表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇石奇譚  作者: 紫藤まり
【第2話】 冒険のはじまり
13/23

2-1(旧: 013)

【第2話】 冒険のはじまり スタートです!

 スキラがミシラバ旅団の一員となって最初に向かったのは、サイリスやレプリスのある土地から北東に進んだ先にあるミースという名のレプリスよりも大きな商業に栄えた街であった。


 【奇動車(ジョセフィーヌ)】での移動中、次の街で合流するという団員との出会いに、スキラは不安と同時に胸をときめかせていた。ジョセフィーヌ内では運転手を除くグラズ以外のメンバーで、合流予定の団員がどんな人物なのかという話をしていた。


「どんな人なんですか? ミースで合流する団員の人って」

「ほっほっほ。人、ではなく猫人族(ねこびとぞく)なので猫人(ねこびと)ですな。名前はギンジ殿という方で、銀色の毛並みと淡い黄金色(こがねいろ)の瞳がチャーミングですぞ」

「ギンはね、クールで恰好良いよ。お洒落さんだし、凄く仲間想いで優しいんだよ~」

「猫人族のギンジさんかぁ。自分がいない間に入った僕のこと、どう思うんでしょうか」


 改めて考えてみれば、知らない間に増えた団員の事を現団員がどう思うかという事を、何も考えていなかったスキラはふと不安になる。


「心配することはないと思いますぞ? ギンジ殿であれば『お前達が仲間にする者は誰であろうと吾輩の仲間だにゃ』と言いそうですしな」

「そうそう。『吾輩の信頼する仲間がそう決めたのなら吾輩に問題はないのにゃ』とか言いそう」

「な、なんかカッコイイというか」


 ――――――なんというか聞いている方が恥ずかしい台詞が多い気が……。


 スキラが反応に困っていると、ギュンターがいつもの様に微笑む。


「ほっほっほ。言われる側としてはこの年寄りですら少し照れくさい台詞が多い方なのですよ」

「でも凄くそういう台詞が似合うんだよね~」


 二人の会話からギンジという猫人はクールで格好良く、優しくて仲間思いだということがスキラにも伝わってきた。



 ――――――そもそも彼らの仲間なのだ、きっと少し変わった良い猫人なのかな。







 ミースに到着したミシラバ旅団一行は、中心部にある街の広場に向かった。広場にある噴水の前で待つこと数分、何処からともなく銀色の毛並みを持ち左目に傷跡のある一匹の猫人族が現れた。


「待たせてしまって申し訳無いにゃ。皆、無事な様で何よりだにゃ」

「今着いた所だよ~。ギンも元気だった?怪我は無かった?」

「抜け道を見つけ上手く脱出出来たから大丈夫だにゃ。で其奴は何者にゃ?」

「スキラはね、新しい仲間なの~」


 そう言ってライラはギンジを両手で抱き上げ、スキラの顔に向けて掲げる様に持ち上げる。猫人族の身長は通常70センチ程であり体重は8キロ程とされ、一歳児の人間の子供位の身長や体重に近い姿をしている。その為、身長の高いスキラに目線を合わせる為とはいえ抱き上げられている姿は、ギンジの見た目や声色とは裏腹にとても可愛らしい。


「あのっ、初めましてスキラ・フーリエです。これから宜しくお願いします」

「ギンジだにゃ、困ったことがあったらいつでも頼るのにゃ。以後宜しくにゃ」

「よろしくお願いします、ギンジさん」


 ギンジは抱き上げられている事は気にせず、低く落ち着いた声で挨拶する。一通り挨拶が済むとライラはギンジの事を地面へと下ろし、ギンジへ目線を合わせる様にしゃがむ。


「手紙でも話したけどごめんね。ギン達に何も聞かず仲間増やしちゃった」

「構わないにゃ。吾輩のもっとも信頼する仲間達がそう決めたのなら、吾輩に問題はないのにゃ。むしろ新しい大切な家族が増えて嬉しいにゃ」


 ギンジは堂々と恥ずかしがることなく本音を語る。先程ジョセフィーヌの中で想像していたものよりも聞いている此方が恥ずかしいと感じる純粋な言葉にスキラは赤面し顔を手で隠し、ライラはしゃがんだままギンジを胸元で抱き締め、ギュンターは照れくさそうに笑顔を浮かべた。逆に無反応なグラズと機嫌の悪そうなクロトはその場に無言で佇んでいる。


