1-4(旧: 010)
6月末にあげようと思っていた筈が、思ったよりも遅くなってしまいました。すみません。。。
祖母の入院手続きや夏バテ等で、清書する時間がどうやっても取れませんでした。
今日の話は、奇石奇譚を書き始めてからずっと展開に迷っていた部分です。
それではどうぞ!
翌日。
晩餐の後、宿に戻り各々部屋で眠ったのはもう深夜だった。直ぐに寝たとはいえ普段より動き回っていたのに遅くに眠った為か、スキラは普段目が覚める時刻になってもぐっすりと眠っていた。優しく体が揺すられる感覚がし、少しずつ意識が覚醒していく。
「――――ラ殿、スキラ殿、もうそろそろお昼になってしまいますぞ?」
「…………ふぁあ……へ?」
「ほっほっほ、おはようございます。もう直ぐお昼ですぞ」
「え、うわっ、すみません今急いで支度しますっ」
「急がなくて大丈夫ですぞ。ゆっくり支度をして降りてきて下され」
そう告げてギュンターは部屋を後にした。スキラは急ぎめで支度をし宿屋の食堂に下りて行くと、既にスキラ以外の全員が椅子に座りスキラを待っていた。
「お待たせしました、おはようございます。すみません、寝坊してしまいました」
「おはよ~」
「おせぇ、腹減ったし早く食うぞ」
スキラが開いている椅子に座ると、女将さんお手製のご飯が運ばれてくる。出来立てホカホカの美味しそうな料理がテーブルに並べられていく。今日は具材たっぷりのサンドイッチとサラダとトマトスープだった。
「ほっほっほ、グラズ殿も先程起きられたばかりではないですか」
「うるせぇ、じいさんも遅かっただろうが」
「早起きだったのはライラ殿とクロト殿だけでしたからのぉ」
「ライラ、待たせちゃったよね。ごめんね」
「全然いいよ。目が覚めちゃったからクロと散歩してのんびり過ごせたしね。さ、食べよっ」
「たぁんとおあがりくださいね。採れたての新鮮なものをたっぷり使ってるからさ」
女将さんの笑顔の一言に皆の期待値が上がる。しっかりいただきますをし、女将さんの手料理をそれぞれ味わう。分厚めのハムの挟まったサンドイッチ、特製ドレッシングのかかったシャキシャキとしたグリーンサラダ、サイコロ上の野菜がたっぷり入ったトマトスープは、旅人の栄養と腹持ちが考えられた素晴らしいメニューであった。
女将さんお手製料理を食べ終えたスキラ達は、支度を整えると女将さんにお礼を伝え宿を後にした。
ミシラバ旅団一行とスキラは荷物と共に【奇動車】に乗り込む。出発する頃には日が少し傾き始めていた。グラズから全員に今日これから丸一日かけて<サイリス>近くまで戻り、そのまま早朝までにレプリスまで戻る事と今日は車中泊になる事が告げられる。
「どうせレプリスまで戻る手段考えてねえんだろうし、これでギリ間に合うだろ」
「はい、昼食の時間までに戻れれば大丈夫です。宜しくお願いします」
「ほっほっほ、安全運転で行きますぞ」
「今日はのんびりできるね~」
とりあえず俺が運転すると言い、グラズは運転室へと入っていった。ギュンターは今の内に少し休むと言い寝室へ、クロトもそれに付いていく様にリビングスペースから居なくなった。
「ライラは部屋に行かなくていいの?」
「んー、そうなるとスキラ一人になっちゃうし、お喋りして過ごそうよ」
「ありがとう」
普段は仕事をしている時間にただ【奇動車】に乗って、一人で何もせずにいるのは落ち着かないと思っていたスキラは、ライラの提案に少しほっとした。流石にやることがないのだ。
「ミシラバ旅団での旅はどうだった?」
「すっごくハラハラドキドキしたけれど、楽しかったよ」
「ふふっ、なら良かった」
「ねえ、ライラ。昨日のこと何があったか聞いていい?」
「ビックコッコの話?」
どうやってライラはビックコッコの卵を持って帰ってきたのか、スキラはずっと気になっていた。自分が見た摩訶不思議な風景のことも、遠くに居た筈のライラが卵と共に一瞬で移動したことも。
「うちの旅団って、みんなちょっと変わった"能力"があるんだよね。特殊能力的な」
「特殊能力?」
「詳しく話したいけれど、旅団のルールとしてダメってことにしてるんだよね。ごめんね」
詳しく聞きたかったスキラとしては少し残念だが無理強いは出来ない為、この話題は一瞬で終わってしまった。その後は気まずくなることもなく、今朝の美味しかった朝食の話や宿のベッドの寝心地などで盛り上がっていった。
「そうだ、ライラ達って【奇石病】の人にって会ったことある?」
「あるよ。どうかした?」
「僕の体にも何か出来てるんだけど、これって奇石病かどうかって見たらわかる?」
「え、見せて!」
「え、あ、はいっ!!」
スキラの体には六年前の【奇石】が現れたあの日を境に、謎の透明な鉱物みたいな物が右の前腕に現れた。だが体に不調を来たすことも痛みもなかったこと、病院に行くお金も無く相談出来る身内もいなかった為、目立たない様に包帯だけ巻き放置していたのだ。驚いた様子で患部を見せてと要求され、急いで袖を捲り包帯を外しライラに腕を差し出す。
「ここ、なんだけど……」
ライラはじっとその場所を見つめ、そっと触れる。
「確かにこれは【奇石】だね。しかも私の探している【奇石】かもしれない」
「え?」
「…………私、ちょっとやること出来ちゃった。代わりにギュンさん呼んでくるね~」
—―――どういうこと!?!?!?
