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奇石奇譚  作者: 紫藤まり
【第1話】 ビックコッコ事件
12/23

1-6(旧: 012)

3ヵ月振りの更新!

色々奇石奇譚に出てくる言葉の説明があります。


それでは本編どうぞ!

 レプリスを離れ、ミシラバ旅団の仲間となり旅に出ることになったスキラの初めての夜は意外にも野宿だった。現在は夕暮れ前から早めに野営の準備をしていた。


「レプリスの宿になんで泊まらなかったんですか?」

「それはだね、色々うちの旅団について話をしたりしようと思うと、宿だと中々長時間皆で集まれる場所もないし、のんびり気軽に話せないからだよ」

「ほっほっほ。色々スキラ殿も聞きたいこと等あるでしょうからな」

「そんな訳だ、とっとと野営支度終わらせて飯にするぞ」


 テキパキと慣れた手順で作業するライラ達から指示を貰いつつ、スキラは作業に専念する。今日はテントも張っており、スキラとギュンターとクロトはテント泊になることが告げられた。


「うちは基本、男はくじ引きで当たりを引けば【奇動車(ジョセフィーヌ)】で寝れる、ハズレはテント泊だ。だが今日は団長特権で俺が中で寝かせてもらうから関係ねえが。ライラ(アイツ)のせいで寝不足なんでな」


 グラズが欠伸をしながらライラを一瞬ちらりと見て小声でぼそりと愚痴っていくのが聞こえ、スキラは昨日ライラと何かあったのだろうなとだけ察する。深く聞くのは地雷を踏む気がしたので止めようと思い、スキラは作業にそそくさと戻った。なんだかんだと手を動かしている内に、野営準備は終わった。


「今日は私がご飯当番だね」


 美味しいご飯作るよとライラが張り切ってご飯支度を始める中、スキラ・ギュンター・グラズ・クロトの三人と一匹は調理風景を見ながら休憩していた。


「僕たち休憩してていいんでしょうか?」

「ライラ殿に呼ばれたら手伝えば良いと思いますぞ」

「今日は人数少ねえし余裕だろ」


 実際テキパキとご飯支度をするライラを見ていると、一人で料理をすることに慣れているのが伝わってくる。ぼーっと調理を眺めている間に今日の夕食が出来たようだ。


「今日はお手軽版・じゃがいものラザニア風重ね焼きだよ~」


 完成した料理を覗き込むように見る。本来ラザニアとは平らなパスタで作るものだが、工程としてパスタを別湯でする必要がある。それを省く為にじゃがいもを代用として使っているのがこの料理だ。じゃがいもを薄くスライスしたものに、トマトをペースト状にしたもの、薄く切ったナスとベーコン、チーズを順番に何層か重ね焼いた一品である。


「凄いトマトの良い匂いがする」

「ほっほっほ。久しぶりに食べますのぉ」

「今日はサクッと簡単にお腹が満たせるものをってことで作ったよ。どうぞ召し上がれ~」

「取り分けてやるから、取り皿渡せ」


 取り分けてもらった料理の断面からはトロリと溶け出したチーズやトマトの汁等がじわりと垂れてきていた。全員分の取り分けが終わると一斉に手を合わせ、いただきますと号令をしてから食す。スキラももう待てないと言わんがばかりに勢いよく頬張る。


「んーーーー! 美味しい!!」

「バタバタしていてランチを食べていませんでしたからのぉ。胃袋が満たされますのぉ」

「うめぇわ」

「おかわりあるからゆっくり食べてね」


 みんなあっという間に一杯目を食べ、おかわりをする。ミシラバ旅団の団員達と共にいると美味しいものを沢山食べている気がするなと、スキラはおかわり分を食べながら思った。


 お腹が満たされた頃、ライラが話題を変える。


「さてと、食後の珈琲でも飲みながら本題でも話そうか」

「あー、だな」

「まず何処から話そうかな」


 聞きたいことはここ数日で色々あるスキラからしても、何処から聞いたら話が分かるのか分からない為、余計な口を挟まずライラが切り出すのを待った。


「とりあえず、ミシラバ(うちの)旅団について説明からしようかな。本来"旅団"というのは商売の為や冒険者として各地に行き依頼をこなしたい人達が旅団登録をするものなんだけど、ミシラバ旅団は【奇石(きせき)】の調査が目的なんだよね」

