかったのか、なぜ誰も教えてくれなかったのか!
「あんな強い生き物が!あんな世界があると知っていたなら、俺はそれを目指せたのに!!!!」
故に彼は嘆くのだ。そして、生まれて初めて祈ったのだ。
もう一度時間を、強くなる時間を、機会が欲しいのだと、
「そうすれば、あの化け物と、魂を!ぶつけ合う!戦いが!できるのに!」
だから、少年アリアスは、言われるがままに欲した。
更なる力というとのを
「「では、あなたに与えましょう。更なる力を手に入れる機会を、そしてあなたがもし更なる力を手に入れることができたなら、いつか、あの化け物を、倒してください。」」
(言われるまでも、ねえ)
もう動かない口のかわりに心に誓うと、アリアスは、だんだんと意識が薄れていった。
(なんだ?ただの幻聴だったのか、結局、このまま、死ぬのか…チクショウ)
あなたがあの怪物を倒してくれる勇者になってくれよう。期待しています。
最後にそんな声が、聞こえた気がした。
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目を覚ますと、どこかのベットだった。普段アリアスが寝るような豪華なベッドではないが、幼少期をスラムで過ごしたアリアスにとっては気にもならない。
(たが俺をこんなベッドに寝かせるということは俺をここに寝かせた奴は俺のことを知らない人間なのだろう。)
ふと、周りにも自分と同じようなベッドがいくつも並んでいることに気づいた。
そして、コツコツコツ、と誰かが部屋に入ってくるのに気づいた。ドアを部屋のドアが開き入ってきた人物は女のようだが…
(あれは、修道服だろうか、だとしたらどの神に仕える神官だ?今まであんな修道服を着る宗派の神官は見たことがないな…それにしても)
女は凄まじい美人だった。英雄として数々の美女に迫られその全てを相手にしなかったアリアスだがそんな数々の美女達と比べても目の前の女の美しさは、文字通り格が違う。
女はアリアスの前に来ると、
「異星、もしくは異界からようこそアリアス
殿、ここは神達の運営する星もしくは世界、ハースト。私は天使アクリアス、この世界にやってきたものに対して基本的なら説明をすることと、司法の最高責任者として存在しております。」
アクリアスは微笑みながら、アリアスにそう告げたのだった。