表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇石奇譚  作者: 紫藤まり
【第2話】 冒険のはじまり
16/23

2-4(旧: 016)

更新!

今回はスキラも出てきますよ。


説明が多かったり次話の都合等あって少し文字数が多い回が続いていますが、ゆっくり読んでいってくださると嬉しいです。それではどうぞ!

 結局グラズとクロトがライラ達と合流したのは、待ち合わせ予定時間を十分程過ぎてからのことであった。


 スキラ達がいる方向とは反対方向のとある路地裏にて、頬を膨らませ腕を組み仁王立ちしているライラに二人は慌てて謝罪する。


「おっそーーーーいっ!!!!」

「すまん! 遅れたっ!」

「ごめん、遅くなってっ!」

「ほっほっほ、待っておりましたぞ」

「悪い悪い、これ買ってたら遅くなったんだよ。ほれ」


 買ってきたシフォンケーキをライラとギュンターに見せる。先程まで頬を膨らませ怒っていたライラはブルーベリーのシフォンケーキを目にした途端、頬の膨らみはなくなり笑みを浮かべ機嫌が少しだけ良くなる。


「ふーん……? まあパーティーにはケーキが必要だったし美味しそうだから許すけれど、早くしないと本当に旅支度間に合わないよ?」

「そうですなぁ。ギンジ殿にスキラ殿を任せているとは言っても、時間に限りはありますからなぁ」

「時間短縮の為にも、僕がいつも通り【影狼(かげろう)】で荷物移動しておくよ。だから何か追加分あったらここに持ってきて」

「分かった。後はよろしくね」

「ん。任された」


 ミシラバ旅団は食事量が多いのもあり、常に食料品を買う量が多い。他の旅団の様に馬車を使っているのであれば、馬車ごと街に入り荷物を乗せる事が出来るが、ミシラバ旅団の移動手段である【奇動車(ジョセフィーヌ)】はサイズが大きく街中へは入れない。その為、日頃は荷物を簡単に運べるクロトの奇石能力【影狼】を使い、【奇動車(ジョセフィーヌ)】へと運んでいた。


「あ、後プレゼントはこれね」

「このじじいのもお願いしますぞ」

「これも宜しくな、適当に隠しておいてくれ」


 ライラは鞄の中から、小さな模型サイズになった【奇動車(ジョセフィーヌ)】をクロトへ手渡す。そして手に持っていたプレゼントもクロトへ預ける。ライラの動きに合わせギュンターとグラズもプレゼントをクロトへ手渡す。


「分かった、適当に隠しておくよ。僕、戻ったついでにプレゼント用の救急キットも作ってきていい?」

「おう、良いぞ。俺らはその間に本来の旅支度だな」

「だね~。とりあえず三人で食料品の買い出しに行っちゃおっか。グラズに任せておくとお酒かお酒のつまみしか買ってこなさそうだし」

「ほっほっほ、そうですな。では食料品を買ったらここに戻ってきますので、クロト殿よろしくお願いしますぞ」

「了解。ある程度片付けたらまたここに戻ってくるよ」


 軽くこの後の流れを打ち合わせをした四人はそれぞれ行動を開始する。クロトは荷物移動へ、三人は食品の買い出しへと向かうのであった。







 スキラとギンジの二人がグラズ達と合流したのは、それから一時間程後の事だった。

 待ち合わせ場所である街の広場の噴水前へとやってきたスキラは、見慣れた三人と一匹へと近づき声をかける。


「ライラ、皆さん!」

「団長達、無事買い物終わったかにゃ?」

「ああ。食品はとりあえず買ったぞ」

「私達も雑貨は一通り買えたよね、ギュンさん」

「ほっほっほ、ですな」


 買い物をしてきたと言う割に手荷物一つないミシラバ旅団の団員達に、スキラは荷物を何処へやったのか疑問に思い質問すると横に居たギンジが素早く答えた。


「あれ、皆さん荷物は?」

「それならきっと、クロ助の奇石能力(きせきのうりょく)影狼(かげろう)】で運んだのにゃ」

「かげ、ろう?」


 スキラは今のところギュンターが使用した【空想世界のひと時(メルヒェン)】しか、ミシラバ旅団の具体的な【奇石能力】を見た事や聞いた事は無い。実際はそれすら何だかよく分からない間に、大空のど真ん中に放り出された様な気分を味わっただけな為、スキラにとって未だにミシラバ旅団の【奇石能力】は謎に包まれていた。


「……簡単に言うと影を使った能力だよ。その中の【影狼・移の壱(かげろう・いのいち)】っていう影を移動出来る能力で、僕らの買った荷物を【奇動車(ジョセフィーヌ)】へ運んだだけ」

「影を移動……そんな能力があるんですね……」

「そそ。だから荷物が無いだけだよ~」

「便利で良いんだよな、【影狼】って」


 ――――――影を移動できるなんて、なんてカッコイイ能力なんだろう。どうやって移動するのかな?


