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第11話 侯爵令嬢は死にました【ツェベルッツォ SIDE】1

第7話、第8話のリーベルッツォに関する記述を少し改稿致しました。

 俺の名はツェベルッツォ=ミッドハイツ。

 ミッドハイツ侯爵家の次男だ。

 家族は父上、母上、兄上、それに妹の五人家族。

 周りからはとても仲睦まじい家族と評判だ。

 家族は皆妹を溺愛していた。その結果妹はかなり我儘に育ってしまったが。

 妹の外での評判はあまり良くないが、オレたちにとっては大切な可愛い子だ。


 だが、彼女を中心に家族は歪な関係にある。仲睦まじい家族など外から見た評判に過ぎない。それぞれが違う思惑の仮面を被った、冷めた家族なのだ。

 それを家族で知らないのは、妹只一人。

 しかも歪な家族になった原因は彼女。一部オレも一役買っているが。

 オレは妹が不憫でならなかった。


 妹を守れるのはオレしかいない。

 そう、オレしかいないのだ。




 ***


 18年前、オレはこのミッドハイツ家の次男として誕生した。

 父上は侯爵、母は……どこの者とも分からない娼婦だった。

 父上には2年前に正妻との間に子をもうけ、男児が生まれていた。その男児は将来自分の後を継ぐ後継者。父上はとても喜んだ。


 しかし父上には夢があった。それは王族の外戚となること。侯爵として国の中で重要な役職に就く父上にとって、王族と関わりがないことだけが唯一足りないものだった。

 有力な侯爵家の中には降嫁した王族が妻という家もある。

 母は伯爵家の出。そして現在の王族の我家の子と釣り合う年齢の方は王子のみ。

 父上はどうしても女児をもうけたかった。しかし正妻とは何年も子宝に恵まれず、やっとの事でリーベルッツォが誕生した。次をもうけれる可能性は低い。


 そんな折、父上はとある場所に出向いた際母と良い仲になった。そして子を身ごもった。

 父上はとても喜び母を屋敷に連れて帰り、側室として迎えた。

 そして生まれたのがーーオレだった。

 父上は大層落胆した。

 そして父上はオレを抱き上げはせず、部屋を去った。母はその後、産後の肥立ちが悪くすぐに亡くなった。

 母を亡くし、父上から愛されないオレ。

 そんなオレを、正妻は自分の子として育ててくれた。正妻は側室の事をよく思っていなかったそうだ。そりゃそうだ。誰だっていきなり身ごもった女が来て側室になれば嫌になる。

 自分がなかなか子をもうけることが出来ないから他で作ってきたとなれば尚更だ。


 だが、生まれたのが望んでいなかった男児で側室は産後すぐに亡くなった。

 自分の子として育てる代わりに、使用人を大幅解雇した。勿論十分な金額を渡して。残った使用人にも臨時報酬を渡した。

 要は口止め料である。


 そうして屋敷には側室の存在を知る者はほとんどいなくなり、側室は最初から存在せず、オレは正妻から生まれた子として育てられた。

 そして四年後、正妻が懐妊し、念願の女児が誕生した。

 父上は長年の夢が叶ったかのように涙を流し、正妻も自分の務めを果たせたと安堵した。

 リーベルッツォも可愛い妹の誕生を純粋に喜んだ。オレも素直に喜んだ。


 しかし、時が経つ毎に美しく成長する妹は、家族を壊していった。

 父上はこの美しさなら絶対に王妃になれると、野望を剥き出しにし、一層妹に固執した。

 正妻は、どんどん美しくなる娘と、どんどん老いて美しさに陰りが見え始めた自分を比較し嫉妬した。

 リーベルッツォは、どんどん美しくなる妹に恋慕を抱いた。

 妹を中心に、家族は壊れていった。


 そして14歳になったオレは、【能力解放の儀】を行った。

 そして自分の称号を見て驚いた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ツェベルッツォ=ミッドハイツ

 14歳

 男

 レベル 1

 称号 【ミッドハイツの偽者】

 破壊者、毒の救済


 ステータス

 体力 10

 力  15

 防御 5

 魔力 10

 魔防 4

 俊敏 10


 スキル

 状態異常軽微


 サブスキル

 剣技 3

 特殊魔法 4


 魔法

 ヴェリテフォーム

 【あるべき姿を映し出せ】

 ライフォーム

 【嘘で塗り固めよ】


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 偽者?

