2-6(旧: 018)
今話を投稿する前に、エピソードタイトルの書き方を変えました。
ですが、今話だけ『2-6(旧: 018)』と前の話数に合わせた新旧療法表記しております。
(一話だけ旧表記無いのもあれなので、合わせる形を取りました)
そして文字数が多くなったので、今回二話に投稿しようと思っていた内容を分けました。
分けた分、読みやすい筈……。
次回からは新表記の『3-1』だけになると思いますので、宜しくお願い致します。
お風呂でさっぱりとしたスキラとクロトは、ポカポカと温まった身体でテントへと戻ってきた。二人は食事の準備を進めるギュンターへ帰った事を伝える。
「お帰りなさい。二人共温まりましたかな?」
「はい、とても温まりました。ギュンターさんに貰った石鹸、凄かったです。感動しました」
「……ギュンさんも入りに今行く?」
「このじじいはグラズ殿と朝方に入りに行こうかと」
「あー、宴会するからか」
「宴会……?」
「ほっほっほ」
クロトから突如語られた"宴会"という言葉に、スキラは何の事か分からず戸惑う。聞き返そうかと思ったその時、スキラの後ろからライラともう一人女性の声がそれを遮った。
「たっだいま~」
「はぁ~。久々のお風呂最高だったわ~」
「……あー……マリアか。もう来たんだ」
「マリア……さん?」
突如ライラと現れた背の高い女性にスキラは視線を向ける。
――――――む、胸が大きいっ……! というか露出が凄いっ!!
初めて露出度の高い服を着た女性と出会った、スキラは思わず顔を真っ赤にし照れる。
ストロベリーブロンド色の長髪に、キリっとした菫色の瞳。胸元の開いたボディーラインが分かるピタッとした大胆な服装は、スタイルへの自信があるからこそ着ているのは見ているだけで伝わる。
「あら、その子かしら。初めましてスキラ、アタシはマリアローズ・ハルウェイ。ミシラバ旅団の皆にはマリアって呼ばれているから、そうね……マリ姉って呼んで頂戴」
「あ、はいっ。……マリ、姉さん」
「ふーん……スキラって大きいお胸が好きなのか。ふーーん……」
ライラからジト目で軽蔑の様な眼差しを送られ、スキラは慌てて否定する。
「ちっ!? 違うってっ!! いや、その、確かに見ちゃったのはあれだけど、違うって!!」
「ふふっ、そんな凄い勢いで否定しちゃって。健全な男の子だものね~」
「……うわぁ…………引くわ……」
「クロトまでっ!! 助けてよ~っ!!!?」
ライラに続きクロトにまでジト目で一歩引いた眼差しを向けられ、スキラは涙目で助けを求める。助けてくれる者などこの場に存在はしない気がしたが意思表示はしたい、そんな一心だった。近くでそのやりとりを聞いていたギュンターがスキラへ助け舟を出す。
「マリア殿は少しばかり刺激が強い格好が多いですからなぁ。多少見てしまうのは仕方がないと思いますぞ」
「ギュンターさぁ~んっ!!」
「ふふっ。やっぱり若い内にこういう恰好はしとかないと勿体無いからね」
「……若い、ねぇ」
「何か言いたいのかしら、クロトちゃん。アタシはまだピチピチの28だけれど?」
「………イイエ。ナンデモナイデス」
マリアは満面の笑みでクロトに圧力をかけ迫る。クロトは冷や汗を流しながら、年頃の女性に年齢や体重の話題は禁忌である。五人で騒いでいると真面目に準備をしていたグラズが叱る。
「お前ら! 遊ぶんなら後にしろ、飯の支度が先だっ!!」
その一言に五人は思い思いに返事をし、夕食の支度をし始めるのであった。
◇
