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第14話 自由都市リベルタ

「うぅーー、緊張するーー」


 私は大きな建物の前に立ち、上を見上げた。


【ギルド本部事務局】


 看板にはそう書いてある。

 ここは自由都市リベルタの中枢、ギルド本部。

 この街はどこの国にも属さない街。ギルドが運営している街。ギルド職員は、貴族など有力者ではなく、一般市民。

 普通の人たちによって、皆で協力して運営している街なのだ。


 ここに住まうものは、ギルドで名簿が管理されている。その管理のされ方は独特で、とある魔法道具で管理されている。

 名簿を作る際、魔法道具をかざされる。その後、名前、年齢等を記載する。

 これは別に偽名でも構わない。この街は各国を追われたものなども多く存在する。


 偽名では一人で複数の名簿を持つことも出来ると思われるが、そこは魔法道具が見抜いてくれる。

 その魔法道具はその人自身の魔力を認識できるもの。名前を変えても、既に登録済みと見破られる。魔法で姿を変えても意味がない。凄い優れものだ。

 これを用いる事により、この街の運営はスムーズに行われている。この魔法道具は、この街になくてはならない存在なのだ。


 私は深呼吸し、大きな扉を開いた。

 中は全体的に濃い茶色の空間。壁紙を貼らず、木をそのまま活かした空間だ。木の温もりが感じられる、温かい空間を演出している。

 エントランスは吹き抜けでとても広い感じられる。


 私はそのまま真っ直ぐ進み、受付の人に話しかけた。


「こんにちは、今日はどういったご用ですか?」


「あの……名簿の登録をしたいのですか」


 対応してくれたのは、綺麗な栗色の髪のお姉さん。大きな澄んだ青い瞳が特徴的だ。


「……一人で来たのかな?」


「はい。でももう14歳なので、働けます‼︎」


 そう、この街に新しく来る人で名簿を作る際には年齢制限がある。

 それは【能力解放の儀】を済ませているかどうかだ。これが済んでいないと仕事がない。

 成人とは違うが、14歳は一人前として扱ってもらえる最低ラインなのだ。

 因みに14歳以下は成人と扱われる18歳以上の保護者がいれば認められる。


 能力解放の儀を受けたかどうかは、左手首の紋様を見ればすぐに分かる。私は受付のお姉さんにそれを見せた。


「……大変失礼致しました。では、こちらへどうぞ」


 そう言われ、私は別室に案内された。

 通された部屋のテーブルには、美味しそうなお茶菓子が置かれていた。


 グーーーーーー。


 あっ、お腹が……。


 私は恥ずかしくなり慌ててお腹を抑えた。よく考えたら、朝から何も食べていない。昨日の夜から忙しすぎて、すっかり忘れていた。


「今お茶を持ってくるから、食べてて大丈夫よ」


 お姉さんは少し笑い、座るよう促した。


 私はソファに腰掛け、お茶菓子を一ついただく事にした。


「美味しい……」


 甘くて、サクッとしたクッキー。家を出てからずっと旅路で、疲れ切っていた私の心と体を癒す。

 よく考えたらこういった嗜好品は口にしていなかったものね。


 私はつい夢中で食べてしまった。


 コンコン


 扉をノックする音がして、先ほどのお姉さんがお茶とジュースを持ってやってきた。


「よっぽどお腹を空かしていたのね。良かったらこれも食べて」


 ジュースと一緒に差し出されたのは、サンドイッチだった。

 卵とハムのサンドイッチ。鮮やかな緑の葉とトマトも挟んでありとても美味しそうだ。


「……じゃあ遠慮なく。いただきます」


 私はサンドイッチを夢中で頬張った。


「じゃあ、ちょとじっとしていてね」


 食べ終わったのを見計らい、お姉さんが魔法道具を私にかざした。

 光が照射され、数秒間私の体はその光に包まれた。


「これで終了よ。次はこの紙に必要事項をお書きください」



 私は紙を受け取り書いていく。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 名前 シェリー

 年齢 14歳

 住居 未定

 職業 冒険者希望


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……本当に書く事少ないわね。こっちは有り難いけど。

 私は書き終わった紙を、お姉さんに渡した。


「冒険者志望なの?」


「はっ、はい」


 お姉さんは眉間にしわを寄せている。

 儀式後すぐに冒険者になる人は結構いるって聞いたことあったけど、あれは間違いだったのかしら?


「あの……ダメ、なんですか?」


 私はおずおずと聞いてみた。


「ああ、ごめんなさい。ダメというわけではないのよ。……ただ、冒険者は荒くれ者が多いから。貴方はとても可愛いから、ちょっと心配だわ」


 ああ、成る程。冒険者って確かに屈強な強面の男ってイメージが強いわよね。

 実際街を歩いていてもそういう人が結構いた。女性で冒険者やってる人は、そういった人と対等にやっていける人か、強い誰かのサポートにつく人かだろう。


 多分お姉さんは、私に守ってくれる人が必要だと思っているのだろう。

 ……確かにいた方が、余計な事に巻き込まれる心配はないだろうけど。

 でも、いきなり初対面の人と馴れ合うのはな。……怖い。


「住む場所は、ここが良いと思うんだけど、どうかしら?個室以外は共同になるけど、とても良い大家さんなのよ。値段も手頃だし、女性入居者も結構いるしね」


「じゃあ、そこでお願いします」


 この人のオススメなら、きっと悪い場所ではないだろう。私のことを心配しているし。なによりあてもないし。


「仕事は……そうね、まずは街の中のお使いから始めて、色んな人と知り合いになるのが良いわ。私の方でも紹介出来そうな人がいたら紹介はしていくから」


「はい……」


 本当はレベル上げしたいんだけどな。


「魔物討伐とか、危ない仕事は絶対に一人ではしてはダメよ」


「……はい」


 お姉さんの言うことも一理あるし、まずはこの街に慣れるところから始めますか。

 私はお姉さんに紹介された家の契約をした。


「住む場所までありがとうございます。取り敢えず頑張ってみますね」


「分からないことがあればすぐに訪ねに来てね。討伐系の仕事をする前には、必ずここに来ること。良いわね。防具や武器や薬や道具、それに魔物の情報など教えたいことは沢山あるのよ」