「国のお偉いさん方の代わりに各地の【奇石】による異変・事件、その他諸々を解決したり報告するのがうちの仕事でもある」

「簡単に言ってしまえば、【奇石】専門の便利屋ですのぉ」

「誰から頼まれてやっているんですか? どこかの領主様とか……?」

「それよりももっと上の位、この世界で一番偉い聖王様や、神族・白竜アメリア様、巫女様からの依頼で設立されたのが、"ミシラバ(うちの)旅団"って訳だ」


 予想もしていない存在が当たり前の様に出てくる突拍子もない話で、スキラはお伽話を聞いている気分である。自分がこれから所属する事になった旅団の話なのだが、もはや他人事の様にしか聞こえていない。


「まあ、急に言われても何だかなって感じだよね。きっと」

「ほっほっほ。何せ世界規模の異変調査ですからなぁ」

「はい……正直あまりにも僕とは縁遠い存在が簡単に出てくるので、ちょっと困惑してます」

「とりあえずは何となく覚えておいてくれれば大丈夫だよ」


 自分の事としての実感がないままなので、とりあえず知識として覚える方向にスキラは切り替える。だが、【奇動車(ジョセフィーヌ)】の技術やそんな重要な旅団に何故自分が選ばれたのかは疑問が残る。


「うちの旅団の加入条件は二つ。一つは巫女様が加入を認めること、二つ目は特殊な【奇石病(きせきびょう)】を患っていることだ。そこでお前が該当する訳だ、スキラ」

「あ……」


 スキラは右の前腕にある奇石を服の上から触る。


「俺たち全員奇石が身体に宿ってる、世間でいう【奇石病】の患者って訳だ」

「その中でもスキラくんの腕の奇石はちょっと()()なんだよね、()()()()()()()で」

「一般的な【奇石病】というのは、ただ【奇石】が身体に現れるだけでなんの変哲もないものです。ですが、このミシラバ旅団の団員達は"その【奇石】に宿る特殊な能力"を使えるのですぞ。スキラ殿はあのビックコッコ達との追いかけっこを覚えていますかな? あの幻の様な空の空間を創り出したのが、このじじいの奇石の能力【空想世界のひと時(メルヒェン)】ですぞ」

「他にもあの日ビックコッコの卵を運んだのは、クロの使った【奇石能力(きせきのうりょく)】だよ。皆、【奇石能力】の発動条件も能力も違うから、そこら辺は追々って感じで」


 あのビックコッコから逃走していた時、光と共にギュンターの周りの景色から徐々に大空へと変化したのを思い出す。あれが手品ではなく奇石による能力だというのなら、スキラも納得が出来る。【奇石】は今の世の中では【万能鉱石(ばんのうこうせき)】と言われる程の代物なのだから。



「とりあえずミシラバ旅団や【奇石】の能力については分かりましたが、でも僕加入条件満たせてないんじゃないですか?」

「なんでだ?」

「だって僕巫女様から承認されてないですよ?」

「あ? いるだろ、ここに。その"偉大な巫女様"がよぉ」

「…………ほえ?」


 グラズが指し示す方には一人しかいない。そう、ライラである。


「あー……、そうか。すっかり忘れてた、スキラに言ってなかったもんね。えーっと私がその【巫女】です、うん」

「はいぃ!!!!!!!?」


 ――――――理解が追い付かない。今なんてライラは言った?


「おめぇ、言ってなかったのかよ」

「言うタイミング無かったんだもん。それに大騒ぎになるの面倒だし、基本言っちゃダメってことになっているじゃん」

「ほっほっほ、一緒に生活していると当たり前過ぎて、このじじいも忘れていましたな」

「それ位で良いんだよ~。堅苦しくなっちゃうし」

「え、本当のほんとーーーーにライラがあの巫女様……?」


 呆れ顔でツッコミをいれるグラズと呑気そうなギュンターの口調から、ライラが巫女であるというのは本当の様であった。まさかこの世界で神の様に崇められる巫女様が目の前にいるなんて、誰が想像できたものかとスキラは思う。どう見てもライラは普通の少女にしか見えないのだ。信じられないとばかりに疑いの目をライラに思わず向ける。


「うーん、信じてくれてなさそう……。じゃあ、もうこの際しっかり自己紹介しようよ。その方が良いでしょ」

「確かに仲間になるのですから、挨拶は大事ですなぁ」

「ちっ、めんどくせぇな」

「ほっほっほ。グラズ殿、しっかりと自己紹介出来るのが団長の鏡ではないのでしょうかな?」

「お、お願いします」


 ギュンターに諭され渋々グラズは自己紹介を承諾する。確かに今更だが、彼らの名前は知っていても姓は知らなかったりと、仲間になるミシラバ旅団の団員の事を詳しく知らない。


