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プロローグ

「この穢れた聖女め‼︎」


「あうっ……」


 男は私に向かって唾を吐き、蹴りを入れた。

 私は両手を鎖で繋がれており、身動きが取れない。全身傷だらけで、服もボロボロで所々破れている。

 服といっても薄汚い布切れ一枚で出来た、簡素なものだ。

 そして破れた箇所から見える不思議な刻印。刻印は直径10センチくらいで円形のものだ。男は刻印のある左脇腹を足でグリグリと踏みつけた。


「あっ……うぅ……」


「誰もが崇め奉るはずの聖女様が、まさかこのような血の刻印を刻むことになるとはな」



 ーー血の刻印ーーそれは罪人の証


 色は赤黒く、血で刻まれたもの。

 裁判官に自分の罪を言い当てられると、刻印が刻まれる。

 嘘をついても見破られる。

 魔法をかざされ、体が罪を認めてしまう。

 逃れられない。

 抗えない。


 刻印にも罪により模様が違う。

 強盗・横領・殺人等……


 その中で一番重い罪がーー魔族との契りだ。



 この世界には魔族がいる。

 それは人間にとって恐怖の存在。

 忌むべき存在。

 その中で最も忌むべき存在がーー魔王だ。


 魔王はここ数百年人の暮らす地域に現れてはいなかった。しかし、人里で魔王が誕生した。

 その魔王は……私の恋人だった。

 彼は自分が魔王だという記憶をなくし、普通の人として生きていた。しかし、ある出来事がきっかけで魔王であることを思い出し、魔王になってしまった。


 私は魔王であった者の恋人。いくら知らなかったとはいえ、罪には問われる。

 そして私は魔王と契りを結んだ者として捉えられ、今に至る。



「……彼は……魔王は今どこに?」


「……逃げたぞ。魔王として目覚めた時の魔力暴発で街は半壊。今聖女と勇者で討伐隊が組まれ、魔王を追っている。お前が放った目くらましの魔法のせいで、逃げられたんだよ。この売国奴が‼︎」


「うぐっ……」


 私は再び蹴られた。


 そう、私は彼を死なせたくなくて魔法を使った。いきなり魔王と言われても、私にとっては大切な人。みすみす殺させる事は出来ない。

 ……良かった。生き延びてくれて。


 それにしても凄い傷だらけね私。

 高度な回復魔法は、聖女と言う称号を持つものにしか扱えない。聖女の私は、その為重宝され、何不自由ない暮らしを送り、皆に崇められていた。

 なのにこの有様。ふふっ、笑っちゃうわ。


 因みに今は魔法を封印されているので、この痛々しい傷を癒すことは出来ない。


「時間になりました」


 兵が現れ、牢の錠が解除された。

 繋がれた鎖は壁から外され、兵はその鎖を持ち私に歩くよう促した。


 ジャラジャラジャラ……。


 冷たい石畳の廊下に、鎖の音が響き渡る。他の牢に入っている人たちは、私のことを覗いている。

 ここにいる人の中で一番の大罪人だ。そりゃ見るだろう。


 暫く歩くと、開けた場所に出た。真ん中には……処刑台があった。私はそれを見て震えた。これは所謂……あの……。


 私は寒気がして、首の後ろを抑えたくなった。しかし、鎖で繋がれているのでそれは叶わない。


「これより、悪魔との契りにより咎人となった聖女、シェルーリアの処刑を行う」


 この公開処刑を見に来た民衆は、私に野次を飛ばしてくる。


 ガチガチガチガチ……


 怖さから震えて歯がガチガチなる。

 ああ、うるさい。

 自分の歯の音が頭に響く。

 心臓が苦しい。

 息が苦しい。

 耳には歯の音と心臓の音の大合唱が響き渡る。

 体も震えが止まらず、兵が私の体を押さえつける。


 怖い怖い怖い怖い


 聖女は回復要員としてよく騎士団と共に魔物狩りに派遣されていた。

 死線は何度も潜り抜けてきた。怖い思いも沢山してきた。

 でも怖い。

 助からないと分かっているからなお怖い。

 死にたくない‼︎




 するとフッと風圧がかかったように感じた。



 一瞬首の後ろに痛みが走る。






 ああ、願わくば来世は平和に暮らしたい。ささやかな幸せを感じながら平和に暮らしたい。

 私はそう願いながら、シェルーリアとしての生涯に幕を閉じたのであった。

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