表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/24

第13話 侯爵令嬢は死にました【ツェベルッツォ SIDE】3

 朝が来て、葬儀の準備の為に人が来た。

 オレは一旦退出し、早速準備に取り掛かった。

 訪れた場所は、屋敷の敷地にある小さな離れ。オレの小さな隠れ家だ。一応屋敷の中にも部屋はあるが、もっぱらこちらに住んでいた。一人の方が落ち着くし、家族もオレが離れていることに安堵していた。


「ツェベルッツォ様。ご要望の……用意が出来ました」


 外で待っていた男と部屋に入ると、そこには大きな長い袋と、大きな釜があった。


「うっ……少し臭うな……」


「申し訳ございません。何分急でしたので」


「じゃあ、謝礼はこれで」


「いつもご贔屓くださりありがとうございます」


 オレはそいつに金貨を何枚か手渡した。

 こいつは留学先で知り合った奴の一人だ。今の拠点がこの近くの街で助かった。


 こいつらは余計な詮索はしない。金で仕事を請け負うだけ。もし秘密を漏洩などしたら、依頼主に処分されてしまうことを重々理解している。

 闘技場でのオレの実力を知っているし、まずこの件が外に漏れることはないだろう。


 オレは部屋を後にし、葬儀に参列した。


 日が沈み、屋敷では彼女を偲ぶ会が行われていた。リーベルッツォは次期当主として抜け出すことは出来ない。きっと彼が事を起こすのはこの後だろう。

 オレは先回りし、シェリルーリアの棺が埋葬された場所に来た。

 一度掘り起こしておなねばな。土の感覚が変わる。やるなら徹底的にだ。

 オレは棺を掘り起こし、一応中身を確認した。


「おいおい、服は持ってってくれよ……」


 開けて正解だった。棺の中には、彼女の重さに相当する石と、着ていた服が入っていた。

 多分逃亡の際、この服では目立つから着替えて行ったのだろう。

 しかし、この服がここにあれば、オレは服を脱がせて妹の亡骸を運んだと思われてしまう。

 流石にそれは勘弁してほしい。

 オレは服を棺から出し、棺を元に戻した。


「さてと……そろそろ良いかな」


 偲ぶ会は終わったようだ。集まった人が次々に帰っていく。

 その中に一人で外に出るあいつの姿を発見した。


 オレは離れに戻り行動に移った。

 壺を床に倒す。中に入った液体が、床に浸透していく。

 そしてオレは手元にあった灯りをそこに落とした。


 ボッ


 一気に火の手が上がる。先程倒した壺には油がたくさん入っていた。

 みるみる火は大きくなり、部屋を包み込む。

 オレは外に出て、墓場へと足を運んだ。


 墓場に着くと、誰かがシャベルで掘り返している音がする。やってるねー。

 姿は暗くて見えないが、十中八九あいつだろう。


「シェリルーリアがいない‼︎まさか、あいつが既に……‼︎」


 掘り返している奴は、舌打ちをし棺を元に戻している。

 そうそう、それで良い。


 オレは奴に気づかれないように離れに戻った。戻ると離れは外側も火に包まれ、一部崩れ落ちている。

 屋敷とは距離がある為燃え移っていないが、この火災に気づき、皆が外に出てきていた。

 皆が必死で消火作業をしているのを、オレは奴が来るまでジッと見ていた。


「ツェベルッツォ‼︎」


 土まみれで薄汚れた姿のリーベルッツォが、ものすごい剣幕でこちらに来た。


「なんだ、リーベルッツォ兄さんか」


「お前っ……これはどういう事だ⁈」


「どうとは?」


「シェリルーリアの亡骸をどこに隠した‼︎」


 その場にいた者たちに動揺が走る。シェリルーリアは確かに今日、墓に埋葬された。

 リーベルッツォの姿とその言葉からして、彼が墓荒らしをしたのは誰の目から見ても明白だった。


「兄さんこそ、その姿は一体。貴方こそ墓荒らしをしたのではないですか?」


 リーベルッツォは言葉に詰まる。バツの悪そうな顔をしている。


「そっ、それは……。お前が死体愛好家に目覚めて、シェリルーリアを棺から出すことを画策していたから……だからシェリルーリアが無事かどうか確認しに行ったのだ‼︎そうしたら既にシェリルーリアは棺の中にいなかったのだ‼︎」


 こうもいとも容易く思惑通りに動いてくれるとは。本当に単純な奴だ。


「シェリルーリアならもういないですよ」


「なに⁈」


「彼女なら……あそこです」


 オレは燃え盛る離れを指差した。


「貴方が悪いのですよ。オレのすることに勘付いたりするから。貴方だってシェリルーリアを手元に置いておけたらと考えたのではないですか?」


「そっ、それは……そんなことは……」


「シェリルーリアを貴方に取られるくらいなら、いっそのこと焼き払って仕舞えば良い。そうすればシェリルーリアは誰の手にも届かない神聖なものとなる。……貴様に取られるのだけは我慢ならなかった。ただ、それだけだ」


