2-2(旧: 014)
感想やレビュー、ブックマーク等、応援がパワーになり沼っていたのですが書けました。
今回はこの世界独特の用語やアイテムの説明が多い回ですので、いっぱい妄想してくださると嬉しいです。
今回の話を書いていて地名や用語等ぱっと見で分かりやすくする為に、001~013までの一部を変更しました。
<長靴を履いた猫亭>等の店の名前→< >、アイテム系やその他キーワード(奇石)等は→【 】とさせて頂きました。
修正されていない箇所、ミス等ありましたら、そっと教えて頂けると嬉しいです。
それではどうぞ!
スキラとギンジが靴を探している頃、ライラとギュンターの二人は雑貨を売っている店へ向かっていた。道中、彼らはとある"秘密の計画"について話し合っていた。
「ギュンさんは決めた? スキラへのサプライズプレゼント」
「ほっほっほ、スキラ殿が喜ぶかは分かりませんが、今回は日記やノート等の文房具にしようかと」
「え、良いじゃん! きっとスキラなら毎日日記付けてくれるよ~」
「ライラ殿は何にするのですか?」
「うーんとね、鞄と携帯用の【奇石ランタン】かなって思ってるよ~」
二人が話し合っていたのは"スキラへのサプライズ歓迎会"で渡すプレゼントの相談だった。
実は事前にスキラを除く団員にはライラから一つの通達がされていた。『全員、新しい団員スキラへの入団祝いを用意するように!』と。それはその場で不在だったギンジやもう一人の団員にも、手紙で通達されている。
ミシラバ旅団では必ず新しく入団してきた団員には最初に贈り物をするというルールがある。そのルールを作ったのはライラで、ギュンターが入団する際に『折角一緒に旅を始めるなら、何か記念になるものがあったら良いよね』という一言から始まり、今も新しい団員が入る度に行われているのであった。
「きっとスキラ、値段見たら一番安い鞄買いそうだからさ。ちゃんとこれからの旅でも壊れない良いやつ買ってあげよっかな~って」
「ほっほっほ、確かにスキラ殿なら値段に驚きそうですからなぁ。きっと今頃、靴の値段に内心悲鳴を上げているのではと、このじじい心配しておりますぞ」
「まあきっとギンならその辺り上手くやってくれてるよ。その為に任せたところもあるし」
「そうですなぁ。では此方はまず鞄から見に行きましょうか」
「行こ行こ~」
値段に驚き卒倒しそうなスキラを思い浮かべ、苦笑しながら話している内に二人は目的の店の前へと辿り着いた。ミースの中でも一番商品数が多いと言われる鞄の専門店へとやってきた二人は、壁や棚に並ぶ商品をじっくりと見比べる。
鞄と一言でいっても種類や材質は様々で形だけでも、リュックタイプの物から斜め掛けのショルダータイプの物、腰に付けるウエストタイプの物等。材質も革で作られた物や帆布で作られた物等、様々である。そこからポケットの数や内容量等の利便性、色合いやお洒落さ、職人や卸している商会次第でも、値段や質はピンキリである。中にはスキラ本人が居れば、絶対値段を見たら触る事すらしないであろう金額の物も存在する。
「うーん、まずは形だよね。どのタイプが良いかなぁ」
「スキラ殿の荷物量を考えると斜め掛けでも良いかもしれませんな」
「そうだね、使いやすさとか考えるとこの辺りかな?」
ライラが選んだのは、なめし革で作られた斜め掛けの蓋付きタイプのショルダーバッグであった。大きさもそれなりにあるが縫製もしっかりしており、軽くて丈夫なその鞄を手に取り、細かく仕様を確認していく。
中は数ヵ所に内ポケットが存在し、そのポケットの一つにはチャックが付いており、貴重品を入れるスペースもしっかりとあった。蓋の被さる正面部分にも中くらいのサイズのポケットが二ヵ所付いており、収納力も抜群であった。
「お客様、その鞄は<ティグリス商会>から取り寄せている当店でもオススメの旅人向けの鞄ですよ」
二人の様子をレジカウンターから窺っていた若い男の店員が、商品の説明をしに近付いてきた。
「ティグリスって確か皮製品を取り扱っている大きな商会ですよね?」
「そうです、そのティグリスです。うちでも値は少し張るけど人気ですよ」
<ティグリス商会>とは200年程続く革製品に特化した商会である。全国各地にティグリス商会が好意にしている牧場から上質な皮を仕入れ、商会の加工場で丁寧に加工し、商会が運営する旅団にて各地へと運ばれ販売されている。加工技術が良く丈夫で高品質、シンプルなものから型押しにより模様付けされた物を作る技術や染色技術に優れている為、老若男女問わずに長年愛される商品を今も生み出している。