夕食の準備が終わり、各々テーブルの近くへと移動する。グラズとギュンターは火の管理をしながら丸太を椅子にしそれぞれ座り、その近くにはマリアローズとギンジが料理のサポートが出来る様に座る。スキラ達年少組は火元から一番遠い場所にシートを敷き、スキラを挟む様にライラとクロトがその横に座った。
「さて準備も出来たし……宴の時間だよ、皆~!」
「今日は宴会だ、適当に焼いてくから好きなだけ食えよー」
「ほっほっほ、串焼きにソーセージもありますぞ」
「フォンデュも作るのにゃ」
「サラダもあるわよ」
「……デザートもあるから余裕を持って食べてね」
「宴……? 何かありましたっけ……?」
何故急に豪勢な食事やドリンクが用意されたのか分からず、スキラは一人状況が読み込めずキョトンとした表情を浮かべる。そんなスキラにニブイのかと言いたげにグラズはネタばらしをする。
「あ゛? お前の歓迎会だろうが」
「後、折角だから全団員再会記念も込みの宴だよ~」
「サプライズという事で、こっそり我々だけで準備していたのですぞ」
「スキラは大切な仲間、入団祝いは必須だにゃあ」
「知らなかったのはアンタだけよ、スキラ」
「……まあ知ってたらサプライズじゃないでしょ」
「えっ、あっ、え? サプライズ……? 歓迎会……?」
確かに料理を準備している時点で『今日は何やら豪華な食卓になりそうだな』と思っていたスキラではあったが、それが自分の為に用意されている自覚は無かった。歓迎会と聞いても実感の湧かない表情を浮かべるスキラに、マリアローズはドリンクの入ったマグカップを持つように促す。
「ほらほら、良いからこれ持ってっ」
「乾杯の音頭をお願いしますにゃ、団長」
「んじゃ。新しい団員スキラに、そしてミシラバ旅団再会に乾杯っ!!」
「「「「「乾杯 (だにゃ)!!」」」」」
「か、乾杯っ!」
カツンと木製のマグカップがぶつかり合う。スキラも周りに合わせる様にマグカップを掲げる。大人組は当然の様にお酒が、年少組は林檎のジュースが注がれている。
「ぷはぁ……うんめぇー」
「祝い事で飲むエールは最高ですなぁ」
「冷えてて最高なのにゃぁ」
「んー、さいこっ!」
大人組はミースで大量に買い込み、直前まで冷やしておいたエールを各々堪能し感想を述べる。その頃、年少組も木製のマグカップに入った林檎ジュースの味に感動を覚えていた。
「ん、この林檎ジュース美味しいね」
「美味しいよね、ギンジが合流前に買ってきてくれてたんだってさ~」
「……ふーん、美味しいじゃん」
ギンジがお酒の飲めない年少組の為に別の街で仕入れてきた林檎ジュースは、林檎ならではの爽やかな甘みと酸味が程よいバランスのジュースであった。
「おい、焼けてきたぞー」
「大皿に乗せていきますので、食べたい物をお取り下され」
「サラダも配っちゃうわね」
グラズとギュンターは網の上で焼いている肉やソーセージ、野菜等を中心に置いた数枚の大皿へと盛り付けていく。それに合わせマリアローズが盛り付けたサラダもそれぞれに配られる。
「さ、スキラ。食べよっ!」
「う、うん。いただきますっ!」
スキラは大皿に盛られた、焼きたての肉と野菜が交互に刺された串焼きを一本手に取る。湯気の上がるそれをふぅふぅと息をかけ冷まし、大きく切られた肉の部分を一口。
――――――んんんっ! なんだこの噛んだ時にジュワッと溢れる肉汁に程良い塩加減はっ! この間の串焼きより絶対お肉が高級な気がするっ!! 言ってしまえば適当な大きさに切った肉や野菜を串に刺して焼いただけの代物な筈なのに、この間食べたのより素材が良いからかな。焼き立てを食べるからなのか、むしろこのシンプルさが美味しさを引き出している気がするっ……!
