邂逅
「うう・・ここは?」
どれだけの時間が経ったのだろうか、又下はフラフラと立ち上がり周りを見渡す。
そこは白だった。辺り一面が全て白に染まり、何一つ無い空間、そこに又下は立ち尽くしていた。
「なんだよここ?俺は死んだんじゃないのか・・・?なんなんだよ・・・」
その異様な空間に困惑し、思わず疑問を口にしたその時、
「いいや、お前はまだ死んでいない。」
「マッ!?」
不意に背後から声が聞こえ、後ろを見るといつからいたのか、真っ裸の男がいた。いや、男なのか、そもそも人間なのかすら分からない。なぜならその頭部は人の顔では無かったからだ。
「マラァ・・・」
その異形を見て又下は声にならない悲鳴を上げた。
「誰なんだお前・・・・」
おかしくなりそうな心を必死で保ち目の前の異形に掠れるような声で当然の疑問をぶつける。
「私は神だ」
「は?」
限界なのか、目の前の異形はあろうことか自分のことを神と称した。もうだめだ、限界だ、又下はこの光景は死を前にし都合のいい幻覚であると思い自身の死を悟った。
しかし目の前の異形の話はここで終わらなかった。
「お前はまだ死んでいない、ただ車の衝突の衝撃で男根がもげ、意識を失っているだけだ。」
「・・・・・はぁ?」
既にこれは幻覚だという考えは又下の頭から消え去り即座に自分の股間に手をやる。
「・・・・ない」
そう、何もないのである。今まで大切にしてきた竿の部分がないのである。まるでもとから存在しなかったかのように。
「嘘だろ、それって・・・・」
又下 起は童貞である、そして今、この瞬間、又下の男根はこの世から消滅してしまった。それが意味することとはつまり、
「俺は一生、童貞?」
「ああ、その通りだ」
又下の問いかけに対し、異形は淡々と答える、又下が求めて止まなかった行為は二度と出来ないと。脳裏に己が経験できるはずだったあらゆる快楽が浮かんでは消えて行く。
又下の何かが弾けた。
「おい、おい、おいおいオイオイオイッッッ!!あんた神なんだろ?なぁ、だったらこの状況も何とか出来るだろ?なあ、答えろよ、答えろっつってんだよ!!」
目の前の異形に掴みかかり、心のありったけをぶちまけた。
「出来るだろ?出来るから俺の目の前に出て来たんだろ?なあ、頼むから出来るって言ってくれよ・・・」
「ああ、可能だ。」
「え?ホントに・・・」
「だが、お前に」
異形は又下の手を振りほどき、どこから取り出したのか金属製のバットを又下の眼前に突き付けこう問いかけた。
「命を捨てる覚悟はあるのか?」