 クロトの奇石能力【影狼】。初めて聞くその言葉と内容に、スキラは能力を想像し心を弾ませる。同じ旅団にいるのだからいつか見る機会があると思うだけで、スキラはまだ知らない世界を知る様で心が躍った。


「確かにミシラバ旅団の能力の中だと、クロ助の能力が一番便利で皆の役に立つのにゃ」

「ほっほっほ、名前もカッコイイですしなぁ」

「……ギュンさんまでからかわないでよ」


 クロトは気まずそうに呟き、そっぽを向いた。雑談で盛り上がっているとライラはパンパンと手を叩き、自分に注目する様に促しこれからの流れを説明を始めた。


「さて、これからの流れを説明するね。流石にその荷物も重いだろうし、スキラの旅支度で買った物は一度クロに置いてきて貰って、その間にグラズとスキラは<長靴(ながぐつ)()いた猫亭(ねこてい)>に行って、【旅団員証(りょだんいんしょう)】を申請して発行して貰ってきてね。その後はまた【奇動車(ジョセフィーヌ)】で移動だよ」

「では、吾輩も一緒に<長靴を履いた猫亭>に行くのにゃ。挨拶もしておきたいのでにゃあ」

「じゃあギンにこの二人の事は任せるね。で、その間に私は手紙を出しに郵便屋に行ってくるよ」

「ほっほっほ。ではこのじじいがライラ殿のお供をしましょう」

「僕も荷物すぐ移動させて、ライラと行くよ」

「了解。再集合は一時間後にここな、んじゃ解散!」


 グラズの一言でクロト・ライラ・ギュンターは先程までスキラとギンジが持っていた荷物を受け取り、何処かへと三人で向かって行った。残されたスキラ・グラズ・ギンジの三人も、ミースにある<長靴を履いた猫亭>を目指し歩き出した。




 ◇




 ――――――やっぱりミースでも同じ看板なんだ。


 スキラが知るサイリスにあった<長靴を履いた猫亭>と同じで、長靴を履いた二足歩行の猫のモチーフが描かれた看板が三人を出迎えた。同時に大きな規模の店ならば大抵何処の街でも、同じ看板の同じ店があるという事を、スキラが初めて知ったタイミングでもあった。


 支店の規模としては二階建てでサイリスの1.5倍程の広さを有していた。店の内装はサイリス同様酒場として運営されており、昼間にも関わらず旅人や商人達がテーブルを囲い、酒を飲みかわし情報を交換を行っていた。


