1-3(旧: 009)
暫く私生活で色々あり、更新出来ていませんでした。すみません。
続きのプロットを纏めながらなので亀さん並みの更新になるかと思いますが、是非続きをお楽しみください!
【奇動車】に卵を積んだスキラとミシラバ旅団一向は、サース・フースへと向かった。
帰りの運転はギュンターがするとのことで、長椅子とテーブルがあるリビングスペースには残りのメンバーが集っていた。入口から見て奥側の長椅子にはライラとグラズが、入口側にスキラが座って三人でお茶を飲んでいた。ちなみにクロトはというと、【奇動車】に乗ってからずっと小さなカーペットの上で体を丸め休憩中の様だ。
「一時はどうなるかと思いましたが、本当に助かりました」
「こん位は軽い方だろ。もっと危ねえ依頼なんていっぱいあんぞ」
――――――そんなに危ない依頼を受けたりもするのか。僕からすればビックコッコも十分恐怖だったんだけどな。…………出来れば二度と会いたくない。いや、追いかけられたくない。ビックコッコと追いかけっこなんてするもんじゃない。あのクチバシは凶器だよ、うん。
スキラが脳内で今日のビックコッコとの追いかけっこを思い出し改めて恐怖対象として認定した所で、ライラがとんでもない一言を放った。
「そういえばスキラくんって、ビックコッコの雛に似てるよね~」
「へ!?」
「あー、確かにそのアホ毛とか、髪の色とかな」
「そうそう。あの鳥の着ぐるみも似合っていたし。卵をくれた子ね、他の雛が近付いてきたのかと思ったみたいだったよ」
「え、それって……」
――――――僕はあのビックコッコの雛鳥だと思われていたのか。いやいや、髪の色合いは確かに似ていたかも知れないけれど、それは無いでしょ。僕人間だし、相手鳥だし。僕は決して鳥じゃない、どう足掻いても人の子だ。なんで間違われたんだ。
スキラが頭を抱え悩む中、グラズがかけた慰めの言葉が更に傷口を抉る。
「いいじゃねえか。お前を追いかけてた親鳥に似てるとは言ってねえぞ。ちっこい雛鳥の方だし。まあでも、空でもねえのに慌てて飛ぼうとするアホっぽさはお前に似てたが」
「うぅ、全く慰めになってないです!!」
「こら、スキラをいじめるなっ」
ベシッと軽くライラがグラズの胸元を叩く。それにグラズは眉間に皺を寄せ、ライラの額の前に手を差し出すと指でパチッと軽く弾いた。弾かれた所を擦りながら、ライラは頬を膨らましグラズにクレームをつける。
「痛っ、何するのさ~」
「コイツの味方すんじゃねえよ。お前も思ってただろ」
「うーん。まあ、確かに?」
「ライラまで……」
まあまあと言って慰めてくるライラは苦笑いを浮かべている。
きっとギュンターがこの場に居ても同意されそうな雰囲気に、スキラは悲しい気持ちになる。そんなに似ていただろうか、でも同類にはされたくないというのが本音である。このままではずっとビックコッコの雛とスキラの共通点についてという話題が続きそうだった為、どうにか話題をを替えようとスキラが話しかけようとした時、ライラが大きな欠伸を一つした。
「ふわぁ~。んー……」
「眠たいの? 大丈夫?」
「はしゃぎ過ぎだ、少しは大人しくしてろ。部屋で寝て来い」
「えー、別に大丈夫だよ」
「良いから一旦寝ろ。今日ずっと休んでねえだろうが」
「そうだけどさー」
そう言ってグラズは立ち上がり、隣に座っていたライラの腕を引き立ち上がらせる。それに対してライラは文句を言いながらもグラズの顔を見て無駄だと察し、諦めて大人しく身を任せた立ち上がる。グラズは「寝室に置いて来る」と言い、そのままライラを連れてドアの向こうへと消えていった。取り残されたスキラは手持無沙汰になり、自分のカップを見つめながら物思いにふける。
「……この依頼が終わっちゃったら、これで僕の旅も終わりかぁ。なんかあっという間だな」
この依頼が完了すれば、自然とミシラバ旅団との旅も終わる。
