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第4話 悪役令嬢とやらになりました

「シェリルーリア様、どのような称号でしたか?私は【焔の杖】でした。これで魔法院の入団試験を受けられます」


「私はーー」


 能力解放の儀が終わると、何人もの人が私を囲って話し始めた。

 私はここの領主の娘。しかもうちは侯爵家。皆が私の事に注目するのは仕方がない事。

 まっ、まずい。

 人様にお見せできるような代物ではない。


「わっ、私のはまず家族に報告が第一ですので。先に他の人に言って、噂で家族に伝わるのは避けたいのです」


 私はそれらしい嘘を言って、何とかその場を乗り切った。


 聖堂を後にし、私はまず馬車の御者に買い物をしてから帰る旨を伝えた。チップを渡し少し一人で買い物をしたいと言い、私は少しの時間一人で買い物をした。

 洋服屋に入り服をいくつか見繕う。そして金を先に払い、着替えて帰りたいからと言い試着室に入った。

 私は購入した物の中で外套だけ素早く試着室で羽織り、気配を殺して店から出た。


 暫く人に紛れて大通りを歩く。そして人気のない路地にすっと入り、その中を素早く歩く。


「……この辺りなら人もいないし、少し落ち着けるかしらね」


 私はそう言い一息ついた。

 私は左手首に触れて称号をまじまじと見た。


 【獅子王子の毒】


 何度見直しても、そう書いてある。

 見間違いはない。

 頬をつねってみた。

 ……痛い。夢ではないようだ。


 獅子はこの国の国旗に描かれている。我が国を獅子の国と呼ぶこともあるほどに、獅子は我が国の象徴だ。

 獅子王子。それは間違いなくユーリウス王子のことを指しているだろう。


 ユーリウス王子はこの国の王子にして、只一人の王子。

 ユーリウス王子は本当は第二王子だった。しかし、年の離れた第一王子が戦死した。

 もう五年も前のことである。

 当時我が国は、長年小競り合いをしていた隣国に攻め入った。戦力は我が国が圧倒的に多く、誰もが圧勝であると信じていた。

 ……結果は我が国の圧勝であったが、第一王子は戦死した。

 誰もがまさか王子が死ぬとは思いもしなかった。不運、としか言いようがない。


 それ以降国王は戦争に消極的になり、第二王子は警備が増え、それはもう大事に大事に育てられてきた。


 そんな人の毒と書かれた称号を持つ私。

 国王にバレたら殺される可能性高いわね。


 補足。それは称号の詳細。

 えっと……悪役令嬢と咎人の証だったわね。

 悪役令嬢がどんな人を指すか、正確には分からないが私のイメージでは、「おーっほっほっほっ」って言ってる傲慢な人なのだが。


 これは転生前のシェリルーリアをイメージして言ってみた。

 彼女はかなり我儘なお嬢様だったから、もし私が転生しなかったら、沢山の敵を作ってたに違いない。

 これは私というより、前のシェリルーリアが反映されているのではないだろうか。

 対して咎人の証は、魔族と契りを交わした前世の私のことを指している可能性が高い。


 前世と今世の悪い部分が合わさって出来上がった称号という感じかしらね。

 そのせいで獅子王子の毒と言う称号になったのかしら?

 ……ってそれなら最悪じゃない。なんでこんなに不幸な目に遭わなくてはならないのよ。


 私前世は処刑されたのよ。特に悪いこともしていないのに。たまたま恋人が記憶をなくしていた魔王だっただけよ。私は知らなかったし、そんな気配も感じなかったし、気づきようがなかったわよ。

 私はただ、運が悪かっただけよ。


 前世で散々大変な目に遭ったのに、それをまだ引きずるなんて、酷すぎでしょ‼︎ちゃんと清算してよね‼︎


「はぁ……もうなんでこんな称号なのよ。私は何も悪いことしてないじゃない」


 私は盛大な溜息をついた。


 家に帰ったら絶対に今日のことを聞かれる。隠すのはきっと許されない。

 でもバレたら何を言われるか……。

 いや、言われるだけならまだ良いか。我が家だけの秘密にしてもらえて、軟禁生活ならまだましだ。

 しかし、罪人扱いされる可能性も高い。

 いくら私のことを溺愛しているからと言っても、この国の未来の王の邪魔者なんだから流石に……ね。私に激甘だから慈悲をかけてくださり、内々に流罪とかにしてくれる可能性もないとは言えなくもない。

 しかし、我が家だけで秘密を抱え込まない場合は……悪い芽は早めに詰むみたいな感じで、処刑……かな?


 外にバレる=処刑はかなり可能性が高い。

 だって彼は唯一の後継だからね。

 彼が死ねば王統は途絶えてしまう。


 私は寒気がした。

 イヤイヤイヤ‼︎

 処刑なんて二度とごめんだわ‼︎


 私は無意識に左脇腹を抑えた。

 ……そう言えばあの時……能力解放の儀の時に、ここが熱くなるのを感じた。

 転生した後、着替える時に確認したが、血の刻印は刻まれていなかった。

 私は外套の中の服をたくし上げ、確認する。

 外套を購入したのはこのいかにも貴族の娘という高そうな服で街を歩けば目立つからと言う理由で買った。

 一度頭の中を整理したかったから少し人気のないところに行きたかったのだ。しかしこれのお陰で外でも確認出来た。

 いくら人気のないところでも、ワンピースを腹までたくし上げるのは隠すものがないと恥ずかしすぎる。


「あっ……」


 あった。見覚えのあるあの刻印があった。

 転生したすぐはなかったのに、何故……。

 やはり能力解放の儀の時に発現したのだろうか。

 称号の補足にも咎人の証ってあるし、これがあるからよねきっと。

 私は刻印をまじまじと見た。刻印の模様は前世と同じ。つまり魔族との契りの罪。

 まさか今世まで引きずるなんて……どんだけ重い罪なんだ。


 彼は……魔王はまだ生きている。私が逃したせいで生き延びている。

 しかし500年も生き延びるなんて思わなかった。てっきりあの後勇者にでも倒されたのかと思ったよ。


「もしかして……彼が生きているから?」


 私はふとある可能性に辿り着いた。魔王が生きているからこの刻印は今世も引き継がれた。

 なら、魔王を倒したら?

 もしかしたら刻印は消えて、私の称号は変化して、平和に暮らせるかもしれない。

 どの道、このまま侯爵令嬢として生きていくのは難しい。

 だったら冒険者になって魔王討伐を目指すのも悪くないかもしれない。

 冒険者にとって能力は命綱。騎士団と違い、ギルドは公開を強要しない。寧ろ隠している人も多い。私にとって冒険者は都合がいい。


「ーーよし、冒険者になろう‼︎」


 私は冒険者になる事を決意した。


 元恋人の魔王を倒せるのかって?

 大丈夫よ……多分。

 だって500年も経ってしまったもの。人間の頃の人格とかないかもしれない。

 それに人間なら100年生きたら大往生よ。

 貴方は500年も生きたんだから……前世が短かった分、今世私に長生きさせてください‼︎

 私に平和をください‼︎

 その為に私に倒されてください‼︎


 私は魔王の居城のある方角に向かって手を合わせて頭を下げた。

 元恋人ってのは、やはり倒しにくいが、ぶっちゃけ向こうも500年も経てば私の事なんて忘れてるかもだし、私も違う人として今は生きているから、前世の事は遠い昔の記憶の様な感覚なのよね。


 ーーよし、きっと出来るわ‼︎


 私は冒険者になる事を決意し、その為の行動に移ったのであった。

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