「にゃにゃ、いらっしゃいなのにゃ」

「にゃにゃにゃ! ギンジ殿なのにゃ、久しぶりなのにゃ」


 三人が中へ入ると近くに居た二匹の猫人族が挨拶をし出迎えた。その内の一匹の縞模様の美しい猫人族が、ギンジへ親し気に挨拶を交わす。


「久しいのにゃ、シマ。今日はミシラバ旅団として来たのにゃ」

「なら、シマが担当するのにゃ。こっちのテーブルにどうぞだにゃん」


 シマはそう言って二階の見晴らしの良い席へ案内する。


「ミシラバ旅団御一行様、<長靴を履いた猫亭・ミース支店>サブリーダーのシマですにゃ。本日は何用ですかにゃ?」

「今日はコイツの為に、ミシラバ旅団の新しい【旅団員証】を作りにきたんだが」

「成程ですにゃ。では今書類をお持ちしますのにゃ」

「シマ、ついでに"猫亭(ねこてい)特製キウイソーダ"も三人分宜しくなのにゃ」

「はいなのにゃっ!」


 元気の良い返事をし、シマは階段を駆け降りていく。スキラはギンジが注文した物が何か分からず、シマが離れたタイミングを見計らい質問する。


「ギンジさん、"そーだ"って何ですか?」

「やはりスキラは飲んだことがないのだにゃ? そう思ったので人数分頼んだのにゃ。ソーダというのは普通の水やお茶と違って、シュワシュワで美味しい飲み物なのにゃ」

「炭酸って言ってな、それが入ったドリンクだと爽快感がちげぇんだよ」

「は、はあ……?」


 シュワシュワで爽快感。その言葉からは"ソーダ"と呼ばれるものが何なのか想像も出来ず、スキラは商品の到着をただ待つことにした。暫くするとトレイに人数分のドリンクを乗せた一匹の猫人族が、素早くも慎重に階段を駆け上がり商品を運んできた。


「猫亭特製キウイソーダ、三人前お持ちしましたにゃ。どうぞですにゃ!」

「お、来たな」

「シマさんが今書類の準備をしているので、これを飲みながら待っててほしいのにゃ」

「承知したのにゃ」


 スキラは受け取ったガラス製のグラスに入ったドリンクをじっと見つめる。黄緑色の液体の表面に泡がプクプクと浮かんでくると、パチパチと弾けシュワシュワと音を立て消えていく。その様子をじっと見つめるスキラに、ギンジが声をかける。


「見ていても始まらないのにゃ。乾杯して飲むのにゃ」

「だな。ほれ、持て」

「あ、はいっ!」

「「「乾杯(ですにゃ)」」」


 三人はをカツンとグラスを軽く合わせ、それぞれにドリンクを楽しんでいく。ぐびぐびと喉を鳴らす様に飲むグラズと味わう様に飲むギンジの横で、スキラは覚悟を決め一口目を飲む。


 ――――――キウイは分かるけれど、"そーだ"って本当に何なんだろ……。何だかよく分からないけど飲んでみるしかない!


 口に含むとキウイの風味と同時にパチパチと弾ける様な刺激を感じ、ゴクリと飲み込む頃にはさっぱりとした爽快感がやってきてスキラは初めて体験する未知の刺激と味に驚く。


「なんですかっ!? このパチパチ口の中で弾けているのはっ!」

「それが"ソーダ"というものですにゃあ」

「これはキウイソーダだが、他の果物や酒もこのソーダで割って飲むって飲み方もあるぞ」

「そうなんですね。これがソーダ……美味しい……」


 スキラは初めての刺激的な飲み物に感動しながら、残りのキウイソーダも大切に飲んでいった。三人はキウイソーダを飲みながら雑談をし、書類を用意しているであろうシマを待った。


 暫くして書類を持ったシマが階段を素早く駆け上がってきた。


「お待たせしましたにゃ。書類の準備をしてきたので此方にサインとその横に血判を押してほしいのにゃ。ペンとナイフはこれを使うのにゃ」

「おい、名前は書けたよな?」

「名前だけなら何とか……」

「スキラ、困ったらいくらでも聞くのにゃ」


 シマが持ってきた書類を受け取り、内容を確認しようとする。書類に書かれた内容は【旅団員証】を発行するにあたっての注意点や心得等が丁寧に書かれていたが、読めない字が多く何と書いているか分からないと伝えると、ギンジはスキラにも分かる様に説明を始めた。


「うーん……? これ、なんて書いているのですか?」

「簡単に説明すると【旅団員証】を発行するにあたっての注意点が書かれているのにゃ。紛失したらすぐに近くの<長靴を履いた猫亭>へ相談しなさいとか、そんな事が書いているのにゃ」

「後は旅団を辞めたい時の返還方法とかだったよな」

「そうですにゃ。でも基本的には同じ旅団に所属し続ける限りは、無くさなければ大丈夫という話なのですにゃ。【旅団員証】は<長靴を履いた猫亭>で発行される物、何か困った事があれば<長靴を履いた猫亭>に来て聞けば教えてくれるのにゃ」

「成程……?」


 スキラの様子を見て、シマが説明を更に付け加える。


「ギンジさんの言う通りなのにゃ。後は悪いことに使ったらダメですにゃって事が書いているのですにゃ」

「シマの言う通り、悪用する悪い奴は捕まるだけなのにゃ。そして永遠に不便な生活をすることになるけれど、スキラはそんな事する様な子じゃないから心配は要らないと思うのにゃ」