「じゃあ、とりあえず私から。私はライラ・スフィール。今まで通りライラって呼んでね。一応7代目【巫女】で、世間では名前じゃなく【(あかつき)の巫女】って呼ばれているから、この名前を知っている人は一部だけなんだよね。だからスキラももし【暁の巫女】について聞かれても私の名前は言わないでね?」

「分かったよ、ライラ」

「一応形式上ミシラバ旅団は私や聖王の依頼で出来た旅団ってことでもあるし、私が目立つ訳にもいかないから団長はグラズで、私はNo.2ってところかな。次、グラズで」

「グラズ・メストリウムだ。空の都・浮遊都市アルティスの出身で、元は聖王に仕える聖騎士で、今はそこの巫女の護衛兼保護者ってところだ。ミシラバ旅団のNo.1で団長だ。基本この旅団では俺が正義だ。敬え、以上だ」

「ほっほっほ。ライラ殿もグラズ殿も、スキラ殿の持っている【アルティスナイトの英雄譚】に出てくるお二方でもありますな」

「スキラの言ってたアルティスナイトだよ、グラズは」

「…………あ!!!!!!」


 スキラは唯一持っている本【アルティスナイトの英雄譚】を思い出す。そこにはアルティスの聖騎士・アルティスナイトと巫女様が描かれている。この二人(グラズとライラ)がその当事者だと伝えられ、脳裏で二人をそのまま作中の登場人物に当てはめるが違和感を感じる。


 何せアルティスナイトは作中ではとても爽やかで謙虚な好青年であり、争いを嫌い、とても仲間想いな人物として書かれている。だがモデルとなったとされるグラズに当てはめて想像した場合、主人公はとても口の悪い青年へと変化し、喧嘩上等とでも言いそうな横暴な存在へと変換される。コッコ事件での所業といい、目付きの悪さといい、性格の悪さといい、何処も本のアルティスナイトに該当する所が無いのである。唯一該当するかも知れないのは、バニス邸での話し方や雰囲気であるがスキラにはグラズが長年の憧れであるアルティスナイトであるとは信じがたい。


「とは言ってもあの話、大分フィクションだけどね。何冊も類似本が出版されているけど、基本民衆向けのロマンスファンタジー的な脚色も多いし」

「ほっほっほ、作中の主人公がグラズ殿だと考えると些か違和感がありますからなぁ」

「仕方がないよ。グラズをそのまま主人公にしたら、話が破綻しちゃうから」

「それもそうですな。折角の美談が台無しになってしまいますからのぉ」

「あ゛あ゛? お前ら失礼じゃねえか、俺に」


 グラズが二人に怒る姿を目の当たりにし、尚更自分の中のアルティスナイトのイメージ像とかけ離れていくのを実感する。スキラの長年の憧れの存在であり理想像は、あっけなくボロボロと壊れていった。


 ――――――信じられないを通り越して信じたくない。ライラは巫女様って言われてもまだ百歩譲って信じられる。でもよりにもよって、グラズさんがあの憧れのアルティスナイトだなんて……。


「なんか、うん……。僕……アルティスナイトに憧れてたんですけど、うん…………」

「現実とは時に残酷ですなぁ」

「気持ちは分かるよ。憧れのアルティスナイトがこんな奴だったなんてショックだよね」

「お前ら、流石に失礼過ぎだろーが」

「それでいうと私も大分違うよね、作中の【巫女】と」

「作中の巫女様は儚げでか弱い少女として描かれておりますが、ライラ殿は明るく活発なタイプですしのぉ」

「こいつに儚げとかひ弱とか似合わねえだろ」

「むぅ……そうかも知れないけれど、グラズに言われるのは何か不服」


 ギュンターの言う様に【アルティスナイトの英雄譚】内で描かれる巫女様という存在は、儚げでか弱い少女である。物語によく出てくるお姫様の様な、慈愛に満ちたとても可憐で神聖な存在の巫女。ここ数日共に旅をしたライラからは想像し難い部分も多少はあるが、まだアルティスナイト(グラズ)よりはマシではある。それでもライラが優しくて可愛らしいのは事実だし、ライラなら憧れの巫女様だとしても納得できる。


「ライラが巫女様で良かったよ、うん。ライラはまだ納得できるもん」

「それどういう意味だよ、おい」

「なんかちょっとだけ複雑な心境だけど、ありがとう」

「ほっほっほ、スキラ殿の心の傷は深そうですな。ですが、彼らは本物のスキラ殿の憧れる現代の生きる伝説の二人ですぞ」

「…………本当なんですよね?」

「このじじいが嘘を言っていると思いますかな?」


 スキラはその言葉に首を振る。ギュンターだけではない、彼らがスキラへ嘘をついたことは一度もないのだから。暫く理想の存在が想定外の人物(グラズ)であったことは引きずりそうであるが、まだ納得の出来る存在(ライラ)のお蔭で傷は浅く済みそうだなとスキラは思う。


