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奇石奇譚  作者: 紫藤まり
【第2話】 冒険のはじまり

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2-7(旧: 019)

続きです、どうぞ。

 スキラはマリアローズから貰った懐中時計を先程のギンジの仕立てた洋服の包みの上に乗せ、次のプレゼントを受け取れるようにする。ミシラバ旅団の名前の由来について盛り上がりが落ち着いた頃、ライラは次は自分がプレゼントを渡すと主張した。


「さてさて、次は私の番かな。スキラ、ちょっと待っててね~」


 ライラは小走りでテントへと行き、両手で大きな包装された物と小さな包装された物を二つ抱えて戻ってきた。小さな方を一度横に座るマリアに持ってもらい、ライラは大きな包装された何かをスキラへ手渡す。


「はい。私からも二つあるんだ。まずはこっちからどうぞっ」

「ありがとう、なんか大きいね。開けるね?」


 スキラは大きな巾着に入った中身をそっと取り出す。中から現れたキャメル色のショルダーバッグを両手で持ち、明らかに高そうなバッグにスキラは気後れする。


「なっ!? なんだか凄く高そうなんだけど、これっ」

「プレゼントなんだからそういうのは気にしないのっ! とりあえず肩に掛けてみてよ」

「う、うん」


 肩から斜めに掛けてみると、鞄としての重さはあるが想像より軽かった。発色の良いキャメル色が綺麗なだけではなく、蓋付きタイプで中身が濡れづらい仕組みな事や収納力も高く、丈夫そうな作りに感動する。特にこのキャメルの絶妙な色味がスキラは気に入る。


「良い色だね、このバッグ」

「革だから、使えば使うほど色が変わっていくんだよ~。沢山使ってあげてね」

「分かったよ、大切に使わせてもらうね」

「後はね、これもプレゼント。こっちも見てみて」


 次にライラから手渡されたのは手のひらに乗る位の大きさの小さな巾着に入ったプレゼントだった。巾着から取り出し、卵型のオブジェの様なお洒落な物体にスキラは首をかしげる。


「ライラ、これは?」

「これはね、【奇石ランタン】っていう物なの。【奇石】を使ったランタンで光量の調節もカバー下部の摘みで出来るし、土台を付ければ机でも使いやすいし、持ち歩きも出来るものなんだ~」


 ライラは【奇石ランタン】に【マナ】を込め、摘みを回し明かりを灯す。優しげな暖色系にふわりと光るランタンに、スキラは見惚れる。


 ――――――なんだろう。バニス家のお屋敷の灯りも【奇石】を使った照明だった筈なのに、なんでか凄くこのランタンの方が綺麗に見える気がする。ランタンの装飾のお陰かな、普段見てた照明や蝋燭の灯りとも違うものみたいだ。


「凄い……綺麗だ……」

「ふふっ、綺麗だよね。もし暗い道で一人になっても、このランタンがあれば大丈夫だよ~」

「……優しい灯りだね。装飾っていうのかな、これ。こんなお洒落なランタン初めて見たよ。ありがとう、ライラ。大切に使うね」


 ライラからのプレゼント紹介が終わり、スキラはプレゼントを一度横に置く。都度周りへ置かなければ、貰う量が多く広げるスペースが無い為だ。


 スキラがプレゼントを自分の周りに置き手が空くのを確認すると、次はギュンターが名乗りを上げ、手にしていた巾着に入ったプレゼントをスキラへ手渡した。ずっしりとした重みのある巾着の中身を確認したスキラは、一度慎重に全て取り出し膝の上に乗せる。


「では。次はこのじじいからですな。ささやかな贈り物ですが、良かったら使ってくだされ」

「こ、これは……!」

「ほっほっほ。簡単に言ってしまえば文房具セットでしょうか。細長い箱に入っているのが万年筆、インク、日記帳、黒板やチョークのセットになっておりますぞ」


 スキラの膝の上にはギュンターが紹介したアイテム達が並んでいた。その中でもスキラの目線は綺麗な青色の万年筆へと注がれた。


「凄い綺麗な万年筆ですね」

螺鈿細工(らでんざいく)と呼ばれる装飾がされているものです。マリア殿のネックレスの様に光の当たり加減や角度で色味が変わって見えるものですぞ」

「らでん??」

「螺鈿とは綺麗な貝殻や金属箔なんかを薄く切り取って、埋め込んで模様を創り出す技法にゃ。この辺りでは中々売っていないのに、ギュンター殿もお目が高いのにゃ」

「ほっほっほ。偶然寄った店の店主が螺鈿細工好きだっただけですがな。ちなみにそちらの日記帳の色は、有名なアウル ・キイスの【アルティスナイトの英雄譚】を参考に選びましたぞ」