それはスキラの初めての旅の終わりの合図でもある。旅が終われば屋敷に戻り、屋敷に戻れば今までの生活に戻るだけ。平凡で日々同じこと同じことを繰り返す下働きの生活に戻るということだ。今までの生活に戻ることは決まっていたことであり、むしろこの三日間のみ別の生活を体験出来ただけのこと。
だが、この二日で彼らと別れたくない、まだまだ一緒に旅を続けたいという気持ちが高まっていた。
「はぁ…………まだ一緒に旅してたいや」
「…………好きにすればいいんじゃないかな」
「出来たらそうしているよ。って、へっ!?」
――――――グラズさんとライラが寝室に居る今、運転席に居るギュンターさんを除きこの部屋には誰も居ない筈である。正確にはクロトはいるがクロトは大きな犬だ。人の言葉を話す筈がない。
キョロキョロと周りを見渡し確認するも、やはりこの部屋にはクロトとスキラの他には誰も居ない。幻聴が聞こえてしまう位疲れていたのかなと自分の疲労度を考えながら、落ち着く為に一口お茶を飲む。ほら落ち着いたら聞こえない聞こえない、そう思っているとどこからかまた不思議な声が聞こえ、スキラはこれは心の声なのではと思いカップの中のお茶に映る自分を見つめる。
「全部君が選び、歩む道だよ」
「全部僕の道、かぁ。どうしたいんだろう、僕」
――――――なんで幻聴の言うことを素直に聞いてしまっているのだろうか。僕もライラと同じで疲れているのかな。うーん、幻聴って心の声のことなのかもな。
スキラが心の声(?)と対話を終える頃、グラズはライラを寝室のベッドに寝かせ戻って来た。グラズは最後の一言だけ聞こえた様で、「謎な独り言言って、頭大丈夫か?」とでも言いたげな視線が、スキラのデリケートな心に刺さり、そのいたたまれなさから逃げる様に顔を横に向け視線を逸らす。
「…………お前も寝たらどうだ」
「うぅ、そんな目で見ないで下さい。でもお言葉に甘えて少し寝ます……」
グラズは先程まで自分が座っていた長椅子の座面部分を取り外し、その中から毛布を取り出しスキラに手渡す。感謝の言葉を伝えスキラは毛布を羽織り、テーブルの上に腕を枕になる様に組み少し眠った。
ビックコッコと追いかけっこをしたり、朝から散歩や荷造りと体力を使っていたスキラは横になって三秒と経たずに眠りについた。次に目を覚ました時にはサースフースまで戻って来ていた。
◇
スキラとミシラバ旅団一行が昨晩泊まった宿まで戻ってきたのは、日が暮れて暫くしてからのことだった。
そして今は宿から少し歩いていった場所で晩御飯の支度中である。何故外で晩御飯を食べることになったかというと、ライラとクロトが持ち帰ったビックコッコの卵の内一個を皆で今晩食べようとライラが言った為である。流石に宿屋のご飯でもないものを女将さんに作ってくれとは言えず、折角ならと景色の良い朝散歩で来たサース・フースが一望できる小さな丘で食べることになった。とはいえ今やっていることは晩御飯の為の調理準備、食材調達と枝集めだ。
時間が遅いのもあり効率的に準備をする為に各々作業を分担した。スキラはギュンターと共に火起こし用の枝を集めたり、近くの石で簡易の焚き火兼調理が出来るかまどを作ることになった。その間にグラズとライラとクロトが町で食糧を調達してくる手筈だ。
スキラはギュンターの指示に従い大きめな石を近くで探し、薪を弧を描く様に凹凸に合わせ積み重ねていく。普段ならお屋敷には立派な大きなレンガで造られた窯がある為、簡易とはいえ一から造るのはスキラには初めての体験だった。夢中になって積み重ねているとあっという間に凸凹だが綺麗な半円型の石のかまどが完成した。
「こんな感じで大丈夫ですか?」
「ほっほっほ。完璧ですぞ」
その後は二人と一匹が戻ってくるまで、スキラとギュンターは燃やす為の枝や木を集めた。集めた太めの枝と【奇動車】に積んであった薪を順々に組み、手慣れた動きで素早く火をつけた際には、ギュンターのあまりの手際の良さにスキラは感動を覚えた。毎日苦労して火起こしをしていた不器用なシェフを思い出すと、是非この技術を教えたい程であった。