「ごめんね。騙すとか隠すつもりはなかったんだ。でも憧れの【巫女】が私じゃショック、だよね……」

「そんなことないよ! ライラはとっても可愛いし僕を助けてくれたじゃないか!! そりゃあ凄くびっくりしたけどさ」

「色々あってお忍びで旅をしているの。だから表立って巫女だって言っちゃいけないんだよね。ごめんね」

「気にしなくていいよ」


 申し訳なさげに謝るライラにスキラは少し申し訳なさを感じる。考えてみれば彼女はある意味有名人であり、正体を気軽に明かせば誘拐されたり危険に晒されるリスクもあるだろう。



「話が逸れてしまいましたが、次はこのじじいの自己紹介ですな。ミシラバ旅団No.3、ギュンター・アルデルトと申します。この旅団で一番年上になりますかのぉ。基本はこの旅団の保父ですな」

「ギュンさんは本当この旅団のおじいちゃんって感じだよね」

「たまに口うるせぇしな」

「ほっほっほ」


 ギュンターの挨拶が終わり、スキラ以外の視線が一点へと集まる。


「おい、次だぞ」

「ほら、クロ。自分で挨拶しなきゃダメでしょ?」

「え?」

「はぁ…………。僕はミシラバ旅団No.4、クロト・オオガミ。君は勘違いし続けてたみたいだけれど、僕は犬じゃなく人狼(じんろう)ね」

「クロトが喋った!!!!!?」


 スキラはまたしても自分の耳を疑う。疑い過ぎてもう真実など聞こえてこないのでは、という位には驚きの連発も良いところである。そんなスキラにクロトは呆れたと言わんがばかりに深い溜め息をつく。


「はぁ……これだから無知な人間ってやつは…………」

「え、ごめん……」

「仕方がないよ、この辺りに人狼族は住んでないんだし」

「ところで人狼って……?」

「ほっほっほ。普段は狼の姿を取っていることが多いですが、人型にもなることの出来る種族ですな。とりあえずはクロト殿も話せるという認識だけあれば良いと思いますぞ」

「まあ、ギュンじいのその説明だけ分かってくれたら良いよ。とりあえずはね」

「は、はぁ」

「人型は今度でいいでしょ。今日そういう気分じゃないし」

「うーん、まあ今度でもいっか。その内ってことで。とりあえず今後はもう少しクロもスキラの前でも話そうね」

「善処はするよ」

「ほっほっほ。このじじいも暫く姿を拝んでませんのぉ」

「お前ら歳近いだろ、面倒見てやれよ」


 クロトは狼の姿のままそっぽを向き、これ以上語る気はないと態度で意思表示する。クロトの人型がどんな姿なのか気になったが、とりあえずは仲良くなることが必要そうだとスキラは思う。ツンとした態度に心の距離を何処か感じる。



「つー訳で、一応今いる団員の自己紹介は終わりだ」

「ミシラバ旅団の団員は全員で六人、スキラを入れると七人になるよ。後の二人とはこの間別の街で色々あって離れちゃっているけど、次の街で一人とは合流予定だよ」

「次に向かうミースってどんな所なんですか?」

「商業の盛んな街だよ~。そこでスキラの旅の支度とかしよ」

「スキラ殿は些か荷物が少なそうですからのぉ」


 数枚のボロボロな着替えに、少しの金子の入った布袋、母の形見の本と、ほぼ身一つで旅に出ることになってしまったスキラは、これからの旅に耐えうる装備ではない。餞別として貰った金子で新しい物を揃える必要がある。金子が足りるのか内心不安に思う。


「何を買ったら良いんでしょうか?」

「とりあえず最低限の服もだけど丈夫な鞄も必要だよね」

「上着や靴も必要ですな」

「それにお前の分の【旅団員証(りょだんいんしょう)】を発行してもらわなきゃなんねぇな」

「【旅団員証】って?」


 聞きなれない言葉にスキラは聞き返す。


「いわゆるどこの旅団に所属して、何をしている旅人なのかっていう証だよ。大きな街とかは門番が入国チェックをしていて、怪しい人って思われない為の身分証明書って感じかな」

「今ではあまり居ませんが、昔は他国に旅人に成りすまし入国し悪さをする輩が居たのです。それもあって大きな街や都市では記録を残す様になったそうですぞ。そこで役立つのが【旅団員証】ですな」