「アウル・キイス、さん?」


 聞いたことが無い名前が会話に現れ、スキラは首を傾げる。ギュンターの会話に続けるようにマリアローズは自分の知っている情報を語る。


「あー、確か最初に出版したって噂の【アルティスナイトの英雄譚】よね。アタシもその名前くらいは知っているわ」

「スキラ殿が持っている【アルティスナイトの英雄譚】では描かれていない様な内容が、アウル殿の本では描かれているのですが、その表紙がこれに似た綺麗な空色をしているのです。それもあり、きっとスキラ殿が気に入るのではと思いましてな」


 中々にどれにしようか迷いましたと語るギュンターは少し照れくさそうで、スキラはその姿に自分の為に相当悩んで選んでくれた事が語られている様で嬉しくなった。スキラはこの日記帳にどんな事を書こうかと心の中で夢を見るのと同時に、自分が文字をあまり書けない事を思い出す。


「ありがとうございます。でもとっても綺麗な日記帳で勿体無くて使えないかも……。それに僕、あまり文字書けないんです……」

「ほっほっほ、その為の黒板ですぞ。移動中にこのじじい達と勉強をしてみませんか?」

「勉強、ですか……」


 スキラが勉強をしていたのは母親が生きていた幼少期に、教会で文字や簡単な計算を教えてもらっていた頃だけである。スキラの母が亡くなってからはバニス家での仕事に追われ、多少の複雑な計算や日常的に使う文字は使用人仲間に教えてもらってたとはいえ、しっかりと勉強をした事はここ数年殆ど無かった。


「このミシラバ旅団には博識なメンツが揃っていますからな。きっと色んな生きていく上での知識を教えてくれますぞ?」

「にゃにゃ。吾輩も教えれることは教えるのにゃ」

「はいはーい! 私も教えるよ~!」

「……まあ僕で教えれることなら教えるけど」

「アタシは勉強はパス。でもお洒落や交渉術なら教えてあげるっ」

「俺もパス。絶対俺よりも爺さんやライラ辺りの仕事だし。けどまあ、聞かれたら教えてやるよ」

「ありがとうございます。皆さん、宜しくお願いします!」


 スキラの真剣な声に団員達は笑顔で返事をする。スキラの反応に、ギュンターは付け加える様に勉強方法を提案した。


「まずは黒板で文字の勉強から始めて、日記帳に復習として書いて行けば良いと思いますぞ」

「うぅ……ちょっと練習にはこの日記帳は勿体ない気がしちゃいますね」

「ほっほっほ、日記帳は使ってこそ本来の価値が現れるものですぞ」

「まあそうなんでしょうが……なんというか貧乏性でして」


 照れくさそうに言った言葉に、その場に居た団員達は思わずクスッと笑った。本人も自覚しているが、スキラの貧乏性は旅団内でも把握され始めていた。


「なんとなくそんな気はしていたけれど、スキラ殿が本当に貧乏性なのは理解したにゃあ」

「そんなの気にしないで日記帳くらい使いなさいよ」

「……使わない方が勿体無いと思うけど」


 クロトの言葉にスキラはグサッと痛いところを突かれ、胸が少し痛む。贈り物を使わず取っておくのは確かに勿体無いとスキラも思っていたからだ。


「日記とは想いを記録し綴るもの。今の自分が思っている事の整理も出来ますし、読み返した時に振り返り、懐かしむ事も出来ます。是非、日々のミシラバ旅団での出来事やスキラ殿の想いを綴ってみてくだされ」