自然と一口目の肉部分を無言で食べ、肉の下に刺さっている野菜を頬張る。スキラが頬を緩め幸せそうに食べる姿に、隣に座るライラは笑みを浮かべ味の感想を聞く。
「あははっ。スキラ、美味しい?」
「う、んっ! すっごく美味しい……!」
「……今日のお肉、ちょっと良い牛肉だよね。美味しい」
「シンプルイズベスト、素材の良さが引き立ってますにゃあ」
「お酒に合うのも良いわよね~」
ギンジやマリアローズは串焼きを食べながら、それぞれのペースでエールを味わう。スキラ達はテーブルに置かれた串焼きやサラダを食べ、次の料理が出来上がるのを待つ。串焼きやお酒を嗜みながら、ギンジは目の前の網に置いていたスキレット内のチーズを確認する。
「む……先程仕込んでおいたチーズが良い感じに溶けてきて食べ頃になったのですにゃ」
「あら、じゃあはい。年少組用のフォンデュ用のパンと他の具材、ここに置いておくわね」
串焼きやチーズフォンデュ等、大人達にとっては酒のつまみとしての食事量であるが、食べ盛りである年少組にとっては普通に食べていたら量が足りない。その為、マリアローズはパンを一口大にナイフで切り、事前に別茹でしていた野菜等を皿に盛っていたものを三人の前にあるテーブルへ置く。それに合わせギンジは同じテーブルに鍋敷きを置き、スキレットをその上へ移動させる。
「スキレットは熱々なので触れないようににゃ? 食べる時も火傷に気を付けるのにゃ」
「はーいっ。スキラはチーズフォンデュって食べた事ある?」
「ううん、無いんだけど……これどうやって食べるの?」
「……こうやって串にお肉とかパンとか好きな具材を刺して、熱々のチーズをからめて食べるんだよ」
説明の為にクロトが実食をしてみせる。
串にパンを一切れ刺し、スキレット内で白い湯気を放つチーズにしっかりとからめる。トロリと溶けたチーズがからめられたパンを少し息をかけ冷ましてから、クロトは口を大きく開け頬張る。チーズの香りやその姿を見ているだけで、スキラの食欲は更に増していた。
「ぼ、僕も食べるっ!」
「私も食~べよ~っと」
スキラは先程焼かれたばかりのウィンナーを串に刺し、ライラはトマトを串に刺し、順番にチーズをからめる。チーズがまだまだ熱々の為、クロトの様に少し息をかけ冷ましてから口へと運ぶ。
――――――ふぁぁぁぁ!! 何これ、チーズってこんなに熱々だとトロットロで具材に絡むのっ!? 急いで食べないとチーズが零れ落ちていってしまう! トロッとしたチーズの先にパリっとしたウィンナーが口の中を支配していくし、熱々でしかこの味を味わえないなんて、なんて贅沢な食べ物なんだっ!!
スキラがチーズフォンデュに感動している事は如実に表情に現れており、準備をしたギンジは嬉しそうに笑う。
「どうやらスキラ殿のお口に合った様ですにゃあ」
「んー! 塩茹でしてある野菜にからめても美味しいわね、流石ギンさん」
「俺らにもくれ」
「ほっほっほ。このじじいにも頂きたいですなぁ」
ギンジの横で食べるマリアローズも満足そうにフォンデュを楽しむ。その様子に焼き物を担当している二人もチーズフォンデュを要求した。ミシラバ旅団の団員達は豪勢な食卓に皆、満足そうな表情を浮かべた。
一通り食事を楽しんだ頃、ギュンターとマリアローズが箱に入った本日のデザートを運んできた。
「今日のデザートですって」
「ほっほっほ。今切り分けるので、少々お待ちくだされ」
箱の中から蜂蜜とブルーベリーのシフォンケーキをそれぞれ取り出し、人数分に切り分け取り皿に盛り付け配る。皿を受け取るとスキラはふわりと香る蜂蜜の匂いと甘そうなベリーの匂いを感じ、ごくりと喉を鳴らす。
「ケーキはグラズ殿とクロト殿が、選んで買ってきてくれたものですぞ」
「……好きな味知らないから、お店のオススメでグラズが決めただけだよ」
「そうなんだ。凄く美味しそうだね」
「まあ、きっと美味い。食ってみろ」
グラズに促され、スキラはまずシンプルな蜂蜜のシフォンケーキを一口食べる。軽い食感に生地に練り込まれた優しい蜂蜜の甘さが口の中に溢れる。続く様にブルーベリーのシフォンケーキも一口食べてみる。こちらはたっぷりのブルーベリーを使ったクリームでコーティングされており、上に乗るブルーベリーの両方からブルーベリーの味を感じる一品になっていた。