火を起こしギュンターと共に【奇動車】からフライパンや金網を持って来た所で、ライラ達が沢山の食材を持って帰ってきた。ライラは小走りでギュンターとスキラに近寄ると、両手で抱えていた紙袋の中身を見せる。そこには野菜や肉、パンに果物と溢れんばかりの食材が溢れる程詰まっていた。グラズが抱えている紙袋には酒瓶やミルク瓶といった飲み物が入っていた。
「たっだいま~。みてみて、いっぱい貰ってきたよ~」
「これはこれは、美味しそうな野菜や肉ですなぁ」
「うわぁ、チーズやパンもありますね」
「こっちには酒やミルクもあるぞ」
「ほっほっほ、これは御馳走を作らねばですな」
そう言ってギュンターはライラの抱える紙袋をひょいと手に取るとグラズと料理の相談をし始めた。手持無沙汰になったスキラが何か手伝えることはないかときょろきょろと辺りを見渡していると、小さな手が袖をひっぱってきたことに気付く。袖の方を見るとライラがこちらを見上げていた。
「私たちはここからは食べる係でいいと思うよ」
「え、でも流石に手伝いとか……」
「あの二人の料理合戦に参戦したら大変だから観客で良いと思う。二人とも張り切ってるし」
「料理合戦?」
ふと話題の二人の方を見ると既にその対決が始まっているらしく、ギュンターは先程作った石のかまどに金網を設置しその上にフライパンを置き調理を始めているのが窺えた。グラズの姿は既にスキラ達からは見えなくなっていたが【奇動車】の窓から香ばしい香りと共に煙が漏れ出していた。
ライラは説明しながら自分達の座る場所に敷物を敷き座り、手招きで隣に座ることを促され遠慮がちにスキラは座る。こっそりとライラを挟む形で反対側にはクロトも敷物の上に座り、尻尾をゆっくりと振りながら料理を待ちわびている様である。
「いっつもこういう面白そうな食材の時は当番とか関係なく、二人で勝手に作り出しちゃうんだよね~。まあ私的には美味しいから何でも良いんだけど。さ、スキラもここにおいでよ」
「あ、うん。確かに美味しそうな匂いがするね」
ギュンターは木のまな板の上で先程ライラ達が貰ってきたパンや色とりどりの野菜を丁寧かつ食べやすいサイズにカットし、大きな白身魚や肉もあっという間に捌いて下準備をしていく。野菜と白身魚を底の平らの部分が多い大きな両手持ちのフライパンで炒める。炒める途中でトマトや香辛料で出来た赤いソースを入れ、塩コショウを適度にし具材を混ぜながら炒める。炒め終わるとまた別の深めの鍋の様なフライパンを取り出し、今日採ったビックコッコの卵が溶いた状態で半分程入ったボールから更に半分程フライパンに注ぎ、半熟状態まで火が通ると先程炒めた具材をそこに乗せ、円形に焼かれた卵を半分に折り畳み具材を包む。丁度良い焼き加減の半月形の大きなオムレツが出来上がった。
オムレツを皿へ盛り付けるとオムレツを作ったフライパンで卵を半熟のそぼろ状態に炒め、出来上がったものを一度他の皿へと移す。空いたフライパンに先程切った置いた肉を入れ焼き目がいい感じに付いた頃に、四角く一口大に切っておいたパンを隙間を縫う様に置いていく。その上から先程のそぼろ状の卵を振りかける様に乗せ塩コショウをし、更に上から薄くスライスしたチーズを蓋をするように乗せ再加熱する。チーズがとけたら完成のフライパン一品料理である。
ギュンターが最後の一品を作り終えた頃、グラズの方も料理が完成したらしく石のかまどの近くの大きな平らの石の上にフライパンを置く。そのフライパンにはクリームソースで和えられただろう具沢山のパスタが沢山入っていた。
グラズはもう一度【奇動車】に戻り、今度は串に刺さった肉や野菜が乗ったトレイと新たに敷物を持って来る。敷物をギュンターに手渡すと、火の管理がしやすい位置に敷物をさっと敷き座れる場所を作り始めた。二人は砂埃が立たないようにそっと敷物に座り、金網の上で手早く焼いていく。スキラの気付かぬ内にライラが【奇動車】から取って来た食器に、グラズ達はパスタや串焼きを盛り付けて手渡していく。その間にライラもギュンターの作った料理を取り分けていた様で、スキラの前に差し出した。
