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第17話 つむぎ荘

「お帰りー、早かったわね……ってあら」


「マリヴェル、ペットの躾はちゃんとしとけ」


「なんであんたに言われなきゃならないのよ‼︎」


 私は綺麗な男の人の肩に乗り、なんとか家へと帰宅出来た。

 この人が何者かはわからないが、大家さんと思しきお姉さんとお知り合いのようで本当に助かった。

 シルビアも捕獲出来たし、無事に帰ってこれたし、今日の私はついてるわ。



 お姉さんは綺麗な男の人に文句を言いながら、私たちを抱き上げた。


「もー、勝手に逃げ出さないでよね」


 ≪マリヴェルが私を実験台にするからでしょーー‼︎≫

「にゃーーー‼︎」


 シルビアはお姉さんの腕の中で暴れながら喚いている。


「あっ……こらーー‼︎」


 するとお姉さんの腕からすり抜け、部屋の奥へと行ってしまった。


 ≪あの……そろそろ私を元に戻して欲しいんですが……≫

「にゃっ、にゃーー」


「貴方もご苦労様ね、はいお口開けてーー」


 お姉さんは私が言いたいことが分かったかのように試験管を口に突っ込んだ。


 ≪ふがっ⁈≫

「にゃっ⁈」


 だからお姉さん、手荒いってば。

 私は試験管に入った薬を飲み込んだ。


 ……まっず‼︎

 何この味⁈酸っぱくて、舌が痺れそうな味。

 喉が焼けるように辛くて、涙が出てくる。


 私はむせ返り、のたうち回った。

 早く口からこの不快感を取り除きたい‼︎水水水ーー‼︎

 私は無我夢中で叫びながら床に転がっていた。


「みず、みずーー‼︎」


「⁈」


「はいはい、水ね。どうぞ」


 私は手渡された水を一気に飲み干した。

 はあ……はあ……。あーー、死ぬかと思った。

 垂れる汗を拭い、顔を上げる。

 綺麗な男は顔を赤くして目を見開いていて、お姉さんはにやにやしている。

 どうしたのだろう。


「なっ……お前……人間だったのか⁈」


「へっ?あっ……戻ってる。人間に戻ってる‼︎」


 私はスラリと伸びた手足を見て喜んだ。この色、この形。鏡を見なくてもわかる。人間だ。

 味は凄まじかったけど、効果は抜群ね。凄いなお姉さん。


「ふふっ、成功ね♪ああ、自分の才能が怖いわ」


 お姉さんは実験の成功に酔いしれている。……まさかこの薬……初めての成功って訳じゃ……。

 ……考えるのはよそう。ちゃんと戻れたのだから、もう考えないでおこう。


 綺麗な男は、まだ固まったままだ。

 あっ、そっか。この人私がウィザーキャットだと思ってその……ほっぺに……。

 ああ、思い出したらこっちが恥ずかしくなってきたわ。

 向こうもあの男たちを追い払うためにした訳だし、私が人間だなんて知らなかった訳だし。ここはお互い水に流すべきよね。うん。


「私は、ここを訪れた時に、このお姉さんに薬でウィザーキャットにされたんです。シルビアを探す為に」


「あっ、ああ……」


「だからあれは……その不可抗力です。貴方はあの男たちを追い払うために良かれと思ってやった。貴方は私が人間だとは知らなかった。……だから今回の件は水に流しましょう」


「……良いのか?わざとではないとはいえ、あの様な事を女性に……」


「思い出すと恥ずかしいので水に流しましょう‼︎もうこの事は忘れましょう‼︎」


「……ありがとう。すまない」


 取り敢えず、納得してくれて助かったわ。

 ……さてと。色々聞きたいことがあるんだけどな。

 私はお姉さんの方をチラリと見た。


「えっと……私今日からここに住む為に来たんですけど……」


「ああっ、そうだったわね。いきなりうちの子の捜索を手伝わせてごめんなさいね。お茶を入れるから、そこから二階に上がって座っててくれるかな?」


「はっ、はい」


 これでようやく話が進む。私は色々な瓶が並べられている急な階段を、慎重に登り階上へと移動した。


 薄暗くごちゃごちゃとした一階とは打って変わり、とても明るく広々とした部屋だった。

 キッチンにダイニングテーブル、そしてソファ。

 ここは、共用スペースの食堂みたいなものだろう。

 ギルドでは大家さんが作れる時は夕食は作ってもらえると言われたけど……。

 私は階段を見ながらお姉さんを思い出していた。

 あの人が料理⁈……本当に食べれるものなのかしら?薬とか盛られるんじゃ……。


 夕食は自炊した方が良いのかなとか考えながら、私は椅子に腰掛けた。


「はい」


「あっ、ありがとうございま……す?」


 目の前に紅茶が置かれたので顔を上げると、先ほどの綺麗な男がいた。


「マリヴェルにお茶を淹れさせると薬を盛られる心配があるからな。申し遅れたが、オレはセリュードという。このつむぎ荘の住人の一人だ」


「つむぎ荘?」


「この家の名前よ。父がね、異国の言葉から名付けたのよ 。私はマリヴェルよ、よろしくね。大家代理です」


 マリヴェルと名乗ったお姉さんが一つのファイルを抱えて上ってきた。

 大家代理?では、大家さんは……。


「大家はこいつの母親なんだが、今依頼で他国に出かけていてな。その間こいつが大家代理を務めている。夕飯があると聞いていたと思うが、今は大家不在の為、基本は各自自炊することになっている。まあ、オレが暇な時はオレが作っているが」


