第2話 そもそもの理由
とんでもなくゆっくりな次話投稿になってしまいました。すみません。
そして話が飛び飛びですみません。
前回は主人公が安心して死んでいましたが、ここからは生前の話になります。
「………へ」
気づけば窓の外は真っ白だった。あまりの白さに少し眩しさを覚えるほどだ。
突如教室の床に現れた魔法陣によって蜂の巣をつついたような騒ぎに包まれていた教室は、今や打って変わって不気味な沈黙を保っている。
騒がしかった教室の出入口をちらりと伺うと、何人かがぐったりと床に伏せていた。どうやら先程の強烈なフラッシュと衝撃によって目眩を起こしているらしい。
訳が分からない。頭がパンクしそうだ。
呆然と教卓の方を見て、
「……はぇ…」
思わず可笑しな声が出た。
そこには人とは思えないほど美しく神々しい女性(?)が、浮かんでいた。
流れるようなストロベリーブロンドの髪に玉のような肌、ぷるぷるの唇は桜桃色。こぼれ落ちそうなほど潤んだ大きな瞳はピンクトルマリンを嵌め込んだかのよう。形の良い眉はゆるりと哀しげに垂れているので、神々しくもどこか儚げな印象を覚えてしまう。しなやかな身体にはうっすらと輝く白布に覆われていたが、どこからともなく射し込む後光によってそのわがままボディが丸わかりである。けしからん。
私達がその美しさに見とれる中、彼女は白魚の如き細指を小さな顔の前で組み、私達にこう囁いた。
「お願いします…私の世界を…、助けてください…」
蜂蜜のような甘やかさを含んだ声が耳に届いた。
…おぉ、テンプレ通りだがこれはアレですね?
勇者召喚と言うやつではないですか?それにしては大所帯だと思うけど。
そうこうアホなことを考えているうちに推定彼女は語り始めます。
「お願いです…。此方の世界で魔王が復活してしまいました…。このままだとこの世界は滅んでしまいます…。私では魔王を止められない、魔王を止められるのは貴方達だけなんです…」
彼女は言葉を区切っておもむろに俯き、身体を小さく震わせた。ぽたり、ぽたりと流れ落ちる涙はまるで宝石のようで、不謹慎ながら美人は泣いてても綺麗だなぁと変に感心していた。
不意に違和感を覚える。何だか彼女がとても儚く遠くに行ってしまう様な…?何だかこう、物理的に…って、
「どんどん姿が消えて…!」
ある者は悲鳴を上げ、ある者は息を飲んだ。
文字通り彼女は消えかかっていた。もう向こう側の黒板の日直の名前が読める程度には薄くなっている。キラキラとした光の粒子が彼女の体を包み込み、それらは空中に溶けて行った。
彼女は身体が消える直前にこう叫んだ。
「魔王を倒した暁には、女神シェスタの名にかけて!いかなる望みでもひとつ叶えましょう!だから…お願い、かの邪智暴虐の王を、魔王ヴァールを倒して…!」
そうして儚く麗しき女神は解けて消えた。
そして教室の内外にあった一切の光は消え、自分の手のひらさえも見えない暗闇に私達は落とされた。
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声が聞こえた。
陳腐な表現だが、か細く、震え、今にも泣き出してしまいそうな音だった。
加えて、鼻水を啜る音も聞こえてくる。
ぼんやりとした光が近づいてくる。
ソレは恐らく気づいて欲しいのか。ふわふわと移動しながらクラスメイトの制服の端を必死に引っ張っているようだった。が、彼らは誰一人として気が付かない。ソレには目も向けず、ただ忙しなく暗闇を見渡し、怒号と叫喚が口から飛び出す。
ーーーお願い、お願いです 誰か私の声をきいて
ーーーだめなのだめなの 倒しちゃだめ
ーーーお願い お願い
ソレはよく見れば小さな女の子だった。
小学4年…いやもっと歳下にも見えるその子は泣きそうになりながら必死に訴えていた。
やめて、やめて、お願いです、お願いします。
倒さないで、殺さないで、壊さないで。
少女は誰にも気づいてもらえなかった。
私を除いて、だが。
思わず立ち上がった。椅子が軋み、音を立てる。
少女は振り返り、私に気付くと一目散に駆けてきて、私の腰に抱きつき、堰を切ったように泣き出した。
これは演技じゃない。そう理解出来るくらい少女の泣き声は絶望で塗り潰されていた。
ーーーお願いします お願いします 殺さないで下さい
ーーーごめんなさい ごめんなさい これしかないんです
ーーー助けてください あの悪魔から世界を助けて!
ーーーーーーー 世界を殺させないで!
私が彼女を抱きしめ返そうとした瞬間、
私達は異世界に召喚された。
ボンキュッボンの美人女神と幼女が出てきましたね。
キーパーソンですね分かります。