ライラは「ごめんね」と言いながら、そそくさと寝室へと向かっていった。スキラは状況が読み込めないまま、一人その場に取り残された。数分後やってきたギュンターに説明を求めても、「ほっほっほ、何か良いことでもあったのでしょう。その内分かると思いますぞ」といつもの様に優しい笑顔で返されてしまった。納得はいかないがきっとライラ達にも何かあるのだろうし、ギュンターのこの優しい笑顔で言われるとどうにもこれ以上言及する気にはならない。
その後は何事もなかったかの様に、お茶を飲みながら他愛もない雑談をして過ごした。日が沈み夕食頃になって寝室から出てきたライラにどういうことか聞き返そうと思ったが、満面の笑みで「まだ分からないこともあるから秘密」と言われてしまい、結局真相は謎のままだ。
「とりあえず、今は旅を楽しんで。折角のスキラの初めての旅でしょ?」
ライラのその一言ではっと思い出す。悩んでいても、明日が来る。明日が来たら、もうこの旅は終わってしまうのだ。
—―――今出来ることをしよう。一緒に旅をしたミシラバ旅団の為にも、自分の為にも。もっと話したり手伝おう。
そう決めてしまえば、わりと単純なスキラにとって雑念を捨てて動くのは簡単だ。悩んでいてもしょうがない時はとりあえず今したいことをしときなさいと、亡き母も言っていたからだ。
一時停車した【奇動車】から出たミシラバ旅団の団員とスキラは、各々外で食事の準備をし始める。スキラは前日同様、ギュンターの手伝いで焚火の用意をした。今日の晩御飯はギュンター作の簡単にできるスープパスタらしい。スキラはスープパスタというものがどんな料理かは知らなかったが、パスタ自体は食事として作ったこともあった為、ギュンターからスープに浸かった汁気の多いパスタと思ってくださいとの説明で何となく理解することが出来た。
「スープパスタって食べたことないです」
「このじいがご飯当番の際はこういう移動が長くてご飯の用意を簡単にしたい日に作ることが多いですなぁ。短時間でできるものに限りますからな」
「確かにお話を聞く限り、一品で済みますもんね」
旅をしているとどうしても野外で食事をする機会が増える。
その中で一番大変なのは準備と片付けである。移動が多く慌ただしい中だと簡単に作れ、お腹を満たせるものが重宝される。それは後片付けの時間の短縮にも繋がるからというのもある。片付けが早ければ、それだけ早く翌日の準備や就寝に時間を使える。この世界の旅人の常識の一つでもある。
「忙しい時はグラズ殿が作る時もライラ殿が作る時も似たような一品ものが多いですぞ。鍋一つで作れますしなぁ」
「具材を変えれば味変出来そうですしね」
「その通りです。がっつり肉系のスープの時もあれば、魚介系スープの時もありますぞ。パスタ系もマカロニ、ペンネ、スパゲッティ等、【奇動車】に積んでいる保存食材を使うので、気分に合わせて変えることもありますな」
聞けば聞くほど想像力が掻き立てられ食欲のそそられるご飯トークを繰り広げていると、あっという間にスープパスタが完成していた。いつの間にか食器の用意をしていたライラと、焚き木を集めた後運転席で休憩していたであろうグラズも焚火の前に集まってきていた。
今日のスープパスタは鶏肉の入ったゴロゴロ野菜のクリームスープパスタだ。
「出来ましたぞ」
「わ~、美味しそう」
「美味そうだな」
「サース・フースで新鮮な食材をいっぱい買ってきた甲斐があるね」
順々にギュンターが器に盛り付けていく。スキラの分にもしっかりお肉が入る様に寄そってくれたのが、スキラには嬉しかった。遠慮しているのを察してかギュンターから器を受け取る際、一言付け加えられる。
「おかわりも自由ですからな?」
ギュンターがたっぷり食べてくだされと皆に告げ、いただきますをし食事をした。
深めの丸い器に盛られた温かなクリームスープパスタは、ミルクの濃厚な味わいと香辛料による風味付けが絶妙にマッチしているだけではなく、しっかりと野菜やお肉からの出汁も出ており、スープだけでも美味しい代物である。パスタ自体も食べやすいよう短く折られており、ちゅるちゅると口の中へと入っていく。よく噛んで食べていてもあっという間に食べつくしてしまい、おそるおそるおかわりしたい事を伝える。
「おかわりしても良いですか?」
「勿論ですぞ」
「私もおかわりする~」
もう一杯寄そってもらい、もう一杯頂く。スキラはこの旅でみんなでワイワイ食べる出来立てのご飯の美味しさを覚えてしまった。これは明日からの食事が味気なく感じそうだなと少し不安に思いながらも、せめてこの味を忘れない様にしようとよく噛みしめて食べた。
