2-5(旧: 017)
更新!
今回はミシラバ旅団の全団員が出てきますよ~!
それでは本編へどうぞ。
スキラは【奇動車】に乗ってから、次の目的地が宿塞である事を教わった。
ギュンターが運転する【奇動車】で向かう道中、スキラは宿塞とは一体何なのかという説明をライラ・グラズ・クロト・ギンジの四人から受けていた。
「宿塞って言うのはね、簡単に言うと郊外型の宿屋みたいな感じかなぁ」
「宿塞にいる管理人に金を払えば空きがあれば利用出来るって点では、街にある宿屋と一緒だしな」
「違いと言えば宿塞はテント泊な所もあれば、一軒の建物になっている所もあるのにゃ。後は部屋のサイズも旅団利用者が多いから、団体客向けに大部屋がある所もあるのにゃ」
「……野宿よりは安全だし、情報交換も出来るし。お金を払ってでも利点は多い場所だよ」
「成程……本当に宿屋みたいな所なんですね」
スキラが知る宿屋というのはいわゆる一泊二食付き、もしくは一泊食事なしで利用する宿泊施設のイメージであった。その知識に補足する様に団員達は説明を続ける。
「勿論、街中の宿屋との違いもありますにゃ。宿屋は最初から食事付きの所が多いけれど、宿塞は基本食事付きじゃないのにゃ。食事を用意して欲しかったら早めに言って別料金を払わなければいけないのにゃ」
「それに安全は買えるが、街の宿屋より割高だしな。……あー、金と言えば金銭の代わりに食材で交渉も出来るってのも、覚えておいた方が良いぞ」
「食材で交渉……?」
「郊外にあるからね。常に食材が十分に手に入る訳じゃないから、意外にその方が嬉しいって宿塞もあるんだよね。なんなら食材や道具は買い取ってくれたりするんだよ~」
宿塞という場所は郊外にポツンと存在する事が多く、宿塞によっては敷地内で自給自足している場所もあるが、常に食材が豊富にある訳ではない。商業旅団が食材を売りに来るとはいえ、日頃手に入りにくい肉や魚介類は不足しがちであった。その為、運営の為中々買い出しに行けない彼らに、訪れた旅団は食料や新しい道具等を提供する事でその不足を補っていた。
別の目的地へ向かう商業旅団であれば、自分たちの商品を買って使ってもらう事で一種の宣伝にもなり、商品代分宿泊費が安くして貰える等のメリットもある。他の旅団や旅人でも多く仕入れた食品を管理人に売る事でその代金分宿泊費を値下げして貰えるというメリットが存在する為、どの旅団や旅人でも利用者は何かしら持ち込む者が多い。
「まあ、基本は野宿でも生きてけんだから、金が無い状態で行くものじゃねえけどな」
「……それはそう。でも宿塞は敷地一体が塀で囲われてて安全が買える」
「スキラ殿がもし一人になってしまった時に、道中で夜を過ごす事になったら野宿以外にも宿塞という選択肢がある事、そして手持ちの金子が無く困ったら物々交換という手がある、位には覚えておくと良いのにゃ」
「他にも旅人向けの結構便利な知識もあるから、少しずつ教えていくね」
「はいっ、よろしくお願いします」
――――――郊外型の宿屋、宿塞か。レプリスに居た頃には知らなかった知識が増えていくなぁ。ちゃんと覚えていかないと……。
スキラは新ためて、旅人としての知識を身に付けていかなければいけないなと実感する。今まで生きてきた街での暮らしで身に付けた知識や常識だけでは、これからの旅では通用しないであろう事を、スキラはこの会話の中で感じた。