「その鞄、本当に良いですよ。高山に生息するターニ牛の皮をなめしていて、丈夫だし軽くて柔軟性もあるから長く使えて壊れにくい。勿論革製品だから使い込めば皮の変化も出てくるから、使い込んだ人の個性も鞄に出てきますしね」
「<ティグリス商会>で卸している他の鞄はありますかな?」
「ああ、はい。同じタイプのと近いの何点かお出ししますね」
男性店員はそそくさと店の裏に在庫の確認へと赴き、<ティグリス商会>の商品を何点か持ってライラ達の元へと戻ってきた。
「えーっと今あるのならこんな感じですね。リュックタイプの物が3点程と、ショルダーの同じサイズの物は先程お客様が見られていた物と此方の物ですね。大きさが小さくても良ければ他にも何点かありましたが」
「こっちのショルダー見せて貰っても良いですか?」
「はい、どうぞ。此方は先程の色違いですね、中の作りも一緒な筈です」
ライラが店員から受け取ったのは先程のショルダーと色違いの物だった。最初に見ていたのは濃いダークブラウンの物で、今受け取ったのは先程の物よりも明るい色みなキャメルであった。
「うん、こっちかな」
「おや、決まったのですかな?」
「これスキラに似合うかなって思うの、どうかな?」
キャメル色の斜め掛け蓋付きタイプのショルダーバッグを、ライラは両手で持ちギュンターに見せる。目をキラキラさせ嬉しそうにしているライラに、ギュンターは優しく微笑む。
「ほっほっほ。良いと思いますぞ」
「お嬢さんが使うんですか?」
「ううん、うちの新しい団員へのプレゼントなんです」
「成程、ならこの鞄は最適ですよ。鞄なんて安けりゃいいと言う人もいますが、これは値段も張るがしっかりしている分、長くその人の近くで必要な物を持ち運べるし、愛着も湧きやすいと思います。きっとその新しい団員さんも喜んでくれますよ」
「ありがとうございます! これにします」
「畏まりました」
ライラは自分のショルダーバッグから財布を取り出し、金額を確認し支払いをする。その金額は16,500リル程したが、ライラはその金額に驚くことは無くお菓子でも買うかの様に購入をした。スキラからすれば仰天の金額だが、『身を守る物や身に着ける物にはお金をかけてでも良い物を買った方が良い』というのが旅する者にとっては必須だと、旅人の間では言い伝えられている。
その為、ライラとしてはこの金額でスキラが旅を安全に楽しめるのなら安いものであったし、実際にライラはそれをすっと払えるだけの財力はあった。勿論、全てミシラバ旅団で依頼をこなした際に頂いた報酬であり、ライラの取り分のお金である。
「お客様、これから他にも何か探しに行くんですか?」
「文房具や【奇石道具】を買いに行こうかなって話していまして、何処か良い店を知っていますか?」
「なら、うちを出て左に三軒程行ったところにある道具屋が良いですよ。あそこなら大抵の雑貨は揃うし、変わった物も置いているから【奇石道具】も少しは入荷していると思いますよ」
「ほっほっほ。では次は其方に行きますかの? ライラ殿」
「うん、そうだね。お兄さん、良い商品紹介してくれてありがとうございます」
「いえいえ、此方こそご購入ありがとうございました。送り主も喜んで下さると良いですね」
優しい言葉と共に包装された商品を受け取り、ライラとギュンターは店を後にした。
◇
次に向かったのは先程の青年が教えてくれた三軒程先にある雑貨屋である。
雑貨屋と一言で言っても、街や店ごとに置いている商品が異なる事が多い。その理由は入荷経路の問題もあるが、わりとなんでも屋の気質もある店も多いからだ。大きな都市ほど専門店というものがある場所も多くなっていくが、小さな町ほど店の数は減り専門性は減っていく。個人が経営している店程それは顕著に表れており、需要があれば何でも仕入れて置くという店も少なくはないのが理由であった。
「ほっほっほ。この店は何でもありそうですなぁ」
「あ、これ珍しいよね。この茶器も石鹸も、東の方の物だよね」
「中々に変わったものまで仕入れていそうですな」
そしてこの雑貨屋も個人店であり、専門店というよりは何でも屋の気質があった。一般的な日常生活に使いそうな雑貨から、【奇石道具】や専門性のある道具等、雑多に並んだ棚を二人は見て歩く。
「あ、この辺り、文房具じゃない?」