「そうですね。うん、ありがとうございます。いっぱい書いていきますね」


 ――――――勉強頑張ろう。貰った日記もちゃんとした字で残したいし。折角だもの、しっかり思い出を残していきたい。


 スキラは日記を丁寧に、だがしっかりと日々の出来事を書き残すことを心の中で誓った。



 ギュンターのプレゼント紹介が終了し、のそりと立ち上がりクロトは包装したプレゼントを取りにテントへと向かう。気だるげに戻ってきたクロトは大判のハンカチで包まれたプレゼントと、包装されたプレゼントの二つをスキラへ手渡す。


「……じゃあ次は僕かな。皆みたいにそんなにお洒落なものじゃないけど……これ、入団祝いのプレゼント」

「あ、うんっ」


 クロトから手渡されたプレゼントをスキラは受け取り、まずは大判のハンカチの結び目を解いていく。中から現れた長方形のブリキの缶の蓋をそっと開け、中身を確認する。


「これって……お薬箱?」

「……そう、必要かなって思って。救急セット作ってみた」

「クロトが作ってくれたの!?」

「……まあ……その缶に必要そうな包帯とか纏めただけだけれど……うん。あー、そっちの包装されたやつも開けてみて」

「あ、うん。今見るね」


 何故か顔を背けるクロトに従い、スキラはもう一つの包装された方の贈り物の中身を確認する。ラッピングを外すと中から幾何学模様の刺繍が施された、水色の水筒カバーが付いた水筒が現れた。


「こっちは水筒、だよね」

「……【奇石】を使った【万能水筒(ばんのうすいとう)】ってやつ。温かいのも冷たいのも、普通の水筒より長持ちするから使って。使う時に使い方も教えるから」

「そんな凄い水筒あるんだっ。知らなかった、ありがとうクロト」


 スキラが満面の笑みで感謝を告げると、クロトは居心地の悪そうな表情を浮かべながら『ん……』と答えるのみだった。間が持たないと思ったのか、クロトは次のプレゼント紹介を急ぎ促す。


「……ほら、もう僕なんて良いから次。最後グラズだよ」

「照れやがって、可愛いやつだな」


 悪い笑みを浮かべながらその様子を窺っていたグラズに、クロトは表情と言葉の節々に怒りを(あら)わにしながら再び催促する。


「もう、本当にそういうの良いからっ。次早くしてよ」

「へいへい、分かりましたよーっ」


 グラズはクロトが本気でキレだす前にからかうのを止め、笑いを堪えながらテントへと向かった。テントからプレゼントを脇に抱え戻ってきたグラズは、偉そうにスキラへプレゼントだと告げる。


「最後はこの俺、団長様からの有難ーい贈り物だ。大切に使えよ、ガキんちょ」

「はっ、はいっ」

「とりあえずこれな。いいか、【旅団員証(りょだんいんしょう)】は絶対無くすな。猫亭でも説明あったが、これだけは基本身に付けてろ」


 グラズから銀のプレートが付いたネックレスが、そのままの状態で手渡される。渡された【旅団員証】には以前ライラから見せてもらったものと同じく、ネックレスの表側には【旅団員証】の刻印がされており、裏側には【蒼き花(ブルームーン)】の刻印と剣の模様と"No.7"という数字が刻まれていた。


「お前の団員ナンバーは7番だ。後これな、開けてみろ」


 次に手渡されたプレゼントのラッピングを慎重に開けると、そこにはマスタード色のがま口型の財布と折りたたみナイフが入っていた。


「お財布とナイフ、ですか?」

「バニスの家で貰った金子あるだろ? あんな布切れに入れてないでちゃんとした財布使え。ナイフはオマケだ」


 スキラは一瞬財布とナイフという組み合わせに疑問を抱いたが、グラズの説明で少し納得がいった。グラズの雑な説明に付け加える様に、ライラとクロトがスキラへ補足する。


「ふふっ。アルティスにはね、財布は良い物を持っていればお金が貯まるっていう風習があるんだよ~。大切に使うといっぱい貯まるよ、きっと」

「……旅してるとナイフって意外に使うから、専用の持っておくと便利だからだろうのセレクトだろうね」

「そうなんだ……。ありがとうございます、グラズさん」

「おう、大事に使えよ」


 ――――――きっとグラズさんなりに考えて選んでくれたプレゼントって事だよね。この財布の色味が黄色っぽいのはきになるけど、お洒落なお財布だなぁ。ナイフも持ってなかったから有難いな。