団員達によって宿塞の説明が行われたお陰で、スキラは少しの予備知識を持った状態で初めての宿塞へと向かう事が出来たのであった。
◇
ミシラバ旅団一行が宿塞へと着いたのは、夕方の薄暗さを感じる頃だった。
宿塞を囲う塀の近くで【奇動車】から降り、一泊分の荷物や食料を持った団員達は受付の為、宿塞の中にある管理人棟へと向かった。管理人棟に入ってすぐの窓口の前には、眼鏡をかけた中年男性が座っていた。
「いらっしゃい。何名の利用ですか?」
「宿泊日数は一泊。現状は六人で、後から一人合流すると思うんだが大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですよ。お風呂のご利用はなさいますか? 当宿塞では、この管理棟に男女それぞれの浴場がありますが」
「お、使わせてくれ」
「では、七人分の料金と書類に旅団名や等の記載とサインをお願いします。それとお連れ様が現れなかった場合は、お一人分返金させて頂きますね」
「ああ、分かった」
グラズは自分の首から下げている団員証を管理人へ渡し、書類を書き始める。受け取った管理人は書類の記載内容と団員証のマーク・代表者名と名前を確認し、グラズへと返却する。
「団員証の提示ありがとうございます。人数的に中規模テントが開いていますので、そちらをご利用下さい。料金は場所代と入浴料金など合わせて8,400リルとなります」
「酒や肉を仕入れてきたんだが、その分値引きしてくれたりするか?」
カウンターの上に【奇動車】から下ろした食料品を置く。それを見た管理人は口元を引き締め、商人の様な眼差しでグラズの交渉に応じた。
「そうですね……、今なら食品、薬品・道具類ならば交渉に応じましょう。詳しくはあちらのテーブルでお話ししましょうか」
「ああ、分かった」
二人は別のテーブルに移り、食品や薬品、雑貨等をテーブルの上に並べ、どの商品が欲しいかやどれ位の値引きになるのか等と語り合う。今回持ち込んだ物の中で管理人の男は数種類の食品と薬品、石鹸等の雑貨の一部と引き換えに、最終的に宿泊料金は5,500リルとなった。
「5,500リル、確かに頂きました。この管理棟を出て左奥の赤い中規模テントをお使いください。浴場は隣の通路を進むとあります。浴場の利用可能時間は朝六時から夜九時までですので、注意してくださいね。お食事はどうなさいますか?」
「食事は自分らで作るから大丈夫だ。道具だけ借りられるか?」
「各テントスペースに焚火台、テーブルや椅子にランタン等備え付けでありますので、ご自由にお使いください。何か困った事等あれば、此方へ来て頂ければ対応しますので」
「分かった。んじゃ行くぞ、お前ら」
グラズの号令に各々返事をし、スキラ達は指定されたスペースへと向かった。
◇
管理人棟を出て左奥へ進むとそこには、赤いテントが二つ設置されたスペースが一ヵ所あった。
スキラ達が泊まるのは五、六人は泊まれそうなワンポールテントと二、三人程が寝れそうな小さなワンポールテントがスペース内に一つずつ設置されている場所で、スペースの中央には焚火台が設置されておりそこで飲食が出来、左右に設置されたテントで寝る事が出来る様になっていた。
ミシラバ旅団が泊まるテントスペース以外にも宿塞の中には数ヵ所同じ様なスペースが、存在するが周りには低木が生えており各スペースごとにある程度距離もある為、宿泊者同士のプライベートは確保されていた。
