1-5(旧: 011)
年内更新間に合ったので更新します。
来年もよろしくお願いします。
カーテンの隙間から明かりが差し込み、眩しさで目が覚める。
長椅子でギュンターと共に一晩眠ったスキラは、ガタゴトと長椅子越しに感じる【奇動車】が走る振動を感じながら脳を覚醒させる為、上半身を起こし一つ欠伸をする。
まだ日も昇り初めたばかりなのか、窓に備えられたカーテンを開けると優しい明かりに照らされた。ふと【奇動車】の動きが停まり、ガチャっと扉の開く音と共に運転室から隣で眠っていた筈のギュンターが出てきて挨拶をする。
「よく眠れましたかの?」
「はい、掛け布団も貸して貰っちゃって、ギュンターさんのとかを奪っちゃった訳じゃないですよね?」
「それはこの年寄りのではありませんからご安心を。この旅団には今居る団員用以外にも予備を積み込んでいるのです。だから色々と多めに物があるのですぞ」
確かにここは三人と一匹が過ごすには馬車から考えたら十分すぎる程広いと思っていたが、一体ここの団員は何人居るのだろうか、後三~四人は乗れろとは聞いたが実際はどうなのだろうかとスキラは想像力を働かせる。
「うちは基本各々の意志を尊重しますし、仕事上別行動をとることもあるので、中々団員皆でずっとここで過ごすことはないのですよ。だから眠る時も空き部屋を利用したり、この長椅子を利用したり、時には外にテントを張ったりとわりと自由に過ごしていますな」
「あーそれで椅子の中に掛布団とかが仕舞ってあったんですね」
「その通り、この老いぼれもここでよく眠りますしな」
ギュンターが手早く用意したカフェオレの入ったマグカップを手渡され、ふうふうと少し冷ましてから一口飲む。あつあつのカフェオレはほんのりと甘く、じんわりと苦いがゆっくりと身体を温めてくれる。スキラが少しずつ飲んでいると、奥の部屋から片手で頭を搔き明らかに寝不足ですという顔をしたグラズが出てくる。
「くわぁあ、マジねみぃ……」
「おはようございます、グラズ殿。この年寄りが運転しているのでもう少し眠っていても大丈夫ですぞ」
「悪ぃな、じいさん。着く頃には起きる様にするわ……」
「ほっほっほ、了解ですぞ」
軽い挨拶を交わすとグラズはのそのそと歩き奥の部屋へと再び姿を消した。グラズと入れ替わりに現れたクロトと軽い朝ご飯の用意をするギュンターを眺める。
「おはようございます、クロト殿。クロト殿はホットミルクで良いですかの?」
ギュンターの問いにクロトは頷きで返す。大きな犬(?)のクロトと並ぶ食卓にも少し慣れたスキラは、ギュンターから差し出されたホットミルクの入った器をクロトの前へ置く。今日の朝ごはんはクルミの入ったパンに木苺のジャムとカフェオレだ。ナイフで薄くカットしたパンを数切れ盛った皿がそれぞれの前へと置かれる。
「今朝はお寝坊さん達がおりますし、この後も急ぐのでさくっと朝ごはんを食べてしまいましょうか」
「はい、いただきます」
スキラがミシラバ旅団と過ごす最後の朝食はと二人と一匹でカフェオレとホットミルクを飲む形で始まった。薄く切られたパンは焼き立てじゃないのに何故かふわっと感が残っていてクルミのザクザクした食感が美味しい。味変で木苺のジャムを塗れば、木苺の甘酸っぱさが正面に出てきてデザート感が出てくる。そこにほんのり苦いカフェオレを流し込めば、もう立派なご馳走だ。早々に完食し、朝から贅沢な気分を味わったスキラであった。
朝食を食べたスキラは屋敷に着くのをクロトと共に静かに待つ。一人で静かに過ごし到着するのを待つこの時間は冒険の終わりが近づいていることを実感させ、スキラは改めてこのミシラバ旅団との旅を思い返していた。
