第1話 今世は侯爵令嬢でした
ああ、温かい。
とくん、とくん。
心臓の音がする。
私はーー生きている。
目を開けると私はとある部屋で寝ていた。
ここは、私の部屋だ。私はそう感じた。
見覚えのない部屋なのに、何故かそう感じた。私は起き上がり部屋の中を歩き回った。
調度品はどれも一級品。とても裕福な家のようだ。私はクローゼットを開いた。服も一級品の布で仕立て上げられたものばかりだ。
……やけに幼い感じの服装ばかりだが。
私はクローゼットの内側についている鏡を見た。
「えっ……」
そこに映っているのは、シェルーリアではない。金髪紫瞳の美少女。
「シェリルーリア」
私は自分の今の姿を見て、思い出した。
私は……シェルーリアは死に、シェリルーリアに転生したのだ。
ここは私が死んだ時代から500年後の世界。この時代では前世の私は超有名人だ。聖女の中でも群を抜いて優秀だった者。そして現在人間の住む領域近くに居を構えている魔王と契りを交わした穢れた聖女。
後世にまでその名を轟かすとは、私もなかなかね。……一つは残念な名の残し方だが。
しかし、そんな私と似たような名前の今世。いくら優秀だったからといっても、穢れた聖女よ。両親はどうしてこんな名前つけちゃったかな⁈折角の美少女が台無しじゃない。
この体の記憶では、この名前のせいで色々言われたことも多々あったのだが。面と向かっては言われてないが、コソコソ言われているのだ。
今世の私はシェリルーリア=ミッドハイツ。
ミッドハイツ侯爵家の娘。年は14歳。
金色の髪に紫の瞳。前髪は切り揃えられており、後ろ髪はウェーブがかかっている。目が大きく愛らしい顔だ。その大きな瞳が、実年齢より幼く感じさせる。まあ、背も平均より低い感じに思えるしね。
両親と兄が二人おり、皆に愛されて育ってきた。兄達とは年が離れており、それはもう溺愛されて育った。
そのせいもあって、かなり我儘に育ってしまった。
本当に大丈夫?と心配になるくらい。
しかし侯爵令嬢。家族以外の周りの者は誰も口に出して注意することが出来ない。
家族は溺愛している為、人様に多大な迷惑をかけるレベルだとは気づいていない。
そんな家族だから、本人も気づいておらず、どんどん悪化する。
……可哀想だ。ある意味、シェリルーリアは可哀想だ。
良い悪いをちゃんと教わらずに育ってしまった。まだ学校に通っていないだけ良かった。
学校に通っていたら、この性格と名前で嫌われ放題だ。
私は今まで家庭教師をつけてもらって自宅で勉学に励んでいた。高度な学問等を身につけるための学校は16歳からだ。行くとしてもまだ2年もある。
これから私が普通に生活していけば、我儘シェリルーリアは過去のものに出来るだろう。
衣食住に困っておらず、性格さえ改善すれば問題のない安定した生活が手に入る。
魔王になったあの人が500年経った今も人類の脅威として君臨し続けているのが気がかりではあるが、それ以外は問題なし。
「これでついに平穏な日常が……‼︎」
私は喜びをひしひしと噛み締めたのだった。
私は身支度を整え、食堂へと向かった。
部屋には上のお兄様がいらっしゃった。
「おはよう、シェリルーリア。今日は少しお寝坊さんだね」
「おはようございます。リーベルッツォ兄様」
私は会釈し席に着いた。
リーベルッツォ兄様。ミッドハイツ侯爵家の長子で家督を継ぐ者。現在20歳。
金色の髪に紫の瞳。髪は少しウェーブがかかっている。物語に出てくる王子様のように美しい。我が兄ながら見惚れてしまう。
因みに下のお兄様は、現在留学中の為不在だ。
「ところでお父様とお母様は?」
「母上は叔母さんのお見舞いに、父上は仕事で朝早く出かけられた。そろそろ能力解放の儀の時期だからな。色々忙しいのだろう」
「能力解放の儀……」
14歳になると全ての人が受けるという儀式。
何故だろう、その言葉を聞いた瞬間、私は嫌な予感がして気分が悪くなった。
そして無意識に左脇腹を抑えたのだった。