 セリュードさん凄い。強くて綺麗で料理も出来るとか、モテ要素満載じゃん。


「私が代わりに作るわよって言ったんだけどねーー」


「こいつの料理は食べれたもんじゃない。食材が無駄になるだけだ。それに……何か混入してそうだしな」


 セリュードさんは、最後にボソッと呟いた。確かにマリヴェルさんに作らせたら盛られそうだものね。


「えっと……名前はなんだっけ?」


「シェリーです」


「そうそう、シェリーちゃんね。シェリーちゃんは料理の方は……」


「あまりやったことはないです……」


「ああ、大丈夫よ。セリュードが大概作ってるから問題ないわ。えっと、まずギルドからの情報の確認をさせてね」


 マリヴェルさんはファイルを広げて書類に目を通す。


「シェリーちゃんは14歳で、この街に来たばっかなのね」


「はい、能力解放の儀が終わりましたので早速冒険者になりたくてきました」


「あら冒険者志望なの⁈貴方みたいな子がやるには大変な仕事よー。まずは街のお使いから始めて慣れてみた方が良いわよ」


「それ、ミリアさんにも言われました」


「やっぱり。あいつからこの水晶に入居者の話が来た時も心配そうにしていたからね。確かに私も心配しちゃいたくなるけど」


「ははは……」


 やっぱりこの外見は冒険者には不利なのか。……ちゃんと討伐のお仕事とかくれるようになるのかな?