初めて食べたサマーサに、サース・フースにビックコッコ、小さな丘での晩餐、宿屋での出来事、スープパスタに今朝のご飯。思い返せば思い返す程、ご飯の事を思い出すのはスキラの食い意地のせいなのかも知れない。だが、この旅団でのご飯は美味しかったので仕方がないと脳内談義をしていると、グラズとライラが起きてきた。二人とも何処か眠たそうではあるが身支度は完璧である。
「おはよぉ~」
「おはよう、ライラ。まだ眠そうだね、昨日は遅かったの?」
「んー、ちょっとやることあってね。まだ眠い~」
スキラの隣に座ったライラは大きな欠伸を一つする。普段の会話もふわっとした話し方をするが、眠たい時はもっとゆるくふわっとした印象で、聞いている此方まで眠くなる話し方だった。
「ほれ、これでも飲んでろ」
「ありがと」
グラズはアツアツのカフェオレをライラに差し出す。先程スキラ達が食べたクルミパンが二人分乗った器と自分の分の珈琲の入ったマグカップをさっと用意しテーブルに置き、グラズはライラの斜め向かいに座った。二人は遅めの朝ごはんを食べ始める。
「スキラは眠れた?」
「うん、しっかり寝れたよ」
「なら大丈夫だね」
「大丈夫?」
「今日はきっと大変な一日になるだろうからね、覚悟しておいた方が良いと思うよ~」
さらっと今何か聞いてはいけないことを聞いたのでは、と動揺したせいか飲んでいたカフェオレが器官に入りスキラは咽る。
「げほっ、げほ。それって、どういうこと?」
「ちょっとね、お手紙とか書類とか書いただけだよ。グラズが」
「なんだかんだ俺にほぼ押しつけやがったからな。今の段階で言えることとすればそうだな、お前にとってもまあ悪くないんじゃねえかって提案だ」
「今言っても良いんだけど逆に混乱させそうだし、詳しくはお屋敷に着いてからね?」
よく分からない二人からの会話に少しモヤモヤしたが、その後の雑談ですっかりモヤモヤしたことすら忘れ始めていた頃、【奇動車】は動きを停めた。
目的地であるレプリスの付近へ着いた様だ。
◇
ここからは屋敷まで歩くぞとグラズに言われ、ミシラバ旅団の団員とスキラは【奇動車】から降りる。ビックコッコの卵を持ってきていた布に包み、抱えて目的地まで慎重に運ぶ。やはり一人で持とうとすると大きいし凄い重量感である。両手で支えるのがやっとで、如何せん卵が視界を邪魔して足元が見えない。
「送って頂いてありがとうございます。本当に助かりました」
「ほっほっほ、大したことではありませんぞ」
「気を付けて持てよ、ここで割っちまったら意味がねぇ」
「足元気を付けて行こう~」
気を引き締め、見慣れた街並みを歩いていく。行きは一人でどうなるかと不安だったが、無事帰路を辿っているのだなと実感する。ただ何故か妙に街がざわついている気がした。それはバニス家の屋敷が近づくにつれ、確信へと変わっていく。
「なんで坊ちゃんがこんな所に!?」
「やっと帰ってきたのか、遅いぞ」
何故かバニス家の一人息子であるエドワードが屋敷の門の前で仁王立ちして待っていた。
「今日は急遽お客様が来るんだとお父様が言っていてな、それで待っているんだ。というかそっちの連中は誰だ?」
「あ、えっと――――」
「俺がそのお客様ってやつだ。通せ、ガキ」
「はあああああ!? ガキだと!!!!!?」
一触即発の空気をライラが間に入り制止する。
「まあまあ、二人とも落ち着いて? とりあえずスキラ、ここの家令さんに"メストリウム公爵"が来たって伝えてもらえるかな?」
「え、あ、分かったっ」
スキラは慌てながらも転ばぬ様に、ビックコッコの卵をしっかりかかえキッチンへと向かう。キッチンの料理番へ卵を渡すと、屋敷内で侍女達へ指示を出していた家令を見つける為に小走り気味に廊下を歩く。ようやく見つけた家令に状況を伝える。
「成程、私が参りますので、スキラは侍女の誰かに応接室へお茶の準備をお願いしてください。その後、早急に応接室へ来るように」