「そ、そうなんですね」


 極稀に<長靴を履いた猫亭>が発行した【旅団員証】で悪事を働こうとする者がいるが、すぐに悪事がバレて衛兵に逮捕される者がいる。そして罪を犯した者は<長靴を履いた猫亭>への永久出禁を食らい、【旅団員証】を回収される。


 スキラの様に【旅団員証】が無い状態でも、他の街や国へは行けると思われがちだが実際は異なる。

 スキラが住んでいたレプリスや近くのサイリスの様な小さな街では身分を調べる文化は無いが、大きな街に行けば行く程、街へ入る際に門番から身分証の提示を要求されることが多くなる。ちなみに旅団に属さない者は、自分が住んでいる街の役場で旅先への【入国推薦状(パスポート)】というものを発行してもらう事により、その国や街への入国が可能となる。


 身分を証明する【旅団員証】や【入国推薦状(パスポート)】。それはその街に住む人々を守る為の自衛手段でもあり、怪しい旅人を通さない為に行われている処置であった。そして旅人側からすれば己の身分を唯一他人に証明してくれるものであり、<長靴を履いた猫亭>が当人と直接面談し、認めた者にしか発行されないものであった。


 その為、【旅団員証】というのはある意味"信用に足る良き旅人"である保証の意味も含まれている。それを失えば他国への入国・もしくは大きな街は出入りすら出来ず、今まで受けれた依頼や取引は全て断られ無くなる為、基本悪事をする者は少ない。<長靴を履いた猫亭>を敵に回すのは、<長靴を履いた猫亭>がある場所では生きていけないのとほぼ同義であるからだ。


「内容はそんな所にゃ。後はここにサインと血判を押すだけなのにゃ」

「は、はいっ」


 スキラは空白の署名欄に自分の名前を書き、用意された小型のナイフで左手の薬指の先を切り、名前の横に血判を押す。


「これで書類は終わりなのにゃ。この面談はテストも含まれてたけれど、スキラ殿は合格ですにゃ」

「え、これってテストだったんですか!?」

「一応にゃ、怪しい人には発行しちゃ駄目だからにゃあ。後は【旅団員証】が出来上がるまで30分程待っててほしいにゃ。これからミシラバ旅団の模様を【旅団員証】へ彫り込むのにゃ。普通の【旅団員証】はそこまで時間がかからないけれど、ミシラバ旅団用のは特殊加工する様に決まっているのでお時間を頂くにゃ」

「まあ後は気長に待ってりゃ良いだけの話だ」

「そうですにゃ。吾輩達はこの美味なキウイソーダでお茶会をしてゆっくりと待てば良いだけですのにゃあ」

「【旅団員証】が完成したら持ってくるので、それまでゆっくりしていってにゃ」


 そう言ってシマは書類と共に一階へと降りて行った。残された三人は【猫亭(ねこてい)特製キウイソーダ】を飲みながら、スキラの【旅団員証】が出来上がるのを待った。



 それから30分後、スキラ用の【旅団員証】をグラズが確認し受け取り、三人は<長靴を履いた猫亭>を後にした。







 ライラとギュンター、そして荷物を早々に運び終えたクロトは郵便屋へと向かっていた。


「……郵便屋で手紙でも出すの?」

「うん。それもあるけど、いつもの手紙が来ていないかチェックも含めてね」

「ほっほっほ。以前郵便屋へ寄ってから一ヵ月程経っていますから、今回も量が多そうですなぁ」


 この世界の郵便物は主に各地に点在する<郵便屋・ハニーレター>で管理されている。利用したい者は街にある郵便屋に赴き、一定の料金を支払えば手紙を送る事が出来る。荷物の場合は、郵便屋ではなく荷運び屋の仕事となる為、紙に書かれたメッセージのみを扱っている。そして郵便屋では手紙の受け取り・送るだけではなく、文字が分からない者の為に代筆業務も行われていた。


 郵便屋の扉を開くと、カウンター前の受付嬢が挨拶をする。


「いらっしゃいませ、<ハニーレター>へようこそ。本日は如何しましたか?」

「今日は手紙の受け取りと、この手紙を出したくって」

「承りました。お持ちの個人登録済みの【奇石メモリ】があればそれの提出を、無ければ名前・もしくは旅団名を教えてください」

「はい、これでお願いします」


 ライラは鞄の中から小さな収納ケースを取り出す。ケースをそっと開け、その中から【奇石メモリ】と呼ばれる小さなスティック状になった【奇石】を取り出し、受付嬢に提出する。