 一人、また一人と団員達からのプレゼントを受け取っていき、気付けばスキラの周りには沢山の想いが込められたプレゼントで溢れていた。


「こんなに沢山のプレゼント、本当にありがとうございます! 大切に使いますねっ!」

「沢山使ってやってくださいにゃ」

「皆、想像通り現実的なプレゼントね。相変わらず」

「そりゃあそうだろ、これから旅するんだからよぉ」

「やっぱり皆、スキラがこれから必要になる物で役立ちそうな物をあげたいって思うってだけだよ~」

「……使ってもらえる方が良いしね」

「ほっほっほ。同じ旅団で生活していると思考も似てくるものですなぁ」


 それぞれのリアクションにスキラは改めてこのプレゼント達は、自分の事を真剣に考えて選ばれた物達な事を実感する。スキラにとって初めて家族やバニス家の人々以外から貰った大切な贈り物だった。


 ――――――大切に使おう。出来るだけ長く使える様に丁寧に、でもしっかり使っていこう。皆が選んでくれた物なんだから。


 プレゼントを受け取った後も、ミシラバ旅団の団員達は各々に話したい相手と会話に花を咲かせた。夜も更けてきた頃、グラズが二回手を叩き歓迎会の終了を告げる。


「そろそろ良い時間だ、歓迎会はもうお開きだ。ガキ共はとっとと寝ろ、大人はこれから二次会だ」

「ふふっ、そうこなくっちゃっ。まだ飲み足りなかったのよね~」

「ほっほっほ、スキラ殿達はゆっくり休んでくだされ」

「我々はまだしっぽりと大人の時間を楽しみますのにゃ」


 大人達は楽し気に二次会へと移行しスキラとクロトは男性用テントへ、ライラは女性用テントへとそれぞれが眠る予定のテントへと向かった。







 スキラへの大量のプレゼントは一人で持つには多く、クロトがテントまで運ぶのを手伝った。テントに着いたクロトは、元々あったスキラの荷物の近くに丁寧にプレゼント達を纏めて置いた。


「ありがとうね、クロト。運ぶの手伝ってくれて」

「……一人じゃ運べないでしょ。皆いっぱい用意してたし」


 何も言わずさりげなく運ぶのを手伝ってくれたクロトに、スキラは今日一日で大分好感度が上がっていた。スキラはクロトともっと仲良くなりたいなと心の中で思う。


「……荷物置いたし歯磨きしたらもう寝よ」

「うん、そうだね」

「…………僕、ここで寝るから、今日は端っこ使っていいよ」

「え? あ、うん。ありがと……?」


 何故かクロトにテントの左端のスペースを譲られ、スキラは疑問を抱きながらお礼を告げる。その反応にクロトは何かものを言いたげにスキラをじっと見つめたが、語る事はせずスタスタと歯磨きをしに一人水場へと向かって行った。


 ――――――な、何を言いたかったんだろう、クロト。まだまだよく分からないなぁ。仲良くなるまでの道のりは遠い……かも?


 慌ててクロトを追いかけスキラはクロトと共に歯磨きをし、寝る準備を整えた。用意された寝袋の上に座り、スキラはライラから貰ったばかりの【奇石ランタン】を小さく灯す。


 その晩、灯りがクロトの眠りの邪魔にならない様に背を向けながらスキラは受け取ったプレゼントを、もう一度全て眺めてから眠りについた。クロトはその様子をこっそりと横目で確認すると、寝袋を深く被り眠るのだった。



 ミシラバ旅団全員との顔合わせや歓迎会は、スキラにとって本当の意味での冒険のはじまりを告げた瞬間であった。

やっとここまで書き上げる事が出来ました。

そして今日の更新には珍しく続きがあります。一気に3話投稿になってしまいました。

次の話は、この話と同時に投稿したくてなんとか書き上げました。是非読んでいってください。

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― 新着の感想 ―
どれも素敵なプレゼントで、スキラくんのために、スキラくんの役に立ちそうなものを選んでくれてるのが伝わってきました。皆からのプレゼント、本当にすごーく嬉しかったと思います(*´ω`*)文字の勉強もがんば…
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