ライラが指さす方には書籍と文房具が並ぶ棚があった。
「この万年筆、中々にお洒落ですなぁ」
「これ、螺鈿装飾だね~。珍しい」
「ほほう……、とても美しいですな」
「光の当たり方によって見え方が違うのが素敵なんだよね」
二人の楽し気な会話が聞こえたのか、店主の老婆が二人の元へとやってくる。
「あら、お嬢さん。詳しいんだねぇ。これはお嬢さんが言う様に螺鈿さ。変わり者のうちの爺さんが好きでね、仕入れているんだよ。この辺りでは中々見ないものだからプレゼントにオススメだよ」
「ほっほっほ。マダム、この螺鈿の物は他にもあるのでしょうか?」
「あら、マダムだなんてありがたいねぇ。ちょっと待ってておくれ。昨日仕入れたのがまだある筈さ」
店主の老婆は商品の在庫をしまっている引き出しから、何個か木箱を取り出す。その中には一点ずつ違った螺鈿細工が施された万年筆が収まっていた。
「この辺りかねぇ、うちに今あるのは。値段もするしこの辺りだと中々売れないから、あまり仕入れてないんだよね」
「おや、これは……」
「あら、それが好みですかい? それは貝片に特殊な青い樹脂を掛け合わせた物だよ。細かい金装飾と青の色味が美しい一品だよ」
「確かに海みたいで綺麗だね、ギュンさん」
「そうですなぁ」
ギュンターが手に取った木箱に入っていたのは青い万年筆だった。光の当たり加減で浅瀬の海の様に淡いエメラルドグリーンにも見え、深海の様に暗いディープブルーにも見えるその万年筆にギュンターは一目惚れした。
「スキラ殿に似合いそうな色ですなぁ」
「だよね、良いと思う!」
「インク瓶もだけど、手帳や本もあるから一緒にどうだい?」
「そうですなぁ、オススメを教えてもらっても良いでしょうか?」
「はいよ。じゃあまずはあの辺りから……」
そう言って老婆は店内のオススメ商品を一通り紹介すると、『ごゆっくり選んでくださいな』と言って一度レジ前のカウンターにある椅子へと戻っていった。
二人はオススメされた中から商品を吟味していく。インク瓶は手頃な量のもので使いやすい物に決め、他にどんな物が良いかと文房具系の棚を二人で眺めあいながら相談する。
「ふむ……スキラ殿には黒板も良いかも知れませんな」
「もしかしてスキラに勉強を教える為?」
「そうです。これからの旅、移動時間は沢山ありますし、スキラ殿にはもう少し教養を身に着ける必要があるのではないか、とミースまでの旅路で思っていたのです。文字は一応一通り読めると言っていましたが、書けるかと言われると怪しそうでしたし、計算だけじゃなく歴史や地域の事も知っておいた方が今後良いこともあると思うのです。その時、簡単に何度も書いて使える物も良いかと」
「確かに黒板なら嵩張らないし、何度も使えるもんね。それにスキラの事だから、私たちが居ないところで何かに巻き込まれたりしそうだし、色々知らなさそうだから教えれる機会に教えるのはありだよね~。」
「ほっほっほ、スキラ殿はトラブル体質の気配がしますしなぁ」
「あ。これなんてどうかな?」
ライラは側面が木製のフレームになった黒板をギュンターへと見せる様に手に取る。先程ライラが購入した鞄にも入り、大きさも申し分ない。ギュンターはその黒板に合わせて使えるチョークと布がセットになった物を手に取る。
「良いですなぁ。このチョークと布も合わせて買っておけばある程度、買い足さずに使えそうですな」
「それ良さげだね、セットになってるし」
「後は日記帳が欲しい所ですな」
「日記?」
ギュンターはそう言って日記帳を探し始める。
「日記を付けるのは良い文字書きの練習になりますし、彼が憧れていた冒険です。折角ならば記録を残せるほうが良いかと」
「そっか、何気ない日常も記録出来るし良いかもね」
ギュンターは手帳や日記帳が並ぶ棚から、スキラに似合いそうな日記帳を探す。これからのスキラの冒険を綴る為の日記帳な為、少し立派な装丁でお洒落でありながら便利でスキラが好みそうな物をとギュンターは考えながら商品を一つずつ見ていく。その中でも一冊目に留まった物があり、ギュンターはじっくり商品を見る。
「ギュンさんが持っているその日記帳。私、色好きだな~」
「ライラ殿も此方が気になりますかな?」
ギュンターが手にしていたのは、空色の表表紙に『Diary』の文字が金箔押しで記されており、裏表紙には葉っぱの模様が同じ様に金箔押しされた、クラシックで重厚感のあるデザインの本タイプの物だった。そして中のページは罫線のみ印字されただけで、シンプルで使いやすい作りとなっていた。