「想像よりも結構広いんですね、借りられるスペースって」
「ほっほっほ、今回は周りに客人も居ない様ですし中々良い場所を借りられましたなぁ」
「宿屋と違って自由が利くのも利点だよな」
「だね~。あ、私こっちの小さいテントの方使うね。寝るまではそっちにお邪魔するかも知れないけれど」
「遠慮なく居てほしいのにゃ。吾輩たち男性陣はこちらの大きなテントで使わせてもらうのにゃ」
「……どうせ夜も遅くまで騒ぐだろうしね」
「とりあえず荷物片付けて、飯の支度するぞ。とりあえずそこの年少組三人は、荷物置いたらとっとと風呂に行ってこい」
スキラは年少組という言葉を聞き、慌てて返事をする。間違いなくスキラやライラはこの旅団の中で年下だからである。スキラに続く様に同じくミシラバ旅団内で年少組に該当するライラとクロトもそれぞれ返事をする。
「あ、はいっ」
「……ん」
「はーい、戻ったら何か手伝うね~」
「おう、早く行ってこい」
手を振り邪魔だとアピールされたスキラ・ライラ・クロトの年少組は、自分たちが寝るテントへ荷物を運び入浴の支度をする事にした。他の団員達も自分の荷物をテント内へと運び終えると、グラズやギュンターは夕飯の支度を始めた。
スキラが荷物を運び終えた頃には、同じ年少組であるクロトはいつの間にか消えており、一人テント内で入浴の支度をする事となった。
――――――とりあえず着替えはある。石鹸とハンドタオルはギュンターさんからさっき貰ったのがあるし……これで持っていく物は大丈夫、かなぁ? 今度街に寄ったらこういう物も買わないと……。
スキラの荷物という荷物は現状、数枚の着替えとバニス家で貰った金子の入った布袋、母の形見の本のみである。その為、こういったお風呂道具や日用品の類は一切持っていなかった。それを察してか、先程自分の荷物を置きに来たギュンターが入浴に必要だろうと二種類の石鹸とハンドタオルをくれた為、とりあえず無事にお風呂に入れそうだなとスキラは内心安堵する。
――――――久々のお風呂か……楽しみだなぁ。
レプリスに居た頃のスキラは一年に二度程度、街の公衆浴場へと行くことがあったが、基本はお湯を沸かして桶に溜め、そのお湯を使い自室で頭を洗い、身体を拭くのが基本であった。その為、お湯を自分で沸かさずに使える宿塞の浴場への期待値は既に高かった。
スキラは胸を躍らせながら、管理棟の浴場へと向かった。
◇
管理棟に着いたスキラは管理人に浴場の場所を聞き、お風呂の看板を見つけ男性用の脱衣室へと入る。脱衣所で着ていた衣服を脱ぐと、ハンドタオルと石鹸を持ち浴場へと足を踏み入れた。
宿塞の浴場は多人数の利用が可能で洗い場が十ヵ所、大き目な湯船が二ヵ所あった。モワモワとした熱い空気を感じながら、スキラはまず洗い場へ移動した。椅子に座りギュンターから貰ったハーブ入りの石鹸で頭を洗い、身体をもう一つの石鹸を使い丁寧に洗っていく。
――――――凄い、この石鹸! 使っている間もスーッと鼻を抜ける様な香りだし、洗った後もふわっと香るなんて……! 今まで使ってた石鹸なんて泡立ちも悪く、洗った後は髪がゴワゴワになっていたのに、この石鹸は泡立ちも良いし、洗った後の髪がツヤツヤになってて指通りも良くなるなんて凄すぎる。身体用にって貰った石鹸もミルクみたいな優しい香りがするし、同じ石鹸っていう物なのに物によってこんなに違うんだ……凄い!