 どういう事だ?オレは困惑した。

 補足も救済という言葉があるが、全体的に不穏な響きの言葉だ。

 これを父上に見せたらどうなるのだろうか。オレはどうしたら良いのか分からなくなった。

 


 部屋に戻り、能力を落ち着いて見ると、二つの魔法に目が止まった。


 一つは

【ヴェリテフォーム】

 詠唱文が「あるべき姿を映し出せ」とあるから、トラップを発見したりするタイプの魔法だろう。

 もう一つは

【ライフォーム】

「嘘で塗り固めよ」とあるから、偽装したりするのに使うのか?


 真実を暴く力と、偽る力。二つの相反する魔法をオレは習得した。

 オレは早速自分自身に「ヴェリテフォーム」をかけた。こうすれば称号が指す意味が分かるかもしれないと思ったからだ。

 魔法をかけると、何か変わったようには感じなかった。てっきり何かが起こると思ったのに。

 肩透かしにあったオレは部屋を出た。すると皆がオレを見て驚いている。どういう事だろう。

 廊下を歩いていると、一人の使用人に声をかけられた。


「ツェベルッツォ様、早くお部屋にお戻りください」


「どうしたのだ?一体」


「話はお部屋でお話しします」


 そう言われ、オレは渋々部屋へと戻った。そして使用人は手鏡を差し出した。


「これは……一体……」


 そこに写っている姿を見てオレは驚いた。

 そこにはいつもの金の髪に水色の瞳のオレはいなかった。代わりに漆黒の髪に真紅の瞳の男が写っていた。


 部屋に鏡はなく、顔は確認出来ていなかった。特に体格等に異変がなかったから何もないと感じてしまっていた。

 これは誰なんだ?父上と母上はこんな色をしていない。オレが困惑していると、使用人は口を開いた。


「そのお姿は、多分亡きお母上とその恋人の特徴に似ておいでかと」


「どういう事だ?」


 オレの母上は生きている。それに恋人とは?オレはこの使用人が何を言っているのか分からなかった。


「貴方のお母上は、正妻ではございません。貴方は貴方をお生みになってすぐに亡くなった側室の子です」


「オレが……側室の子?」


 使用人はオレが生まれるまでの経緯を話してくれた。

 母は父上が手を出した娼婦。

 しかも本当は父上とは血の繋がりがない。

 父上と出会った頃、母には恋人がいた。

 妊娠に気付いた時、どちらの子供がわからなかった。

 母の妊娠が分かり、娘が欲しかった父は彼女を屋敷に連れて帰り側室とした。

 もしかしたらこの人の子ではないかもしれない。そんな恐怖と戦いながら過ごしていた。そして毎日どうか旦那様の子でありますようにと願いながら過ごしていた。

 知らず知らず魔法をお腹の子にかけていた。


 そして産まれてきたのは男。父上と同じ髪と目をした男児だった。

 男と分かると、父は残念がり子供に興味をなくし部屋を去った。

 その後、オレを拭いていると、魔法が解け漆黒の髪と真紅の瞳の男児となった。

 母は絶望した。この子は侯爵との子ではなく、あの恋人との子であったと確信した。

 母は産後の肥立ちが悪く、今にも死にそうだった。そして最後の力を振り絞り、強力な魔法をかけた。侯爵との間の子であると皆に思わせる為に魔法をかけた。


 そして亡くなった。


「そんな……嘘だ……オレが側室の?しかも父上の子ですらないなんて……」


 確かにオレは色は父上に似ているが、顔の造形はどちらにも似ていなかった。誰も何も言わないが、一部の使用人のオレを見る目は気になっていた。側室の子でそれを秘匿されていたとなれば納得がいく。