「ほら、食えよ」
「このパンのやつ、美味しいんだよ~」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、食べる前に……」
ライラの掛け声に合わせ、その場の全員が手を胸の前で合わせる。
「「「「いただきます」」」」
スキラは渡された料理を冷めない内に美味しく頂いていく。
クリームソースの絡まったグラズお手製のパスタはクリーミーで濃厚ながらも、辛みのあるスパイスが少しだが振りかけられていて、その少しの辛さが食欲をそそる味であった。串焼きは素材の美味しさがギュンター作のフライパンで作られた一品料理も味わいながら食べる。とろーりととろけるチーズにそぼろ上の卵が、パンとお肉に絡み合い食べ応えのある一品でとても美味しい。オムレツもトマト味の具材がふわふわの卵に凄くマッチしていた。
「ふぁ、美味しいです。なんですかこれ」
「ほっほっほ、これは北東の街の料理ですぞ」
「ここらじゃ見かけねえか」
「このパスタも、串焼きも、パンのやつも、オムレツも全部美味しいです!!」
スキラはあまりの美味しさに夢中で口に料理を運んでいた。横に居るライラと共に次々に口の中に詰め込む。勿論しっかり噛み締め、味わって、だ。
目の前で野菜や肉の串を焼きながら敷物に座るグラズとギュンターの年長組は、酒を飲みながら各々の作った料理をつまみにして食べ進めている。クロトもライラから取り分けられた料理を食べているが、犬なのに人間と同じものを食べて大丈夫なのだろうかとスキラは疑問に思ったが、一緒にずっと旅をしているライラが取り分けたのだし大丈夫なのだろうと考えることを放棄する。
ご馳走でお腹を満たしサースの丘産のミルクを飲みながらふうと一つ息を吐き、スキラはこの幸せの時間を噛み締める。
「ふぅ……幸せだなぁ」
「だねぇ、料理は美味しいし。それに……ほら、上見てみてよ」
「上?」
スキラは言葉の意味が分からないまま上を見上げると、そこには満天の星が広がっていた。
周りに灯りが無いのに夜の割に明るいとは思っていたが、まさか星の明かりだったとは思わずスキラは驚く。暗闇の中キラキラと輝き光る星々は言葉に表せない位儚くて綺麗で、まるで空一面に宝石でも散りばめた様な輝きが広がっていた。
その光景を目にしたスキラの心臓は高揚感で高鳴った。夜空というものは勿論見た事がある。なのに今まで見た事がない様な、レプリスの街の中で見るものとはまるで別物の様な星空に自然と見惚れてしまう。
「綺麗だ。いや、そんな言葉じゃ足りない位、星が輝いてて、とっても綺麗だっ」
「綺麗だよね~。それを満喫しながらの美味しいご飯、最高だよ」
「ほっほっほ、今日は良い夜空ですのぉ」
「こーいう夜の酒はうめぇな」
この場にいる全員が夜空を眺め、この一刻を堪能し満喫する。
夜空を見ながらの楽しい晩餐は暫く続いた。最後にはグラズが事前に作っていたデザートのプリンという柔らかな食べ物が手渡され、そのぷるるんとした触感と甘さに感動したのも思い出である。その味はスキラの好物になった。
春から夏へと暖かくなってきているとはいえ、まだまだ夜の気温は肌寒い。
長い間外に居たのもあり徐々に体が冷えてきた頃、グラズからお開きにすると伝えられ、皆で片付けをし宿に戻り眠ることとなった。
美味しいご馳走を食べるのに夢中でサースの丘での一件を聞こうと思っていたことを忘れていたことに気付いたのは、ベッドで眠りにつく時だった。
――――――色々聞きたかったけど、ご飯が美味しかったし楽しかったし夜空が綺麗だったし、今日のところはもうそれでいいや。
※2024/07/04 表記の修正や見やすい様に改行等、行いました。