安く粗悪な石鹸しか使った事が無かったスキラは、その香りや性能に感動を覚えた。
髪と身体を丁寧に洗い終えたスキラは、一番楽しみにしていた湯船へと向かう。蒸気で白い視界の中、指先でお湯の温度を確認し温度がぬるめの方に浸かる。人の気配を感じない湯船でスキラは一人腕を頭の上で伸ばし、久々の開放感と全身を巡る温もりを味わう。
「はあぁぁぁぁ……気持ちいい…………」
「…………お風呂では静かにね」
他に人がいると思っていなかったスキラは慌てて声の方向に謝罪する。だが、その声は何処か聞き覚えのある声だった。
「あ、すみません…………ってあれ、その声ってもしかしてクロト? え、何処にいるの?」
「……君が気付かないだけでさっきからここに居るよ」
スキラは視線を左右に動かす。同じ湯船内の壁側の方を見ると、美しい黒髪の同い年位の青年がスキラと同じように湯船に浸かっていた。
「え、だ、誰……ですか……?」
「……だから僕だって」
「ほへ…………?」
「だから、その……クロトだよ」
あまりの事態に理解が追い付かない。思わず大声で叫びそうになるが浴場である事を思い出し、慌てて飲み込む様に手で口を塞ぐ。ここで叫べば反響して館内に響き渡る可能性が高いからである。
「――――――っ!!!?」
「……叫ばないでよ、煩いから。他に誰も入ってないからって迷惑だし」
「あっ、う、うん。ご、ごめん」
「言ったじゃん、人狼だって。こっちは人型の姿なだけ」
「そ、そうなんだ……」
スキラはクロトの人型の容姿に魅せられ、じっとその姿を見つめる。
同じ湯船に入っている時点で男性だという事は分かっているのだが、顔立ちが中性的な為か濁り湯から出ている鎖骨や首筋に何処か艶っぽさがあった。濡れた黒髪にきめ細やかな白い肌、新緑を思わせる緑色の伏し目がちな瞳をしたクロトは、そこらの女性より魅力的なのではないかとスキラは思う。街を姿で歩けばモテること間違いなしだろう。
「く、クロトってそんなにイケメンだったんだね……」
「なんかグラズも似たような事言ってたけど、何処がそうな訳?」
「顔がとても整っているからだよ、うん」
――――――お世辞は言ってない、実際僕が会った中でこれほどの美少年には会った事ないんだから。羨ましい位のイケメンだよ、うん。本当に羨ましい……!
「ふーん……? まあ、ありがとう。たまにこの姿だから宜しく」
「うん、わ、分かった。もしかして年齢も近いの?」
「誕生日は過ぎたから今は18だよ」
「あ、僕の一個上なんだ……じゃない、一個上なんですね」
クロトの年齢を聞き年上な事を知ったスキラは、慌てて丁寧な言葉へ切り替えようとする。急に話し方を変えようとして失敗しているスキラに、クロトはフッと一瞬笑みを浮かべた後に気にしていないと告げる。
「……いいよ、どうせ一歳しか変わらないし今まで通りの話し方で」
「クロトが良いなら、じゃあそうさせてもらうね?」
「ん……とりあえずもう驚かないでよね、この姿でも。面倒だし」
「あはは……さっきはごめん。これから宜しくね、クロト」
スキラが手を差し出すとクロトは意図を理解し少し躊躇いを見せたが、その手を握り返した。
これが初めてスキラとクロトが握手をした瞬間であった。
◇
スキラが浴場でクロトと会話をしていた頃、テント内でギンジは一人布を広げていた。
「団長には感謝だにゃ」
本来であれば、ギンジはこれから行う作業をする為の場所決めからしなければならなかったのだがグラズの協力の元、スキラ達を浴場に行かせテントを一人で使える様に取り計らってくれた。
「さて、まずは裁断だにゃ」
ギンジは先程運んできた布袋から丁寧に生地を取り出す。取り出した布地を必要分ずつに裁断し、一着分ずつに仕分ける。本来であれば型紙を作り、それに合わせ生地を切り縫い合わせるのだが、ギンジが今からしようとしている事にはその工程は要らない。ただ一着分ずつの必要想定の布や素材を仕分けておけば出来てしまうからだ。
「本当は能力を使わずに仕立てたいけれど、今回は急を要するので全力でこの《奇石能力》を使わせてもらうのにゃ」