食後の片付けをしていると、グラズがこれからの予定を告げる。
「とりあえずもう少し【奇動車】を走らせるから、適当なところでお前たちは寝ろ。爺さんは朝方起きたら運転任せた」
「承知しましたぞ」
「わかりました」
「早く片付けしちゃって、ゆっくり過ごそ~」
この夜、スキラは出来る限りのことを手伝い、彼らとの時間を大切に過ごした。きっともう一緒に旅することはないだろうと思って、それはもう思い付く限りのことをして一日を終えた。
◇
夕食を終えその後も暫く走行していた【奇動車】が停車する。
もう夜も更け、スキラとギュンターは長椅子で熟睡していた。そっと通路を通り過ぎ、グラズは一服しに車外に出た。近場にはよしかかるのにちょうど良い木が生えており、休憩には最適であった。だが一服する間もなく来訪者が現れる。
「…………で、なんでまだ起きてるんだよ」
「夜更かしだよ。お疲れ、グラズ」
グラズが外に出たのを確認しライラは外へと出てきた。寝巻の為、薄着なライラに雑に自分が着ていたコートを羽織らせる。
「薄着で出てくんな、アホ」
「ん。ありがと~。はい、代わりにホットな珈琲をどうぞ」
事前に用意していたであろう水筒から、マグカップに温かな珈琲を注ぎ差し出す。おうと一言返事を返し受け取り、少し冷ましながら一口飲む。
「わざわざ二人きりになるの待ってたんだろ。何があった?」
「私たちの探し物が見つかったよ。きっとあの子も選ばれた子」
グラズは驚きのあまり思わずズルリと落としそうになったマグカップを持ち直す。
「はぁあ!? アイツがか?」
「本当、今日確認したもん。あの子も奇石病だったよ、しかも特別な奇石」
「ならこれで7つ目か?」
「とりあえず、かな。まだあの子の奇石は眠っている様だし、分からないことも多いからさ……」
自信なさげにぼそりと語るライラに、グラズは溜息をつき空いた左手でガシガシと雑にライラの頭を撫でる。撫でた後、此方を向かせる様に小さな頬にそっと手を這わせる。
「俺はお前を信じてるし、間違っても怒らねえよ。自信持っておけ」
「ふふっ、ありがとう。でもそんな簡単に信じていいの?」
「当たり前だろ、今の俺の主はお前だけだ」
二人の間に静寂が訪れる。一瞬大きな蒼い瞳が更に大きく見開き、ふわりとはにかんだ。それは燃える様に赤いの瞳に真っ直ぐ見つめられたからなのか、グラズの偽りのない言葉故か。きっとこの瞬間を見た者が居ても分からないだろう。だが二人の間にはこの言葉だけで通ずるものが存在する。
「じゃあ、そんな私から一つお願いがあるんだけど」
この満面の笑みにも身長的に上目使いになるこの状況にも、このお願いに振り回されるのも慣れたもので、グラズは一つ軽く溜息をついた後その内容を承諾する。今回のお願いは一般の人には気軽な内容ではないが、グラズにはそれを叶えるだけの財力と権力がある。ましてや、その権力を与えた張本人が自分にお願いしているのだ。叶えられないわけがない。
「……あ゛ーもう、しゃあねぇな。なら準備するぞ、お前も手伝えよ」
「はーい」
グラズの一服はお預けとなり、野外で書類作業をしなきゃならなくなったことで、ふと先程差し出されたドリンクが珈琲だったことに違和感を覚える。
「てかお前、わざと珈琲入れたな。いつもなら文句言いそうな癖に」
「ふふふ、まあね。この後頑張ってもらおうかと思ってさ」
「はあ…………」
【奇動車】内のリビングスペースではすやすやとスキラとギュンターが眠っている為、ランタンと敷物でも持ってきて作業するしかないなと覚悟を決め、グラズは【奇動車】の背面にある収納から敷物と簡易テーブル、ランタンとブランケットを持ってくる。その間にライラはこそこそと【奇動車】へ乗り込み、書類や筆記用具等必要なものを持ってくる。これから最低でも一時間はかかるであろう作業をこっそり行う為だ。
「じゃ、やるぞ」
「お~」
ランタンの灯りが消えたのはそれから一時間後であり、二人は流石に眠いのかそそくさと片付けて【奇動車】へと戻っていった。
――――――この"お願い"がスキラの人生を変えることをまだ彼は知らない。
読者の皆様。暑い日が続きますが、元気でお過ごしでしょうか。
私は絶賛暑さに負けています(笑)
今回の話は、展開に悩みすぎて何度この部分を書き直したかわかりません。
今後に繋がる大事な部分の為、脳内構想だけでも何十回もし下書きをいじり倒しました。
スキラの今後の展開が楽しみですね。
次の話数も早めに清書します・・・それではまた!
※2024/07/04 表記の修正や見やすい様に改行等、行いました。