第22話 模擬テスト
セリュードさんの特訓を受け始めて早一週間。
「おっ、おはよう。……大丈…夫?」
「……ああ。おはようございます、マリヴェルさん。大丈夫ですよーー。……多分」
「……」
私はかなりボロボロになっていた。
全身傷だらけで、疲労感が滲み出ている、
特訓の内容は、午前が魔法、午後は体力づくりと剣術だった。
魔法は1日1属性。風・土・光をローテーションで行なっていた。
ウインドブレードもソイルアッパーも覚えることが出来た。現在はより早くより正確に敵を撃つ特訓をしている。
魔法は順調だ。
問題なのは午後の特訓だ。
ステータスの体力・力・防御・俊敏をある程度上げないと近接戦は難しい。魔導師がそれらのステータスが低いのは良くあることだが、最低限はないと何かあった時に対処出来ない。
特に体力と俊敏は上げた方が良いと言われた。
まず最初に5K走り込みをする。
その後は剣の打ち込みをする。
防御の練習は、剣と魔法を日替わりで打ち込まれる。
そして最後にまた5K走り込みをする。
……あれ?俊敏を上げる訓練がない。
私はこの一週間の訓練を思い出し、今更ながら気がついた。
私は朝食を食べた後いつものように裏庭に行った。
「あの、俊敏を上げる訓練はしないのですか?」
「多分多少はついていると思うぞ」
「えっ⁈」
「一週間経つし、そろそろやってみるか」
セリュードさんはそう言うと剣を構えた。
「お前も構えろ。魔法以外なら何を使っても良い。実際に手合わせしてみるか」
その瞬間、セリュードさんの纏う空気が変わった。ピリッと張り詰めた空気が漂う。
隙がない。
どこを攻めたら良いのか分からない。
正面からより、側面からかしら。
そう思い半歩横にズレようとした瞬間。
「はあっ‼︎」
セリュードさんが打ち込んできた。
そしてあっさり私は倒され気絶した。
その後も何度も手合わせしたが、全然歯が立たない。剣を打ち込んでも、蹴りを入れても、砂で目くらましをしても歯が立たない。
打ち込まれたのを防げても、最終的には倒される。
実力に差がありすぎる。
自分的には強くなったと思ったんだけどな。
私の勘違いのようだ。
その日から魔法の練習は午前の少しだけになり、残りの時間は全て手合わせになった。
全然歯が立たないし、毎日ボロボロで傷だらけだけど、セリュードさんが怒鳴る回数は減った気がした。
「今日はここまでにしよう」
手合わせを始めて二週間が経った。その日はまだ昼なのにセリュードさんはそんなことを言った。
「この三週間でお前は大分強くなった。今日はもう体を休めて、明日ギルドに行こうと思う」
「それって……」
「模擬テストを受けることを許可する」
私は反射的に顔がほころんだ。だが、すぐに眉間にしわを寄せた。
「私、強くなれましたか?」
「ああ。実感はないかもしれないが、意外と剣術・体術も筋が良かったぞ」
「あっ、ありがとうございます」
「魔法も威力を抑えて使えるようになったから、クエストもやりやすくなるだろう。今の段階では魔法は全力で使わない方が無難だと思うがな。最初から非凡な才能があり過ぎると、出自とか色々嗅ぎ回られる恐れがあるからな」
「えっ⁈」
なにそれ⁈そんなの困るわよ‼︎
私は死んだことになっているんだから‼︎
「儀式を終えたばかりの禄に訓練もしていない奴が、一人で冒険者になろうとしている。その場合、ただの憧れでのこのこやってくる奴か、何か訳ありかどちらかだろうが。オレは興味がないが、探られたくない腹があるなら気をつけるんだな」
「……ありがとうございます」
きっと彼は私の事情を察して、あの魔法に頼らなくて済むように訓練してくれたのだろう。理由は分からないが、もしかしたら彼も同じような理由でここにきたのかもしれない。
こうして私は翌日ギルドにて、タグを貰う為の模擬テストを受けることになったのだ。
半日休息を貰えた私は、これまでの疲れを癒す為に泥のように眠った。
翌日、私はセリュードさんと共にギルドに向かった。
まずは入り口付近にある石板に左腕をかざす。これは能力の更新に使うものだ。
この石板はギルドや街の出入り口、遺跡や森など様々なところにある。
いつから分からないが、太古の昔から世界各地に存在するもの。能力解放の儀を受けたものは、この石板を使って自分の情報を更新してきた。
近年、この装置に類似するものを人工的に作り出し、ギルドや街に配置して、より使いやすくしたのだ。