用意した布地を全て必要に応じ一着ごとに切って仕分けると、その上に使用する糸とボタンやチャックを置く。事前準備が終わると、ギンジは腰のポシェットからソーイングセットを取り出す。ソーイングセットの中から一本の針を選び、糸を通すとギンジは自身の《奇石能力》を発動させる。
「さて。吾輩たちの新たな後輩であり、愛しき仲間をしっかり守ってくれる大切な衣服たち。能力を使うとはいえ、丁寧に一枚一枚心を込めて作らせて頂くのにゃ。いざ、【吾輩は仕立て屋である】!」
そうギンジが言った瞬間、彼が右手と持った針が黄金の光を放つ。
光の宿った針を使い、ギンジは一着ごとに仕分けた布地を一気に縫い上げていく。その速さは例え見ている者が居たとしても誰の目にも止まらない程の早業であり、彼が最後の玉止めをし糸を切り動きを止めた時には、用意した全ての布地は素敵な洋服へと変わっていた。
◇
夜の宴会に向け準備に勤しむグラズとギュンターの元へ、一人の大胆な服装の女性がスタスタと歩き近付いていく。宿泊に必要な荷物を持った女性はグラズとギュンターを確認すると少し息を吐き安堵の表情を浮かべ、疲れを露わにする。
「あー……疲れた~!! やっと合流出来た」
「おや、マリア殿。早かったですなぁ」
「お、やっと来たか」
「お、やっと来たか、じゃないわよっ! こっちからは結構遠かったんだから」
グラズのリアクションの薄さにマリアローズは不満を露わにする。彼女こそがミシラバ旅団の団員であり、最後の合流者であった。
「あの依頼で逃げた後、アタシがどれだけ大変だったと思っているのよ! しかも別件での調べ事に、新入りへのサプライズプレゼントまで用意しろってライラから連絡来るし」
スキラと出会う前にミシラバ旅団が請け負っていた依頼後から今日までの間、マリアローズはずっと単独行動であった。日頃一人、もしくはギンジと二人行動の多い彼女は、ライラから【奇石簡易郵便】という連絡手段を通してメッセージのやり取りをしている事が多い。
本来であれば何かしら文章を送りたい場合、<郵便屋・ハニーレター>にて手紙を渡し【奇石郵便】という形で各支店へと送ってもらう必要がある。郵便屋を間に挟むことなく、簡易的ではあるが文章を送る事が出来るのが【奇石簡易郵便】という仕組みを利用した方法であった。
【奇石簡易郵便】は【奇石郵便】の言葉通り簡易版の様なもので、【奇石】を使用した十センチ程度の小さな試験管の様なサイズの郵便装置【簡易郵便筒】を利用している。一見手軽で万能な様に思われがちだが【奇石郵便】とは違い、メモ程度の小さな紙しか送る事が出来なく、対の【奇石】が使われた【簡易郵便筒】にしかメッセージを送る事が出来ない。
その上、【簡易郵便筒】は未だ試験段階の運用の為、その小ささに似合わぬ値段の高さでもあり、数も少なく貴重な物で、体内のマナ量の多い者にしか扱う事が出来ないという問題があった。だがそのデメリットを抜きにしても、遠くの仲間に直接文章を送れるという個人間での連絡手段としてはとても優秀であった。その為、ミシラバ旅団でも【簡易郵便筒】を二組所有しており、団員の中でも別行動を取りやすいギンジとマリアローズが一つずつ持ち、ライラが持つその二つの対になる【簡易郵便筒】を持っていた。
今回も【簡易郵便筒】を利用し、ライラから頼み事やスキラの話を事前に聞いており、最後のやりとりで『待ち合わせ場所はミースに一番近い北側の宿塞で』というメッセージを受け、マリアローズはこの宿塞まで来たのであった。
「お疲れ様です、マリア殿」
「ありがとっ、ギュンさん。意外に人使い荒いわよね、うちの影の団長は」
「はっ! 言えてるわ」
「ほっほっほ。ライラ殿には誰も敵いませんからなぁ」
マリアローズの皮肉にグラズは心当たりがありそうな顔をし笑い、ギュンターは優しく微笑んだ。実際、ミシラバ旅団の団長はグラズではあるが、基本的な司令塔がライラなのはスキラ以外の団員全員が周知している事でもあった。軽く談笑したマリアローズは辺りを見渡し他の団員を探す。
