01頁:運が悪かったと思うのが一番マシだろうか
サーセン。「ネタに詰まって新作病」を発症しました…
とある県の某所にて、月2万風呂なし汲み取り便所ありのアバラ屋、
襤褸切れ同然の煎餅布団の中で永野郁斗は37歳の生涯を終えようとしていた。
「……ッ! ……がッ!」
イクトは顔面蒼白で胸を押さえていた。
必死に叫ぼうとするが声にならない。
頭痛と共に視界が明滅する。
(死ぬのか!? 俺は死ぬのか?! 畜生! クソが!!)
イクトは割りと恵まれた家庭に生まれた。
父はともかく、母は怒らせなければ親バカ級に優しかった。
だから高校もド底辺校(現在は廃校)にしか入学できなくても辛くなかった。
諦めなければ何とかなる…そんな人生が…
続かなかった。
高卒前に母が癌で病死したのが終わりの始まりだったかもしれない。
しかし当初はその悲しみをバネに高みを目指すべく進学する。
…得たものはギャンブル嗜好と大バカな夢だけだったが。
元々から折り合いが悪かった父とは日を追うごとに関係が悪化。
ひたすら土下座を繰り返し顔色を伺って生きる地獄から開放されたのは
やるせなくなった父が飲酒運転で事故死した時だ。
父の葬儀を足早に済ませた後、イクトはいくらか残った保険金を片手に
故郷から夜逃げした。彼はこれまでに借金もしていたからだ。
ギャンブルは我慢したが生来の自堕落な生活は改めきれず、
手持ちのカネは確実に目減りして底が見えてくる。
半ば逃亡生活なので通帳、スマホ含めた携帯、保険証なんて持てない。
だから自転車と電車を使って日雇い労働で食いつなぐ生活しか出来なかった。
時にはホームレスに混じって日々を過ごす事もあった。
他にも色々と酷かったが、百円玉を一枚ずつ貯められるようにはなった。
きっと、いつか、やり直せる。
…そんな希望が打ち砕かれたのが37歳の現在である。
ほぼ隠れて生きていたイクトにとって病院など行けるはずもないが、
やはりそれが仇となった。
嫌だ嫌だ死にたくないと思ったが、ゆっくりと視界は闇に溶けようとしていた。
(畜生…チクショウ…ちくしょう…!)
もう悲しみしか出てこない。
(せめて…子供くらい…ああぁ…死なない体…あぁあぁああぁあぁあぁ…)
マトモな考えすら出てこない。母親の顔も出てこない。
誰か助けてという言葉すら出てこない。何も出てこない。
外からは車の行きかう音と電車の走る音だけが聞こえてくる。
カーテンの隙間から差し込む夕陽の光がイクトの顔を照らす。
もう彼はその光を眩しいとすら感じなかった。
「…あ゛…ッ……ガ……? …!」
イクトは泪と鼻水に塗れた土気色の顔で死んでいく。
視界は闇に染まり、耳からゆっくりと音が消えていく。
「……その願い、叶えたげよっか?」
全てが消える数瞬前に、確かにイクトの耳はその声を拾った。
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