魔物を倒した際は、経験値が直ぐに反映されてレベルが上がる。しかし、走り込みをしたり、手合わせしたりと訓練の場合は直ぐには反映されない。その際は、この石板を使いレベルに反映させて自身を高めるのだ。
左手をかざすと光る。光が収まったら完了だ。
「……なんか、力がみなぎってくる感じがします」
「レベルが上がるほど頑張った証拠だ。どこかで確認してくると良い」
「はい」
私は室内の隅の方で確認をした。
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シェリルーリア=ミッドハイツ
14歳
女
レベル 5→10
称号 獅子王子の毒
悪役令嬢、咎人の証
ステータス
体力 13→50
力 15→48
防御 10→45
魔力 1000
魔防 16→52
俊敏 18→55
サブスキル
聖女 100
風魔法 7
土魔法 5
光魔法 52
闇魔法 50
薬学 8
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私はさっと目を通した。レベルが低いうちは上がりやすいと言われているけど、もう10。しかも前回の上がり方より凄い。ステータスの上がり方が全然違う。
後は……サブスキルに風魔法と土魔法が追加されてるわね。あっ、でも本の通り魔法欄には記載がない。
私はセリュードさんのところに戻った。
「上がっていたか?」
「はい‼︎この間討伐に行った時よりステータスが上がってました」
「レベルが上がる際の各項目の上がり方は、それまでに行ったことにより変わる。今回上がったということは、訓練が身になったということだ。それだけ頑張ったんだ、誇って良い。……本当言うと、まさかあそこまでついてこれるとは思っていなかった。よく頑張ったよ、本当に」
「へへっ」
嬉しかった。あの特訓の日々がこうして成果として現れた。セリュードさんに褒められた。
「じゃあ、模擬テストの申請に行くか」
「はい」
「おはようございます。お待ちしておりました。模擬テストを受けにこられたのですか?」
受付に行くと、ミリアさんが応対してくれた。
「はっ、はい。そうです」
「では、こちらへどうぞ」
私たちは、ミリアさんの後について行った。前も感じたが、私とセリュードさんが一緒にいると凄く見られる。男女問わずたくさんの人が私達を見ている。女性だけなら、セリュードさん美形だし何よあの女‼︎みたいな感じで見られているのかなと思うんだけどな。
もしかしてセリュードさん、男性人気も高いのかな⁈
「なあ、あれって……」
「すごいわよね……」
なんか皆怯えてる?私何かしたかしら?
連れてこられた場所はギルドに併設されている訓練場。
ここでは冒険者が好きな時に鍛錬に励むことが出来る。訓練場の真ん中にはひらけた場所があり、闘技場のような場所になっている。
石畳の一段高くなっている場所は、この場所に6つ作られている。
ここは手合わせ用の場だ。そして模擬テストにも使用される場所。それぞれに魔法を使う際の魔障壁を展開する装置も備え付けられている。
「では、こちらに上がってきてください」
「はっ、はい」
私は返事を勢いよくしたが、声が裏返ってしまった。ああ、緊張する。
「防具は……付けているわね。武器はその剣?杖じゃないの?」
私が持っている武器は剣。杖も持っているのがあるが、剣を扱っている時に杖は握れないしね。それに威力が落ちるだけで、杖がなくても魔法は使える。
先日ドロップアイテムで得た蒼玉は、セリュードさんの知り合いなら剣の材料として扱える人がいて、杖と剣が一体化した武器が作れるそうだ。
なのでその人に依頼しようと思っている。
ミリアさんは私を魔導師だと思っているようだ。
まあ、小さな女の子が剣で戦うのは想像が付きにくいのかもしれない。
「はい。ミリアさんに認めてもらえるよう、3週間頑張ってきました」
「……確かに、見ない間にずいぶん頑張っていたみたいね」
彼女は私の体を見て、納得したように頷いた。
私の体はボロボロだ。セリュードさんが、いつもすぐに回復できるわけではないから、痛みにも慣れろと言い、回復薬等はあまり使わなかった。なのでそこら中に生傷が絶えない。
「じゃあ、戦うわよ」
そう言い、ミリアさんはジャケットを脱いだ。
えっ?なんでミリアさんが戦闘態勢になっているの?