「で、その新入り君や他の皆は?」
「新人含む年少組は風呂で、ギンジはあっちのテントでサプライズプレゼントの準備中だ」
「あら、じゃあアタシもお風呂入ってこ~よおっと」
「ほっほっほ。荷物を置くならそちらの小さなテントが女性陣用ですぞ」
「ありがとっ! いってくるわね~」
鼻歌を歌いながら、マリアローズは自分の荷物をテントへと置きに行く。荷物を適当に奥へと置き、着替えの準備をしたマリアローズは管理棟へと向かった。
管理棟で管理人に場所を聞き、女性用の脱衣室で衣服を脱ぎ、浴場への扉を開く。男性用の浴場と広さは変わらず、時間帯が早い為か利用者がライラしか居ないのを確認したマリアローズは、湯船に気持ち良さげに浸かるライラへ声を掛ける。
「ラ~~イラっ!」
「あ、マリア! もう着いたんだ、おかえりっ」
「ただいま。身体と髪洗ったらすぐそっちに行くわね」
マリアローズは洗い場で丁寧に長い髪を洗い、身体の汚れを落としていく。洗い終わった髪を湯船に付かない様に結い、ライラの浸かっているぬるめの湯船へと入り隣へ座った。
「お待たせ。あの依頼以降だから、二週間位は経ったわよね。全く、貴女達ったら何処で道草を食ってたのよ、ヘンデルで待ってたのに」
「ごめんごめん、向かっている途中にサイリスに寄ったらさ~」
ライラがマリアローズと離れてから現在に至るまでの経緯を順を追って説明する。
スキラとの出会い、ビックコッコの卵入手依頼、レプリスのバニス家でのやりとり等のミースまでの道のりをライラは楽しそうにマリアローズへ語る。時には仲間の真似をし、身振り手振りを駆使し語るライラに、マリアローズは先程までの疲れが飛ぶ程に笑いながら、この二週間程の出来事を聞いた。
「あーーっ、笑った。相変わらずね、うちの旅団って」
「あははっ、やっぱりそういう感想になるよね~」
「ふふっ、その可愛らしい新人君に会うの楽しみだわ。スキラ、だっけ?」
「うん、スキラ。まだ旅に慣れていないだろうからマリアにはスキラの様子、たまに気にかけてあげて欲しいんだよね」
「相変わらず優しい副団長様ですこと。勿論了解よ」
自分が入団した際もライラやギンジが気にかけてくれていた事を、マリアローズは思い出しながら承諾する。言われなくてもやっていただろうが、可愛い子にお願いされてはマリアローズは断れない。腕を横に伸ばし隣に居るライラを引き寄せ抱きしめる。
「あぁ~~~~、もう相っ変わらず可愛いんだからっ! 抱きつかせなさいっ」
「もう抱きついてるじゃん」
「仕方がないわよ、今の内にライラ萌え成分補給しなきゃだもの」
「えぇ? 何それ?」
「可愛い子からしか摂取出来ない成分よ。うちの旅団、女子はアタシらだけだし」
「あははっ、まあねぇ~。でもマリアと二人きりでこうやってお風呂に入ったり、深夜にこっそり二人だけでこっそりお喋りするのも楽しいと思うけどなぁ?」
「ふっ、そうね。そういう意味では二人が良いわね、独占出来るし」
互いに顔を見合わせクスリと笑い、女同士の秘密の会話を交わす。ライラとマリアローズの関係は、ミシラバ旅団の中でも同性ならではの相談や話題を出来る相手であり、大切な仲間でもあり、歳の離れた友人でもあった。
「ねぇ。もっとそのスキラって子の話とか、私が合流するまでにあった事とか詳しく聞かせてよ?」
「うん! マリアも離れてた間の話教えて?」
「んーそうねぇ、ならとりあえずヘンデルの酒場で出会ったナンパ男の話からしようかしら」
「え、何それ。気になる!」
「ふふっ、あれはね――――――」
マリアローズがこそりと耳打ちする様にライラへ囁く。
久々に再会した乙女たちは暫しの間、思い出話に花を咲かせるのであった。
やっとマリアローズを登場させられました、長かった……。
まだスキラとは会えていませんが、彼女と出会った時のスキラの反応が楽しみですね。
次回、スキラのサプライズ歓迎会です。食テロ回です。
そして次で【第2話】終了です、お楽しみに!