 オレはリーベルッツォに敵意を露わにした。


「ツェベルッツォ‼︎お前は何てことをしているんだ‼︎死者を冒涜するなど。……お前もだリーベルッツォ‼︎いくら確認の為とはいえ、そのような行為……二人とも恥を知れ‼︎」


 ああ、父上はカンカンだ。

 こんなことが世間に知られたらスキャンダルだ。体裁を気にする父には耐え難いことだ。


「ツェベルッツォ。お前をこの家から追放する。このような家名を汚すような行いを見過ごすわけにはいかない。明日、学校に戻り退学手続きと、荷物を纏めるがいい。あの離れがもう無いのだから、この家にはお前が持って行く物はもうないだろう。そして速やかに姿を消すのだ。お前なら……出来るであろう?」


 父上は勘違いしている色変えの魔法で姿を変えろと言っているのだろう。

 多分この魔法があるからこんなにも簡単にオレを追放出来るのだ。

 父上と同じ特徴を消せば、誰もミッドハイツ家の者だと直ぐに分かる者はおるまい。

 父上はオレをこの家から追い出す機会を、ずっと探していたのかも知れない。

 嘘の称号には、この家を守る存在と明記したが、それよりも血の繋がらないオレに守られたくないという思いが勝ったのだろう。


「承知……致しました」


 オレは一礼し、その場を後にした。

 翌朝、形だけでも挨拶をと思ったが、両親は昨夜の出来事のもみ消しに奔走していた。


 使用人に、一応今までお世話になった旨をしたためた手紙を渡しオレは屋敷を後にした。


「ツェベルッツォ……。私はお前を許さない」


 門の前にはリーベルッツォが立っていた。オレに一言文句でも言いたかったのだろう。


「別に誰も許して欲しいとは思っていない。オレはやった事を後悔してはいない。お前こそ、シェリルーリアはもういないんだ。あいつの事は胸にしまい、前に進めよ」


 シェリルーリアの件以外は、至極真っ当で有能なリーベルッツォ。

 シェリルーリアにとってお前は自慢の兄だった。彼女のためを思うなら、そう生きて欲しい。


「シェリルーリアに取ってお前は、自慢の兄なのだからな」


「⁈……私は……。妹を守りたい一心でした事とは言え、あのような事……」


「オレもお前も、シェリルーリアに囚われていた。オレは別に死体愛好家ではない。シェリルーリアにだけ特別な思いを感じていただけだ。だが、人に取られたく無い一心で火をつけた時、心が軽くなったような気がしたんだ」


「ツェベルッツォ?」


「もう、誰の手にも届かない存在。オレの中で神格化され、絶対不可侵な存在となった。彼女はオレの心の中に生き続けている。……そう、永遠に」


「心の……中に……」


 リーベルッツォは胸に手を当てて考え込んでいた。


「確かに……そうかもな……。もう誰にも侵されない。オレの心に永遠に……」


 リーベルッツォは呪文のように呟く。そして手に持っているペンダントを握りしめていた。あれは、離れに置いておいたシェリルーリアのペンダント。あれと少女の遺骨が現場から出てきたからシェリルーリアと断定されたのだ。お前、こっそり持ってきたのかよ。


「じゃあ、もう二度と会わないだろうけど、息災で」


「ああ、お前もな」


 オレたちは社交辞令を交わし、身一つでオレは屋敷を後にした。


 ーー10日後、オレは学校に着き退学届を提出し、寮の荷物を片付けた。ミッドハイツ家からは既に破門されてるので、馬車でここまできた。

 手持ちの金は、両親からもらった資金が少しだけ。闘技場で稼いだ金は、屋敷で仕事を頼んだ奴に払って大した額は残っていない。


「この国だと元の姿に戻っても、顔見知りが多過ぎてオレだとバレる可能性もあるからな……」


 取り敢えず両親は、この場所に留まらずどこか別の街に行けと言う意味で旅費を渡したのだろう。


「金額的に……リベルタ付近までなら行けるな」


 自由都市リベルタ。この世界で冒険者が最も集う街。身分など関係なく、実力でのし上がる街。オレみたいな身分を隠したい奴にはぴったりの街だ。あの街は細かい事は詮索しない。それが暗黙のルール。


「シェリルーリアのやつも案外リベルタにいるかもしれないな」


 オレは学校を後にして、誰もいない場所で魔法を使う。


【あるべき姿を映し出せ、ヴェリテフォーム】


 魔法が発動すると、オレは本来の……漆黒の髪に真紅の瞳を持つ男に戻った。


「さて、リベルタに向かっていくか」


 なんだか晴れやかな気分だ。抜け出したかった家から出て、妹の逃走も手助け出来た。

 これ以上ない達成感で満ち溢れている。


 こうしてツェベルッツォは、新たな人生を踏み出したのだった。


 ツェベルッツォがシェリルーリアと再会するのは、暫く後の話である。

 その際、シェリルーリアに誤解をされていて大変な目に遭うとは、この時のツェベルッツォには想像もつかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