勇者は話がしたい
短編『魔王と勇者の暴走』の続きとなっています。
勇者は困っていた、予想外だった
魔物になろう!そうしよう!
そんなノリで、話はトントン拍子に進むと思い自信満々に魔王に持ちかけたが
あっさりと断られてしまった。
何故だ魔物に害は与えないどころか
彼等さえ良ければに共存だって可能だろうに
そう勇者は本気で思っていたのだ。
「えっ?なんで?」
断られた時、一瞬何がなんだか分からなかった。
どこぞの聖騎士のような風貌の魔王だ
その姿から、人間に好意的なのではないかと思えばわりと冷たい
えっなにその折角並べたドミノを崩されたみたいな顔、俺そんな変な事言ったか?
人類魔物化する為に魔力頂戴って言っただけじゃん
魔王だろ?魔物が増えるの嬉しくないの?
魔王だろ?そんなバカみたいに魔力持ってんだから別に困らないだろう?
あっおい山羊っぽい側近ため息つくなや!
「失礼、立て込んでおりますので」
シレッと山羊っぽいのは
お引き取り願いますと面倒そうに言った
そう、つまりうるせぇ失せろって事だ。
そんな…何故だ!?
そう、打ちひしがれる勇者を魔法使いはひとまず今日は帰りましょうかと、引きずって行った。
帰り道、魔法使いにアプローチの仕方が悪いだのとお説教され
これは無理だ、諦めろと言われたが
勇者は毛程もめげなかったアタックあるのみだと寧ろ燃えていた
何故なら勇者に諦めるの文字はなく突き進むのコマンドしかないのだ。
「やぁ魔王、今日は予定はあんのか?」
「あぁ、貴様の相手をする暇はないな」
「つれねぇな」
「魔王〜…っていねーや
なぁ側近の山羊っぽいの、魔王は?」
「即刻帰れ」
毎日のように、魔王に会いに行ったが
どうも魔王は勇者を危ない奴認定しているらしくあまり相手にしないし
魔王の側近の目はもはや害虫を見るそれだ
だが、勇者は厚顔無恥とも言える鋼のメンタルで足繁く来るのだ
それはもう百夜通いでもやってのけそうな勢いだ一向に諦める気配のない勇者に魔王も流石に観念したようだ。
「…貴様よほど暇なようだな」
「たいして暇ではないからそろそろ真面目にお話しません?」
「…よく魔王の前でくつろげるな」
そう、勇者は床に寝転んでいる
ほら俺、害はありませんよ〜と
あえて無防備なのか単純に素でやってるのかは分からないが…。
…側近の視線が痛い
王の御前で無礼な!ってやつか?
「話くらい聞いてくれてもいいだろ魔王」
「貴様のクレイジーっぷりは
貴様の連れからもう聞いたではないか」
ついでに言えば、突撃訪問っぷりも
なかなかのものだと魔王は身をもって知った
勇者の使う移動魔法は、もとより
おどろおどろしい装備の効果なのか黒魔法による影移動、はたまた壁をぶち抜いて来たりと、なかなか迷惑なものだ。
「いやいや、俺等の常識からしたら
お前もかなりクレイジーな部類だからな?
なんだよ、温厚な魔王って意味わかんねぇしつーかその装備どっから手にいれたよ?」
「歴代勇者の墓から拝借した」
ほらコイツもなかなかマトモな魔王とは言えないだろ、百歩譲って荒らすのはわかる、何故着ているんだ魔王。
「つーかなんでんなゴリゴリの聖属性を魔王が装備出来てんだよ」
「…少しピリピリするがむしろ肩こりには丁度良いな」
…ねぇ、コイツ俺の事、危険人物とか
クレイジーとか散々な扱いするけどやっぱコイツも大概じゃねーか?
「貴様こそ、そんな装備よく見つけたな」
「あぁ歴代魔王のダンジョンから根こそぎかっぱらった」
「…そんな呪いの塊のようなものよく着ようと思ったな」
「いやほらそこは、勇者だから精霊の加護でギリセーフ」
おいこら、山羊あからさまに
ドン引いた顔すんなヒソヒソ話すな
魔法使い、俺を指差して笑ってんじゃねえ
つーかお前等地味に仲良くなってねぇか?
「勇者貴様、部下と折り合い悪いのか?」
おい魔王、憐れむな。
「さて魔王、真面目に話そうじゃないか
俺達には口がある、知性がある…と信じたい、語り合う為に言葉はあるんだ
魔王、ドン引いてないでそろそろお前の意見をきかせてくれ」
「まず貴様は起きろいつまでころがっているつもりだ」
「…こりゃ失敬、起きたら話すか?」
「永眠させられたくなければ早く起きろ」
温厚ってなんだっけ?