そう伝えた家令はそそくさと屋敷の外へと向かっていく。取り残されたスキラは慌てて侍女を探す。この場合ベテランの侍女の方が粗相がないと睨んだスキラは、新人指導等も行っているベテラン侍女リンダを探す。シーツの洗濯をしていたリンダを見つけ状況を説明すると、直ぐに内容を理解した彼女は身だしなみを素早く整え、テキパキとお茶の支度をする。貴方は先にお客様の元へ行っていなさいとリンダに指示され、スキラも身だしなみを見える範囲で整え応接室へと向かう。
応接室の前で数度深く呼吸をし、緊張で震える手でドアを三回ノックする。
「スキラです、入っても宜しいでしょうか?」
「入りなさい」
静かにそっと扉を開け、部屋へ入室する。会談用に設置されているソファー席では片側にはライラとグラズが、もう片側には機嫌の悪そうなエドワードが、正面にはバニス家現当主バニス子爵が座っていた。バニス子爵の後ろには既に家令がそっと控えていた。
「スキラはエドワードの隣へ座りなさい」
「あ、は、はいっ」
右手と右足が一緒に前へ出そうな程の緊張感漂う空気の中、スキラはそっとエドワードの隣へと座る。緊張が顔に出ていたのか、正面に座っているライラがニコリと微笑むのを見て少しだけ気持ちが和らぐ。侍女のリンダも数分もしない内に部屋へお茶を運んできた。
「まさかこの様な辺境の地にメストリウム公爵がお出でになるとは思いませんでした」
「お久し振りでしょうか、バニス子爵。お変わりがない様で。巫女様から依頼された件を調査中でこの辺りに滞在していまして、急遽寄らせて頂きました」
「それで我が家へ一体何の御用で?」
「そこにいる彼、スキラ・フーリエをうちの団員として雇いたいと思いまして」
ここ数日ではあるがグラズという人物の性格や話し方を知っているスキラからは想像出来ない程、丁寧で貴族の様な口調でバニス子爵と話すグラズに驚きながら、自分の名前が呼ばれたことで更に目が点になる。状況が上手く読み込めず、数秒の間の後にスキラは大きな声で驚きの悲鳴をあげる。スキラだけではなく、隣に座って居たエドワードも予想外の会話に動揺していた。
「………………僕!!!!??」
「スキラをか!?」
「公爵、うちのスキラはただの平民の下働きでしかありません。何故この子を?」
「これは機密情報にも値する為詳しくは言えませんが、巫女様の予言に関わることです。彼はその予言に該当すると判断しました。此方が巫女様からの書状です、お改めください」
一通の封書を渡されたバニス子爵は家令からペーパーナイフを受け取り開封する。数枚に渡る書類を読み、バニス子爵は何かを思考している様だ。
「…………大体の事は把握しました、本当の様ですね」
「彼のこれからは私の方で保障しましょう。現在の彼の借金に関してもメストリウム家でお支払い致しましょう。子爵が快諾くださるのなら、後は彼自身と交渉しても良いでしょうか?」
「ええ、私としては構いません。後は本人の意思を尊重します。スキラ、私としてはお前の母との約束もあり面倒を見ていたがもう自分で考えられる歳だ、話を聞いて自分で決めなさい」
「でもお父様、スキラは俺の使用人でっ!」
「エドワード、お前は黙っていなさい。この際だから言っておくが、私が不在の間に好き勝手するのはやめてもらいたい。彼は私が雇っている下働きでお前のものではないし、お前やヘレン嬢の我儘でこれ以上使用人を辞めさせられても困る。少しは跡継ぎの自覚を持ちなさい」
バニス子爵はエドワードへ厳しく物申すことは中々なかった。街の為に不在なことも多かったが、一人息子を大切にしていた。それこそ使用人達を勝手に解雇にしててもだ。珍しく父親にきつい言葉を投げかけられ、エドワードは静かに俯く。ゴホンと軽く咳払いしたバニス子爵はスキラへと手紙の詳細を語り始める。
「……客人の前で失礼しました。この手紙には巫女様が探している人物がスキラかも知れないと書いてある。出来ればメストリウム公爵の旅団であるミシラバ旅団へと入団し手伝いをしてほしい、と。だが無理強いはしないそうだ、どうしたい?」