 私は些か不安を覚えた。


「おい、ギルドでは模擬テストは受けたか?」


「?いえ……」


 するとセリュードさんが眉間にしわを寄せながら訪ねてきた。


「模擬テストだなんて、こんな小さな女の子が受けるのはまだ先じゃない?」


「あの……模擬テストとは……?」


「街の外に出る依頼を受けるためのテストさ。どの程度の実力が確認し、ギルドが認めたらタグを貰える。そのタグに書いてある数字によって受けられる依頼も変わる」


「つまり私はそのテストを受けない限り……」


「ずっと街のお使いしかし出来ないな」



 ガーーーーーーン‼︎


 何それーー‼︎そんな話聞いてない‼︎

 タグは初任務の時に一番下のランクのを貰えると思ってたのにーー‼︎

 つまり私はまだ冒険者と認めてもらえてすらいないって事?酷い。

 あれ?でもミリアさんはなんで討伐系とか受けちゃダメよと言ったのだろう。受けたくても受けられないじゃん。


「まあ、抜け道もあるけどな。依頼は受ける人のランクで決まる。だからパーティーメンバーが受けれるランクなら、お前に資格がなくても問題はない」


 成る程。ミリアさんはこれを心配していたのか。


「ちょっとセリュード‼︎シェリーちゃんに変な入れ知恵しないの‼︎私もこの子にはまだ早いと思うもの」


「過保護すぎるのもどうかと思うがね」


 セリュードさんはやれやれと言った表情で部屋から出て行った。


「じゃあ気を取り直して説明していくわね。ーー」


 マリヴェルさんはこのエリアのことやつむぎ荘について色々説明してくれた。

 このつむぎ荘に入居するには、本来は彼女の母親である大家さんが面接審査するようだ。

 そのお眼鏡に叶った者だけが、このつむぎ荘で暮らせるのだ。

 厳選しているおかげか、この荒くれ者の多い街で、この家は大きな揉め事はなく、運営されている。

 私がここに入れたのは、その大家さんから信頼が厚いミリアさん紹介だからだ。

 代理であるマリヴェルさんには決定権はないが、私が14歳のこの街に来たばっかの少女ということもあり特別に住まわせてくれた。

 大家さんが帰ってきたら面接を受けてもらうことになるとは言われたが。

 取り敢えず揉め事を起こさずに、普通に暮らしていたら問題ないわよね。


 家賃は月に銀貨30枚。この街の同じような家の相場は銀貨50枚。なので他より安い。


 大家さんがいる時の夕食は、夕刻に街の大鐘がなってから一刻後。大鐘の鳴る時刻に街の門も閉まり、半刻後にギルドも閉まるので妥当な時間だろう。

 因みに1日は24に分割されており、昼を真ん中の12として考えられている。大鐘は門の開閉時に7と17の刻になる。小鐘が5から22まで鳴る。

 セリュードが夕食を作る時も、大家さんの時に合わせているという。

 夕食がない時は、家にあるのを好きなように食べて良いそうだ。パンやハム、卵など手軽に食べれそうなものは常備されているので、食うものに困る心配はない。

 因みに朝は各自それらを好きなように食べることになっている。後たまにおかずが一品用意されているそうだ。

 昼は皆出かけていることが多いので、各自でなんとかする。


 風呂は入り口に入浴中、清掃中、空きという三つの札がある。その札を見て好きな時に使用して良いことになっている。

 掃除道具は各階の階段近くに収納されているので、各自それを使い自分の部屋は掃除することになっている。共用部分は大家さんがやってくれるそうだ。


 男女混合の家なので、風紀を守る為に同居人同士の恋愛は原則禁じられている。だからアプローチをかけることも禁止だ。

 万が一そういう中に発展した際は、即時報告し退去するのが規則だ。その際の住処には便宜を図ってくれるという。

 後、恋人を連れ込むのも禁止になっている。


 後は住人同士の軽い喧嘩は目を瞑るが、大きな喧嘩は一緒に住む上で支障をきたす恐れがあるので、禁止。

 何か不満がある際は、とことん話し合うのが規則だ。当人同士で片付くならそれでもいいが、大家さんが仲介に入ることもある。


 まあ基本、みんなで気持ちよく暮らすための規則というわけだ。


 良い家で本当に良かった。

 恋愛とかしたいとも思えないし、問題なく暮らせるわね。


 夕食の時間となり、セリュードさんがいつもより少し豪華な食事を振舞ってくれた。私の入居祝いだそうだ。他の住人は仕事で不在で、その日は三人で食事を取った。


 次の日、私は早起きしてご飯を食べ出かける準備をした。

 私の今しなくてはいけないことは、仕事だ。早いとこ認めてもらい、討伐系のクエストなどをこなさなければレベルを上げれない。

 その為にも昨日聞いたギルドの試験を受けれるようにならねばならない。

 ギルドは8の刻に開く。私はその時刻に着けるようにつむぎ荘を出た。


「おはよう」


「あっ、おはようございます」


 歩いていると、セリュードさんに声をかけられた。格好からして、彼もギルドに行くのだろう。


「今日はどんなお仕事を受ける予定なんですか?」


「近場の討伐系の依頼があれば受けたいと思っている」


「いいなーー。私も早く受けれるようになりたいです」


 彼の胸元にはタグがある。数字は「Ⅳ」

 ランクは10段階あり、「Ⅰ」が一番強くて「Ⅹ」が一番弱い。

 冒険者の大半はⅤからⅩと言われている。だから彼は他の人より頭一つ抜きん出ているのだ。

 因みにどんなに強い人でも、冒険者登録した時は必ず「Ⅹ」になるのだ。だから私は冒険者になる=「Ⅹ」のタグを貰うという事だと思ってた。

 だってどんなに強くても最低ランクから始まるのなら、テストがあるなんて思わないでしょ‼︎


「なら、同行するか?」


「えっ?」


「オレが受けたクエストに同行するかと聞いている」


 それは昨日彼が教えてくれたタグがない人が討伐系クエストに参加する抜け道だった。


「でっ、でも良いのですか⁈私はギルドの人にも反対されていて……」


 マリヴェルさんにも反対された。私にはまだ早いと。それなのに何故……。


「お前は人に言われたら諦めるのか?目標の為に努力しないのか?」


「だから、こうやって早起きして仕事をこなして1日でも早くタグを貰えるようになろうと……」


「お前は今のままでは、頑張っても後2年くらいは貰えない」


 なっ、なんですとーー‼︎


「お前みたいな、見た目が弱そうなやつは認めてもらえない。ギルドは保守的だからな。だからお前が自分の力を証明していくしかないんだ。あいつらが文句のつけようのない力を」


 それで討伐系のクエストにこっそりついていく提案を。

 だが……。


「何故そのような事を提案してくださるのですか?貴方は私の実力を知らない。見た目通り弱い場合も十分にあり得る。その場合、貴方が危険に晒されるのでは?」


「近隣のクエストなら足手まとい一人程度守りながらでもこなせる。問題ない。だが、オレはお前がそんなやつじゃないと踏んで提案しているがな」


 えっ⁈何を根拠に⁈

 私が冷や汗を垂らしていると、彼は理由を話し始めた。


「お前の纏っている魔力は……妙に整い過ぎている。普通はムラがあるんだが。洗礼された何かを感じる」


 えっ?そうなの??全然意識したことがなかった。魔力1000と関係があるのかしら?


「だから、お前の実力をこの目で見たい。もし実力者なら埋もれさせておくのは勿体無いしな。お前も早く外での仕事がしたいんだろ?良い提案だと思うんだが」


 確かにここでセリュードさんの討伐に加わって力が証明出来れば、タグを貰える可能性は高い。これはまさに好機‼︎


「セリュードさん、よろしくお願いします‼︎」


 私は深くお辞儀した。


「ああ、今日一日よろしく頼む」


 私たちは握手を交わし、ギルドへと向かったのだった。





 8の刻。私たちはギルドの前に着いた。

 私は建物を見上げ、唾を飲み込む。


「着いたな」


「はい」


「じゃあ行くぞ」


「はい‼︎」


 こうして私の冒険者デビューは幕を開けたのだった。

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