「何処か見覚えがあると思えば、有名な【アルティスナイトの英雄譚】に似ていますな」
「そう言われれば、確かにそうかも」
【アルティスナイトの英雄譚】という書籍は有名であると同時に、幾人もの手によって書かれ様々な装丁やタイトルで出版されている。その中でも一番有名なのが空色の装丁であり、著者:アウル ・キイスの【アルティスナイトの英雄譚】であった。
沢山の【アルティスナイトの英雄譚】が出版される中、巷では彼が書いたものこそが最初に出版されたものであり、実際起こったであろう真実に近い内容だと言われている。彼が描いた作品があまりにも売れる為、それを真似て他の【アルティスナイトの英雄譚】絡みの本が書かれたとされている。
アウル自身が書いた【アルティスナイトの英雄譚】の信憑性について語る事は滅多にない為、何処までが実際に起きた出来事であるかは不明だが、彼に唯一インタビューをした記者によれば『これはフィクションで濁している部分もあるが、間違いなく実話だし本人達に許可も取って書いたものだ』と語っていたとされている。
スキラが持っている物は児童向けとして編集され【アルティスナイトの英雄譚】を大分マイルドにファンタジー寄りに書かれたものである為、アウル ・キイスが綴る内容とは異なるものである。だが違いがあるとはいえ、スキラがこの物語を好きな事はギュンター達にとって周知の事実であった。
「スキラって冒険譚好きって言ってたし、自分で綴るのも冒険譚っぽい表紙だと嬉しいかもね」
「そうですな。これならばスキラ殿も気に入ってくれるかも知れませんな。プレゼントはこれにするとしましょう」
様々な商品を見た上でギュンターはスキラへの初めてのプレゼントとして、青い万年筆、インク瓶、空色の日記帳、黒板、チョークセットを購入する事に決めた。
ギュンターの購入品が決まったところで、ライラが【奇石道具】を見たいと告げる。
「じゃあ、会計の前に私の探し物も見て良い?」
「ほっほっほ、そうでしたな。ライラ殿が探しているのは携帯用の【奇石ランタン】でしたな」
「うん。あれ一個あると夜道も便利だし、メンテナンスも基本要らないしね」
一般的なランタンというのは、蝋燭や油に漬けた芯が使われた物が一般的である。暗闇を照らす便利な道具でもあり、野宿をしがちな旅人には特に必須なアイテムであった。
ランタンを使用する際には、蠟燭か燃料となる油が必要となる。どちらも燃えて灯りを生み出す為、高温による火災や火傷の危険、その他に密閉空間で使用した際の一酸化炭素中毒による潜在的な危険を伴う部分もある為、使用には十分に注意を払う必要がある。
それらの可燃物を一切不要とし、安全とされるのが【奇石ランタン】であった。
【奇石ランタン】とはその名の通り、奇石を使ったランタンである。ランタンとしての形状はほとんど変わらないが、本来蝋燭や油に漬けた芯がある中心部分に、マナ水に欠片状の奇石を数個ほど入れ、卵型や縦長等に固めた物を配置している。使用する為に必要なものは体内を巡るマナだけであり、灯りを望み一度奇石部分に触れるだけで使える【奇石道具】であった。
大体の者であれば、一晩灯りを点け続ける事は可能であり、個人のマナ量に囚われず使用出来るのが一般販売されている【奇石道具】の便利とされている点でもある。直接触れてもほんのり暖かさを感じるだけで火傷をする事は無い。現状唯一のデメリットといえば、体内のマナが枯渇すると使えないという点のみであった。
「さて、どんなのが良いかなぁ」
「一番シンプルな物ですとこの辺りでしょうかな?」
ギュンターが手にしたのは卵型の【奇石ランタン】であった。手のひらサイズの卵型に樹脂で包まれた奇石が上下に伸びるフレームで固定されており、フレームは上下のカバーへと繋がっている。カバー上部には持ち手が付いており、カバー下部には光量を調整する為の摘みが付いた台座となっている。
「卵型のやつってコロンとしたデザインで可愛いよね~」
「このじじいが持つタイプの物も置いていますなぁ」
「ギュンさんのは円柱みたいになっているやつだもんね」
「卵型より大きくはなりますが、昔使っていたランタンの形に似ていたので使っておるのですよ」
「ランタンの形って好みあるもんね」