「あっ、ありがとうございます」


「あっ、私はミリアっていうわ。これから貴方のサポートをしていくから。よろしくね」


「はっ、はい。よろしくお願いします」


「良い?何かあったらすぐにここに来てね。絶対よ」


「……はい」


 ミリアさんはすごく親切だけど、かなり心配性な人ね。私が小さく弱そうな女の子だからかな?なんだか圧倒されちゃったわ。


「さてと、登録も済んだし行きますか」


 これで晴れて私はこの街の住人となった。私は今日から住む事になる家へと向うことにした。


 ギルド本部は街の中心地にある。

 そこを中心に南北を走る大通りと東西を走る大通りが交差している。

 外に出る門は二つ。南と北にある。それぞれの門は大通りの端と端にある。しかしかなりの距離がある為、外から帰ってきた冒険者が依頼達成報告や換金等がし易いように門の付近に簡易ギルドが一つずつある。ここではそれぞれの門から行くエリアのクエストの張り出しもしてある。


 二本ある大通りやその付近には、たくさんのお店が軒並み並んでいる。

 そしてその奥のエリアは、二本の大通りにより大まかに四分割にエリア分けされており、それぞれに特色がある。

 南東エリアには歓楽街があり、近くには治安があまりよろしくない場所もある。このエリアは危険なので近づかないのが得策である。

 南西エリアは住宅街。一番家が立ち並んでいるエリアだ。

 北東エリアは主に工房や研究施設など色々な仕事の施設が立ち並んでいる。

 北西エリアは一番治安が良いとされており、裕福な人はここに住んでいることが多い。


 私が紹介された家は、北東エリアにある家だ。一階が大家さんの工房兼店があり、住まいは二階と三階。二階は共用スペースが大半を占めており、個室は二階の一部と三階にある。

 閑静な住宅街ではなく、大家さんが時間に関係なく工房で仕事をする為、家賃が相場より少し安いのだ。

 ミリアさん曰く、女性も安心して住める場所だと言われたので、更に有り難かった。


 私は貰った地図を頼りに歩いて行った。


「ここ……かしら?」


 緑の屋根の三階建の家。一階には工房兼店がある。


「アイリアナの薬……大家さんは薬師なのかしら?」


 私は金色のドアノブに手をかけ押した。


「ごめんくださーい」


 店の中を覗くと少し薄暗く、完成された薬の瓶や薬草などが、所狭しと陳列されている。

 人影が見当たらない。留守なのかしら?

 私は中に足を踏み入れた。


「あの……私今日からここでお世話になります……」


「あーー‼︎今開けちゃダメーー‼︎早く閉めてーー‼︎」


「えっ?」


 すると、店の奥から人の叫び声が聞こえた。

 私は慌てて扉を閉めようとするが、扉が閉まる前に何かが隙間をすり抜けた。

 ……今のは一体……。


「逃したわね……」


「へっ?いや、あの……」


 私は今入ってきたばかりで、言われて急いで扉を閉めて……。

 部屋の奥からコツコツと足音が聞こえる。その音はかなり怒っているように聞こえた。

 なんか凄い殺気を感じる。

 ……こっ、怖い‼︎


 私は後退り、扉に背をつけギリギリまで下がる。

 現れた人影は一気に加速し、拳を扉に叩き込む。私の顔の横ギリギリを通過して。

 重い木の扉が軋む。

 私は恐る恐る顔を上げると、そこには眉を釣り上げた綺麗な顔のお姉さんがいた。


 薄紫の髪に、紅い瞳。真っ赤な口紅がよく似合う大人の女性だ。

 美人が睨むと迫力あるな。


「あなた、誰よ」


「あの……今日からお世話になります、シェリーと言います」


「ああ、ミリアから聞いたわ。あなたタイミング悪い時に来たわね」


「えっ?」


「はい、口開く‼︎」


「えっ、あっ……ぐぇっ⁈」


 目の前のお姉さんは私の口を無理やり開き、私の口に試験管を突っ込んだ。


 ゴクン


 ……飲んでしまった。一体なんの薬だろうか?

 あれ……?なんか目線の高さが……。

 しゃがんだわけではないのに、随分地面に近い。部屋が先程より大きく感じる。

 お姉さんなんか巨人だよ。


「ふふっ、成功ね。じゃあさっき逃したやつを捕まえてきてね。その姿なら匂いで辿れるはずよ」


 お姉さんはそう言うと私を持ち上げた。

 えっ、一体どうなってるの⁈

 目線が店のカウンター付近まで近づくと、そこには少し大きめの鏡が置いてあった。


 ≪えっ?嘘⁈これが私⁈≫


 そこにはお姉さんにくびねっこを掴まれた、金色の毛並みの猫の姿が映っていたのであった。


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