「ああ、団長も久しいにゃ。クロ助は相変わらずだにゃあ」

「お前も相変わらずだな、ギンジ」


 そう返事したグラズの横ではクロトが喉をならしギンジを威嚇している。ギンジとクロトの間には険悪な雰囲気が漂っていた。


「相変わらずよくそんな恥ずかしい台詞を吐くね」

「クロ助はこの程度で恥ずかしいのですかにゃ?」

「なっ……!?」

「こら、二人とも喧嘩しちゃダーメ」

「おっと、すまないにゃ。気を付けるにゃ」

「……ごめん」


 そんな二人の間にライラは割ってはいる。険悪な様子を見ていたスキラはどうしたら良いのかと戸惑っていたが、ギュンターやグラズもこのやりとりに慣れているのか気にせず話を進めた。


「えっ、と……?」

「ほっほっほ、相変わらずですなぁ」

「お前ら分かっていると思うが、喧嘩するなら締め出すからな」

「さて、そろそろ買い物しに行こうよ。のんびりしてたら日が暮れちゃう」


 ――――――なんでいきなりあの二人の間に険悪なムードが漂ってたんだろ? ギンジさんって仲間想いって聞いていた気がするけど。


 結局、スキラが戸惑っている間に何事も無かったかの様に話は進んでいった。



 ギンジと合流した一行は今後の旅路に必要なものを買う為、三つのチームに別れた。食料品や日用品の買い出しにグラズとクロトが、細かな雑貨品や薬品の買い出しにライラとギュンターが、スキラの旅の装備の買い出しをスキラとギンジの二人で行くことになった。


「じゃ、そんな感じの分担で後は各々の判断でよろしくね」

「おう、お前ら余計な物は買ってくるなよ」

「団長こそ、無駄遣いは厳禁なのですにゃ」

「……使い込まれたら困るから、お酒の買い過ぎにはならない様に見ておくよ」

「ほっほっほ。ライラ殿行きましょうか」


 グラズから各担当ごとにお金が支給される。受け取ったライラとギュンターは、楽しげに何処の店から見て回ろうかと話しながら市場へ向かっていく。その後を追う様にグラズとクロトも、何から買うかと算段を付けながら市場へと向かっていった。


「さて、行きますかにゃ。スキラ殿」

「あ、はい。ギンジさん」


 初対面の相手との買い出しというのはまず何から話せば良いのだろうかとスキラが悩んでいると、ギンジが苦笑いしながら声をかけた。


「ふっ、そんなに緊張しなくてもいいにゃ」

「え、あ、すみません」

「吾輩からすればスキラ殿は子供の様なもの。気軽に親戚の叔父さん位に接してくれればいいにゃ」

「なら僕の事はスキラでお願いします。ギンジさんって年齢って幾つ位なんですか?」


 ミシラバ旅団には年齢の壁がないという事は、ここ数日一緒に過ごしたスキラでも知っているが、それでも年上の人には敬意を払いたいと思うのがスキラである。スキラの問いかけにギンジは尻尾を揺らしながら答える。


「そうですにゃぁ……。人間種でいう所の40過ぎといったところですかにゃあ」

「じゃあグラズさんより年上なんですかね?」

「団長は見た目は更けて見えるけれど、吾輩よりまだ若いのにゃ。でもこの旅団の中だと団長ともう一人の団員が中間組で、吾輩とギュンター殿が年配組、スキラは年齢的にライラ嬢やクロ助と一緒の年少組ですにゃ」


 横を歩きながら楽し気に団員について語るギンジの姿を見て、本当に彼はミシラバ旅団の団員を大切にしているのだなとスキラは感じた。だからこそ尚更先程の険悪な雰囲気が気になり、スキラは恐る恐るギンジに尋ねる事にした。


「あの……なんでさっきクロトと言い合いを?」

「ああ、あれはいつもの事なのにゃ。クロ助とは考え方が反対なところがあるだけにゃ」

「考え方?」

「吾輩はミシラバ旅団員全員好きなのにゃ。家族の様に思っているし、大切な仲間だと思っているにゃ。それを伝える為に言葉にするけれど、クロ助の年頃的にはそれが恥ずかしいみたいなのにゃ」


 確かにギンジの台詞は先程から聞いていてもストレートな愛情表現である事は間違いなく、スキラ自身もその愛情表現には少し照れてしまう。


「ちょくちょく言い合いはするけれど、あまり気にしなくていいのにゃ。ああやって時折噛みついてくるけれど、あれでいてクロ助も吾輩並みにミシラバ旅団大好きっ子で、ただそれを伝えるのが恥ずかしいだけの恥ずかしがり屋さんなのにゃ。だからそれを伝えられる吾輩に嫉妬してたまに言ってくるのにゃ」