――――――くぅぅぅぅっ! どっちも美味しい。シフォンケーキって初めて食べたけれど、ふわっふわで柔らかくて良いなぁ。あー、人生でこんなにクリームたっぷりのケーキ食べたの初めてかも。甘くて美味しいや。
スキラは久しぶりに食べる甘味であり、初めて食べるシフォンケーキに感動をしながら味わって食べた。
◇
スキラがシフォンケーキを堪能し食べ進めていると、横に座るライラからトントンと肩を叩かれる。口に含んだ分をしっかり噛んで飲み込み視線を合わせると、満面の笑みで突然の更なるサプライズ発表が行われた。
「さて、スキラ。実は君にミシラバ旅団の皆から、更にサプライズプレゼントがあります!」
「えっ!!!?」
「ほっほっほ。ミシラバ旅団のルールと言いましょうか、風習みたいなものですな」
「そんな訳だ、今から一人ずつ渡してくから受け取りやがれ」
料理だけでも十分と豪華だったのにまだサプライズにプレゼントがあると告げられ、スキラは思いがけないサプライズの連続にただ驚く。スキラがリアクションを取る暇もなく、誰からプレゼントを渡すかと団員達は話し合う。
「誰から渡そっか?」
「物的にも、吾輩から渡したいのにゃ」
「んじゃ、ギンジからで。で、後は適当に名乗り出ろ」
順番が決まり、ギンジはテントへとそそくさと向かう。テントから戻ってきたギンジは何故か先程ミースの街で買い込んできた生地の入っている筈の大きな包みを持って、スキラの元へと戻ってきた。
「改めまして自己紹介だにゃ。吾輩はミシラバ旅団No.5、ギンジ・ナカタニと申しますにゃ。この旅団では基本マリア殿と供に、別行動にて情報取集を担当している事が多いのにゃ。日頃の情報収集だけでなく、吾輩はこの旅団でもう一つ担当している部門があるのですにゃ。スキラ殿、この包みを開けてほしいのにゃ」
「あっ、はい。…………えっ!!!?」
スキラはその指示の意味が分からないまま、生地が入っているであろう包みを開ける。
だがスキラの予想とは反し、包みを開けるとそこには沢山の完成した衣服が丁寧に畳まれていた。その様子はまるで、スキラが手に取るのを今か今かと待ちわびているかの様だった。
「え、なんでっ、あれっ、この包みって生地が入っていたんじゃ……!?」
「その生地を使い、吾輩が心を込めてデザインし縫い上げた代物なのにゃ」
「これ全部ですか!?」
「そうですにゃ。とりあえず春先から秋くらいまでは着れるデザインにしているのにゃ。良かったらとりあえずはこれを着てみてほしいのにゃ」
「あ、はい。じゃあちょっと着てきますね」
ギンジが包みの上から数点を選び、スキラへ手渡す。手渡された服を抱え、スキラはテントへと小走りで移動する。テント内で手早く着替えたスキラはテントから緊張した様子で団員達の元へ戻り、新しい衣服をお披露目する。
「おぉ! 似合ってるね~」
「馬子にも衣装ってやつだな」
「ほっほっほ、若者らしい格好になりましたな」
「……まあ良いんじゃない?」
「にゃにゃ、サイズも丁度良さそうですにゃあ」
「あら、良い感じね」
新しい衣服を纏ったスキラに各々感想を述べる。
長袖の白のカットソーを袖を捲って着ており、その上に黄色のノースリーブパーカーを着重ねていた。下はカーキ色のカーゴパンツを履き、ウエストには自分で選んだ茶色のベルト、そして足元は先程買ったばかりの茶色のトレッキングシューズを組み合わせていた。
「凄く動きやすいです、この服」
「今回は動きやすさと収納力をメインに、シンプルめにデザインさせてもらったにゃ。スキラの腕の奇石が隠れる様に袖を捲る前提で薄手の長袖にしてあるにゃ。ポイントはビックコッコの雛に似せた黄色のノースリーブパーカーなのにゃ」
「なんでビックコッコの雛なんですかっ!!!?」
「イメージしたら似合ってたからにゃ」
――――――いやいや、ちょっと照れくさそうに言っても駄目なんですからねっ!? ギンジさんにビックコッコの話しなきゃ良かったっ……! …………でもこの服動きやすいし、お任せで良いって言ったの僕だし、折角デザインして貰ったし……。うーん、複雑な心境だ……。
唯一"ビックコッコの雛のイメージ"という言葉だけは納得がいかなかったが、それ以外の点では最高な衣服にスキラは文句なんて言えなかった。むしろしっかりと感謝の気持ちを告げた。
