1 泣くでないよ。ウルティア
初投稿!
どうぞ温かく見守ってください。
国王様目線でどうぞ!
大きくも小さくもない、貧乏でも裕福でもない、ましてや他国の侵略を受けることも、こちらから仕掛けることもない。
天災など年に一度の大雨くらい。いや、それも森の泉のよい足しとなったか。
我が国、ルシャーナ。
“普通が一番!多くを望むことなかれ!”という先代方の教えにのっとり、この国にすむものたちは皆、つつましく穏やかな生活を営んでいる。
まあ、例外もいなくもないが。
脳裏には、きらきらした笑みを浮かべ、嬉々として人にいたずらを施している人物が浮かぶ。
昨日は我の側近が犠牲になったらしい。なんでも執務室へ向かう途中、いきなり足下に穴が開き、落ちたと思ったら食堂の前だったと。したたか腰を打ち付けたために、たまたま居合わせたメイドに介抱してもらったそうだ。
「しょうのないやつよなぁ。」
くつくつと笑いを漏らし、紅茶を一口ふくむ。
ふむ、今年もよい茶葉ができたようだ。
ルシャーナ国、国王ロベルトはしばし香りを楽しむ。
この手の話はいくらでもあるが、先ほどのものはいささか程度が大きかった。
さて、これをいたずらと称して良いものだろうか。
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ウルちゃんの一大事なのよぉ~!
執務室に入ってまもなく、側近が伝言を寄越してきた。妃が王の間に呼んでいると。
朝顔を合わせたときは何もいっていなかったが。さてさて、今日は何が起こるやら。
いたずらの気配を感じながらも側近とともに向かった王の間には、妃と娘がいた。
簡素な造りであるが、上品さは損なわない白を貴重とした広間。
この広間にたつ妃の黒髪がよく映えていて、実によい。我が職人たちはまことによい仕事をしたな。
……いや、大事なのはそこではないか。
「あらっ、やっといらしたのねぇ~、あなた。」
思い直していると、妃がすぐ私に気がついたようだ。花がほころぶような笑顔で迎えられる。
娘も妃の目線を追い私へ振り向いた。
「お父様!お母様をどうにかしてください!」
その顔に広がるのは混乱。
ふむ、見なくても声だけで察しがつくな。
「なるほど。
今日のクリスの獲物は君なのだね、ウルティア。」
「そんな事言っている場合ではありません!!」
可哀想に、母親譲りの黒色の瞳には涙がたまっている。
そんな中、妃クリスの手からチリリン、という涼やかな音がした。見るとその手には鈴のついた杖が一本。
たしかあれは、大きな魔法を使うときにしか使わないと言っていたような。
「あなたには、見届け人になってもらいたかったの。」
「っ!!」
クリスが言葉とともに杖を振ると、ウルティアの足下には青色の魔方陣が広がった。
「さぁ、ロベルトの顔も見られたし思い残すこともないわね。
大丈夫、やることやったらすぐに戻れるわぁ。
っというわけでぇ~………。
ウルちゃん、いってらっしゃ~い!」
「ちょっ!一体なに考えてらっしゃるんですか!
お母様っ!ちょっとぉぉぉ………!」
もがけど足は離れないらしい。
まばゆい光に包まれると同時に、ウルティアの姿は忽然と消えてしまっていた。
あとには断末魔のような叫びだけが、広間にこだました。
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「陛下、いかが致しましょう……。」
先ほどの出来事をそばで目の当たりにしていた、側近フィアットは不安げに目を泳がせている。
少し加えると、昨日の犠牲者とは彼のことだ。
何がと聞かなくてもウルティアのことだとすぐにわかる。
「クリスのことだ、命に関わることはなかろう。
あれのやることには何かしらの理由はあるはずだ。今晩にでもゆっくり話を聞かせてもらおう。」
「しかし……。」
フィアットの憂いの表情のままだ。
「心配するな。
しょうもないいたずらばかりだが、いつもあれは言っているだろう。」
ウルティアが消え、光がおさまったときに呟いた一言は、彼女がいたずらのあとに必ず言う言葉だ。
『“災い転じて福となる"よ、ウルちゃん。』
慈しむような表情の妃を信じ、娘の帰還を待とうではないか。
「フィアット、今日の書類を頼む。」
「…かしこまりました。陛下。」
ため息をつく彼から書類をうけとる。
相変わらず王妃様に甘いんですから、という言葉は聞かなかったことにしよう。