「ミシラバ旅団様の欠片ですね。ではまず此方から手紙を受け取り下さい」


 受付嬢は【奇石メモリ】を受け取ると、カウンターに設置されている長方形の箱の様な装置の窪みへと差し込む。箱型の装置は中は空洞になっており、受付嬢は一度蓋を開け中身が無いのを確認し閉じる。中身が無い事を確認してから、受付嬢は手紙の受け取りの準備を始める。


「それでは、手紙の受け取りを開始します。暫くお待ちください」


 受付嬢はそう言うと装置に差し込んだ【奇石】に手をかざし、装置を作動させる。装置が作動すると赤いランプが付き点滅し始め、赤いランプが緑色に変われば、この箱型の装置の中へミシラバ旅団宛の手紙が全て送られてきた合図であった。


「……いつ見ても凄いね、【奇石郵便(きせきゆうびん)】って」

「ほっほっほ、そうですなぁ。奇石研究の成果があればこその技術ですからなぁ」

「クロの【影狼】にも似てるよね」

「僕のは影から影にしか移動出来ないけれど、あの【奇石】は割れた対になる【奇石】の間を移動するんでしょ? しかも距離も関係ないっていう点では、僕の能力より凄いと思うけど」

「クロト殿の能力はある程度重さのある物も運べますが、こちらは基本50グラムの範囲ですし、どちらも制限がありますなぁ」

「【奇石】って不思議だよね~」


 【奇石】がこの世界に現れてから六年程経過し研究が進み、【奇石】を使った技術は様々な所で利用される様になった。この郵便技術もその内の一つであり【奇石郵便】と呼ばれている。


 一つの【奇石】を二つに割り、片方の【奇石】が送った手紙をもう片方の【奇石】が受信し、別の場所で送られた手紙を都合が良い時に受け取ることが出来るといった技術である。今では全国各地の<郵便屋・ハニーレター>で常設されており、どこの支店でも手紙を受け取る事が出来る。


 問題点は【奇石】を使う為に必要なマナの多い者でないと大量の手紙を送受信する事が出来ない事と、基本的には50グラムという重さの制限がある事のみである。50グラムの重さ制限は、手紙の送受信を連続で行う者の負担を考えた数字であった。


「すべての手紙が装置へと送られました。確認をお願いします」


 受付嬢は装置の蓋を外し、中に送られてきた手紙をライラへと手渡す。計十通の手紙をライラは一通一通宛名を確認していく。極稀に宛先間違いがある為だ。


「……ん、大丈夫。全部うち宛だから」

「それでは次は手紙を送る作業へと移行させて頂きます。何処宛の手紙でしょうか? もしくは相手先の【奇石メモリ】をお持ちでしょうか?」

「んと、この【奇石メモリ】宛に三通、こっちの【奇石メモリ】宛に一通。後、こっちの【奇石メモリ】にも一通でお願いします」


 ライラは先程のケースの中から【奇石メモリ】を三つと、鞄から手紙を五通取り出しカウンターへと置く。どの【奇石メモリ】宛の手紙か分かりやすい様に、ライラはそれぞれの手紙と【奇石メモリ】をカウンター上で仕分ける。


「此方ですね。確認します」


 一通ずつ手紙の宛先と【奇石メモリ】の金具に書かれている宛先が合っているか、受付嬢は真剣にチェックする。個人による手作業のチェックの為、郵便屋ではミスが許されない部分でもある。


「全て宛先を確認しました。もう暫くお待ちください」


 全ての宛先をチェックし、受付嬢は今度は先程とは反対の送信作業を始める。

 先程と同様に装置に【奇石メモリ】を差し込み、手をかざし装置を作動させる。一通ずつ送信する為、送る量が少なければ受信よりも作業は早く進む。全ての送信先に手紙を送り終わり、受付嬢は【奇石メモリ】を返還する。