「ちょっと複雑な心境ではありますが、ありがとうございます。本当に体にフィットしてて動きやすいですし、着心地もとっても良いです」
「今着ている以外にも何点か組み合わせて着れる物を用意したので、自由に組み合わせて着てほしいのにゃ。どの組み合わせも自信作ですにゃ」
そう言ってギンジは包みの中から何点かスキラに見せる様に持って、他の仕立てた衣服もアピールする。軽く一週間は着回せそうなお洒落な服の数々にスキラは改めて驚く。この《宿塞》に着くまでの間、ギンジが仕立てている様子は無かった為、いつの間にこの量の仕立てをしたかも気になった。
「ギンジさん、これいつ仕立てたんですか……?」
「今日のところはそれを語り出すと長くなるので、今度説明するのにゃ」
「分かりました。でも、本当にこんなに沢山素敵な服を貰っちゃって良いんですか?」
「当たり前にゃ。吾輩はスキラに着て貰うために愛情込めて仕立てたのにゃ。沢山着てほしいのにゃ」
「ありがとうございますっ! 大切に着ます!」
スキラは一度見るのに取り出した服達を包みに戻す。その間に次は誰がプレゼントを渡すかと、グラズが他の団員達に問いかける。
「次は誰いくよ?」
「はいはいっ! じゃあ次はアタシね」
手を上げ、順番を主張したのはマリアローズだった。マリアローズは近くに置いていた自分の鞄からプレゼントの用意をし、プレゼントを渡す前に改めてギンジに合わせる様に自己紹介をした。
「改めまして、アタシはミシラバ旅団No.6、マリアローズ・ハルウェイよ。基本は情報収集担当でギンさんと一緒に別行動してる事が多いけれど、たまには戻ってくるし合流もするから宜しくね。スキラ」
「あ、はいっ。宜しくお願いします、マリ姉」
「スキラの事は一応ライラからの手紙で知っていたけれど、好みまでは分からなかったからアタシのセンスでプレゼントは選ばせてもらったわ。はい、どうぞっ」
マリアローズは小さな箱をスキラへ手渡す。その小さな箱はお洒落なラッピングのプレゼントというだけで、スキラの人生の中では貰った事が無い様な見た目をしていた。十字に巻かれたリボンと柄物の包装紙を丁寧に外し、中の箱の蓋をそっと開ける。
「わっ、これって……時計とネックレス……? ……ですか?」
「ふふんっ。そうよ、懐中時計とネックレス。中は普通の時計なんだけれど、チェーンの先に方位磁石が付いているの。ネックレスはお守りよ、ちょうどミシラバの葉みたいなデザインの物があったからオマケでね」
マリアローズからの贈り物は、懐中時計と葉っぱのデザインをしたネックレスだった。
金色の懐中時計は小さな方位磁石がチェーンで繋がったシンプルな上蓋が付いたタイプで上蓋が付いている為、持ち運ぶ際に時計の表面が傷付く心配をしなくて良い様になっていた。
ネックレスは葉っぱの葉脈の形になった金枠に、葉の部分を彩る様に葉脈ごとに様々な濃淡のグリーン系の樹脂がランダムに配置されたデザインになっていた。灯りに透かすと綺麗な新緑の様なグリーンが艶を増す様に見えて、スキラは手に取り角度を変えてネックレスの葉の部分を覗き込む。
「凄い、角度によっても色の見え方が違うんですね」
「綺麗でしょ? 新しい服に合わせて使って頂戴。ちょっと貸して、付けてあげる」
マリアローズはスキラからネックレスを貰い、革紐の長さを調整してスキラの首にかける。黄色のノースリーブパーカーの隙間からネックレスが丁度見える長さに調整されており、他の団員達はその姿をじっくり見る。
「あ、本当だ~。ミシラバの葉っぽい」
「……良い色だね、それ」
「にゃにゃ、相変わらずマリア殿はセンスが良いのにゃ」
ギンジが褒めると嬉しそうにマリアローズは「まあね」と告げた。スキラはライラの言葉を聞き、ネックレスを眺めながらふとミシラバ旅団の名前の由来を聞く。
「なんでミシラバ旅団って言う名前なんですか?」
「ミシラバの葉ってのはな、『幸運』とか『望みを叶える』って意味があんだよ。そこからとってうちはミシラバ旅団って付けただけだ」
「良い名前だよね~。グラズが付けたにしては」
「あ゛あ゛? なんか言ったか?」
「別に~、なんでもないよ。グラズ」
「チッ……」
ライラが笑顔のままグラズをからかい、睨まれる。睨まれたところで痛くもかゆくもないといった態度のライラに、グラズは物申すのを諦め酒を煽ったのであった。
続きます。