「な、成程……?」


 スキラの知るクロトという人物はあまり思っていることを口に出さないタイプであり、逆にギンジという人物は真っ直ぐに感情を伝えるタイプ。つまり真逆な二人だからこその言い合いになのかも知れないと、スキラは心の中で納得した。



「さて、この話は程々にして、買い物をスタートするにゃ。今日は吾輩に任せるにゃ、旅支度が必要だとライラ嬢から窺ってるのにゃ」

「あはは……そうなんですよね。ほとんど何も持っていなくって」


 スキラはここ数日の出来事や今までの生活を簡単にギンジに説明する。


「……中々この数日間のスキラは過酷だったみたいだにゃあ」

「あはは……まあ、そうですね……」


 バニス家で働いていた事、ビックコッコ事件、ミシラバ旅団の団員に勧誘された経緯等々、語っていて思うが我ながらここ数日間の出来事は凄い事件だったなと、語りながらスキラは改めて思った。


「まあ元気出すにゃ、きっとこれからの旅は大変でも楽しいにゃ」

「そうかも知れないですね。その為にも旅支度ですよね?」

「そうですにゃ。とりあえずは服や靴を身繕いに行きますかにゃ」

「よろしくお願いします」

「吾輩の専門分野にゃ。任せるのにゃ」


 ギンジの案内に従いスキラは市場の中でも反物屋や古着屋、靴屋等の衣類に関係したエリアへと辿り着く。まず初めにその中でも靴専門の店へと二人は訪れた。


「まずは靴だにゃ、しっかり足に合った物を選ぶ事が大事だにゃ」

「わ~、靴がこんなにいっぱい並んでいるの見た事ないです」


 一面に様々な靴が壁や床、棚に所狭しに並ぶ。女性向けのお洒落なヒールのある靴から子供用の靴、他種族向けの靴等、サイズや種類も豊富に並ぶがその中でも一番数が多いのは旅人向けの靴であった。


「そうですにゃあ……。一度この辺りの靴でスキラの好きな物を選んでみてはどうかにゃ?」

「好きな物……」

「折角自分が身に着ける物、まずは好きな物を知るのも大切にゃ。とりあえずこの辺りで選んでみてほしいにゃ」


 スキラは自分好みな靴を探し始める。日頃履ければいい位で使用人の仲間からおさがりを貰って履いていた為、好みなんてものを考えた事がないスキラはどれを選べばいいのか悩む。


 ――――――正直言って選び方が分からない。どんな基準で靴って選ぶものなんだろうか……。足が痛く無ければどれも同じなのかと思っていたけれど……。


 自分の靴を選ぶという行為をした事があまりないスキラにとって、靴は貰い物で履くものが当たり前であり、足が痛くなるものはどうやって履くか悩み、足が痛くならないやつは当たりでそのまま履ける、どんなにボロボロでも底が抜けるまで履くものという認識であった。


 現在履いている靴もバニス家で働いていた時の貰いものの靴であり、サイズが少し小さく指先が痛いと感じるが指先を丸めて歩きどうにかこうにか履いていた。


 選ぶ基準が分からず困り果てているスキラにギンジが気付き、優しく声をかける。


「うーん…………」

「どうしたのかにゃ?」

「えっと、僕……靴って自分で選んで買うって事をずっとした事がなくって。どうやって選んだらいいかよく分からなくって……」

「成程にゃ。なら吾輩が質問するのでそれに答えていきながら選んでいくのはどうですかにゃ?」

「それなら出来るかも……お願いします!」


 ギンジはスキラに二択で靴を選び質問していく。どちらの靴の方が直感的に好きか、どちらの色が好きか等、最初は大雑把に判断できる靴の二択から始まり、最後の方は細かな差の違いによる質問が行われた。


「スキラの好きが決まりましたにゃ」

「これが僕の好き……」


 それはこの店の中でもシンプルなデザインのハイカットタイプの茶色のトレッキングシューズであった。デザインこそシンプルなものの耐久性も高く安定感もあり、色合い的にも使い勝手の良さがバツグンなタイプの靴、それがスキラの最終的に選んだ一足である。