 しかし、父上と血が繋がっていないというのは些か信じがたい。この使用人の話の通りなら父上は生まれてすぐ部屋を去っているから魔法が解けたとこは見ていない。

 母もなくなり真相は闇の中。確かに話の筋は通る。しかし……。


「嘘ではありません。皆口止めされていますから言いませんが、側室は確かにいました。今の貴方様の姿がその証拠です。私は当時正妻の側付きでしたが、人手が足らず出産に立ち会いました。そして亡くなられた後の遺品整理の際に出てきた一枚の写真で全てを悟りました」


 使用人は古い写真を一枚差し出した。そこには女と男が映っていた。茶色の髪に真紅の瞳の女。漆黒の髪と瞳の男。

 確かに似ている。特にこの男に。


 オレは納得した。

 オレはこの家にいる誰とも血が繋がっていない者だと。

 オレは急いでもう一つの魔法で髪と瞳の色を変えた。しかし、時すでに遅く廊下を歩いていた際にオレは何人もの人に目撃されており、その話は父上や母上の元に届いた。


 オレは父上に呼び出された。

 オレは父上と同じ色の姿で立っていた。


「母親の色を変える魔法がかかっていたのだな」


「そのようですね」


「母親と同じ魔法を受け継いだのだな」


「はい」


 オレは嘘をついた。

 オレの魔法は偽装する魔法。只の色替え魔法ではない。


「能力を、見せて欲しい」


 オレは左手首を触れ表示させた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ツェベルッツォ=ミッドハイツ

 14歳

 男

 レベル 1

 称号 【ミッドハイツの盾】

 ミッドハイツを影で支える者

 

 ステータス

 体力 8

 力  10

 防御 5

 魔力 10

 魔防 4

 俊敏 8


 スキル

 状態異常軽微


 サブスキル

 剣技 3

 特殊魔法 4


 魔法

 カラーイリュージョン

【色彩のマジック】


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 オレは魔法で能力の表示を偽装した。

 見せたくないものは全て変えた。


「取り敢えず、使用人にはしっかり口止めはした。シェリルーリアが外出していて助かったよ。これでシェリルーリアはこれからもお前の事を本当の兄として接することが出来る。お前はまだレベル1だ。いつ魔法が解けるか分からない。毎朝魔法をかけるように。それを守れるならこれからもミッドハイツ家の一員としてここにいなさい」


「はい、承知致しました。父上」


 14歳のオレは弱かった。一人で生きていく術を知らなかった。だから魔法で偽装してここにいられるようにした。

 父上、母上、リーベルッツォは皆がいるところでは表に出さないが、二人きりになると途端に態度が変わった。

 オレはこの人達にとって家族ではなくなった。

 オレにとっての家族はシェリルーリアだけになった。オレは妹を守れる存在になりたかった。


 17歳の時、オレに留学の話が持ちかけられた。確かにこの留学はオレにとって自分を成長させるチャンスだった。色々学びたいこともあった。

 家族にとっては二年でも顔を合わせずに済むと考えられての話だろうが。

 妹の事が心配だったが、妹を守れる存在になる為にも必要な事だと感じたので行くことにした。


 行き先は隣の国。我が家からは馬車で10日程の距離だ。火急の際は転移魔法で移動出来る国なので最短1日で戻ることも出来る。ここなら大丈夫だろう。そう思い、オレは勉学や鍛錬に励んだ。

 妹を守れるようになる為に、妹が嫁いだ際はこの家を出て一人で暮らしていけるように色々な事を学んだ。


 闘技場で鍛錬し腕を磨き、きな臭い情報屋とも適度な距離で繋がりを持った。蛇の道は蛇。そういったところには、普通じゃ仕入れることが出来ないことも手に入る。

 座学、魔法もしっかりこなし、オレは留学先の学校一の秀才になっていた。



 そして一年が経った頃、 シェリルーリアは14歳となり能力解放の儀を受けることとなった。

 そして翌朝、火急の知らせが届いた。

 知らせを持ってきた者の慌てぶりから、只事ではないと容易に想像がついた。

 オレは恐る恐る手紙を開く。そこには短く「シェリルーリアが亡くなった。急いで戻られたし」そう綴られていた。


「シェリルーリアが……死んだ……だと」


 オレは目の前が真っ暗になり、少しの間意識を失ってしまった。

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