バニス子爵へと体を向けていたグラズがスキラの方へと向く。その表情はどう見てもここ数日見覚えのある悪い顔したグラズであった。
「ってな訳だ。巫女様がお前を必要としている。今のところ旅団としての活動期間に期限はねえが、お前の借金も俺が払ってやる。旅にも出れるぞ。どうだ、一緒に来るか?」
「え、どういう……」
「だ・か・ら、もっと簡単に言えば借金チャラでミシラバ旅団に入団できるがどうするかってことだ。こっから出て旅が出来るぞ」
スキラにとって驚きばかりではあるが、嬉しいお誘いであることは間違いなかった。
旅を続けたい気持ちはあったし、ずっと気にしていた借金も返済される。だが旅に出るということはバニス家を去るということ、つまり長年住んでいたレプリスを離れるということでもあり、この屋敷に関わる人物達とも離れることになる。いい思い出ばかりではないが、幼い頃母と過ごした場所でもあり愛着がない訳でもない。
「ミシラバ旅団においでよ、スキラ」
突然の選択に悩んでいるスキラへ、ずっと沈黙していたライラが話しかける。
「スキラは私たちにとってもこの世界にとっても必要な存在なの。入団することでこれから大変なことに巻き込まれるとは思うけど、きっとスキラが夢見ていたワクワクドキドキする冒険が出来るとは思う」
「金のこと気にしてるんなら気にすんな、その分旅団でしっかり働かせてやる」
「グラズったら、またそんな意地悪言うんだから」
「本当のことだ」
しれっと働かせると宣言したグラズにライラはほっぺを膨らませ怒っている。冗談なのか本気なのか後腐れがない様にはっきりと言うグラズと自分の為に怒ってくれるライラを見て、スキラは迷いながらも一つ決心する。
「…………あの、僕、旅に出たいです。巫女様のお役に立てるかは分かりませんが、それでも頑張ってみたいです。旦那様、行ってもいいでしょうか?」
「構わん。それにお前の母の墓もこの土地にある、いつでも帰ってくればいい」
「話は纏まった様ですね。では小切手に受け取りのサインと書類に記入して頂いてもいいでしょうか、バニス子爵」
「ああ、勿論です」
バニス子爵はテキパキと書類を確認し記入していく。そして以前下働きとして契約した時の書類をグラズへと渡す。書類を確認したグラズも署名欄へサインをし、小切手と控えの書類をバニス子爵へと渡す。書類と小切手を受け取った子爵は家令へそれを渡し、耳元で何かを囁く。すると家令は一度部屋を退出し、小さくも重みのありそうな布袋をテーブルの上に差し出す。
「これでお前の借金は無くなり、下働きの契約も無くなった。今まで母共々うちに仕えてくれたこと、感謝する。これは少ないが持っていきなさい、旅の支度に使うといい」
「そんな、受け取れません」
「いいから受け取りなさい。お金はあって困るものじゃない」
「ありがとうございます、旦那様」
「早く部屋へ行って荷物を纏めてくるといい。支度が出来たらホールで待っていなさい」
スキラは深くお辞儀をし、応接室を後にする。急ぎ足で下働きの部屋へと向かう。特に自分の荷物という荷物はないが、唯一持っている継ぎ接ぎの大きな布に数枚の着替えと先程貰った金子の入った布袋、母の形見の本を包む。置き忘れた物がないか確認し、自分が使っていたベッドも軽くだが整えてから部屋を出る。
部屋を出てホールへと向かっていると大きな声で呼び止められる。
「スキラ!!!!」
「坊ちゃん?」
「本当に、本当に行くのか!?」
「………………はい」
強い口調とは裏腹にエドワードは寂しげな瞳でスキラを見つめていた。スキラの人生の中で一番なんだかんだと長い時間一緒に過ごしたエドワードに、スキラはありったけの感謝を告げることにした。
――――――色々思うことはあるけれど、でもきっと一番伝えたいのはこの言葉な気がする。