 トレッキングシューズのつま先をギンジは手で押し、最終的なサイズ感を確認をする。


「うむ、サイズも丁度良さそうですにゃ。店主、これを買いたいのにゃ」

「おう、それを買うとはお目が高い。ちょいと値が張る靴だが値段以上の価値があるぜ、そいつは」

「この靴を仕入れている店主も中々お目が高いのにゃ。このまま履いて帰っても良いかにゃ? 今の靴は廃棄してもらえると助かるにゃ」

「おうよ、なら合わせて3500リルでどうだ?」

「これで丁度3500リルだにゃ」


 すっとギンジは腰に身に付けている皮袋から小さな布袋を取り出し、硬貨を取り出し支払う。その会話を聞いていたスキラは驚きのあまり悲鳴に似た声を上げる。


「え、こっ、この靴が3500リルっ!!!?」

「そんなに驚く事もないのにゃ。旅人の靴というのは耐久性もあるからそこそこお金がかかるのにゃ」

「坊主、これでもその靴は中の上位の値段だぜ?」

「これで中の上……」


 スキラはつい貧乏精神で脳内で計算を始める。地元のレプリス周辺での外食費は一食辺り500~600リルである。つまりこの靴一足で6、7回分の外食代と一緒という事になる。スキラにとっては贅沢品とも言える様な値段であった。


「これだけのお金があれば外食約6回分……」

「……スキラ、今日はこれ以上にお金を使うので今の内に覚悟しておくのにゃ。さ、新しい靴を履いて次の店に行くにゃよ」

「あ、はいっ!」


 母が亡くなってからはずっと貰い物の靴でやり過ごしてきたスキラにとって久々の新品の靴は、底減りもしておらずサイズも合っている為、足が痛む事もなく、指先や足裏全体にバランス良く力を込め歩く事が出来た。今まで履いていたボロボロの靴は店主に廃棄して貰う為にその場で渡し、スキラは新しい靴と共に次の店へと向かった。


「次は服だにゃ」

「服、ですか? 一応今着ている服と着替えは数枚あるんですが」

「スキラの着ている服は、正直に言えば吾輩の目から見ても既にボロボロだと思うのにゃ。この機会に新しい物を揃えるのにゃ」

「あはは……確かにそうですね」


 スキラが身に着けている物のほとんどはバニス家で働いていた際に出た給料を貯めて古着屋で買ったものと、他の使用人からの貰い物だ。数枚しかない物をローテーションで着て、穴が開いたら繕ったり別の生地で継ぎ接ぎ、現在までどうにか着ていた為、耐久性も低く見栄えもあまりよろしいとは言えない。


 ――――――この恰好は見栄え悪いもんなぁ。でもお金が気になる……!


「僕、今着ている服もボロボロですもんね……。でもグラズさんからっていくら貰っているんですか? 僕もお金を出した方が……」

「お金の事はスキラは気にすることはないのにゃ。ミシラバ旅団の団員として、ちゃんとした装いをするのもこれからの生活では大切なのにゃ。それに一度一式揃えれば、後は足りない物を買い足すだけになるにゃ」


 ギンジに気にするなと言われてしまえば、スキラにはどうしようもない。グラズからの渡されたお金がまだあると信じ、大人しく買い物を続行する事にした。


「……確かにそうですね。ギンジさん、服選びもよろしくお願いします」

「ふふっ、任せるのにゃ」







 二人が歩みを進め、目的の洋服店を訪れた。この店はある程度の一定サイズのカットソーや下着等は既製品として販売しており、その他生地も別途扱っている店であった。


「下着や靴下、ベルト辺りは既製の物をいくつか買うのにゃ」

「上に着るものとかも既製品で買いますか?」

「ふむ……」


 ギンジは店内を見渡す。ここにある衣服は一般的なサイズのものが多く、スキラは身長が高く細身な体型の為、あまりサイズが合う服は無さげであり単価も高い。逆に生地単体で売っている物は種類も多く、加工技術が必要とされる分安く販売されていた。


「折角だし吾輩が作るのにゃ」

「え!?」


 繕い物に慣れている為、多少裁縫は得意な方であると思っていたスキラでも、一から洋服を作り上げる事は出来ない。仕立て屋並みの技術が無いと酷い物が出来上がるのは、バニス家に務めている時に自分の服で実験済みであった。


 発言に驚き困惑気味なスキラに、ギンジは得意げに自分の着ている服を披露しながらある提案をした。


「既製品はサイズが合うのが少なそうなのにゃ。生地を買って今から仕立て屋に頼むのは、時間がかかるし現実的じゃないのにゃ。それなら生地を買い吾輩が作った方がきっとスキラのサイズにも合うし、好きな物を作ってあげられるのにゃ。今吾輩が着ている服や団長達が着ている服も吾輩が作ったものなのにゃ、どうかにゃ?」

