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私が消えた一日  作者: ぺる
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エピローグ

あれから一週間が経過した。

栗宮梓は、まだ新しい天川千怜の墓の前で佇んでいた。


なんと、声をかけていいのかわからずに時間だけが過ぎていく。


(お疲れさま?それともさようなら?何て言えばいいんだろう)


本日何度めのかの自問自答は、どんより曇った重苦しい風に押し流されてはくれず彼女のなかで回り続けている。


ひとつ息を吐き、沢山の花が手向けられたそこに、手を合わせる。


「終わったよ、千怜。なにもかも」


自分の言葉より、彼女に報告をしよう。それが手向けになると梓は思った。


「千怜の復讐は、うまくいったよ。アイツ等は、然る罰を受けている」


この一週間、現状は劇的に変化していた。


ネットの炎上は今だ続き、今ではどこで入手したのか、クラスメートの個人情報はほとんど流出していた。もちろん、梓も含めて。


そこからはもう、個人への恨みを晴らす行為へと変わっていった。零下はもちろんのこと、あまり関わりのなかったいじめ参加者たちにもその火の粉は降りかかっていた。


個人の特定写真や、本人は隠したかった失敗談、あること無いことをネットに晒され、誹謗中傷の嵐が起こっている。


梓のところにも電話番号が流出したのか、毎日のようにいたずら電話や酷いときは脅迫まがいのものまでかかってくる。とるだけ無駄だし、そもそも電話する相手も少ないためそう言うものが来たとしても、梓にはなんら問題はなかった。


クラスメートの中にはネットの知り合いが多いものもいる。そうした繋がりが一気に敵に回ったのだ。今さらどうと騒いだところで、叶うわけがない。


そんななかで一番酷いネットの的になっていたのは、言うまでもなく零下だった。


彼女の場合は現住所から写真、出身までありとあらゆる情報が流出していた。人の個人情報を調べて晒すことが好きな輩はいるが、ここまで手が早いとは梓はもちろん、千怜も想像していなかっただろう。ネットとは、それだけ恐ろしいものだ。


そしてもっとも恐怖すべき点は、その情報は永遠に残るということ。


千怜の墓参りの前に、いくつかある場所を確認していた。


その一つである零下の家に立ち寄っていた。もちろん住所はネットを頼りに探しだしたものだ。


一言で言うなら、酷い有り様。


家の郵便受けはなにかが大量に詰め込まれ、門には"人殺し"等とかかれた紙が貼り付けられていた。中には壁に直接書き込まれたものもある。


またその回りを、報道陣が囲んでいた。


故に梓も、遠目にし見ることはできなかったが、それでもその惨状は目で見てわかるものだった。


囲む報道陣を横目に、踵を返して次に向かった先は彼女の通っていた学校だ。


ここはさらに報道陣が多く、時より野次馬が写真を撮っている。

学校は臨時で休みとなっている。いじめとの因果関係を否定したくても千怜の部屋から見つかった遺書と、数々の証拠…踏まれた制服や彼女が撮りためた写真など、言い逃れ出来ない証拠の山に学校側は黙秘を続けている。


そんな学校側の態度に、報道陣は好き勝手にニュースや新聞で取り上げていた。


毎日、どこかで千怜の事が話題にされている。


やがてこれらは、終息するだろう。悲劇は、常に起こり続けているから。


一呼吸おいて、これらの報告を千怜の手向けにして立ち上がる。


この復讐で、救われたものは一人としていない。


命をかけたところで、その重さよりも遥かに重い傷が、関わったものすべてにのし掛かる。


「千怜、ごめんね」


梓の呟きはどんより曇った空へと、悲しく響く。


千怜は、自分の中で"死"を決断してしまった。

自分という世界のなかで、その結果に完結してしまっていたのだ。それは本人が決めたことで、千怜の世界ではそれは決定事項なのだ。だからこそそれを変えることは千怜自身にもできなかったのだろう。


では、他の世界の言葉ならばどうだっただろう。


梓は、ふと考える。


千怜の世界を少しでも覗いていた梓ならば、千怜の決定事項を覆すことはできたかもしれない。


しかしそれは、想像でしない。

もう、何を悔いても誰も帰っては来ない。


「ありがとう。私と、関わってくれて」


結果的に、千怜が梓の世界を崩してくれたのだ。千怜がいなければ、自分を身を投げていただろう。


自分は生きなければならない。

命を、投げ出してはいけない。

逃げてはいけない。


それが、償いだから。


梓は立ち上がると、もう一度手を合わせこの場をあとにする。

途中、花束を持った駅員らしき中年男性とすれ違ったが梓がそれを気にすることはなかった。



****


今にも雨が降りだしそうな空の下

少女は一人歩き出す。


彼女たちの日常は、大きく変化しただろう。

しかし、それを祝福するものは誰もいない。


救われたものも誰一人としていない。


こうして復讐劇の幕は閉じる。

誰も報われない。

一人の少女が消えても、世界は変わらない。

こんな結末だろうと、それでも世界は廻り続けるのだから。

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