「今までお世話になりました。坊ちゃん、どうかお元気で」
深いお辞儀をしたスキラを見てエドワードは言いたかった言葉をぐっと堪えたった一言だけ、また帰ってこいよと告げ自室へと戻っていった。はいと大きな返事をし、スキラは歩き出す。
玄関ホールには既にグラズとライラ、バニス子爵と家令が既に居た。何の話かまでははっきり聞こえないが盛り上がっている様であった。
「お待たせしました。準備してきました」
「忘れ物はねえか?」
「大丈夫です。旦那様、今まで本当にお世話になりました」
「怪我や病気には気を付けなさい」
スキラは改めて今まで雇ってくれていたバニス子爵へと感謝を述べ、グラズ達と屋敷から出る。他の使用人達への挨拶は時間の関係上、家令に任せてしまったが、エドワードにはしっかりと想いを伝えることは出来た。後はミシラバ旅団に付いていくしかない。
「グラズさん、ライラ。これからよろしくお願いします」
「よろしくね、スキラ」
「さっさとしないと置いてくぞ。爺さん達と早く合流しねぇといけねえし」
感傷に浸る暇などなく、スキラはグラズの後をライラと追う。話し合いの場に居なかったギュンターとクロトを迎えに向かう。路地裏では呑気にレプリスの名産品のベネットを食べてお茶をしているギュンターとクロトの姿があった。
「ほっほっほ。終わりましたかな?」
「うん。ね? スキラ」
「えっと、これからお世話になります!」
「此方こそ、宜しくお願いしますぞ」
「クゥーン」
「クロトもよろしくってさ」
ギュンターとクロトへの簡単な挨拶も済み、スキラは彼らと共に街の外へと歩く。一歩一歩としっかりと踏みしめて前へと進む。スキラの横を歩いていた筈のライラがグラズの方へとてとてと近寄り、次の目的地をどうするかと相談している様だった。
「とりあえずこれからどうする?」
「あー、次の街へ一気に行きてぇところだな。そろそろ本格的な買い出しとかもしてえし」
「ならミースに行こうよ。合流地点とかも考えるとそこなら色々都合が良いと思うし」
「そうするか」
二人の会話を聞きながらふと疑問に思う。今の今まで自分のことしか考えられていなかったが、ギュンター達は何故か屋敷の前から別行動をしていた。その間ギュンター達をずっと路地裏で待たせていたのではと思い、慌ててその時の状況を聞く。
「すみません。ギュンターさん達、もしかしてずっと路地裏で待たせてましたか?」
「いえ、そんなことはないですぞ。グラズ殿とライラ殿が屋敷に入る時にお二人と別れ、クロト殿とこの後の旅に備えて食料品の買い物をしたり、少しばかり散歩をしてからあの路地裏でのんびりしておりましたので気にしないでください」
ギュンターは優しい言葉をかけ、スキラの耳元に近付きそっと囁く。
「勿論、スキラ殿の分の食料も勿買ってますぞ。また一緒に旅が出来ますのぉ」
楽しみですなぁと笑うギュンターにスキラの目頭が熱くなる。嬉しいのも勿論あるが、これから一緒に旅することをやっと実感したのもあるかも知れない。
「おい、爺さん。この後の運転代わってくれ」
「ほっほっほ、仕方がありませんなぁ」
「なら今日はギュンさんの代わりに私が晩御飯作るね」
「お願いしますかのぉ」
「じいさんだけズルくねえか?」
「気のせい気のせい」
後ろで三人の会話の輪に入れずにいると、ライラが振り返りスキラに手を差し出す。
「行こ、スキラっ」
「う、うん」
すっと差し出された小さな手を握り返し、ライラに引かれる様にレプリスの外へと歩みを進める。
予想外の出来事だったとはいえ、これから新たな人生の一歩を踏み出すことになったスキラはミシラバ旅団の一員としてレプリスを旅立つのだった。
とうとう主人公が旅に出ます。
どんな旅になることやら、お楽しみに。
※2024/07/04 表記の修正や見やすい様に改行等、行いました。