「全ての送信作業が終わりました。【奇石メモリ】をお返しします。またのご利用をお待ちしております」


 【奇石メモリ】を受け取り、ライラはケースへと丁寧にしまう。【奇石メモリ】が傷付くと二度と対になる【奇石メモリ】へ送受信する事が出来なくなる為だ。



 郵便屋を出ると、三人は再集合場所である街の広場の噴水前へと向かう。道中、ギュンターが現在不在の団員の話題を口にした。


「そういえばマリア殿とは、何処で合流するのですか?」

「一応ミースを出てすぐにある宿塞(しゅくさい)で合流しようって話になっているよ~」


 旅人達にとって街から街への移動時に野宿以外の選択肢が存在する。それが宿塞を利用するという手である。


 宿塞とは郊外にある宿泊施設の事で、管理人に利用料を払えば誰でも利用する事が出来る場所だ。敷地内には何ヵ所か大小のテントが設営されており、テーブルや椅子、ベットも設置されている為、街の宿屋を利用するのに似ており、お金に余裕のある者は利用する事が多い。


「ではスキラ殿の歓迎会もそこで行われるのですな」

「うん、やっと全員揃うからね。楽しみだね」

「……マリアも合流するんだ……。ギンジも戻ってきたし、本格的に騒がしくなりそうだね……」


 楽しそうに会話するライラとギュンターの横で、ぼそりと少し嫌そうにクロトは呟く。彼女が合流すればミシラバ旅団の団員は全員揃う。ミシラバ旅団の団員が全員揃えば何が起こるのか知っているクロトとしては、仲間の合流を純粋に嬉しいとは思えないでいた。


「あははっ。まあクロの気持ちも分かるけれどさ。とりあえずは皆、無事にまた集まれそうで良かったじゃん」

「ほっほっほ、そうですなぁ。騒がしくはなりますが、ある意味本来のミシラバ旅団らしい雰囲気になりますしなぁ」

「……そこにスキラが交ざるとどうなる事やら……僕は不安だよ」

「大丈夫、きっと何とかなるって」


 不安げなクロトにライラは満面の笑みでそう答える。ライラとしてはスキラなら上手く馴染め、新しい関係を築いていけると思っているからだ。ライラが自信満々に大丈夫と告げれば、クロトも不思議と大丈夫な気がしてくる。


「……まぁ、うん。何とかなるか」

「きっといつも通り何かしら事件が起きるでしょうが、変わる事と言えばスキラ殿が巻き込まれる事だけですからなぁ」

「ギュンじい。事実だとは思うけれど、口に出しちゃいけない事もあると思うよ?」

「ほっほっほ。でもそう思いませんかな?」


 さらっとギュンターは、スキラがミシラバ旅団内で起こるであろう出来事に巻き込まれそうだと告げる。クロトも内心、スキラの人柄的に巻き込まれるであろうとは思っていたので否定出来ない。


「……まあ、ね」

「それでもスキラが良い緩和剤になったり、新しい絆が生まれたり、きっとうちの旅団の雰囲気もまた良い方向に変わるよ」

「ほっほっほ。全員が集まるのが楽しみですなぁ」

「だね~」

「とりあえずはグラズ達と合流しなきゃだね」


 この後のミシラバ旅団、全団員集合に三人は各々想像を膨らませる。待ち合わせ場所に着く頃には、グラズ達も<長靴を履いた猫亭>から戻ってきていた。


「さっさと行くぞ、このままだと日が暮れちまう」


 まだ昼過ぎとはいえ、これから彼らは今晩の宿泊場所である宿塞へと移動しなければならない。全員が揃うとグラズは号令をかけ、それに合わせ団員達は歩き出す。


 ――――――これから何処に行くんだろうか。


 未だ次の目的地を知らないスキラは疑問に思いながらも、とりあえず皆に歩幅を合わせ付いて行った。



 こうしてミシラバ旅団の団員達はミースを後にし、次の目的地宿塞を目指すのであった。

ミシラバ旅団、残りの団員がちらっと話題に出てきましたね。


「マリア」と呼ばれた女性は一体どんな人物なのか……。

次回へ続く!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
スキラくん、とうとう【旅団員証】ゲット!おめでとー!!(*'ω'*) <長靴を履いた猫亭>にはこれからも色々とお世話になりそうですね。 猫亭特製キウイソーダも美味しそう!ちょこちょこ美味しそうな食べ物…
[良い点] 続きを拝読しました…! 15話待っていました、プレゼント選びグラズさんとクロト君の回。そして、グラズさんが選んだ『財布』…!彼の故郷についてのくだりなど、物語として完璧すぎて私の心をぶち抜…
[良い点] こういう日常的なお話しで物語の世界観をさりげなく説明しつつ広がりを出して、次のお話しに伏線を持たせる展開! なんて素晴らしい!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