「五大都市と各旅団のサポート役<長靴を履いた猫亭>の協力の元、作られたのが【旅団員証】なんだ。実際こんな感じのだよ」


 ライラは身に着けていたネックレスを外しスキラに手渡す。ネックレスの表側には【旅団員証】の刻印がされており、裏側には【蒼き花(ブルームーン)】の刻印と剣の模様と数字が刻まれていた。


「もしかしてこれって【蒼き花(ブルームーン)】?」

「ああ。ミシラバ旅団は形式上は聖王様や神族、ライラの依頼で出来たの旅団だからな。民間との差別化と暗号としての役割も込めて、特別に彫ってあるんだよ。だからこれを<長靴を履いた猫亭>の連中や門番に出すとうちの旅団は聖王の依頼で動いている特別な旅団ですとか、何も言わず通せって暗号でもあるな。だから発行されたら絶対無くすなよ」

「は、はいっ!!」

「基本は旅団設立時に登録する五大都市の国旗や、どの職業旅団か判断するマークが描かれておりますな。数字は団員登録順ですぞ」

「だからスキラくんは団員No.7になるよ」


 残り二人の仲間はどんな人達なのか、スキラは今から楽しみなのと同時に不安に思う。ミシラバ旅団は現在いる団員から考えても癖が強い人が多いイメージだからだ。


「今いない団員の紹介は直接会った時ね」

「あ、うん。そうだね」

「ほっほっほ。不安にならずともミシラバ旅団の団員は皆良い子ばかりですぞ」

「良い子って爺さん発言過ぎるな、ジジイ」

「それは勿論じじいなので」

「そりゃあちげぇねぇわ」


 冗談交じりに笑いながら話すグラズとギュンターの姿からは仲の良さが伝わる。自分もいつかこんな風に冗談の一つくらい言える様な間柄になれるのだろうかと、スキラは二人の会話を聞きながら思う。


「とりあえず、今日はこんな所でお開きにして寝よ~。明日も早いんだから」

「おお、もうそんな時間でしたか」

「意外と話してたんだな。じゃ、ちゃちゃっと軽く片付けるか」

「はい」


 スキラ達は食器洗いや火の始末等をし、就寝の支度をする。スキラの寝るテントに入るとギュンターが寝袋の用意をしてくれていた。スキラの後ろを付いて入ってきたクロトはそそくさと左側の寝袋に入っていく。


「真ん中の寝袋がスキラ殿のですぞ。今日は色々ありましたからな。ゆっくり休んでください」

「ありがとうございます。そうさせて頂きます」

「ほっほっほ。ではお二人ともお休みなさい」

「おやすみなさい。クロトもおやすみなさい」

「……おやすみ」


 ギュンターがランタンの灯りをそっと落とす。寝袋に入ったスキラは暗闇の中目を瞑り、今日の出来事を思い返す。ビックコッコの卵を持って帰るだけの筈が突然借金を肩代わりしてもらう事が決まり、ミシラバ旅団に入ることが決まり、グラズやライラが【アルティスナイトの英雄譚】にも出てくる様な存在であることを知った。ここ数日だけで大分スキラにとっては濃い日常だったが、今日だけでも十分に濃度が高い。


 心の整理もろくに出来ず決まった今後の自分の人生はどうなるのだろうかと、ふと不安が過るが何故かそこまで不安にはならなかった。何の確証もないが大丈夫だと思えるのは、ワクワクの方が勝っているからかも知れない。



 ――――――夢にまで見た冒険に出られたのは嬉しいな。奇石か……僕に出来ることがどれだけあるか分からないけれど、とりあえず頑張ろう。

やっとここまで書ききれました。

思い描くものを形にするのは中々難しいですね。


次回は新しい仲間が出てくるかも……?

お楽しみに!


※2024/07/04 表記の修正や見やすい様に改行等、行いました。

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― 新着の感想 ―
あぁ~っ!やっぱりライラさんが巫女様だった!! ライラさんもグラズさんも、アルティスナイトの英雄譚とはかなりイメージが違うけれど、一般的に好まれる物語として脚色も必要ですよね(笑) 英雄譚のイメージと…
[良い点] ちょっとスキラの喋り方かわいすぎません?かわいくないですか? そこそこに悪意も描かれているのに作品の雰囲気が優しすぎて一瞬で浄化されますね〜 特に食事ではキャラクターも世界も身近になったよ…
[良い点] 牧歌的で童話のような優しいお話でほっこりできました。 ライラさんの正体が明らかになり、物語が動き出すわくわく感がありました。 料理の描写も良いですね。今度、作ってみようかな…
感想一覧
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