魔王さん、あんた俺に厳しくないか?
それともあれか魔王の中では、って話か?
とりあえず、起き上がり魔王に向き直るように胡座をかく。
「魔王、魔物化はあんた等にとってどんなデメリットがあるんだ?
構ってくれないせいもあるが
もう散々ふざけた、本題くらいは
さっぱりいこうじゃないか。
おっと、思ったより渋い顔すんね魔王さん
かと思えば意外や意外に話は早い
魔王は、億劫そうではあるが
魔力の毒性またその影響や魔物の現状を
かいつまんで話してくれた。
なるほど
「つまり魔物を滅ぼしゃいいのか?」
「ふむ…急に勇者らしいことを言うじゃないか、だが魔物が滅べば行き場を失った
魔力がまた新たに魔物をつくるだけだ
最悪、植物が流れ出した魔力により朽ちるだろうな、それなりの手順で抑えなければ
滅ぼしても根本的な解決にはならないな」
つまり魔王が言うには俺達まで魔物になれば
まず間違いなく魔力の毒性による
自然汚染が拡大し全滅するって話だ。
そりゃ、渋い顔するわな
いや参った、魔力に当てられる奴はいるが
せいぜい魔力酔い程度の認識だった
毒性とまであったとは予想外だ
だが辻褄はそこそこ合う
魔王が毒性を和らげる為に魔族に教えたという神父の魔法とどのつまり祝詞だ
確かに頻繁に祝詞のあげられる信仰深い町は比較的被害は少ない傾向にある
浄化とまではいかないが、一定の効果はあるのだろう。
いやぁ、困った。
「んでもな魔王、俺はやっぱあんたの魔力が欲しい」
「なんだと?」
「こっちこそ、あんたの浄化作業だけじゃ
根本的な解決になんねーんだよな」
そっちの寿命と同じに考えてもらっちゃ困るね、毒性の放出を抑えられたところで
荒野の再生までにどのくらいかかる?人間にはちとキツイな。
「ぶっちゃけ効率が悪い」
「ではなんだと言うのだ?」
「あんたは、共存する気はあるんだなよな?
じゃあ、やっぱり仲間になろう魔王
あんたは俺達に魔力をくれ、
そして俺達は魔力の毒性への耐性をつける
あんた達は、今までどうり毒性を抑えてくれ
その件に関しては勇者として協力しよう
そうすれば俺達は、共存可能だろ?
俺達は開拓復興の知恵や工夫を、そのうえであんた達のその丈夫な体は必要不可欠な戦力になる、くどいようだが、
魔物になってでも俺が欲しいのは荒野でも生き抜く丈夫な体だ
弱体化してでもあんたが欲しいのは魔物達の安住の地だ
そんで両者が望むのは安寧だ、どうだ?まだどっか駄目か?」
魔王が少し考え込むのは分かるが
おい、山羊なんだその顔
お前物事考える頭あったのか、みたいな反応してんじゃねぇ。
「魔王、あんたは勇者の聖なる力を俺は魔王の魔力を望む
…無い物ねだりを補い合えないだろうか?」
「勇者の連れ、貴様は魔物になりたいのではないのか?」
「魔王殿、私は魔法さえ開発できるなら特に、異論はありませんよ
共存ともなれば魔物から学ぶ事もできましょう、その時は許可を頂けますかな?」
あぁ、あれか
魔力を横流しして、勝手に魔物化されんのを危惧してるわけか突然魔法使いに話振るから焦ったわ。
「ふむ…して勇者よ
そのような事を貴様の一存で決める気か?」
「お?ノリ気か?」
「勿論、事を運ぶ手立ては講じているのだろうな?」
「…魔法使いうちの王への説明は任せた」
パチッと魔法使いにウインクをかませば
ガッと杖で殴られる。
なんだよ、お前得意だろそういうの
あっ待って魔王ここまで来てドン引くなよ。
「…して勇者よ貴様の名を聞いていないな」
「え?そうだっけ…あー
エレミオだ、よろしくな魔王」
「長い付き合いになりそうだなエレミオ
共に行くのなら名を知らぬのは
いささか不便であろう、私はアーチェルだ」
そう言って魔王は、愉快そうに
カラカラと笑った。
そうして、平和を望む俺達の第一歩が
やっと踏み出されたのだ。
…ちょっと魔法使いが怪しいが
そん時は魔王と協力して
弱体化させてやろうと思う。
最後まで読んで頂きありがとうございます。