ライラは商品棚を見つめ一つずつ気になった物を手に取り、細部を確認していく。先程ギュンターが手に取った物の様に、光量を摘まみで調整出来るタイプの物から、カバーを被せ普段はランタンに見えないタイプの物、昔ながらのランタンらしい形をした物等、便利で利用者が多いからこそ種類は豊富であった。
「やっぱり色々あると悩んじゃうね」
「ほっほっほ。ライラ殿が好きだと思う物をあげれば、きっとスキラ殿は喜ぶと思いますぞ?」
「うーん、そうは言ってもやっぱり悩んじゃうよね。贈り物な訳だし」
「ライラ殿らしいですなぁ」
ライラの真剣に選ぶ姿を見て、ギュンターは初めてライラから団員になった記念にと貰った懐中時計を思い出す。きっとこの少女は自分の時もこうやって真剣に選んでくれていたのかと思うと、その姿が嬉しくもあり微笑ましくもなっていた。勿論ギュンターはその時貰った懐中時計を、普段は胸ポケットにしまっているが大切に利用している。
「…………あ、これマグ・メル・ラタンで作られたやつだ」
「ほほう、この辺りで見かけるのは珍しいですな」
ふとライラが手に取ったのは先程と同じ卵型のコンパクトな物で、底面には『地底の灯』と販売元が刻印がされていた。《地底の灯》とは奇石ランタンを専門に作る店で、その店がある場所がマグ・メル・ラタンという都市だった。
「マグ・メル・ラタンはライラ殿の故郷でしたな」
「うん、私にとっては第二の故郷みたいな場所で大切な場所だよ。《地底の灯》の職人さんも知っている人なんだよね」
「では、折角ですし此方にされては如何ですかな?」
「確かに良いかも。マグ・メル・ラタンで作られた【奇石ランタン】は有名でもあるし」
「ほっほっほ。ランタンが名産品の街でしたな、あそこは」
「常に暗いからね、あの街は」
マグ・メル・ラタンとは、知る人ぞ知る都市であり特定の行き方でしか行き来する事が出来ない、何処か外界から孤立した地底都市である。地底にある為、日中でも常に薄暗く夜になれば暗闇が支配する土地の為、【奇石】が発見される以前から街のそこら中には明かりを灯すランタンが吊るされている場所であった。今では【奇石ランタン】の名産地とされており、形状やデザインの種類も多く優れた物が生産され、販売されている。
「うん、決めた。これにする。私もここの【奇石ランタン】を使っているけれど、《地底の灯》よりも良い商品はないもん」
「ほっほっほ、では決まりですな」
ライラは最終的にマグ・メル・ラタンで作られた【奇石ランタン】を選んだ。形状は卵型で10センチ程の大きさの奇石部分を包み込む金フレームが、蔦の様なデザインになっていた。カバーの上部には持ち手が付いており、持ち手を使わない際はパタンと折り畳めるものであった。カバー下部には光量を調整する為の摘みが付いている他、台座の取り外しが出来てテーブルで使う際には台座を付けして高さを出す事も出来、手持ちで使う際は外しコンパクトにする事も出来る一品である。
「これくらいの台座なら分けて鞄に入れても邪魔じゃないしね」
「丁度、ライラ殿が買った鞄のポケットに収まるサイズですしな」
「小さくてもしっかり照らしてくれるのが【奇石ランタン】の良さだしね」
「ほっほっほ、では会計をしてもらいましょうか」
選んだ商品をそれぞれに持ち、カウンターで待つ老婆の元へと向かう。ギュンターの購入金額は17,500リル、ライラの購入金額は3,800リルであった。二人が購入した物はそれぞれの購入品が入るサイズの巾着に入れてもらい、そのまま収納としても使ってもらえる様に包んで貰った。
「とりあえずグラズ達と合流しますか~」
「ほっほっほ、そうですなぁ。このプレゼントがスキラ殿にバレてしまう訳にはいきませんからな」
スキラには内緒で一度ライラ、ギュンター、グラズ、クロトの四人は先に合流してプレゼントをジョセフィーヌへと隠す約束をしている。その為、先程とは別の場所で一度合流する約束をしており、今はその場所へと向かっていた。
「さてさて、グラズとクロは良いプレゼント見つかったかな?」
「我々と別れる前は、お二人共まだ決めていなさそうでしたしな」
「うーん、まあきっと良い物探してくるよね。あの二人だし」
「そうですな。お二人ともセンスがありますからなぁ」
雑貨店を後にしたライラとギュンターは、ここに居ない二人のプレゼント選びの行方を気にしながら待ち合わせ場所へと向かうのであった。
スキラへのサプライズプレゼントの準備が着々と進んでいますね。
グラズとクロトは今頃何をしているのでしょうか。
次回もお楽しみに!