「えっと……じゃあお願いします」


 ギンジの申し出にどうして良いものか悩んだが、このギンジという猫人がお洒落である事は見た目から理解していた為、スキラはその申し出を受ける事にした。グラズ達が着ている服やギンジが着ている服を作ったという実績による安心感もあるが、出会った時からスキラはギンジの服装がこの辺りだと見かけない装いだなと思っていたが、同時に格好良いなと思っていたからというのも一つの理由でもあった。


「ギンジさんのその服って凄くお洒落だなって思ってましたが、自分で作られてたんですね」

「ありがとうだにゃ。これは東の方の国の服を元に自分でデザインした服なのにゃ」

「自分でデザインしたっていうのも凄いです……」


 銀色の毛並みをした猫人・ギンジはお洒落な藍色の着物に黒い帯、上着として着ている羽織の背中には刺繍で模様が入っていた。着物の隙間から覗く下半身は黒いゆとりのパンツで覆われているが、足元の方になると徐々に体にフィットしたデザインへとなっており、スキラから見ても機能性とお洒落を融合した様な服であった。更に尻尾にも着物と同じ藍色の生地が一部巻き付いていた。


「吾輩は服作りが趣味なのにゃ。それで団員の皆にお願いして服を作らせてもらってるのにゃ」

「ライラが着ている服とかもですよね?」

「そうにゃ。今日着ていたライラ嬢のポンチョや青いワンピースもそうなのにゃ」


 ――――――あのポンチョも、金糸の刺繍が入った青いワンピースもギンジ作だったんだ……!


 ライラのワンピースの刺繍は見事なものであり、スキラは何処かの仕立て屋で頼んで仕立てられた服なのだろうと思っていた為、改めてギンジの凄さを知ると同時に少しだけスキラはワクワクしていた。お洒落で裁縫技術のある彼が作ってくれるという自分の服がどんなものなのか、無意識に期待値が上がる。


「スキラの服も特段希望が無いのなら、吾輩が勝手に生地を選んだりデザインしようと思うけれどどうしたいにゃ?」

「うーん、ポケットがあって動きやすければって事しか思い付かないので、お任せしても良いですか?」

「勿論なのにゃ」


 腕が鳴るにゃと意気込むギンジは猫人族特有の身軽さを生かし、素早く何種類かの生地を選んでいく。その様子を見ながらスキラは自分用の下着と靴下、ベルトを選んだ。


 会計が済み、生地や買った下着等をギンジがあらかじめ持っていた布に包み、スキラが持った。ずっしりと重みのある布袋を片手に持ち、次の行き先をギンジに尋ねる。


「結構いっぱい買いましたね。次はどこに行くんですか?」

「そうだにゃあ……。一通り目的の物は買ったし、団長達と合流しますかにゃ」

「あれ、もう買い物は良いんですか?」

「一部は団長やライラ嬢に任せてるのにゃ。スキラがいないと決まらないものだけ、買いに来たって感じなのにゃ」

「そうだったんですね」


 スキラからすれば旅支度として他に何が必要なのかも分かっていないのだが、旅慣れしていそうなギンジが言うのだから間違いはないだろうと、ギンジの後を追う様に歩く。



 ――――――他の皆は買い物終わったのかな?

やっとギンジを登場させられました。

ずっと彼を出したくて、作者はウズウズしていました。


これからの旅に向け、スキラは着々と旅の準備が進んでますね。

次回もお楽しみに!


※2024/07/04 表記の修正や見やすい様に改行等、行いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
わーっ!ギンジさん素敵! <長靴を履いた猫亭>で出てきた猫人族、可愛いイメージだったのでまた登場しないかなぁと思っていたのでギンジさんが猫人族で嬉しいです(*'ω'*)語尾に「にゃ」がついてる! しか…
[良い点] こちらまで拝読しました。 細やかな設定の世界観、そしてそこに住まう人々の日常風景が細かく描写されていて、まるでその世界を垣間見ているかのような没入感。 そしてなんと言っても、地の文がとても…
[良い点] 最新13話まで読ませていただきました。 世界観とキャラクターがおもしろいですね。 主人公も旅団のみんなも好きです。 これからどんな冒険になるのか……? 執筆応援しています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