「どういうことですか?ミリアさん。なぜ貴方が戦う準備を」
「何故って、貴方と今から戦うのは私だからよ。安心して、これでも冒険者時代はⅤのタグを持っていたのだから」
ミリアさん、元冒険者だったの⁈
そんな人相手にどこまで戦えるのかな……。
すると私たちのところに、もう一人ギルド職員が来た。どうやらこの戦いの審判のようだ。そして私たちに会釈し、手をまっすぐ上げた。
「では、模擬テストを始めます。ーーはじめ‼︎」
合図と共に私は剣鞘に入れたまま、ミリアさんに向かって突進した。そして間合いに入った瞬間剣を抜き、そのまま振り切る。
ミリアさんは咄嗟に後退し、防具を少しかすめただけだった。
だが、ここで止まらない。私は剣を振り切った後、体をひねりながら左足を回し蹴りして、そのまま回転し右足も繰り出す。そして着地した後、剣を突き出した。
「くっ……‼︎」
ミリアさんはそれを上体を反らして避けた。彼女はそのままバク転し、一旦距離を取る。
すると今度は、彼女の方から仕掛けてきた。
「うらあっ‼︎」
「うっ……‼︎」
彼女は、見かけによらず重い斬撃を繰り出す。しかも、扱っている武器は大剣。その細腕でその大きい剣を扱えるとは……。
彼女の斬撃は重くて早い。
ーーだが、セリュードさんと比べると軽くて遅い。
私はずっと彼の剣を受け続けていたから、彼女の剣筋がしっかりと見えた。
それに能力を更新してから、前より体が軽く感じる。動きやすい。これなら、いける‼︎
「‼︎今だ‼︎はぁあああ‼︎」
私は彼女の剣をギリギリで避け、剣を放った。
「そこまで‼︎」
「「⁈」」
私たちは動きを止めた。私の剣は彼女の胸当ての前で止まっている。
私は剣を下ろした。
すると、ミリアさんは剣を納めて私に向かって頭を下げた。
「申し訳ございませんでした‼︎貴方をか弱い小さな女の子と決めつけていました。貴方は立派な冒険者です」
パチパチパチパチ
気がつくと、周りの人たちが、私たちの戦いを見ていた。皆が拍手してくれている。私を冒険者と認めてくれている。
「ありがとうございました。ミリアさんって強いんですね。ビックリしちゃいました」
「強いのは貴方よ。最初はランクⅩからだけど、すぐに上がっていくわよ」
「それはセリュードさんに鍛えられたからですよ」
「セリュードさんにですか。それは凄いですね。……その、色々と」
?なんか含みのある言い方だな。
「じゃあタグをお渡しいたしますので、彼について行って部屋でお待ちいただいてもよろしいですか?」
「はい、分かりました」
「クエストのお話もありますので、セリュードさんにもご一緒していただけると助かります」
「オレもか……分かった」
私たちは審判をしてくださったギルド職員に連れられてとある部屋に来た。ギルドに最初に来た時に通された部屋と似た部屋だ。
出されたお茶を飲んで一息ついていると、ミリアさんがやってきた。
「お待たせいたしました」
戻ってきた彼女から私はタグを受け取った。タグには「Ⅹ」とランクの刻印と、名前が彫られていた。
「早速ですが、この街に行って欲しいのです」
依頼の内容は、攫われた人の救出。ここから3日ほどで行けるレリエット村で人攫いが立て続けに起きているそうだ。
「実は腕のきく冒険者は今、大概他のクエストで出払っていまして。討伐クエストとは違い、冒険者としての経験も必要になるクエストかと思われます。初心者には任せられる案件ではないのですが、腕は立つのでセリュードさんと二人でなら問題ないかと。お受け頂けないでしょうか?」
私はセリュードさんを見た。
「お前はどうしたい?」
「私は……受けたいです」
「なら、受けよう」
「ありがとうございます。助かります。詳しい話は現地にてお聞きください。旅支度をして、明日の朝には出発していただけると助かります」
こうして私たちはレリエット村に行くこととなった。
私はこの時、この村でのクエストをそこまで重く考えていなかった。
しかし、この村での出来事こそ私の人生において大きく影響を及ぼす出来事の始まりなのであった。




